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ラスボス・クエスト  作者: 中高下零郎
Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ!
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Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ! 四股

「私達もそろそろ、恋人作りたいわね」

「そうだな、可愛い彼女作りたいな……」


 17回目となる一日目の朝のヒロイン登場イベント。ラボちゃんがヒロインの話をして、本人が出てきて、俺と接点ができたり、俺が興味を持たれたりする都合のいいイベントだ。


「網野さんとかどう? 幼馴染だし、いつもあなたにつっかかってくるし、脈アリなんじゃないの? 部活も一緒でしょ?」

「あれは無理矢理入れられただけだよ。俺は格闘技なんて興味ないのに、連行しては格闘技について熱く語られたり、技の実験台にされるんだぜ」

「でも、なんだかんだ言ってまんざらでもないのでしょう? あなたマゾなのね」

「……」


 親友ポジションが板についてきたラボちゃん。ちなみに俺は黄龍のシナリオについて全く聞かされず、台本も漠然としか頭に浮かんでこないので適当にアドリブをかますしかない。


「ちょっと、今アタシの話しなかった?」


 例によって黄龍が俺達の会話に入り込んでくる。別のクラスだろうが後輩だろうが先輩だろうがこのイベントでは何らかの理由で俺達のクラスにやってきて俺達の会話に割り込んでくる。脅威の吸引力というやつだろうか。


「あ、網野さん? 違うのよ、必須アミノ酸の話をしてたのよ。体に気を付けないといけない年頃ですもの。そうよね、呉人?」

「ああ、昔やってたCMの話とかしてただけだよ。誰もお前なんかに興味はないってえの」

「ふうん、ならいいけど。アンタね、あの事は絶対に喋るんじゃないわよ」


 あの事と言われましても、お前の設定について知らされてないのだから喋りようがない。朝のイベントを終えた後、昼のイベントで黄龍が運動部の助っ人として活躍しているという設定を知る。これじゃ恋愛シミュレーションゲームというより推理アドベンチャーゲームだ。ルール通り一日に3回同じヒロインを選択せず、放課後になるとすぐに帰るコマンドを選択したのだが、


「あ、呉人。一緒に帰りましょ」

「ああ? 何でお前と」

「何よ、家が隣なんだから別にいいでしょ」


 ヒロインの方から接触してきた。昼のイベントも黄龍の方から寄ってきて話が進んだし、完全にストーカーじゃないかと呆れながら下校デートを消化していると、突然黄龍がため息をつく。


「はぁ……それにしても、アタシの親もアンタの親もどうかしてるわよね、何で今時許嫁なのかしら」

「!?」

「クラスの皆にばれたらとんでもないことになるから、絶対に喋るんじゃないわよ?」

「わ、わかってるよ。むしろお前の方が心配なんだが」


 俺としては許嫁設定にするお前の脳内の方がどうかしていると思うのだが、黄龍の望みとあればその設定を貫き通すしかない。ひとまず設定をおさらいすることにしよう。運動神経抜群で色んな部活の助っ人をしながらも、格闘技全般が好きなため決まった部活に入らず格闘技同好会を立ち上げ、人がいないので俺を無理矢理部員にしているこの迷惑なヒロインは、俺の家の隣に住む幼馴染であり、どう見ても一般家庭としか思えないのにお互いかなりの名家らしく許嫁の関係になっているとのことで。


「それじゃ、明日も部活はあるからね、サボるんじゃないわよ」

「サボろうとしても無理矢理連行するだろうが。じゃあな」


 どうして少女漫画は前世だとか運命だとか許嫁だとか、そういう外的な力を好むのだろうか。俺には理解のできない世界だと男女のギャップを感じながら家に帰る。そして家族全員で夕飯を食べている途中、妹がとんでもない事を言い始める。


