Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ! 五股
「私達もそろそろ、恋人作りたいわね」
「そうだな、可愛い彼女作りたいな……」
彼女を作っても作ってもすぐに彼女がいない状態に戻されて、ラボちゃんにそんな事を言われる無間地獄。文化祭当日にヒロインとキスしたと思ったらタイムリープして転校初日に戻されるゲームあったけど、あれの主人公は大変そうだったなあ。
「あーちゃん先生とかいいわよね、私すごくタイプなの」
「レズな上にロリコンかぁ、救いようがないね」
「どう見ても子供なのに、特例で教師なんですって」
「あーちゃん小学校すら行ってないんだよなあ……中世ファンタジー世界の住人の学校の心配してどうするんだって話だけど」
その後もあーちゃんについて語るラボちゃん。年齢は設定されていないが、まだ小学校にも入ってないくらいの歳だと推測される。特に裏設定もないタラコクエストに出てくる街の少女であり、話しかけたからってラスボスがパワーアップしたりはしない。両親という存在が設定されておらず、話しかけてきた勇者についていくという思考ルーチンしかなかったが、街の外に出た際に自我が芽生え、子供特有の探求心から現実世界にまでついてきてしまった……らしい。ゲームのキャラは感情に似た人工知能を用いながらゲームの世界でプレイヤーと関わりながら何度も同じような事を繰り返す、ネットゲームのストーリー上に出てくるNPCのようなものだそうだが、何度話しかけても『ここは〇〇の街です』としか言えないゲームのキャラは悲しくならないのだろうか。ゲームの世界のキャラの価値観なんて俺には理解できないけれど。
「こら! じゅぎょうちゅうになにをはなしているんですか!?」
「あ、あーちゃん先生!? 違うのよ、今は休憩時間だと思ってたのよ」
「ラボちゃん、先生には敬語使わないと」
実は授業中に窓の外を眺めながら喋っていたらしい俺達はあーちゃん先生にこっぴどく怒られてしまう。恋愛の概念すら理解していないあーちゃんに理想のシナリオなんて作れるはずもないので黄龍がシナリオを考えたらしいが、絶対ロクなことにならないだろうなとあーちゃんに同情しながら我が家に帰る。すぐに夕食のイベントが始まり、やはり唐突に妹が口を開いた。
「唐突ですが、兄者には実は親戚の子がいましてな」
「むしろ親戚の子がいない人の方が珍しいよ」
「その親戚を、今日から家で預かることになったのです」
「……」
「といっても、兄者のよく知る人なのですがな。ささ、入ってきてくだされ」
「こんばんわ! ああああと言います!」
元気よくリビングの扉を開けてあーちゃんがやってくる。それにしても酷い名前だ、誰が命名したのだろう。ごめんよ。
「ついでに両親が仕事で海外に行くのですが、私もそれについていきますので、兄者とあーちゃん先生の二人きりということになりますな。まあ兄者に限って手を出すようなことは有り得ないと思いますが」
「……酷いシナリオだ」
一体どこの世界に、親戚の子を預かってすぐにいなくなる家族がいるというのか。ああ、少女漫画の世界ではその上赤ちゃんまで増えたなあ。ともあれ、こうしてあーちゃんとのドキドキ☆同棲生活が始まったのである。
「すー……すー……」
「……え、これまずくないですか。黄龍さん? ちょっと出ておいで」
そして2日目の朝。あーちゃんが俺にしがみついて寝ているという展開からスタートした。慌てて飛び起きてシナリオライターである黄龍を呼び出す。
「どうしたの?」
「お前の倫理観どうなってんの? 何で俺達いきなり二人で寝てるの?」
「? その子まだ小さいんだから、兄くらいの歳の人と一緒に寝たり、お風呂に入ったりするのは普通でしょ?」
「……あー、うん、そうだな。うん、何もおかしくないよ」
顔を赤くしながら問い詰める俺であったが、黄龍は何故そんなことで疑問を抱くのか心底わからないといった表情を寄越す。『こんな小さな子に欲情するなんてまず有り得ない』だろうと、嫉妬することもなく一緒に寝るとかお風呂に入るといった本来ならば恋人になった後にするようなイベントをいきなり入れる黄龍と、『恋人持ちとはいえ幼女にも欲情してしまうかもしれない』という男の性を持っている俺。この食い違いが産んだ悲劇だった。
「おにいちゃん、おふろいれて!」
「あー、うん」
