Lv8.焼き豚をプロデュース TOP IDOL
「それではただいまより、『ドキッ!? アイドルだらけの大運動会 涙がホロリもあるよ』を開催いたします!」
野球場でペラペラの観客に囲まれながら、司会者として宣言する俺。その前には、体操服姿のアイドル達がたくさん並んでいた。
「……アンタのアイドルのイメージ、何かおっさん臭くない?」
「こないだテレビでやってたし……」
黄龍の冷ややかな視線に自然と目を逸らしてしまう。この世界のキャラ達はアイドルをテーマにしたゲームなのにアイドルについてよくわかってないという始末。だから現実世界のアイドルを知る人間として、きちんとアイドルっぽいことを彼女達にさせてやろうと考えたのだが、よくよく考えると俺自体そんなにアイドルに詳しくない。主役の東井さんを引き立てるために野球要素も盛り込むべきだと色々考えた結果、この前テレビでやっていたアイドルによる運動会を開催しようと考え、退学になった連中も全員集めたというわけだ。
「皆さんにはこの運動会の中で、大勢の観客の中で走ったり、歌ったり、踊ったり、戦ったりしながら、アイドルの厳しさ、アイドルの楽しさを直接経験して貰います!」
「ああいう番組に出てるアイドルって、落ち目かイロモノよね」
「そこ、うるさい。東井さん、君が宣誓するんだ」
「は、はい」
整列したアイドル達の中から東井さんが出てきて、皆の前で深呼吸。
「宣誓! 私達は! アイドルシップに則り、歌って踊って人々を楽しませることを誓います!」
『誓います!』
アイドルシップとやらが一体どんなものなのかはともかく、気合十分なアイドル達。こうして俺がプロデュースした、アイドル大運動会が始まったのだ。
「最初のプログラムは、パン食い競争! ただ走るだけじゃ可愛い陸上選手、アイドルとしての力を魅せつけるために、いかに愛らしくパンを頬張れるかが大きなポイントです」
「採点競技なの……?」
「ちょっと今日の親父気持ち悪いな」
「元々彼って気持ち悪いでしょ」
アイドルオタクって若干気持ち悪いという偏見を確かに俺も持っていたが、実際にアイドルオタクのような立ち位置になって気持ち悪がられるとは思っていなかった。現実のアイドルも、ファンに対してそんな感情を抱いているのだろうかと悲しみに暮れながらも、出場選手を告げる。
「運動ならアタシの独壇場ね」
「う、運動は苦手ですけど頑張ります……」
スタートと共に猛ダッシュする黄龍。運動全般が得意な彼女ではあるが、50mのタイムは7秒前半。女子の中ではかなり速いけど男子と比べるとそうでもないし、俺より少し速い程度だ。喧嘩が強いのは空手や柔道といった技を極めているからで、物凄い怪力というわけでもない。アイツも何だかんだ言って女の子なんだなあと若干息を切らせながら走る彼女を眺めていると、いよいよパンのぶら下がった地点にやってくる。
「こんなのよゆ……ぶふぉっ!」
女の子が割と全力でジャンプしないと届かないような高さにパンをぶら下げたが、黄龍にとっては余裕だったようで走り幅跳びの感覚で飛びあがりパンを咥える。しかしその直後、白い液体が彼女の顔に飛び散る。
「言い忘れていましたが、パンの中にはドロドロのクリームが入っています! 上手に食べて顔や服を汚さないもよし! クリームを飛び散らせて観客を沸き立たせるもよし!」
「アイドルにこんなことさせるんじゃないわよ! アイドルは神聖なものなのよ?」
「お前はアイドルに幻想を抱きすぎだろ、客を喜ばせてなんぼだ」
「ふーん、つまりアンタはこういうので喜ぶんだ」
「ば、馬鹿野郎、こないだのテレビでやってたからだな……」
パンを咥えながらゴールへと走り、白濁液まみれの顔で俺を軽蔑するような目で見てくる黄龍から逃げるように、遅れてやってきた東井さんの方を見る。
「んー! んー!」
