Lv8.焼き豚をプロデュース LESSON 4
血で血を洗うアイドルサバイバル。非常に面倒なRPGパートと若干ストーカーみたいなSLGパートを何度か経て、ようやくアイドルの数が半分になり後半に突入した。
「好感度と今残っているライバルから計算すると、東井さんが生き残る可能性は73%……!」
その間に具体的な数値で俺達を助けてくれた数学大好きアイドルや、
「……この週は街にいますね。データによると、次の週は……」
全ライバルの行動を把握しているというストーカー系アイドル、そんな頼もしい仲間達が俺達をサポートし、そして去って行ったことを忘れてはならない。
「凄いです、後半戦に突入できるなんて……! 今までほとんど最初の数ヶ月を超えられなかったのに」
エピローグを夢見て目を輝かせる東井さん。今回の課題は他の人とパーティーを組めないから、すぐに課題を終わらせて会いに行くねと言って俺は自分達の控室に戻る。
「……アイドルって大変ね」
「私は人間社会に精通していないけれど、これはアイドルとは違うと思うわ」
「せめて戦闘がもう少し面白ければなあ……」
そこにはぐったりとしたアイドルを志していたはずの少女達。辛いのは俺もなんだ、一万階の塔を昇ったこともある俺ではあるが、お前等が戦っているのを指揮を執って眺めるだけというのも退屈なんだぞ。
「で、後何回の課題を乗り越えればクリアなんだ?」
「確か後5回かな。5回乗り越えれば、それ以上は脱落者がいなくなるから、ラスボス倒してエンディング」
「どんどん課題が面倒になってくるしライバルが減っている分脱落する可能性も高くなってるみたいだけど、残り5回なら頑張りましょうか……」
俺達がやっていることがアイドルなんて全く思っていないが、この世界をクリアすればアイドルに夢を持ちすぎていた黄龍もすんなり諦めてくれるだろう。
「どうだ黄龍、俺達みたいな凡人にはアイドルなんてのは見るためのもんなんだよ。大体お前、自分でもできそうだから、なんて理由でアイドル志してるだろ、そんな舐めた考えでモチベーションが保てるかよ。ま、この世界が終わるまでは保ってもらうがな」
「それだけじゃないわよ、目立って人気者になりた……そうよ、それだわ!」
苦笑いしながら黄龍に話しかけると、重大な事に気づいてしまったと言わんばかりの顔になる。こいつの言う重大な事が本当に重大な事だった試しはないので、検事シリーズを盗める確率くらい信用がない。
「どれだよ」
「ないのよ! あの子、アイドルになりたい理由が!」
「……言われてみれば、かなり彼女と交流を深めているのにそれらしい話を一度も聞いていない」
ゲームの中では既に約2年が経っていて、俺はいつも東井さんとの交友を深めてきた。しかし彼女の口から飛び出てくるのは野球の話とか、自分がドジな話とかで、アイドルに関する話題が一切なかったのだ。
「言っちゃあなんだけど、アタシは人間よ、ただ単に自分でもできそうだから、なんて理由だけじゃない、女の子の憧れだから、とか、綺麗な衣装を着て大勢の人の前で踊ったり歌ったりしたいからとか、色々な理由を持っているわ。でも、ラボちゃんやあーちゃんは所詮は人間に似たプログラムでしょう?」
「……そうね。私達は確かに人間とは違うわ。限りなく人間に似た精巧なAIを持っていても、所詮は作者の中のイメージから産まれた存在、いわば分身ね。いい加減な気持ちで作られた使い捨てのキャラや、数合わせのキャラは、人としての感情を大きく失っていることもあるわ」
「俺も勇者に話しかけられたらついていくって言う凄く単純なキャラだけど、製作者がしっかりしてたんだろうなあ。まあ、後半からは親父と母さんが製作者になったんだけど」
ただでさえいい加減なゲームを作る連中だというのに、なんせ108人もいるのだ、中には数合わせのために作られたキャラもいるだろう。そう、不遇に設定されている東井さんとか。一度も最後まで残ったことがないのが悔しいという気持ちはあっても、アイドルになりたい理由がないのかもしれない。
