Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ! 六股
「私達もそろそろ、恋人作りたいわね」
「何周してもラボちゃんには恋人ができないね」
黄龍もあーちゃんも無事に攻略して、とうとう親友ポジションであるラボちゃんを攻略することに。相変わらず窓の外を眺めながら俺達はため息をついていた。
「私こんなに可愛いのに、どうして恋人ができないのかしら」
「そもそもラボちゃんは彼氏を作りたいのか彼女を作りたいのかはっきりしてよ」
「何言ってるの、彼氏に決まってるでしょ」
「今までずっとヒロインを可愛い可愛い言ってたのに……」
「今までって何よ」
「ごめんよ、メタ発言は控えるよ」
周回ごとに登場人物の設定がコロコロ変わって面倒くさいなおい。前回まではずっと攻略対象のヒロインを可愛い可愛い恋人にしたいと言っていたラボちゃんだが、今回はバリバリのノンケなようだ。
「おい、雨宮に魔王宮、ホームルームを始めるから席につけ」
「へいへい……魔王宮?」
「私が製作者につけられた正式な名前よ。魔王宮ラボ」
ずっと教師役として頑張ってきたあーちゃんもいい加減疲れたらしく、普通の男教師が本来の役目を務めている。それにしても『ラスボスの精霊』が正式名称で名前なんて設定されていないと思っていたけど、ラボちゃんにもきちんとした本名があったようだ。魔王宮ラボ。どこかでその名前を聞いたような気がするのだが思い出せない。きっと最終的にはラボちゃんの登場する世界に行って、ラボちゃんの望みを叶える必要があるのだろう、何せラスボスだし。
まあそんな先の話を考える前に、まずはラボちゃんを一人のヒロインとして攻略して満足させなければいけない。初対面の時は死神っぽい服装が何とも陰気で魅力を感じなかったが、こうして明るそうな制服に身を包むとなかなか可愛いじゃないか、鎌だって持ってないし。きっと俺は明るい感じのが好みなのだろう、でなければあんな女に告白はしていない。
「まあ私が一ヶ月も本気を出せば素敵な彼氏は作れるでしょうね。そんなわけであなたも頑張りなさいよ。色んな女の子にアピールするの。綾乃さんとか、網野さんとか」
「そうだな……」
放課後になり、俺にアドバイスをしながら帰って行くラボちゃん。お互い恋人作りに必死になるがうまくいかず、そんな中気づけばお互いのことを意識していることに気づく……わかりやすいシナリオじゃないか。ということは2日目からは今までのヒロインにアプローチをかけまくってはフラれる必要があるのか、何だか物悲しいなあと我が家に帰る。
「……?」
家に帰るが誰もいない。存在は仄めかされているが声だけの出演で実際には姿を見せない両親はともかく、妹の帝ちゃんもいないのだ。とうとう説明すらせずに唐突に仕事で海外に行ってしまったのだろうか。
「あれ、脳内選択肢が出てこない」
いつもなら翌日に進むという脳内のコマンドを選択すれば、すぐに翌日の朝のイベントがスタートするはずなのだが、現実世界のようにそんな便利なものは出てこない。まあちょっと疲れてたし、普通に寝て翌日を待つかと特に動揺することなく布団に入った。
「学校へもワープできないなあ」
たっぷり睡眠をとって翌日になったらしいが、やはり脳内選択肢は出てこない。いつもなら家から学校までワープして、教室でのイベントを見ることができたのだが、この日は家から歩いて学校まで向かう。それが普通なんだけど。
「あれ、ラボちゃん1人?」
「……おはよう。いい夢は見れたかしら」
「俺からしたら夢の世界のようなものなのに、夢は見るんだね。ていうかどうなってんの?」
教室に向かうが、真ん中の席に座っているラボちゃんしかいない。黄龍もいないし綾乃さん達正ヒロインもいないし、他のモブクラスメイトもいない。実は今日は祝日で、勘違いして俺とラボちゃんだけが学校に来てしまったとかいうイベントだろうか。
「……バグったわ」
「へ?」
「あなた達の言葉でいえば、結界、閉鎖空間……そんなものに閉じ込められたってところかしらね。今この世界には私とあなたの二人しかいないわ。すぐに復旧するとは思うけど」
