Lv7.大人になるって悲しいわよね 第六章
「浮かない顔ね、姫」
「黄龍様」
龍騎士団に復帰した私は、再びリーダーとして指揮を執ることになりました。バハムートの主となったことで更にパワーアップした私は、帝国の兵をばっさばっさと寄って斬ります。敵のレベルから考えるに、もうストーリーは終盤まで来ているのでしょう。争いごとを好まず、冒険に出ることすら怖がっていた私でしたが、色々と修羅場を潜り抜けてきたからか、敵を斬っても何も感じないようになってしまいました。帝国の兵を殺戮するキラーマッスィーンでありながら、帝国の将を籠絡する悪女でもある私。自分がどんどん邪悪な人間になっているような気がして、戦いが終わった後には、自分の部屋で何度もため息をつくのです。この日も窓から星を眺めてため息をついていると、いつのまにか黄龍様が横に立っていました。
「もうすぐ、もうすぐこの戦いも終わるわ。そうしたら結婚して、平和な国を築いて行きましょう」
「……」
「おやすみ、姫」
黄龍様の顔を見ようともせずに星を眺める私に、『そろそろCしましょう』とは黄龍様も流石に言えないのか、夜の挨拶をすると部屋を出て行きました。
「……バルバロイ様」
一人になった私が呼ぶのは、黄龍様の名前ではありません。自らを犠牲にする覚悟も厭わずに、私を逃がしてくれたバルバロイ様でした。彼は今頃どうしているのでしょうか、裏切りにより私のように地下牢に幽閉されているのでしょうか、それとも……
「さあ、次の戦いも完璧に勝つわよ!」
数日後、お城の前で円陣を組み、私達は戦地へと赴きます。向かうは帝国が占拠している砦、ここを押さえることができれば戦局は一気に有利になる事でしょう。
「……そんな! あの人は……!」
戦場に着いた私は、敵の大将を確認して手で顔を覆います。そう、砦を守護していたのはバルバロイ様だったのです。
「……トリデヲマモルヨ」
「あれが敵の大将? 何だか洗脳されているみたいね。ま、関係ないか」
虚ろな目をして、カタコトで喋るバルバロイ様を見て首をかしげる黄龍様。ちなみに私達のいる場所から普通はバルバロイ様の姿など確認できませんし、ましてや声を聴いたり会話なんてできないはずですが、そこはSRPGのお約束というものですね。翼竜に乗り、雄叫びを上げるバルバロイ様。恐らくは私を逃がした罪を問われ、洗脳されて無理矢理戦いに出されてしまったのでしょう。そうして戦いが始まってしまったのですが、流れは一方的なものでした。敵は全員バルバロイ様のように洗脳をされているようで知力が25くらいに落ちたのか突撃してくるのみですし、なんやかんやあって覚醒した黄龍様と私の敵ではありません。あっという間にバルバロイ様を残して敵は全滅してしまいました。
「さて、後は敵将を倒すだけね。アタシの方がレベルが低いから、経験値はアタシが貰うわ」
「待ってください、ここは私に任せてください」
敵を経験値としか見ていない黄龍様を制止して、一人バルバロイ様の元へと向かう私。目の焦点が合っていない彼をまっすぐに見つめると、胸の内を語りはじめます。
「バルバロイ様、覚えていますか? 私です、ヨヨヨです。お願いです、目を覚ましてください!」
「……」
私を見て一瞬体を震わせ、動きを止めるバルバロイ様。操られていながらも、私を認識することはできているようです。ここ最近、バルバロイ様の事を考えていました。自分の気持ちがわからずに悩むこともありました。けれど、苦しそうな顔で操られている彼を見た時、私の気持ちははっきりとしました。もう迷いません、自分の気持ちに嘘はつけません。
