Lv9.誘惑に負けない勇者はいらない GAME OVER
「数年後、世界は魔王様を筆頭としたモンスター娘が支配する世界になっている。女は男を産むための家畜として扱われ、男もまた種馬や情夫として扱われているのさ」
「嘘だ……そんな未来……」
幼い頃の俺をモチーフとした勇者を堕とすために、数年度の世界をでっちあげて語ってやると、勇者は悲痛な顔になりその場に崩れ落ちる。世界を守っているために戦っているのに、未来の世界は守られていなかったと知ればそりゃあ絶望もするだろう。しかし勇者はハッと気づいたような顔になり、立ち上がって凛々しい表情になる。
「そ、そうか! 君は未来を変えるために、僕に会いに来たんだな! わかった、そんな未来、僕が変えてみせる! だから安心して欲しい!」
「いや、逆だ。未来を変えないように君を説得しに来たんだ」
「な、何を言っているんだ?」
モンスター娘に支配されることの素晴らしさを説き、勇者を洗脳する。これが俺の考えた作戦だ。困惑する勇者を前に、俺は興奮した表情で未来を語る。あくまで演技だ。
「未来は素晴らしいよ。支配されるといっても男は貴重な存在、ハーレムさ。毎日色んな種族のモンスター娘に可愛がって貰えるんだ。女だって、調教されて家畜としての生活を幸せと感じている。誰も損しない、素晴らしい世界なのさ」
「ふざけるな……そんな未来、僕は認めない……目を覚ましてくれ、未来の僕! もう一度世界に光を取り戻すんだ!」
嬉々として未来を語る俺の演技に騙されたのは勇者だけではなく女性陣もなようで、若干引いている気がする。しかし未来を語るだけでは駄目だ、実演もしなければ。
「彼女達はご主人様さ。……おい黄龍、ちょっと技かけてくれ」
「え、ええ……? わ、わかったわ……必殺、コブラツイスト!」
黄龍の元へ行きそう耳打ちをすると、普段自分からしているくせに頼まれてやるのは抵抗があるのか戸惑うも、俺を全力で締め上げる。正直滅茶苦茶痛いのだが、ここはぐっと我慢して恍惚の表情を浮かべる。
「何やって……ど、どうして嬉しそうなんだ?」
純粋な少年には理由がわからないらしく、理解できないといった表情で俺を見る。解放された俺は息を荒げながら勇者の肩を掴んだ。
「それはね……僕が、君がマゾだからさ! 痛めつけられて、いいようにされて、支配されて、喜ぶ人間だからさ!」
「う、嘘だ……」
絶望的な未来よりも、自分自身の性癖のようがよっぽどショックだったようで今にも倒れそうだ。この状態の勇者ならスライムにだって簡単に負けてしまうだろう。
「君もさっきの光景を見て、興奮したんだろう? その血に流れるマゾヒズムが沸き立っただろう?」
俺がマゾなのかはともかく、この勇者がマゾであることはゲームのコンセプトからしても間違いないはずだ。それを自覚させた時、勇者は堕ちる。ドン引きしている女共に、モンスター娘を数体連れてきてくれと頼むと、優しく勇者を諭す。
「違う……僕は……」
「今まで辛かったよな、本当は戦いなんてしたくなかったんだよな。けれど君は責任感が強いから、無理矢理自分の心を鬼にしてきたんだ。でも、もうそんなことする必要はないんだよ。第三者が見れば不幸だって思うのかもしれないけど、未来の僕は幸せだし、他の皆だって幸せだよ」
「でも……」
やがて黄龍が、先程勇者に傷つけられたハーピーを連れて帰ってきた。自分が傷つけてしまったハーピーがすっかり心の弱った勇者にとって決定打となったらしく、勇者は泣きながら彼女を抱きしめる。
「う、うう……ごめんなさい、酷い事してごめんなさい……本当は僕、こんなことしたくなかった……でも、僕は勇者だから……世界を平和にしないと……ひぐっ」
「大丈夫だよ勇者様、魔王様は優しい人だから、きっと私達も人間も幸せになれる世界を作ってくれるよ。それより私と遊ぼう? ハーピーの羽根でくすぐられるととっても気持ちいいんだよ」
