Lv10.しゃにむに庭球追いかけろ! 15-0
「もうすぐ球技大会ね!」
「こないだ体育祭があったのになあ……ていうかこの時期って普通は文化祭じゃないのか?」
「何言ってんの、うちの高校は文化祭は2月でしょう? 他の学校と時期をずらすことでアピールするのよ」
「なるほどなぁ……」
球技大会に心躍らせる黄龍と、心曇らせる俺。一番楽な球技はなんだろうか、野球でライパチだろうかと出る球技を考えていると、黄龍がカバンからテニスボールを取り出す。
「やっぱりテニスよね! 錦岡君凄かったわ!」
「ミーハーだなぁ……」
ついこの前日本人のテニス選手が活躍したということもあり、日本は空前のテニスブームだ。女はテニス選手についてきゃーきゃー言ってるし、男もテニス漫画の話ばかりしている。学校について体育の授業という名の球技大会の練習になると、無理矢理黄龍にテニスコートに連れてこられてしまった。
「俺は野球でライパチかサッカーでディフェンスがやりたいのに……」
「つべこべ言わない! 今テニスは大人気で、優先的に出るテニス部を除くと、ダブルス枠をアタシ達含む6チームでリーグ戦やって奪い合うことになってるの。アタシはともかく、アンタは鍛えないといけないから覚悟しておきなさい」
「……」
勝手にダブルスのパートナーにするなよとか、だったらダブルスの練習するべきだろ何でシングルスなんだよとか、そもそも男女混合なのかよとか色々と突っ込みたいことはあったが、諦めてテニスラケットを手にして黄龍のサーブを待つ。
「行くわよ……はぁっ!」
高くボールを投げて、勢いよくそれを打つ黄龍。ボールがかなりのスピードでこちらに向かってきたと思いきや、ネットにひっかかってしまった。
「あ、あれ?」
首をかしげてボールを拾い、もう一球サーブを試みる彼女だが、再びネットにひっかかってしまう。
「おかしいわね……」
「ダブルフォルトだな」
その後も何度もサーブをする彼女ではあったが、ネットに引っかかったり、俺の遥か上を通りすぎてしまったりと、壊滅的なコントロールを見せつけてくれる。結局何もしていないのに1ゲーム取ってしまった。
「な、何で……」
「おい、サーブ交代だろ。次は俺だ」
あらぬ方向へ彼女が飛ばしたボールを拾い上げると、軽くそれを上げてラケットで打ってやる。運動が得意なわけではないしテニスなんてやったことはないが、壊滅的に運動音痴なわけでもないしゲームで反射神経や力加減はある程度養ってきたつもりだ。弱々しい軌道ではあるが、無事に対角線上、相手のコートにボールは向かっていった。
「絶好球ね! スマッシュ!」
サーブはできなくても打ち返すことならできると甘い考えを抱き、思いきりラケットを振り回してボールに当てる黄龍。快音を轟かせ、ボールは俺の後ろにある金網にぶち当たった。
「試合できるレベルじゃねえだろ、他の人だってテニスやりたがってるんだから交代するぞ」
「嘘……嘘よ……このアタシが……」
その場にうなだれる黄龍を引きずってベンチに向かう俺達。自分よりも遥かに運動のできない女子二人が下手ながらもラリーをきちんとやっているのを眺めながら、プライドを破壊されたのか相当悔しそうな顔をしていた。
「お前確か卓球も下手だったよな。自分の身体じゃなくてラケットっていう道具を使うからコントロールが効かないのかもしれない」
「でも野球は得意よ? 女子野球部の助っ人もやってるし、地元の草野球でも活躍してるわ」
「野球にネットはねえし、テニスにホームランはねえんだよ。野球だってバットを思いきり振り回してボールに当ててるだけで、コントロールなんて意識ないだろ?」
「うっ……確かにアタシ、ヌンチャクも使えないわ……」
野球ゲームに例えるなら、ミートGの選手がミート打ちのロックオンで2割5分打ってる感じだ。普段から拳と脚で戦っている? 彼女にとって、本来バットやラケットは枷なのだろう。
