Lv6.育てろ、神の子を! 最終年
「親父! 母さん! やった、やったぜ! 空手の地区大会で準優勝だ!」
「おめでとうあーちゃん。俺にはそれがどのくらい凄いのかわからないけど」
あーちゃん17歳。とうとう両親と同い年になってしまった娘は女らしさやオシャレを犠牲に、手先が器用で喧嘩が強い、本人の理想通りの姿となりつつあった。
「もうアタシ達は口出しできる立場じゃないわね。後はあなた自身で考えて成長するのよ」
「まーた育児放棄か。ま、俺の理想の姿ではないけれど、立派に育ってきてると思うぜ?」
「戦力的にも、キャラ的にも合格ね」
すくすくと育つあーちゃんを見て、俺も黄龍もラボちゃんもほっと一息。残された期間は後1年。育児放棄するわけではないけれど、後は本人に任せても大丈夫だろう。だからスケジュールについて口出しはしないことに決めていたのだが、ふと気が付くと黄龍が怪訝な顔をしていた。
「どうした黄龍? 今更成長方針変えても意味がないと思うぞ」
「……あーちゃん、女らしさを捨てなさい。そうでなければ強さは得られないわ」
「おう、わかった。よくわからないけど女らしさを捨てるぜ」
あーちゃんの身体をまじまじと眺めながらそんな事を言い出す黄龍。一体どういうことだろうかと彼女の視線の先を辿ると、17歳にしては大き目な2つの果実がそこにはあった。多分EかFはある。
「あのな黄龍。パラメータで女らしさとか魅力とかを下げたところで、あーちゃんの胸がしぼんだりはしないぞ」
「なっ……」
「しょうがないだろ、所詮は俺達は現実の人間で、あーちゃんやラボちゃんは二次元の住人。胸がでかいのは当たり前なんだよ。だから自分の子供に嫉妬するなんてみっともない真似はやめろよ……」
アニメや漫画に出てくる貧乳キャラは、現実では平均レベルであることもしばしば。特にこのゲームを出している会社のスタッフは大きいのが好きならしく、出てくる女性キャラはほとんど巨乳ばかりだ。いくら女らしさや魅力を下げたところで、あーちゃんの容姿の魅力が下がるなんてことは有り得ないのだ。そして黄龍は同世代よりもやや小さめ。コンプレックスも結構持っているようで、漫画に出てくる貧乳キャラが自分より大きいことに怒り、漫画をビリビリと引き裂いた過去すら持つ女なのだ。
「……私、二次元の世界の住人にしては小さい気がする」
「あーあーラボちゃんまで落ち込んじゃった。心配すんなよ黄龍。俺はどちらかと言うと小さい方が好きだぜ? 小さいことを気にしてコンプレックスから恥ずかしがってる女の子とかいいじゃん。大体あんなもの脂肪の塊だよ。だから元気出せって」
恋人を慰めようとする俺だったが、発言をしてすぐに失言だと気づく。後ろを振り返ると、脂肪の塊だと言われたあーちゃんが、殺気を振りまきながら涙目になっていた。
「うっ……うっ……」
「あ、あーちゃん? いや、今のは言葉のあやでね? 別にあーちゃんが脂肪の塊だって言いたいわけじゃないよ? だからね? 母親譲りのアームロックはやめてぐぎゃああああ!」
「親父のアホー!」
貧乳が巨乳になっただけで、性格的なところはかなり母親に影響されてしまったようだ。一瞬で俺の右腕の関節を外すと、家を飛び出して行ってしまう。
「あーあ、最低ねアンタ」
「いや、確かに俺が悪いんだろうけど、発端はお前だからな?」
「言い訳しないで、さっさと連れ戻して来なさい」
落ち込んでいたはずの二人が一致団結して俺を責めてくる。男は辛いなあとしみじみと感じながらも、関節を外したままあーちゃんを探しに行くのだった。
◆ ◆ ◆
「うっ……さらしきつい……」
しばらく街をうろついてあーちゃんを探していると、さらしを巻いたらしくペッタンコだが、かなり苦しそうなあーちゃんを発見する。
「あーちゃん。さっきは悪かったよ。俺は男だ、小さいのも大きいのも大好きだ。だから無理して小さくする必要なんてないよ。黄龍はお前に嫉妬しないように言い聞かせとくから」
「本当? 俺、魅力的? 女らしさも魅力もオシャレも最低レベルだぜ?」
「ああそうだとも。ステータスなんて関係ないよ。あーちゃんは凄く可愛いし魅力的だよ」
「母さんとどっちが魅力的?」
「そ、それはだな……」