「バルバロイ様、初めて貴方の姿を見た時、貴方に助けられた時、私の胸の鼓動はバクバクと燃え上がっていました。それが何なのか、ずっと気になっていたのです。いえ、本当は薄々と感じていたのです。それを認めてしまうと、自分が矮小な人間であることを認めてしまうから。だってそうでしょう? 幼い頃の話とは言えど将来を誓い合い、側に置き、時には心を隙間を埋めて貰った人間だっているのに、ちょっと助けられたくらいで、牢屋の中で何度かお話したくらいで人を好きになってしまうなんて、王女である自分がそんな尻軽な女だなんて。だから自分に嘘をついていたのです。私は貴方を利用しているだけだと。あの牢から抜け出すために、貴方が私に気があることを見抜いて、私に心酔させようとしたのです。けれど、お城に戻ってからの私の心はズキズキと痛むまま。黄龍様に慰められても、優しい言葉を投げかけられても、虚しさだけが残るまま。貴方を利用したことと、自分に嘘をついたことへの神罰なのでしょう。もう自分に嘘はつきません、貴方を利用するだけの女にもなりません! バルバロイ様、私は貴方を愛してしまいました! だから貴方を助けねばいけないのです、どうか目を覚ましてください!」
「グオオオオオオオオオッ!」
「……危ないっ!」
周りには黄龍様もラボちゃんもあーちゃんも、私の仲間がたくさんいます。その前で敵国の将に告白をするなど、馬鹿げた話でしょう。それでも私は本気なのです。懇願するようにバルバロイ様を見つめますが、バルバロイ様は葛藤しているのか苦しんだ後、混乱しているのか剣を抜いて私に襲いかかって来ました。浮気とも取れる私の言動に何も言えずにいた黄龍様も、咄嗟に声をあげます。
「……目を覚ましてくれないなら、自分で覚まさせるだけです。ハードポーン!」
逃げも隠れもしませんが、黙って斬られる訳にもいきません。心を失った状態の人間の攻撃など、真の愛を知ってしまった今の私に当たるはずもありません。さっと身を翻すと、専用装備のカラドホルグの顎でバルバロイ様の鳩尾を一突き。ドボォという音と共に、彼の身体は崩れ落ちました。
「……ヨヨ、ヨ、姫……」
「バルバロイ様……! 正気に戻ったのですね!」
「貴女を逃がした後、私の心が晴れる事は無かった。裏切ってしまった自分を認めるのが怖くて、貴女の事など好きではなかった、誘惑の魔法でもかけられて騙されていたのだと思い込もうとした。洗脳されて自分を失ってでも、この辛い気持ちを忘れることができるのならば構わないと思っていた。しかし、貴女が自分の気持ちに素直になったというのなら、私もそれに答えなければいけない。私は本当に貴女の事を……」
「いいのです、今はゆっくり休んでください」
倒れる彼を抱き上げると、優しい顔をして私に微笑みかけるバルバロイ様。すぐに気を失ってしまった彼の頬に口づけをすると、
「皆さん、今回の戦いも勝つことができました。ここの砦を拠点とし、帝国を叩きます。兵の手配を。彼は帝国の内情を知る重要参考人として城へと連れて帰ります、救護班はすぐに彼の手当てを」
何も言わずに一部始終を見ていた仲間達に指示を出します。素直にそれに従う者、納得がいかないような態度を取りながらも渋々従う者、
「……ねえ、姫、嘘でしょ?」
信じられないと言った表情で、私に縋りつく黄龍様。
「……大人になるって悲しいわよね、黄龍。子供の頃の感情を持ったまま、成長することは難しいのです。子供の頃の恋心を簡単に保つことができるほど、人は他人と関わらずにはいられないのです。許してくださいとは言いません、貴方がそれを望むなら、身体を差し出しましょう。けれどこの戦いには、貴方の力が必要なのです、今は何も言わず、私の手となり足となってくれませんか?」
「……」
先程の告白で私自身何か吹っ切れたのでしょう、子供の頃の名残で様づけしていた彼を呼び捨てにし、一国の姫として、指揮官として非情な言葉を投げかけます。黄龍は私に背を向けると、何も言わずに去って行ってしまいました。
「……この戦い、絶対に勝ちます」
戦いには犠牲がつきものです。何人もの名も知らぬ兵が散りましたし、戦火に巻き込まれる罪のない人もたくさんいました。そして私達の関係にも、ヒビが入ってしまいました。……いえ、最後の部分は戦いなど関係ありません、私が悪いのでしょう。それも全ては、平和を掴みとるため。犠牲を無駄にしないためにも、私はこの戦いを終わらせます。例え悪女と呼ばれようとも、全てが終わった時、そこに悲しい結末が待っていようとも。
キラーマッスィーン……魔界戦記ディスガイア