「そういうシナリオじゃぁ……ないんだよね」
苦虫を噛み潰したような顔になり、ため息をつくラボちゃん。まあ何とかなるだろうと危機感を持たずに、その横に座ってあくびをかます。
「もともと私達はこの世界に関してはイレギュラー。あまり長居をするべきではないのよ。だから当初の目的通り、正ヒロインを攻略し終わったらとっとと帰るのが望ましかったんだけど。予想以上に時間がかかった上に、本筋から離れてヒロインでも何でもない私達を無理矢理攻略しようとしたから、とうとうバグってしまったわ」
「なるほど、邪魔しまくった上に長引かせた黄龍が悪いなそれは。やっぱり連れてきたのは間違いだったか……」
「悪いのは私よ。責任者失格だわ」
「しばらくすれば元に戻るんでしょう? なら大丈夫だよ、たまにはのんびりしよう」
ラボちゃんが気を病んでしまわないようにフォローを入れながら、ポジティブに二人きりの世界を楽しもうじゃないかと心構える。しかし、
「……」
「……」
急に二人きりになっても、特に話す話題もなくて気まずいのが現実だ。俺はラボちゃんについて全然知らないし、何を話せばいいのだろうか。
「その、ラボちゃん」
「何かしら」
「ラボちゃんも、俺に恨みがあったりするの?」
「ええ」
「……」
さりげなく俺とラボちゃんの関係について質問しようとしたのだが、びっくりするくらい即答されてしまって更に気まずくなる。
「うーん、ラボちゃんが出てくるゲームなんてプレイしたっけなぁ……? でも、ラボちゃんの本名はどこかで聞いたような気がするんだよなあ」
「思い出そうとしても無駄よ。私があなたの世界に具現化するにあたって、思い出せないように呪いをかけているから」
「え、初耳だよ」
「ラスボスですもの。簡単に思い出されても、何かあれでしょ? お楽しみは最後までとっておくものよ」
「そりゃそうだろうけど、もどかしいなあ」
心配しなくても、今はあなたの味方よと微笑むラボちゃん。俺に恨みを持っているのにも関わらず俺を助けてくれる謎の超絶美少女ラボちゃんのことはひとまず置いておくことにしよう。ラボちゃんの言うとおり、今知りすぎると盛り上がりに欠けるというものだ。
「それにしても世界に二人きりっていうの、ちょっといいよね。放課後、皆が帰って二人きりになった教室とか、そういうシチュエーション萌えるんだよね」
「そうかしら、私は寂しくて嫌だけど」
「価値観が合わないなあ」
「あなたは普段から人の温もりに触れているからでしょ。私はずっと寂しい想いをしてきたのよ、これ以上は語らないでおくけど……あら、意外と早く復旧するのね。元の世界に戻れるわ」
ラボちゃんがそう言うと、辺り一面が眩しい光に包まれて、気づいた時にはいつもの? モブキャラ達が集う騒がしい教室に戻る。
「ちょっとアンタ達、何があったのよ。急にいなくなったりして」
「ごめんなさい、ちょっとこの世界に長居をしすぎたの。本来の目的は果たしているし、もう元の世界に帰りましょう」
教室に現れた俺達を見つけてホッとした表情になる黄龍に申し訳なさそうな顔をしながら、すぐにでも呪文を唱えて元の世界に帰ろうとするラボちゃん。気づけば俺はそんなラボちゃんの手を掴んで引きとめていた。
「待ってよ、折角だしラボちゃんのシナリオも最後までやろうよ」
「話を聞いてなかったの? あまり長居はしたくないのよ」
「1周ならそんなに時間はかからないでしょ。ラボちゃん寂しい想いをしてたんだろ? 俺が人の温もりを教えてあげるよ」
ずっと寂しい想いをしてきたのよ、なんて言われたら男としては優しさで包んであげたくなるのだ。例え恋人が側にいるとしても、臭い台詞を吐かずにはいられないのだ。
「……やれやれ。彼女さん、こいつ浮気性よ?」
「ま、優しいのはこいつのいいところだし。アナタだけ仲間外れは可哀想だから、このまま攻略されるのを認めてあげるわ」
「お前ついさっき小さな子に嫉妬心丸出しだった気がするんだが……」
ため息をつきながらも笑うラボちゃんと、余裕に満ちた笑みをしようとするが少し顔が引きつっている、やはり嫉妬深い黄龍。さあ、仕切り直しだとラボちゃんの望む軌跡をたどる事にした。