「まあそういうわけで、テニスは諦めて野球かサッカー、バスケ辺りでいいんじゃないか?」
「絶対テニスがいい! 特訓よ! アンタの家にテニスの漫画あったわよね? あれ読んで参考にするわ」
「……テニアゲのことか? あれを読んでも全然参考にならないと思うんだがなぁ……」
『テニスラケットをもう一度』、通称テニアゲ。怪我でテニスラケットを持つことすらできなくなった主人公が、中学テニス部の顧問として指導する最中、もう一度テニスがしたいとリハビリをして、世界の強豪相手に戦っていくテニス漫画なのだが、ストーリーよりも明らかに現実離れしたテニスで有名になっており、あれはテニス漫画じゃなくてテニ又漫画だと言われる始末。
「……なるほど、空間を切り取ることで打球の勢いを殺せばいいのね」
「できるもんならやってみろよ……それと読みづらいからってブックカバーと帯を剥してポイしないでくれ。……そういえばこの漫画のゲームあったな」
放課後、俺の部屋で訳の分からないことを言っている彼女はさておき、懐かしくなって俺はゲームをプレイし始める。やがて昼寝をしていたらしいラボちゃんとあーちゃんがやってきて、いつもの光景だ。
「テニスってこんなに激しいスポーツだったのね……」
「チャラそうな人間が遊びでやるスポーツだとばっかり思ってたぜ……」
「いや二人とも、これゲームだから。ゲームの世界の住人が現実と混同させてどうするのさ」
「……! ひらめいたわ!」
ずっと漫画を読んでいた黄龍だが、立ち上がって俺の漫画を床に叩きつけると、ゲーム画面を指差す。今の衝撃で漫画がちょっとへしゃげたじゃないか、物を大事にしない奴にテニスは無理だぞ。
「まさかこのゲームやってテニス上手くなろうなんて考えじゃないよな」
「甘いわね……ほら、あの球を集める漫画で、あったじゃない。時間の流れが遅い部屋」
「それがどうしたんだ?」
「今まで経験してきたゲームの世界がまさにそうじゃないの! ゲームの中で一ヶ月くらい経っても、現実の時間は全然経ってない! しかもこのゲームなら、テニスの練習をするのにうってつけ!」
つまるところ、こいつはこのテニスゲームの世界でテニスの練習をたっぷりしたいらしい。確かにこいつにしては理にかなった発想に思えるが、肝心な事を忘れている。
「あのな黄龍、そもそも何で俺がゲームの世界に行く羽目になっているかといえば、俺がゲームでしでかした罪を清算したり、ゲームの悩みを解決するためだぞ?」
「残念ながらこのゲームからは、彼に対する恨みも感じなければ、困っている感じもしないわ。やろうと思えばこのゲームの世界に入れるけど、大した用もないのにゲームの世界に行くのは職権乱用よ」
アイドルがやりたいと彼女が願った時にはアイドルのゲームがあったが、二度も三度もそんな都合のいい展開はやってこない。このゲームは普通に育成SLGとしてもテニスゲームとしても楽しんだし、ゲームとしての評価も高い。行く必要なんてないのだ。
「甘いわね……声なき声を聞くの。この漫画のおまけコーナーに書いてあったけど、そのゲームを作るにあたって何人か実際のテニスプレイヤーが協力したそうじゃないの。きっと彼等は、『こんなのテニスじゃない……』と思ってたに違いないわ! その無念を、アタシ達がまともにテニスをやることで晴らすのよ!」
「いくらなんでも無茶苦茶な理論だと思うが……どうする? ラボちゃん」
「はぁ……あんまり長居はしないわよ?」
ため息をつきながら、結局折れてしまったラボちゃんが詠唱をし始める。果たして用もないのにゲームの世界に行って大丈夫なのだろうか。そして黄龍はテニスが上手くなるのだろうか。そんな事を考えながら、俺達はテニスゲームの世界へと行くのだった。
テニスラケットをもう一度……フリーゲーム『タオルケットをもう一度』。
テニ又……テニヌ
しゃにむに……しゃにむにGO!