「もし本当にアイドルになりたい理由が彼女にないなら、こんなことしても無意味でしょ? もうこの世界から逃げ出したいわけじゃないわ、そういうゲームだから、でアイドルを目指して、それで彼女は幸せになれるとは思わない、適当に作られたエピローグを見て、アイドルになれてよかったって彼女は思えるのかしら? 根本的な解決になるのかしら?」
「……ちょっと東井さんと話してくるよ」
課題を終わらせてから東井さんと交友を深めても、交友を深めてギリギリで課題を終わらせても結局は一緒。体育館に向かうと、そこでは東井さんが素振りをしているところだった。
「あ、東井さん。バッティングの練習?」
「はい。ひ、ひゃあ! す、すいません、バットがすっぽ抜けちゃいました」
「……この会話、何回目だろうね」
「……すみません」
俺も思う所はあったのだ、こうして彼女のイベントを何十回も見ているが、イベントの総数がびっくりする程少なくすぐに被ってしまう。製作者側も、彼女にこんなに会いに行くプレイヤーがいるなんて思っていなかったのだろう。出来の悪いAIという感想しか、俺も彼女に抱けなかったのだ。
「皆と話してて思ったんだ、東井さんがアイドルになりたい理由」
「……!」
「『そういうゲームだから?』『女の子の憧れだから?』 東井さんはそれで納得できるの? 納得できるなら、このまま東井さんをトップアイドルにしてみせるよ。でも、そうでないなら……」
「わかんないんです」
すっぽ抜けて飛んでしまったバットを拾い上げると、悲しそうな目で俺を見つめる東井さん。まるで自分が何をすればいいのかもわからない、小学生のようであった。
「わかんないんです、いいのか悪いのか、納得できるのかできないのかなんて。私は出来損ないのキャラですから。野球が好きっていう設定と、全体的に不遇な設定と、申し訳程度のイベントだけで構成された、アイデンティティの薄いキャラなんです。……アイドルって、楽しいんですかね? ずっと序盤に落第しながら、素振りをしてはバットをすっぽ抜けさせる生活の方が楽しいんですかね?」
「……野球好きなんでしょ? アイドルになったら、始球式とか、好きな球団のマスコットガールとかになれるよ」
「だからわかんないんです、想像できないんです。このゲーム、ちゃんとしたアイドル出てきましたか?」
「それは……」
いないのだ、まともなアイドルなんて。プロのアイドルなんて出てこないし、アイドルに大切なものは何かを説いてくれる教師だっていない。あるのは退屈な戦闘と、無駄に多いキャラクター達。
「……やっぱりやめましょうか。薄々は思ってたんです、エピローグ見ても、悲しくなるだけなんじゃないかって。どうせ、適当な文章が二行くらいで締めくくられるんです。エピローグなんて用意されてないかもしれません、そんなもののためにアイドルを目指すなんて、馬鹿馬鹿しいですよね」
「でも……」
「……覚えておいてください。モノには魂が宿るんです。モノは世界を構成するんです。いい加減に作られたキャラクターは、いい加減な世界の中を彷徨うんです。雨宮さんがもしこれからゲームを作ることになった時は、いい世界を作って、いいキャラを作ってください。……本当は、寂しかっただけなのかもしれません。もうこのゲームをプレイしてくれる人なんていませんし、その中でも特に私はスルーされてきましたから。雨宮さんとお喋りできて、網野さん達とレッスンできて、満足できたような気がします」
さようなら、私はもう十分満足できましたから、次の世界も頑張ってくださいと言い残して去ろうとする東井さん。嘘だ。彼女は満足なんてしているはずがない。いや、彼女だけじゃない。この世界のキャラ達は、ほとんど彼女と同じような根本的な問題を抱えているんだ。それを知ってしまった今、俺がこんなエンディングで満足できるはずがない!
「アイドルの楽しさが! 素晴らしさがわからないなら! 俺が教えてやる!」
彼女の手をがっしりと掴む俺。不完全な世界なんて、改変してやる。
一万階の塔……スペクトラルタワー。1は一万階の塔を昇る前に百階と千階の塔を踏破しないといけないが、大半の人間は百階で脱落する。2では比較的プレイしやすくなったため、100時間ちょっともあれば1万階踏破できるだろう。




