Lv9.誘惑に負けない勇者はいらない 第三章
「年頃の男がエロの誘惑に負けずに彼女を一途に想い続けるなんて……親父! 最高だよアンタ!」
「感動したわ……ラスボスの目にも涙ね」
俺の行動は予想以上に女性陣からの株を上げたようで、黄龍は俺に抱きついてくるくると回りジャイアントスイングみたいなことになっているし、ラボちゃんもあーちゃんも感動している。
「ふざけるな! 誘惑に負けない勇者なぞ、この世界には必要ない!」
ただ一人、この世界のラスボスである魔王は激怒していた。水を差された黄龍がやれやれとため息をつきながら、剣を魔王に向ける。
「逆恨みじゃないの、勇者が魔王を倒す、そんなのゲームの基本じゃない! こいつは全然悪くないわ!」
「……お主が観戦したプロレスでシナリオを無視して20秒でヒールを倒す正義レスラーがいたとして、どう思う?」
「金返せって思うわ。……うん、アンタも悪いわね、確かに」
「ええ……?」
このまま魔王を説得してくれるものと思っていたが、あっさりと逆に説得されてしまう。最近のゲームの世界の住人は随分と実世界に詳しいな、これが製作者の知識が影響するというやつか。
「で、何をもって償えばいいのでしょうか、魔王様」
「そうじゃな……」
諦めて魔王にやるべきことを聞くと、ニヤリと笑った魔王の身体から大量の触手が伸びてきて、あっという間に俺の身体は絡め取られてしまう。誰得だ。
「この世界でわしらを痛めつけてくれた勇者の代わりに、わしの部下達にお仕置きされて貰おうかのう」
「……! そ、それは、つまり……」
「させるかー!」
どうやら魔王はゲーム世界での俺が犯されることなく世界を救った代わりに、俺がこの世界の連中に犯されろと言っているようだ。Mではないがどう考えてもご褒美だし、ゲーム世界とはいえリアル? にそういう展開になると聞くと男の性かどうしても興奮してしまうが、勿論この女がそんな事を許すはずがない。俺に絡みついた触手をバリバリと引きちぎると、俺をバチンとビンタした。
「……今、嬉しそうな顔してたでしょ」
「いや、その……すいません」
「とにかくそんなの許さないわ! どうしてもって言うなら、アタシが男になって代わりを務めるわ!」
「……え、何言ってるのお前」
俺が他の女とエロいことをするなんて絶対に許さない黄龍は代替案を持ちかけるが、予想外の案に俺達も魔王も若干引いている。少し興奮している気がするし、ひょっとしてこの前の世界で男になったせいで、男の性が残ってしまったのだろうか。
「こ、恋人を庇うその気持ちは素晴らしいと思うが、何かそれは違う気がするのじゃが……やはり、その勇者自身が贖罪をするべきじゃ」
「……わかったわ。アタシがモンスターになってこいつを滅茶苦茶にする! それならいいでしょ?」
「ええ……?」
挙句の果てに俺を滅茶苦茶にするイメージを想像したのか顔を真っ赤にしながら加害者側になると言いだすし。やっぱりムッツリスケベなのだろうか?
