Lv7.大人になるって悲しいわよね 第三章
「それでは姫、今日も悪を成敗しに行って参ります」
「ああ、黄龍様……! どうか御無事で……!」
ストーリーは少しずつ進み、黄龍様達は何度も城を出て戦いへと赴くのですが、私はお姫様という立場上お城の外に出ることができません。私は皆が出発した後、自分の部屋に戻ると、窓から外を眺めて祈ります。私にできることといったらお城の中で無事を祈ることだけなのです。
『黄龍様、大変申し上げにくいのですがここは皆の盾になってください!』
『待って……! その辺りから敵の増援が出る気がします! 一度隊列を整えて、1マスずつ移動してください!』
『チャンスです! その敵は弓兵なので上下左右を囲めば何もできません! その上防御が高くて回復も多用するので、ちくちくと叩いて経験値をたくさんいただきましょう!』
お城の中で無事を祈りつつ、脳内に浮かぶ戦場で黄龍様達を駒に指揮を執ることだけなのです。段々と敵も強くなってきましたが、それ以上にきちんと経験値を稼いでいますので相対的な難易度はむしろ下がってきました。この日も誰一人戦闘不能になることなく、モンスターの集団を討伐できました。
「姫! 戦闘が退屈すぎてつまらないです! 指揮をアタシに執らせなさい!」
「私はただ、皆に怪我をして欲しくないだけなのです! わかってください!」
「多少怪我をしても戦闘不能になっても、戦ってる感が欲しいの! 皆もそうでしょ?」
「いえ、私は痛いの普通に嫌だけど」
帰ってきて一悶着ありましたが、次のイベントが始まるまでひとまずはお休み。戦闘指揮で疲れましたので自室でおやすみしていますと、コンコンとドアを叩く音が。
「姫! 夜伽しましょう!!!」
「……は?」
どうぞと言う暇すら与えずに黄龍様が部屋に入ってきて、寝ていた私の身体に馬乗りになりました。
「さっきラボちゃんに次はどうすればいいのか聞いたら、『あなたと姫は幼い頃に将来を約束した仲よね? 最近戦い続きで姫はお城でいつも寂しい想いをしているから、慰めるべきなんじゃないの?』って言われたの。つまり、慰み者になれってことよね?」
一体どういう思考をすればそんな発想になるのでしょうか。どちらかといえばこの状況は、戦いで疲れた黄龍様の慰み者にさせられようとしているようにしか見えないのですが。
「黄龍様、普通それは夜に二人でお話する程度のイベントですわ! 目が怖いです!」
「女の時は男なんてエロいことしか考えてない変態とばかり思っていたけど、男の身体になった今となっては、姫を見るだけでムラムラするわ! もう限界! キスしましょ! 愛を確かめ合いましょ!」
男と女の違いというものなのでしょうか、それなりに性に興味のあったはずの昔の自分はどこへやら、今の私は思考もすっかり箱入り育ちの貞操観念の高いお姫様になっているようです。反対に黄龍様は、元々男らしかった思考が身体も男になって自分を制御できなくなっているのでしょう。
「待ってください黄龍様、物事には順序がありますわ。確かに私達は将来を約束しましたが、それは私がお城を抜け出して黄龍様に出会った幼い日の事。それから私はお城の中でずっと過ごしてきましたし、黄龍様は騎士になるために何年も厳しい修行にあけくれておりました。黄龍様が近衛騎士になって私に仕えるようになるまで、数年もブランクがあったのです。子供の約束だから忘れろとは言いません、もう少し私達が結ばれるのには、時間が必要なのではないでしょうか?」
「よくわからないけど、ようするに恋のABCってやつよね? わかったわ、じゃあ今日はキスしましょ」
「……はあ。まあそれくらいならいいですわ」
それっぽい設定で黄龍様を説得しようとしたのですが、残念ながら長い文章を理解できる程黄龍様の頭はよくありません。キスならいいかと思ってしまうのは、黄龍様の勢いに押されているからなのでしょうか? 私に覆いかぶさるようにキスをする黄龍様。こんなところを誰かに見られたら、黄龍様処刑されてゲームオーバーでしょうね。黄龍様なら暴れて私を攫って国外逃亡しそうですけど。
「もう我慢できない! 姫、おっぱい揉ませてください!」
「いい加減にしてください黄龍様、衛兵呼びますわよ!」
「いいじゃないの減るもんじゃないし」
黄龍様にとってみれば、男としての性が芽生えたばかりで頭の中が思春期の中学生レベルなのでしょう。唇を奪ったと思ったら更に興奮して私の胸を凝視してきます。男の時の私の中学生の時ですらここまで酷くはなかったと思いますが。
「……黄龍様、発言には責任を持ってください。減るもんじゃないと言うなら、現実世界に戻った時に、黄龍様は私に胸を揉まれてもいいと言うのですか?」
「え? 別にいいじゃん、胸くらい」
男と女の羞恥心の違いをそれとなく理解させようと努力したのですが、黄龍様は特に気にすることなく自らの平らな胸を揉み始めました。私は男の時の感情を薄らと把握しているのですが、黄龍様は女だった頃の自分を完全に忘れているのでしょうね。可哀想な話です。
