Lv8.焼き豚をプロデュース LESSON 3
「お前らが課題をクリアすればするほど、NPCは退学になっていく、それがこの世界の掟だ。好感度が高ければ別れ際にイベントがあるんだけど、序盤すぎてそれもなかったんだね」
「そんな……一緒にトップアイドルになろうって誓ったのに!」
最初にできた友達が早くも消えてしまったことで一気に落胆してしまう黄龍。確か最終的には20人くらいまで絞られてしまうはずだ、ラボちゃんやあーちゃんが連れてきたキャラも、後半まで残っていればいい方だろう。
「あ、あの」
悲しくも一人欠員が出てしまったので、パーティーに入れる人を探さないといけない。黄龍とウマの合いそうなキャラは他にいたっけなと記憶を辿るが、俺自身このゲーム面白くなくて1周してすぐにやめてしまったし、思い入れもないしそもそもキャラが多すぎるしで全然思い出せない。そうこうしていると、NPCアイドルの一人が俺に声をかけてきた。
「俺に何か用?」
「その、パーティーに入れてくれませんか」
ちょっとぽっちゃりとした感じの、いかにもドジでトロそうな女の子だ。良く言えば癒し系なのだろうけど、少なくともアイドル適正があるのかと言われれば微妙な気がする。
「俺は構わないけど、黄龍、この子入れるけどいいか?」
「えー、その子運動苦手そうじゃない。もっと活発な子がいいわ」
不満そうな顔をする黄龍。第一印象であんな事を思った俺が言える義理じゃないけれど、それはちょっと偏見がすぎるんじゃないかなと思っていたら、それに反応したのかその子が
「こう見えて、野球が得意です!」
その場で誰かのバッティングフォームの真似をする。俺は野球に詳しくないから誰かはわからないけど。
「野球? まあ野球なら……入隊を許可したげる」
「何でお前が仕切ってんだよ、リーダーは俺だからな。とにかくよろしく、ええと」
「東井光保です。一応今回の依頼人です」
「あ、依頼人だったんだ。で、依頼ってのは?」
東井さんと握手。一体彼女は俺達に何を望んでいるのかを聞いてみると、彼女は俯いて悲しそうな顔をする。
「……その、このゲームのシステム、知ってますよね。ゲームが進む度に、私達はランダムに退学するんです」
「うん」
「しかも退学する確率は、一律じゃないんです。序盤は退学しやすい人とか、全体的に退学しにくい人とか。プレイアブルキャラの12人は、かなり優遇されてます」
確かに俺がプレイした時も、プレイアブルキャラは全員最後まで残っていた。てっきりNPCがランダムで退学になるのかと思えば、確率の問題らしい。
「私は一番不遇に設定されてて、最期まで残る確率は悲しい程低いそうです。そしてこのゲーム、あんまり売れてないし、大抵の人が途中で投げちゃうので、私……」
「……最後まで残ったことがないんだね」
「……はい」
とうとう泣きだしてしまう彼女。俺達一般ユーザーも、デバッガー等を含めたゲーム制作側も、誰も彼女を最後の舞台に連れて行って、彼女のエピローグを見たことがないのだ。全員分攻略すると意気込むようなやり込みゲーマーも、このゲームには興味を抱いてくれなかったのだ。
「つまり、あなたをプロデュースすればいいってことね! ちょっと燃えてきたわ!」
「だから何でお前が仕切ってるんだ……」
ともあれ、俺達はありとあらゆる手段を使って無事に彼女を退学させずに生き残らせ、一緒にトップアイドルになる必要がある。ただ、俺はこのゲームについて詳しくない。それがどれだけ不安要素になるやら。
「というわけでこの子が影の主役、東井さんだ。皆で彼女をトップアイドルにしよう」
「よろしくお願いします」
ひとまずは待機していたラボちゃん達に彼女を紹介する。ラボちゃんあーちゃんはともかく、NPCのキャラは俺のライバル贔屓とも取れる行為に不満を抱いてもおかしくはないはずだが、どうやら協力してくれるらしい。
「……で、具体的にはどうすればいいのかしら。セーブ&ロード?」
「イベント……大事……」
「私から説明するにゃりーん」