「ただの恋人同士の変態プレイではないかそれでは……わかったわかった、わしも女じゃ、素晴らしい彼女に免じてお主をどうこうするのはやめよう。……では、この世界にいるお主の分身を説得して来い」
黄龍の身体を張った? 交渉により、俺達はこの世界で魔王を倒した後もモンスター娘をボコボコにしている、一般的なRPGの勇者としては正しいのかもしれないがゲーム的には間違っている勇者をどうにかしてモンスター娘にもたまには負けてあげる優しい? 勇者にすることに。今は森でレアアイテム目当てにハーピーを狩っている彼の元へ向かうため、俺達は魔王の城を出て森へ。
「よかったわ、エッチな展開にならなくて」
「その割にはお前残念そうなんだけど……何なの、変身願望でもあるの?」
「女の子は皆ヒロインになりたいのよ」
「そうだぜ親父、可愛い独占欲じゃねえか」
「『モンスターになって俺を滅茶苦茶にする』にヒロイン要素はねえよ……しかし、どうしたもんだか」
モンスターを倒すのが仕事のようなものである勇者に、たまにはモンスターに負けてエッチなお仕置きをされなさいなんて滅茶苦茶だ。
「……黄龍、お前いつも俺をボコボコにしてるよな。たまには俺に負けてエッチなお仕置きされないか」
「は? 死ね」
「……」
試しに俺を痛めつけるのが仕事というか日常のようなものである黄龍を説得しようとしてみたが、死ねと言われてしまった死ねと。落ち込んでいると、森の中で倒れているハーピーらしき女の子を発見。
「大丈夫?」
「うう、勇者がレアアイテム寄越せって無理矢理……」
「酷い、羽根をたくさん毟られて……勇者ってのは随分と酷いことするのね」
ボロ雑巾のようになっているハーピーを見て憤慨する黄龍だが、お前も俺を襲ったハーピーの羽根を毟っていただろとは怖くて言えない。
「出たなモンスター……いや、妖気を感じないな、人間か?」
「出たわね勇者! ……ってあれ、呉人じゃない」
「まあ、親父の分身って言ってたしな……いや、小さくね?」
ハーピーを介抱していると、勇者の方から俺達を見つけてくれたようで、強そうな装備を身に纏った少年が現れる。その顔はまぎれもない俺ではあったが、やや幼い。
「このゲームの主人公はショタだったはずだから、俺の小学生時代がモデルになっているのかもな」
「へー、懐かしいー、可愛いー」
「新鮮ね」
「何だか親父を育てたくなってきたな、今度は親父が育てられる番であのゲームやろうぜ」
「な、なんだお前等は! わかったぞ、サキュバスだな! ふん、生憎僕は誘惑には負けない! 刃向うなら容赦はしないぞ!」
「聞いた? 僕だって僕! そういえば小学生の頃は一人称が僕だったわ」
少年時代のあどけなさを残す俺を見て騒ぐ女性陣。嫉妬にも似たよくわからない感情を昔の自分に抱いていると、本題に入るようで黄龍が『めっ』のポーズを取る。
「駄目よ呉人、か弱い女の子を虐めちゃあ。動物虐待よ」
「動物虐待と一緒にするな! 僕は勇者だぞ、モンスターを倒すのが仕事なんだ。魔王は倒したけど、恐ろしいモンスターは世界中にいて、人間を襲ってる。だから僕はモンスターを退治して、いずれ復活するかもしれない魔王との戦いに備えて準備をしているんだ」
「勇者の鑑ね」
小さな体で剣を高く掲げる勇者。本編中には描写が全然無かったが、モンスター娘達は女性しか産まれないので繁殖のために人間の男を種馬として、夫として攫っているという設定らしく、主人公以外の男キャラがびっくりするほど出てこなかった。
「でも優しさも大事よ、たまには負けてあげなさい。人間とモンスター娘の和平の懸け橋となるの」
「勇者が負けるわけにはいかないし、仮に人間とモンスターが仲良くなり一緒に暮らすようになったとして、女性しか産めない種族の繁栄はすなわち相対的な男の欠乏、最終的には絶滅に向かう。一夫多妻制度を人間の女性が認めるとも思えない、僕も心を鬼にしてやっているんだ、僕は人間の味方なんだ」
「子供なのに素晴らしい考えね」
勇者にも譲れないものがあるようで、少し憂いを帯びた表情で自らの覚悟を告げる。彼の言っていることは恐らく正しいだろう、男女のバランスが崩れるということは社会にとって恐ろしいことなのだ。モンスター娘を皆殺しにして絶滅させてでも人間社会を守る、そんな強い意志を彼は持っていた。
「大体お前等は一体なんなんだ……って僕? 何で僕がここに?」
「えーと、こんにちは。未来からやってきました僕です」
ここでようやく俺に気づいた勇者。同じ顔である俺を怪しみながらも、黄龍達よりは警戒していないようなのでここは未来からやってきた設定で通すことにする。
「未来からやってきた僕!? 未来はどうなっているの? 伝説の勇者になってるの? いやー、男の人はほとんどモンスターに攫われてるから寂しかったんだよね、男の人、しかも未来の自分に会えるなんて嬉しいよ」
あっさりと信じてくれた勇者。過去の自分? を堕落させるというのは心苦しいが、これも仕事だ。
「未来は、モンスター娘が支配する素晴らしい世界になっているよ」
「!?」
彼を勇者から種馬に堕とすため、俺は悲しい嘘をつくことにした。




