Lv7.大人になるって悲しいわよね 第一章
「親父ー、ラボちゃん、飯だぞ」
「はーい」
両親が仕事に行ってしまい寂しくなるかと思えた俺の学生生活だったが、恋人がちょくちょく遊びに来て、年上の娘が毎日ご飯を作ってくれて、後なんか居候がいる。とても愉快な学生生活だ。
「手先の器用さをあげておいてよかったわね、料理が美味しいわ。今まではカップラーメンとかだったし、アストラル体みたいなもんなんだし食べなくていいだろって食事を与えられなかったこともあるもの」
「ラボちゃんは居候の分際で偉そうだね……ラボちゃんは何ができるのさ」
「大鎌スキルと、初級暗黒魔法が使えるわ」
「大鎌はゴミスキルだし、RPGにおいて味方の用いる暗黒魔法程いらないものはないよ、暗黒に耐性を持つ敵って多いし、しかも初級って。俺も戦えないけど指揮官みたいなものだし。現状役割のないラボちゃんこそ育てられる必要があったんじゃないの?」
返す言葉もないようで、ラボちゃんは無言でぱくぱくと料理を口に運び、何のためらいもなくおかわりをする。居候、三杯目はそっと出しという言葉は嘘なのだろう。
◆ ◆ ◆
「ていうかお前、最近ずっと弁当だな。それも美味しそうな。網野ちゃんにこんな弁当が作れるなんて驚きだ」
「黄龍が作ったんじゃないよ」
「それじゃあ雨宮君が? こないだの家庭科の調理実習酷かったけど」
今までは学食やコンビニのパン、たまに黄龍が作ってくれる微妙に美味しくない弁当を食べていた俺だったが、料理もできるハイスペックな娘ができてからは毎日美味しいお弁当を食べることができる。友人達の疑問に答えたのは、近くの席でもそもそとお弁当を食べていた黄龍だった。
「親戚の娘さんが作ってるのよ、こいつの家にこないだから居候してるの」
「ははは、だから網野ちゃんそんなに不機嫌なのか。そりゃそうだよなあ、古来より幼馴染は、同居ヒロインの前では噛ませ犬でしかないもんな。例え恋人関係を結んでいたとしても、10年以上の思い出があったとしても、あっという間に寝取られてしまう。それがぽっと出の同居ヒロインの怖さだ」
「……手を出したら、痛い目に遭わせるからね。具体的には両足と両腕の骨を折った後、生き埋めにして首だけ地面から出して大量の野犬に襲わせるから」
「網野さんが言うと冗談に聞こえないね……」
恐ろしいことを口走り、友人や園田君、周りにいる男子達を女は怖えなと震えあがらせる。黄龍もゲーム世界出身ならあーちゃんのように二股にも抵抗が無かったのだろうか。個人的には抵抗がないのは逆に女としてどうなんだという気持ちもするけど。
「お前ここんとこ毎日家に来てるじゃないか、それも夜遅くまで。家族が心配するぞ?」
「心配なのはアンタよ、私がいないところであの二人とイチャイチャしてるんじゃないかと思うと」
「俺がそういうことをするような男に見えるのか?」
「……考えてみればアンタかなりのヘタレよね、大丈夫な気がしてきた。じゃあアタシ今日は家に帰るわ。次の世界に行くなら呼んでね」
放課後、嫉妬心丸出しで隣を歩く黄龍に自分の潔癖さを認めさせようとしたのだが、恐ろしいくらいにあっさりと黄龍は納得して去っていってしまった。これはこれで悔しい。
「ということがあったのですが! 不服です! 男としてどうなんでしょうか!!!!」
あまりにも悔しかったので、家に帰ってラボちゃんとあーちゃん相手に今日の出来事を喋り慰めて貰おうとする。気分はすっかりヒモ男子だ。
「いいじゃないの、浮気できない男って褒め言葉だと思うわよ?」
「こんなに可愛い女の子が二人も一緒に住んでるのに、照れる態度すらないんだから、俺達の事女として見てないんじゃないのか? 母さんにゾッコンなんだな、羨ましいぜ」
言われてみれば、女の子2人、しかも片方は俺のお嫁さんになるとか言ってるような子と一つ屋根の下で暮らしているというのに、割かし平常心でいられるのはゲームのやりすぎなのだろうか。一人暮らしに抵抗が無かったのも、女の子と暮らすことに抵抗が無かったのも、そういうゲームをやり続けていたからなのかもしれない。黄龍にちょっと抱きつかれたくらいでドギマギしていた子供の頃を返してくれ、ギャルゲーの女の子に本気でドキドキしていたあの頃を返してくれ、と無駄に女に慣れてしまった自分を嘲笑う。
「んー、まあ、俺には浮気する人間の気持ちなんてわからないや。わからない方がいいんだろうけどな」