そして当たり前のようにその日の夜にお風呂イベントが……あると思ったけどモノローグだけでカット。設定上は一緒に寝るし一緒にお風呂に入っているのに、実際には目が覚めた状態からイベントがスタートして、お風呂シーンはカット。何とももどかしいが、正直助かった。直接的なイベントが無ければ、俺がロリコンなのかどうかもわからない。箱の開けて中身を確認しなければ、ずっと俺はロリコンであることを否定することができるのだ。
その後も俺とあーちゃんのほのぼのとした生活が続く。恋愛的なイベントは皆無だが、こういう癒されるイベントも必要だろう。
「大変よ、さっき職員室の前を通りがかったら、あーちゃん先生が学校をやめさせられるかもしれないって!」
「な、何だって!?」
そんな感じで20日くらいは可愛い妹のような存在との二人暮らしを満喫していたのだが、23日目の朝のイベントで、ラボちゃんが慌てた様子で俺の方に向かってきてそんな事を告げる。
「何でも、生徒と同棲していたらしいわ。それが本当なら大問題だよね」
「それが本当ならクビの可能性は高いし、その生徒も退学かもね」
「え、そんな昼ドラみたいな展開やめてよ。最後までほのぼの展開でよかったじゃん」
心配そうな顔をするラボちゃんと、会話に混ざる今回のシナリオでは幼馴染でなくなった黄龍。20代の女教師ならともかく一桁の幼女が親戚の高校生と二人暮らしすることの何が問題なのかはわからないしそもそも一桁の幼女が教師やってることの方が問題だと思うのだが、泣き顔で教室に入ってきたあーちゃんは1時間目が自習であることを告げるとすぐに教室から去って行った。大方これから職員会議でつるし上げられるのだろう。結局この日あーちゃんは学校で姿を見せることなく、俺が帰宅すると寂しそうな顔で俺のベッドで泣いていた。
「どうしよう、わたし、おうちにかえらないといけなくなっちゃった。でも、おにいちゃんにめいわくかけられないからしょうがないよね。でも、かえりたくないよお」
「そもそもあーちゃんはどうして家に来たの? 帰れない理由があるの?」
布団を濡らしながらそんな事を言うあーちゃん。ご都合主義とはいえ親戚の子を預かるのだからそれなりの理由があるのだろうと家に帰りたくない理由を尋ねると、あーちゃんは悲しそうな顔をしながら、
「……がっこうまでちかいから」
「……」
あまりにも酷い理由を告げる。もう少し頭をひねってまともな理由を考えろよとシナリオライターに突っ込みを入れながらそれは帰るべきだよとあーちゃんを諭すと、いつかの黄龍のようにじたばたし始めた。
「やだ! おうちかえりたくない! おにいちゃんといっしょにいたい! ……そうだ、わたしがせんせいやめればいいんだ!」
「そんな、先生辞めるなんて……いや、別に問題な……駄目だよ、俺まだあーちゃん先生の授業聞きたいもん」
生徒と同棲したいがために先生辞める教師が現実にいたらそりゃあ問題かもしれないが、あーちゃんが教師をやめたところで幼稚園児か小学生に戻るだけだ。何の問題もないね、教師やめて俺と一緒に暮らそうと言いたいところだが、なんだかすごくロリコンっぽくて嫌だし、きっとあーちゃんが小学校で教師をしているのには並々ならぬ理由があるに違いない(例えシナリオライターが考えてないとしても)と辞めさせない方向で会話を試みる。
「わたしはきょうしであるまえにひとりのおんなだもん! せんせいなんてやめて、おにいちゃんとけっこんするの!」
「ごめんよ、あーちゃんはまだ子供だから結婚はできないんだ。せめて後10年待っててくれないかな」
「……10年経ったらお嫁さんにしてくれる?」
「うん、するする」
どうせ10年後なんて描かれないしと適当な約束をする俺。漫画だったら子供の頃の約束を果たすために本当に数年後にヒロインが押しかけてきたりするが、現実でそういうことはあるのだろうか。
「えへへ、やくそくだよ。それじゃあ……ちゅっ」
「わお」
それを聞いたあーちゃんはにっこりと笑って俺にだきつくと、不意打ちのキスをしてくる。こうしてあーちゃんは家に帰って教師を続けることに。10年も経てばあーちゃんにも他に好きな子ができるだろうけど、唇の温もりをたまに思い出しながら俺は先生の授業を聞くのだった。めでたしめでたし。
「……このクソガキが! キスなんて台本になかったでしょ、どういうつもり!?」
「おい、暴れるな黄龍。大人げないぞ、相手は子供じゃないか」
「えへへー、やくそくしたもんねー、しょうらいおよめさんになるもんねー」
「アンタもアンタよ、何にやけてるの? ロリコンだったの? 信じられない!」
無事にあーちゃんシナリオもエンディングも迎えたのだが、やっぱり嫉妬していたらしく黄龍があーちゃんに殺気を出し始める。あーちゃんも挑発するような事を言い出して一触即発。モテる男は辛いね。