「唐突ですが兄者、明日から両親が仕事でしばらく海外に行くので、私はそれについていこうと思うのです」

「いくらなんでも唐突すぎる。前日まで何も知らされないとか、俺家族に嫌われてるの?」

「大丈夫です兄者、許嫁の網野さんに兄者の世話を頼んでおきました故」

「折角ゲームの世界なんだからもう少し現実と変えようって気はなかったのか……?」


 そんなわけで初日から妹と、声だけの出演で姿を見せない両親は消え去ってしまった。ウザいウザいと貶していた妹だけど、いなくなると逆に寂しく感じてしまう、人間とは不思議なものだ。そんなわけで一日目終了。二日目のイベントは部屋のベッドから始まった。


「起きなさい」


 気が付けば俺はベッドで寝ていて、気が付けば黄龍が馬乗りになっていた。よくあるよくある。


「……うおっ、何でお前がここにいるんだよ」

「聞いてなかったの? 生活力皆無のアンタのために、アタシが来てやったのよ」

「鍵かけてただろ、家にも部屋にも」

「そんなもの拳で壊したわよ」

「その設定は駄目だろ」


 さっさと着替えなさい、アタシは下で待ってるからと部屋を出ていくテンプレ設定の塊となった幼馴染を眺めながら、愉快な一ヶ月になりそうだと乾いた笑いを漏らすのだった。

 ここからはダイジェストで送ることにする。



「つうか、同好会俺とお前の二人しかいないじゃねえか。メンバー探しなら俺も協力するからよ、ちゃんとした部活になったら俺を開放してくれよ」

「え? え、えーと、別にいいわよそんなの。技の実験台になってくれるアンタがいれば」

「俺はよくねえよ」


 5日目。同好会のメンバーを二人から増やしたくないと言いだす黄龍。変な女だよなとラボちゃんに相談すると、鼻で笑われる。



「起きなさ……な、なかなかいい身体してるじゃない。でももう少し腹筋を鍛えなきゃ駄目よ」

「いや、出てけよ」


 8日目。いつもより早く起きた俺が着替えていると、黄龍が乱入。悲鳴をあげることなく、顔を赤らめながらまじまじと俺の身体を見てくる。その日の放課後、腹筋を300回程させられた。



「……何であなた達、お弁当一緒なの? ひょっとして、網野さんが呉人のために作ったの?」

「!? ち、違うわよ! お母さんが作ったのよ、今こいつの家族仕事でいないから。許嫁だからってお弁当作るとかあるわけないでしょ」

「……へ? 網野さん、今何て?」

「あの馬鹿……」


 14日目。俺と黄龍のお弁当が一緒であることに疑問を抱いたラボちゃん。実際に作ったのは黄龍のお母さんなのでそれ自体は問題ないのだが、黄龍が自爆してしまい、許嫁であることをクラス中に知られてしまう。