セーブ&ロード機能というゲーム界の常識を駆使して、東井さんが最後まで残れるようにリロードする。邪道にも程があるがなりふりかまってられない。ラボちゃんのそんな問いかけに、オカルト少女と天真爛漫少女が口を開いてこのゲームのシステムを詳しく説明してくれた。完全ランダムというわけではなく、好感度の高いキャラとか、その時に残っている他のアイドルの優先度とか、無駄に色んな要素を考慮しているらしい。気休め程度にしかならないかもしれないけれど、東井さんとのイベントを進めることで退学になる可能性は若干だが低くなるというわけだ。
「つまり、速攻で課題をクリアして、余った時間は彼女とのスキンシップに当てるってことね!」
「そういうことにゃりーん」
「それじゃあさっさと課題を終わらせにいきましょ」
というわけで、まずは遺跡にいるガーディアンを倒しに行く必要がある。俺達6人はレッスンという名の面倒なRPGをするために、学園を出発したのだった。誰も天真爛漫少女の語尾には触れなかった。
「アタシの歌を聴きなさい! カラオケの十八番、レモーンズでとどめを刺してあげるわ!」
「基本はセンター返しー!」
「あ、何アンタ勝手にとどめ差してんのよ!」
「ご、ごめんなさい……」
今回の課題は、歌だけを使ってガーディアンに自分の力を認めさせる……ようするに音属性の攻撃縛りというわけだ。ラボちゃんとオカルト少女がびっくりする程音属性が低くて役に立たないが、大声に自信のある黄龍と、チョイスが選手の応援歌のようだが意外と声量のある東井さんが活躍して、難なく課題はクリアすることができた。段々とこの後の課題を思い出す。今はまだ序盤ということで単純な戦闘が多いが、後半になると嫌がらせかと思うくらい面倒くさい条件を課されるのだ。
「あ、東井さん。バッティングの練習?」
「はい。ひ、ひゃあ! す、すいません、バットがすっぽ抜けちゃいました」
「あはは……」
後々の事を考えるとげんなりするが、この際俺も頑張ってプロデューサーとしてこの世界を楽しもうと、早速東井さんとの交友を深める。交友のパートはギャルゲーに似ており、奇しくもナマガキの世界の経験が活かされることになった。
「……ねえ、これをずっと繰り返すの? 課題やって、あの子と遊んで、セーブとロードを駆使してあの子が落ちないように操作して」
「ま、そうなるわな」
「つまんないわね……アイドル要素ほとんどないし」
「お前最初は乗り気だっただろ、プロデュースの方にも」
何度か彼女と交友を深めて、もうすぐ次の課題が課されると共に退学者が数名出てしまうというところできっちりとセーブ機能という便利なものを使って準備オーケー、というところで黄龍が文句を言い始める。俺達はあくまで依頼人を満足させるためにこの世界にやってきているのだ、最初の世界でRPGの戦闘を俺が楽しめなかったように、アイドルを楽しみたいなんて甘い話だ。
「勿論東井さんは可哀想だって思うし、プロデュースも興味はあるわ。でも……何て言えばいいのかしら、何かこのままやっても意味がないって思うのよね。……ごめん、アタシ頭は悪いから、感じたことがまとめられない。時間が経てば、わかるかも」
黄龍の懸念はともかく、とりあえず先に進もうと脳内で時間を進める。今後は掲示板に退学者と次の課題が掲示されるそうで、少し緊張しながら俺達は掲示板へと赴く。そこには少し悲しそうな顔をした東井さんがいた。
「……東井さんの名前がない。とりあえずは合格、だな」
「プロデューサーさん達のおかげです、でも……」
退学者のリストに表示された数人の中に彼女の名前は無かった。彼女が退学しやすいとはいえまだ100人以上もいるのだ、こんな序盤に退学してしまうのは、余程運の悪い子だろう。
「フローラ……私の中で生き続けなさい」
「猫々子、うう、畜生……」
運の悪いことに、快く俺達に協力してくれたオカルト少女と天真爛漫少女は、屍を超えて行けと言わんばかりに俺達の前から姿を消してしまうのだった。アイドルの道は、険しい。
基本はセンター返し……現広島東洋カープ・小窪哲也の応援歌