口をパクパクさせてジャンプしてパンを食べようとするが、なかなか届かない。他のアイドル達は忍者系アイドルだとかバスケが趣味だとかそれっぽい人を選んだだけにあっさりとパンを咥えてゴールへと走って行くが、彼女だけは運動が苦手なのに主役だからと俺が無理矢理ねじ込んだのだ。ぴょんぴょん飛び跳ねて口とぱくぱくさせる姿は、なかなか愛らしいのではないだろうか。
その後も騎馬戦だったり綱引きだったり、一般的な運動会でやるような競技をこなしていく彼女達。しかしこれではただの女子校の運動会、アイドルらしさといえばやっぱり歌と踊りだろう。
「皆様お待たせしました! 108人+αによる、このゲームの主題歌をお楽しみください!」
「誰が楽しむのよ、客がアンタだけなのに。ええ? あのペラッペラの観客を楽しませろと?」
「何で今日はそんなに反抗的なんだよ黄龍。他のアイドルはともかく、お前は彼氏の俺を楽しませることに不満を持ったら駄目だろ」
不満気な黄龍とは対照的に、アイドルっぽい? ことをすることに喜びを感じているのか、ゲーム内のキャラクター達はとても嬉しそうだ。レッスンという名のRPGで鍛えた歌唱力とダンス力と笑顔を武器に、それぞれが主題歌を歌いながら自分なりの振りつけで踊るアイドル達。
「歌って踊って笑って~ああ~バラノアイドル~」
バントの構えをしながら歌う東井さん。明らかに振りつけがあってないけど、彼女が楽しそうならそれでいいのだろう。
「えと、67版東井! 飛ぶキャッチャーやります!」
その後もアイドルによる微妙に似てないというか元ネタがわからないモノマネ大会をやったり、各々がセクシーだと思うポーズをとるという企画をやってみたりと運動だけではなくアイドルっぽいこともしていく彼女達。今更ながら、アイドルにもグラビアアイドルとかダンスアイドルとか色々あるよなあと、アイドルの奥深さを痛感する。
「それでは最後に、現在同点一位の黄龍と東井さんによる、1打席勝負を行いたいと思います!」
「へえ、最後にアタシの見せ場を作ってくれるなんて、やるじゃない」
「が、頑張ります……!」
採点なんてしていないのだが、最後はやっぱり依頼人である東井さんに大活躍して貰ってフィナーレと洒落こみたい。そのために黄龍には悪いが噛ませ犬となって貰おう。
「おい黄龍、わかってるよな? ホームランを打たせるんだ」
「わかってるわ、三球三振ね」
悪いけど勝負するからには手加減しないわ、とマウンドに立つ黄龍。ヘルメットを被り、金属バットを手に持った東井さんがバッターボックスに立つと、
「らぁぁぁぁ!」
大きく振りかぶって黄龍がなんか気持ち悪いフォームで第一球を放り、すっぽりとキャッチャーをしていたあーちゃんのミットに収まった。
「ストライク! 100kmくらいね」
「は、速い……しかもあのフォーム、出所が全く読めない……」
審判をしていたラボちゃんがそう告げ、東井さんが驚く。そんなに速くないなと思ってしまったのは俺がゲーム脳だかららしい。
「ふふん、こう見えてアタシ、中学の頃に見た野球の試合で面白いなと思ったフォームを練習してきたのよ。普段はバッターばっかりやってるけれど、こんなところで練習成果を出せるなんて思ってもなかった、わ!」
「わ、わわわっ」
「ストライク!」
不敵に笑って二球目を投げる黄龍。どうせストレートしか投げてこないだろうと東井さんは踏んでいたし、俺もそう思っていたのだがまんまと裏をかかれたらしい。へろへろとしたカーブにタイミングが合わず、東井さんは思いきり空振ってしまう。
「タイム! 東井さん、大丈夫だ。君なら打てる」
「ちょっと! どうしてアタシの味方をしないのよ!」
監督? の激励で東井さんの能力をあげるために彼女の元へ近づく。