「……それより黄龍様、外の世界のお話が聞きたいですわ。黄龍様の武勇伝」
「任せて! 今回は大量発生したゾンビを討伐しに向かったんだけど、そこには元凶であるネクロマンサーがいたの。大量にゾンビを召喚するネクロマンサーに、アタシは勇敢にも一人で立ち向かって華麗な剣技でズバズバと倒していったわ。最終的には改心したネクロマンサーも騎士団の仲間になったのよ。その前はね……」
面倒くさくなってきたので、話をすり替えることにしました。嬉々としながら自分の活躍(明らかに私が指揮した戦闘の内容と違っているのですが)を語りはじめる黄龍様。黄龍様のお話を聞いていると、私も冒険がしたくなってきました。冒険なんて野蛮なことはしたくないと最初の頃は思っていたのに、短期間で人は変わるものですね。
「……楽しいお話ありがとうございました。もう夜も遅いですし、黄龍様もお休みになられては」
「そうね。それじゃあ姫、おやすみなさい」
黄龍様が部屋を出て行くのを見届けた後、がっちりと鍵をかけてベッドに戻り、今度こそ寝ることに。ドアをガンガンと叩きながら『ちょっと待って! 武勇伝聞かせたら揉ませてくれるんじゃなかったの!?』なんて黄龍様が捏造をしているようですが、気にしないことにしましょう。
◆ ◆ ◆
「大丈夫です姫。姫は誰にも渡しません。憎き帝国など、一人で滅ぼしてみせましょう」
「黄龍様……」
それからもう少し話は進み、帝国が私の身柄を要求してきて、渡さないなら戦争だと脅しを仕掛けてきました。国民のためならば自分の身などとその要求を受け入れようとする私でしたが、国民達も私のためならば自分の身などと帝国と戦うことを決意し始めます。民に慕われていることを嬉しく思う反面、戦争が始まると思うと悲しくなります。そしてついに、黄龍様が所属している龍騎士団が、進軍している帝国軍を迎え撃つために城を出て行ったのです。
『体力が半分を切ったらすぐに回復をしてください!』
『駄目です、深追いは禁物です! 一人も失うわけにはいきません!』
私も必死で黄龍様達の身を案じ、必死で戦闘の指揮をとります。作戦は『いのちだいじに』です。この戦いも無事に完全勝利し、私は自分の部屋で黄龍様が戻ってくるのを今か今かと待っていました。窓の外を見ると、龍騎士団が帰ってきたようです。しかし、様子がおかしいと感じた私はいてもたってもいられず彼等を迎えに行きました。
「……! 黄龍様!」
「姫……どうやらアタシはここまでのようね」
そこで見たのは、大量の矢を身体に受け息も絶え絶えな黄龍様だったのです。
「ラボちゃん、あーちゃん、どういうことです! 今回の戦いは体力も全然減らさずに勝ったではありませんか!」
ラボちゃんの肩をがたがたと揺さぶって説明させようとしますが、ラボちゃんの口から飛び出てきたのはとんでもない言葉でした。
「……イベントよ」
「戦闘が終わって帰る途中に奇襲を受けて親父が皆を守ってボロボロになったんだ」
「なんだイベントでしたの……」
唐突に『ああ、ここはゲームの世界で私達はなりきってロールプレイしているだけでしたわね』という現実? に引き戻される言葉。イベントならしょうがないですわよね。でも正直興ざめなので、ラボちゃんもあーちゃんももう少しノリノリで演技をして欲しいですわ。真正面からイベントだなんて告げられて、一気に悲しい気持ちが吹き飛んでしまったではありませんか。それはそれでいいのでしょうけど。
「覚醒しなさい。あなたの癒しの力を覚醒させて救うのよ。頭にそれっぽい台本浮かんでくるでしょ?」
「あ、本当ですわ。……いやあああああ! 黄龍様、黄龍様ああああああ!」
イベント再開。横たわる黄龍様を抱いて大粒の涙を流す私。するとどうでしょう、私と黄龍様の身体が光に包まれ、気が付いた時には黄龍様は傷1つない身体になっていたのです。
「こ、これは伝説の癒し手の力! 癒しの竜の巫女の伝説は本当だったのね」
「癒しの竜の巫女!? ラボ殿、それは何でござるか!?」
「姫が竜と会話できるってのは知ってるわよね。実はそれにはとある理由があって……」
私の秘めた力について解説し始めるラボちゃん達はさておき、無事に回復した黄龍様の手をがっしりと掴みながら、私は決意を固めます。
「黄龍様、いえ、皆さん! 私、決めました。私も戦います! これ以上、大切な人達が傷つくのを黙って見ているわけにはいきません!」
「姫……決意は固いのね。アタシは構わないわ、皆もそうでしょ?」
「へへ、姫様がいりゃあ、頑張って守ろうって気になりますぜ」
お城で守られるだけの存在だった私でしたが、この力で他人を守りたい……そんな気持ちになった私は戦いへの参加を決意します。反対する人は誰もいませんでした。『渦中のお姫様が戦闘に出るとかまずいでしょ、誰か反対するべきでしょう』と思ってしまうのは、少し現実に引き戻されてしまっているからなのでしょう。やるからにはしっかりとなりきりたいものですね。