「ねえねえ網野さん、もう雨宮君とはエッチしたの?」

「は、はぁ? 何言ってるの」

「許嫁なんでしょ? しかも雨宮君家に一人なんでしょ? 私だったら毎日やっちゃうなあ」

「親が勝手に決めただけなのにするわけないでしょそんなこと! アタシアイツの何とも思ってないし!」

「えー、そうは見えないけどなあ」


 16日目。クラスの遊んでる女子に茶化されて赤面する黄龍。多分この辺りで自分の気持ちを意識し始めたとかそんな感じだと思う。




「よう黄龍」

「……」

「何だよ、無視しやがって。ま、鬱陶しかったしいいか」


 19日目。意識し始めて俺から距離を取るようになる黄龍。やっと開放されると喜んでいた俺だったが、既に俺の心も彼女に囚われてしまった、という設定。




「……雨だなあ」


 20日目。大雨で学校は休み。何故か黄龍が部屋の扉を開けてやってくるのを期待する俺がいた。




「……あ」

「よっ」


 22日目。日曜日ということで学校は休み。お腹が空いたので夜中にコンビニに向かったのだが、そこでランニングをしていた黄龍と遭遇する。


「そ、その、汗臭くない?」

「お前そんなこと気にするような女だったか?」

「……うう」


 流れでそのまま公園のブランコに座って会話をする。許嫁にされたことについてどう思ってるのかとか、将来自分達はどうなるのかとか、そんな会話をした。




「アンタと許嫁ってことがばれてから、全然告白されなくなったのよね。アタシの事をお姉様と慕っていた後輩も、酷いですって言いながら去って行ったし」

「は? は、はぁ……」

「いい迷惑だわ。アタシだっていい人いたら付き合おうと思ってたのに。だから……なんでもない」


 25日目。再び朝起こしにきたりと関係が戻ったはいいが、ここにきていきなりヒロインに男女共にモテモテ設定が追加される。乙女ゲームのやたらと男性に言い寄られるモテカワ主人公嫌いじゃないけど好きじゃないよ。きっと責任とって付き合えと言いたかったけど、恥ずかしくて言えないよ的な感じだろう。




「部室を使いたいと言っている部は他にもあるんだ、5人どころか2人しかいないんだったら廃部だ、部室も立ち退いてもらう」

「そんな……」


 26日目、何故今まで放置されていたのか不思議なくらいだが、部室を立ち退けと言われてしまう。思い出の場所を守るために部員集めをしようとする俺達。



「なあ、格闘技同好会入ってくれよ、格闘技好きだろ?」

「えー、確かにプロレス好きだけど、網野さんがちょっとね……」

「俺も俺も。あの女ウザくてむかつくんだよな。ああ悪い悪い、許嫁の前でこんな事言っちまった。しっかりお前も災難だよな、アレな女に絡まれて」

「……黄龍は別にアレな女じゃねえよ」


 27日目。おかしいね、モテモテ設定だったはずなのに、いざ部員を集めようとすると、びっくりするくらい嫌われてるよこの子。少女漫画にありがちな、王子様だけが自分の味方的な演出をしたかったんだろうね、でも詰め込みすぎじゃないかなあ。




「えへへ、アタシ、独りよがりだったんだね。愛されてるって勘違いして、馬鹿な女ね」

「そんなことねえよ、お前は愛されてるよ。お、俺に」

「な、なななっ!?」


 29日目。部員を集めることができず、潰れてしまった同好会。何故か家に帰ると黄龍が俺の部屋で黄昏ていて、これまた少女漫画特有の否定して欲しくて自分を貶す流れ。からのサプライズ告白コンボ。


「俺は、お前と許嫁でも、別に構わないっていうか、まあ、お前がどう思ってるのかは知らないけど」

「こ、こんな時に告白なんて、タイミング考えなさいよ……し、仕方ないわね。アンタがそんなにアタシに惚れてるっていうなら、恋人になってあげるわ」


 さっきまで馬鹿な女ねとか言ってたと思ったらすぐに偉そうになるから困る。





「おはよう。あら、二人とも幸せそうね。もしかして?」

「まあ、その、正式に付き合うことに」

「やっと付き合ったのかよ、めでてぇなぁ!」

「おめでとう網野さん、やっと自分の気持ちに素直になれたのにね」


 最終日。やたらと察しのいいラボちゃんに黄龍と付き合ったことを伝えると、クラスメイトがアホみたいなテンションで祝福してくれる。おかしいね、黄龍かなり嫌われてたのにね。



「さて、部室に行きましょ」

「何言ってんだ黄龍、部室は取り上げられただろうが」

「アンタこそ何言ってんのよ、うってつけの部室があるじゃない」

「……ああ、なるほどね」


 その日の放課後、出来立てほやほやカップルの俺達は、俺の部屋という名の部室に向かうのだった。

 めでたしめでたし。




「……これで満足したか?」

「こんな恋愛してみたいって思ってたけど、実際経験すると、すごく微妙ね!」

「このアマ……」


 駄々をこねる彼女のために茶番に付き合ってやったというのに、男というのは報われないものである。

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