「雨宮さん……私、アイドルって何なのか、まだよくわかってません。でも、皆でこうやって色んなことをして、楽しいなって気持ちは確かにありますし、雨宮さんに、他の皆に自分の頑張っている姿を見せるのも、嫌いじゃないんです。私が何かして、誰かが癒されたり、喜んだり、楽しんだりしてくれるなら、ドジを踏んでもいいなって、情けない姿を晒してもいいなって思えるんです。だから私、アイドルを目指し続けようと思います」
「そっか。じゃ、結果を気にせずに思いきり頑張って」
いつもおどおどとしていて自信無さ気だった彼女だが、随分といい顔になった。この分なら、ホームランを打とうが三振しようが、彼女は前に進めるだろう。もう何も言う事はないと、俺は他のアイドル達と同じく勝負を見守る立場に戻ることにする。
「何でアタシを応援しないのよ! もー怒った! 女を捨てる覚悟で全力投球してやる!」
「さあ網野さん! 勝負です!」
「な……このアタシからホームランなんていい度胸してるじゃない!」
東井さんがバットを黄龍の方に向けてホームラン予告。嫉妬に狂い、挑発に乗った黄龍は先程とは違ったフォームで大きく振りかぶり、思いきり振りおろすと共に球を投げる。呼応するように、東井さんが思いきりバットを振り切る。そして――
◆ ◆ ◆
「『東井さんは、野球大好きアイドルとして始球式に出たり、テレビの企画で野球対決をしたりして、お茶の間の野球ファンを喜ばせているようだ……』か。絵すらない、一文だけのエピローグ。それでも彼女は、救われたかな」
現実世界に戻った俺は、正直苦痛だったがもう一度ゲームをプレイして、東井さんを何とか最後まで生き残らせてエピローグを見る。ゲームの世界の中の東井さんが決心したからだろうか、セーブ&ロードに頼ることなく、一発で彼女のエピローグを見ることができた。彼女達にアイドルとは何かをきちんと教えることができたかどうかは怪しいけれど、終わりよければ全てよし、ではないだろうか。
と思ったが、まだ話は終わってなかったのである。
「オーディション1次突破したわ!」
「はぁ?」
ゲームの世界でアイドルっぽいことをして満足してくれたと思っていたのだが、満足してくれなかったらしく数日後、割と有名なプロダクションのオーディションに合格した旨の通知を教室で突然ひけらかす。
「え、すごーい。ここって1次を突破するのも大変って有名なとこだよ。もしかしたらいけるんじゃない?」
「でしょでしょ? 元気がいいねって審査員も凄く褒めてくれたわ!」
「うんうん、網野ちゃんならなれるよ!」
自慢げな黄龍と、きゃーきゃーと盛り上がる女子勢。当初は黄龍がアイドルになるなんて無理だと思っていた男子も『クラスからアイドルが出るかもな』『他のアイドル紹介してくんねーかな』なんて浮ついた話をし始める始末。
「おい黄龍、お前まだアイドルになりたいなんて考えてたのかよ、やめとけやめとけ」
「ひっどーい、雨宮君彼女を応援してあげないなんて」
「サイテー」
彼氏として釘を刺しておこうと呆れ顔で黄龍に忠告すると、ファンネル共が俺を非難し始める。黄龍の彼氏をやっているくらいには心の広い俺だったが、この非難の嵐には耐えられなかったようで、
「うるせえぞメス共! 大事な彼女が、他の男の見世物になるのを喜ぶ彼氏がどこにいんだよ! ええ? 黄龍、お前は俺の彼女だろうが、俺だけのアイドルだろうが! 違うのかよ!?」
ブチギレて黄龍がアイドルを目指すのに反対する本当の理由をぶちまける。シーンと教室が静まり返った後、男子も女子もごちそうさまですと言わんばかりのニヤついた顔を俺と黄龍に向け、
「……はい」
顔を赤らめ、珍しくしおらしい声色になった黄龍はその場でビリビリとオーディションの合格通知を破り割いた。
飛ぶキャッチャー……現広島東洋カープ、石原慶幸。スクイズを読まれウエストをされた際に何とかボールにバットを当てようと飛んだのが由来
なんか気持ち悪いフォーム……元広島東洋カープ、現読売巨人ジャイアンツ、青木高広。フォームが凄く気持ち悪い