ラボちゃんが連れてきたスライムが、勇者にねっとりと絡みつく。
「勇者さま、私とあそぼ? 私の身体、ひんやりして気持ちいいよ?」
「あ……ああ……」
あーちゃんが連れてきた牛娘が、背後から勇者をぎゅっと抱きしめる。
「よしよし、今まで辛かったよね。私達に甘えてもいいのよ?」
「……」
最早世界を救うために戦っていた強い勇者の姿はどこにもない。とろけきった目で、嬉しそうな表情をする堕ちた勇者。実際の未来がどうなるかはわからないけれど、きっと勇者は戦いの日々から解放され、幸せな日々を送れるだろう。
「……行こう」
「え、これでいいの? 何か凄く後味が悪いんだけど」
「いいんだよ、この世界にとってはこれで。早く行こうぜ、自分の姿をした勇者があんなことになっているのを見るのは、辛いよ」
「……そうね、帰りましょうかマゾ勇者様」
「あれは演技であってだな……」
さらば勇者。俺達は一度も振り返ることなくその場を後にする。こうしてこの世界で暴れていた勇者は無事に堕落し、俺達は元の世界に帰ることができたのだ。
◆ ◆ ◆
「……おほん、言っておくが、さっきのは全部演技だからな」
「本当かしら……?」
「いつも母さんに痛めつけられてるし、マゾの方がいいと思うぜ」
元の世界に帰った俺はとりあえず言い訳をする。エロゲーの世界で興奮しながら自分がマゾだと力説しているというのはいくらなんでも印象が悪すぎるからだ。
「まあ、アタシも興奮してアンタに暴力を振るうの悪いとは思ってるし、喜んでくれるならむしろありだと思うわ」
「だから違うっつうの……さて、それよりこれはどうするかな」
ちょっと照れている黄龍はさておき、問題はこのゲームだ。クリアした世界のゲームはもう一度プレイするというのが今までの慣わしなわけだが、今回ばかりはゲームがゲーム。
「これは没収よ。アタシが預かって親戚のお兄さんにでもプレゼントするわ」
エロゲーをプレイしてしまったことは許してもらえたが、それでも彼女として俺がこのゲームを保持しているのが気に入らないらしく、俺の手からゲームとパッケージを奪い取る。親戚の女の子から『彼氏が持ってたのを没収したからあげる』なんてエロゲーを渡されても困ると思うのだが。
「へいへい。さーて、解散解散」
「今回私もあーちゃんも特に何もしなかったわね……複雑な気分」
「あんな世界で活躍してもなあ……」
「それじゃ、また明日ね」
女共を部屋から追い出すと、部屋に鍵をかけてズボンを脱ぐ。平静を保っていたが、エロゲーの世界で興奮していたのだ。
「黄龍でエロい妄想なあ……」
自慰行為をしない男子高校生なんて、ヤラせてくれる彼女がいる人くらいなもの。それ自体を恥ずべき行為だとは思っていないし、ネットが流通した今オカズだってよりどりみどり。ただ約束してしまった手前、今回は黄龍をオカズにしようと頑張ってはみたが、彼女の淫らな姿が全然想像できずに苦戦するのだった。
「お、おはよう……」
「う、うん……顔赤くない? 風邪?」
「そういうお前もなんか赤いぞ」
翌日。登校のため迎えにきた黄龍の顔をまともに見ることができない俺。原因は昨日妄想で彼女とエロいことをしていたからだ。何やってんだ俺……と遅れてきた賢者タイムにため息をつきながら学校へ向かっている途中も、横を歩く黄龍はもじもじしている。
「どうしたんだ? トイレ我慢してたのか? 今ならまだ俺の家が近いし戻っても遅刻にならないぞ」
「いや……そうじゃなくてね……3章のケットシーツインズに勝てないんだけど、あれどうやるの?」
「何でお前がプレイしてんだよ!」
あろうことはこいつは俺から没収したエロゲーをプレイしていたのだ。欲求不満なのだろうか、彼氏として強引に押し倒すくらいした方がいいのだろうかと悩む、そんな日であった。