あーちゃんを慰めていたのだが、ここにきてあーちゃんは究極の質問を俺に放つ。もうあーちゃんも設定上は17歳。スタイルもいいし、どうしても娘ではなく俺も一人の女として見てしまう。そしてきっとあーちゃんは、俺を慕って現実世界にまで来るレベルだ、俺が好きなんだろうし同い年になった今、俺を一人の男として見ているのだろう。この手の質問にどう答えるのが正解なのか、ギャルゲーを何本もやってきた俺もわからない。結局本当に大事な局面では、自分の直感を信じるしかないのだ。
「どっちも同じくらい魅力的だよ」
「うわ……」
「しょうがないじゃないか。仮に答えが決まっていたとしても、どっちかに決めるような発言、俺みたいなヘタレには無理だよ」
どちらも傷つけたくがない故の発言だが、結果としてどちらも傷つけてしまうこともある。それでも俺はそう言うしかなかった。俺を冷やかな目で見ていたあーちゃんだったが、やがて納得してくれたのか俺の関節を元に戻してくれる。
「俺、親父にも母さんにも、後ラボちゃんにも感謝してるよ。古いゲームの世界で反復行動をするだけだった俺に、ゲーム界最強の勇者の名前をくれて、人間として生きる幸せを与えてくれたんだからな。ま、時が来れば元に戻ってしまうんだろうけど、それは仕方ないか」
「あーちゃん……」
「俺をあの町から連れ出してくれた時から、親父の事は好きだったんだ。まあ、勇者に惚れるように設定されているだけだろうし、あの時はラブじゃなくてライクだったんだろうけどな。でも、こないだ親父に攻略されて、親父に育てて貰って女になった今でははっきりと言えるよ。親父のお嫁さんになりたい。母さんと親父が付き合う前に大人になっていれば、俺にもチャンスがあったのかな。……いや、そうしたら、そもそも今の俺は形成されていなかったか」
「……」
切ない顔をするあーちゃん。ここまで心情を吐露されたら、俺としても行動を起こさないわけにはいかない。心の中で黄龍に謝りながら、顔をぐいとあーちゃんの方に近づけて、
「……! お、親父!?」
「黄龍には内緒な。さ、帰るぞ」
唇を奪ってやり、置いてくぞと言わんばかりに背中を向けて我が家と歩き出す。しばらく顔を真っ赤にしてぽかーんとしていたあーちゃんだったが、すぐに笑顔になって俺の後を追う。そういえば俺、黄龍とキスしたことあったっけか。まずいな、勢いでしてしまったが俺のファーストキスかもしれない。まあ、俺は初めてとか気にしないタイプだけど。
◆ ◆ ◆
「18歳おめでとうあーちゃん。ついに年上になってしまった」
「ま、色々あったけど、いい子に育ったわ」
「子育ての大変さがわかったでしょう? もう二度と楽勝宣言するんじゃないわよ。それじゃあ元の世界に帰りましょうか」
そして更に1年後。娘は立派に18歳となり、年齢的な意味でも親を超えてしまう。最終的に手先の器用さと体力、身軽さ、腕力などに特化した、肉体派シーフみたいなパラメータになってしまった。相変わらず女らしさとかは最低レベルだけど、グラフィック上は十分女らしいし魅力的だとは思う。
「そうそう。俺、職業決めたよ」
「職業? ああ、確かに本家ではエンディングで職業が決まるね。何になりたいの?」
「それは勿論」
自分のやりたいことも決まったらしいあーちゃん。俺達は就職か進学かで子育てに影響が出るくらい悩んでいたというのに立派なものだ。何になりたいのかを聞くと、あーちゃんはにこにこしながら俺に近づき、
「親父のお嫁さん♪」
抱きついてその豊満な体を俺に密着させてくる。先ほどまで子育てやりきった感で機嫌の良かった黄龍だが、すぐに顔が般若のようになる。
「何を言っているのかしらあーちゃん。娘が親のお嫁さんになんて、なれるわけないでしょ? だから今すぐ呉人から離れなさい」
「俺はゲームの世界の住人だから、近親とかハーレムとか気にしないもーん」
「そういう問題なのか?」
確かに本家シリーズでも父親のお嫁さんになるというエンディングは存在するし、2股3股かけても全く怒らない聖母のようなヒロインもゲームの世界にはたくさんいる。しかし現実の女性の中でも独占欲が特に強い黄龍がそれを受け入れることができるはずもなく、力づくであーちゃんを引きはがそうと襲い掛かる。かつては全く敵わなかったあーちゃんであったが、成長したのか黄龍の一撃を片手で止めてみせる。
「なっ……?」
「母さんには感謝してるぜ。俺をここまで鍛えてくれたんだからな。今の俺なら、母さんにも負ける気がしない」
「言ったわね。全ての関節を外してやるわ!」
そして気がつけば黄龍とあーちゃんのキャットファイト。モテる男は辛いわねえと、ニヤニヤとラボちゃんが俺を見て笑っていた。