「……いや、それじゃ駄目なのよ。あなたには、浮気する女の子の気持ちを理解して貰わないと」
「は?」
突然意味不明な事を言い始めるラボちゃん。浮気する、しかも女の子の気持ちなんて理解してどうするというのだ。そしてラボちゃんは、例によって俺のゲーム棚を勝手に漁り、1つのカセットを取り出した。
「次の世界、これなんだけど」
「どれどれ……っ!」
ラボちゃんに手渡されたそれのタイトルを見て、俺はすぐに激昂してカセットを地面に叩きつけようとするが、ラボちゃんに止められてしまう。
「こらこら、ゲームは大切にしなさい」
「くそっ、このゲーム捨てたかと思ったのに、まだ残ってたのかよ……」
『レジェンドオブバハムート』……中学生の頃やったRPGで、全国各地に被害者のいる忌まわしきゲームだ。俺も例外ではなくこのゲームをプレイして心に傷を負い、プレイしたことすら忘れようと封印しておいたのに、まさかこのゲームの世界に行く羽目になるとは。
「親父がそんな事言うなんて、そんなにクソゲーなのか?」
「クソゲーじゃないよ。少なくとも、RPGとしてはよくできてる。でもな……」
ヒロインが、寝取られる。それだけでどれだけ悲惨なゲームかお分かりいただけただろうか。しかも、名前が変更できる人間は主人公とヒロインしかいないのだ。純真な中学生時代、ヒロインをいいなと思ってプレイ開始した俺には辛すぎた。途中でゲームを投げたかった。それでも、俺はこのゲームを最後までやり遂げたのだ。ヒロインが新しい相手といちゃつく姿を見ながら!
「俺は……俺はヨヨヨを許さねえ! ヨヨヨだけじゃねえ! 海女根も! アニャスも!」
「まあまあ。それは男視点だからでしょう? 女の子の気持ちになって考えれば、仕方が無かったって納得できるわよ。悪女として今でも叩かれる可哀想なヒロインに、理解することで救いを与えましょう?」
「ふざけんな……ふざけんな……!」
何が救いだ! あんな女には宇宙葬がお似合いだ! 他のゲームに変えてくれとラボちゃんに泣きつく俺であったが、無情にもこのゲームは絶対クリアしないといけないメインストーリーのようなものらしい。これから起こる悲劇の再来に頭を痛めながらも、俺は恋人を呼び出す。
「お待たせ。で、次の世界はどんなゲーム?」
「ファンタジー系のRPG……ってちょっと待ってくれラボちゃん、まさか黄龍をヒロイン役にするなんてことはないよな?」
慌ててラボちゃんに詰め寄る。ゲームの世界で、実際の恋人相手にあの悲劇を繰り返されたら俺のライフはゼロになってしまうことだろう。それは勘弁してくれと懇願すると、ラボちゃんはふるふると首を横に振り、
「大丈夫よ。ヒロインはあなただから」
「は……?」
よくわからない事を言いだす。理解できないまま、レジェバハの世界に行く準備ができたのか意識が朦朧としてきて、次に気づいた時にはゲームの出発点となるお城、ヒロインである王女様の部屋にいた。
「ついたわね……ああ、できればこのゲームの世界には来たくなかったのに……あら?」
どこか違和感を覚えた私は辺りを見渡す。ラボちゃんがいる。あーちゃんもいる。妙に凛々しい黄龍もいる。そして皆、私を見てプルプルと笑っている。
「に、似合ってるじゃない……ぷぷぷ」
「く、くくく……」
「女として負けた気がするけど、アタシより可愛いわ……くくく」
一体皆どうしたのでしょう? 疑問に思いながら、そういえば背が縮んだかしらと近くにある鏡で自分の姿を確認する。そこにいたのは……
「お、女の子になってますわ!?」
フリフリのドレスを着て、ちょっと胸が膨らんで、下についているはずのものが無くなった、正真正銘の女体化してしまった私でしたの。
レジェンドオブバハムート……SFCのSRPG『バハムートラグーン』+PSのRPG『レジェンドオブドラグーン』。モチーフは前者。
ヨヨヨ……バハムートラグーンのヒロイン、ヨヨ。悪名高い。
海女根……ドリームクラブのヒロイン、亜麻音。シナリオもさることながら、本人の性格も箱入りのお嬢様ということを差し引いてもリアルに不愉快。リアルなキャバクラのゲームとはいえど、嫌なキャラだった。
アニャス……テイルズオブジアビスよりアニス。何から何まで不愉快。主人公が自分の罪に悩まされながらも成長するのに対し、主人公を責め続けた彼女は自分の罪が発覚してもお咎めなしというところが最高に気に入らない。




