Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ! 三股
「待ってくれ、エリー!」
「うるさい! 私を捨てておいて、死のうとしたら引き留めるなんて、そんな偽善いらないわ!」
土砂降りの屋上で、俺と七海エリー(本校始まって以来の秀才であるが人付き合いが苦手で捻くれている水泳部のヒロイン)は雨に負けないよう大声で叫びあっていた。
「違う! いいから俺の話を聞け!」
「離してよ! 私にはもう貴方しかいないのよ、皆そうだった、私に愛想を尽かして、もっとマシな人がいるからって言い訳をして、私を捨てて行った! 貴方は違うって信じていたのに! んぐっ……!?」
柵をよじ登って飛び降りようとするエリーの腕をぎゅっと掴む。抵抗しながら雨なのか涙なのかわからない程顔を濡らし喚くエリー。俺は脱臼させそうな勢いで彼女を引き寄せると、その唇を無理矢理奪って黙らせた。
「ぷはっ……だから誤解なんだ、俺はお前を捨てるつもりで、あんな台詞を言ったんじゃないんだよ!」
「だって、『今までの、恋人もどきな関係は終わりにしよう』って」
「だから! もどきじゃない! ちゃんとした恋人として、俺の側にいて欲しいんだよ!」
真正面から彼女をみつめ、きちんと告白してやる。恋人が欲しかった俺と、まともな恋愛ができず、何人もの男に捨てられてきた彼女。俺は恋人がいるというステータス、彼女は便利な練習相手。利害の一致から不純な恋人ごっこをしていた俺達ではあったが、気づけばお互いに惹かれあっていたのだ。遠まわしな言い方をした俺にも非はあるが、まさか彼女がこんな行動に出るとは思わなかった。けれど、こうして自分の気持ちを伝えることができたのだから、結果オーライといううやつだろう。
「……! あ、あはは、何でだろ、誤解が解けたのに、涙が止まらないわ……」
気づけば空は嘘のように晴れていて、けれど涙が止まらずに顔をぐしゃぐしゃにするエリー。そんなエリーの顔も食べちゃいたいくらい可愛くて、気づけば俺はがっしりと彼女を抱きしめて再び唇を奪っていた。
「……カーット! 完璧ですぞ、超グッドエンドですぞ!」
「なかなか演技派じゃない、見直したわ」
「おつかれ!」
瞬間、周囲にラボちゃん達が現れて惜しみない拍手を俺に寄越す。今まで攻略してきた、エリー以外の4人のヒロインも一緒に俺を祝福してくれている。これはこれでちょっと怖い。
「ふふ、どうだった? ちゃんと私と恋愛した感想は」
「えーと、うん。ゲームやってた時は地雷ヒロインだなって思ってたけど、実際こうやって真剣に向き合ってみると、かなり魅力的だったよ」
「ふふ、もう一回キスする?」
妖艶な笑みを浮かべるエリー。5人の正ヒロインときちんと恋愛をするという任務は、これにて完了したのだ。恋愛をするというよりは、恋愛の劇をやるという感じで茶番だったけど。ヒロインごとにある程度用意されたシナリオを通り、帝ちゃんのオッケーが出なかったら彼女ができず、バッドエンドでもう1周、オッケーが出たら個別シナリオに入りグッドエンドへ。黄龍は妨害ばかりしてくるし、帝ちゃんの判定が厳しいこともあり、5人のヒロインを攻略するのに16周もしてしまった。
「いやー、帝ちゃんに選択肢すら封じられてほとんどアドリブだったけど、何とかなるもんだね。あ、勿論エリーだけでなくて、綾乃さん達も魅力的だったよ、うん。ナマガキは最高だね、名作だね。出てくる女の子皆可愛いんだから、妹は除くけど」
「除外された!?」
本当に帝ちゃんウザかった。元々容姿目当てだったし、ゲームをプレイしている最中は彼女の性格も許容できたが、こうやって実際に? 交流すると本当にウザい性格をしている。
「暑苦しいし暴力振るうし、大体何なんだよその口調」
「うう……兄者のために尽力した結果自分の株を下げるとは、悲しい自己犠牲ですな。ともあれ、これで兄者の任務は完了です。ヒロイン達も兄者が恋愛のために奮闘する姿に大満足、本気で惚れておりますぞ。現実世界に戻り、もう一度このゲームをプレーした後、レビューサイトに感想を書いてくだされ」
「わかったよ、隠しヒロインの妹がウザい以外は完璧って書いておくよ」
「ははは、そんな事を言うと追加で私も攻略させますぞ」
皆でゲラゲラと大笑い。こうして俺は元の世界に戻り、ナマガキをもう一度プレイした後アニメも見て、作品を堪能しましたとさ、めでたしめでたし。
「……ああああああああっ!」
とは問屋が卸さない。皆が笑う中、一人俯いてぶつぶつと呟いていた黄龍。怖いので無視していたが、とうとうキレてしまったらしくて俺の胸倉を掴んで持ち上げる。
「ど、どうしたよ黄龍」
「どうしたもこうしたもないわよ! アンタはアタシにべた惚れなのに、他の女とイチャイチャして、ふざけないでよ! ねえ、おかしいわよね? どうして恋人になるまでの過程であんなにキスとかデートとかしてるの? 何で恋人がいるのに平然とアンタはそういうことができるの? 初めは乗り気じゃなかったのに、段々と本気になってたのはどういうこと? ねえ? ねえ?」
独占欲の強い黄龍でなくても、ギャルゲーの世界で恋人がヒロインを攻略していく様を見て不快にならない女なんていないだろうとは思っていたけど、ここまでぶちギレ仁王しちゃうとは思わなかった。
「なーにが、『エリーだけでなくて、綾乃さん達も魅力的だったよ』よ! ふざけんじゃないわよ、アンタはアタシだけ見てればいいの! 今すぐ訂正しなさい! さっきまでのは全部演技で、他の女を魅力的だと思ったことはありませんって!」
「まあまあ、落ち着けよ。キスがしたかったのか? デートがしたかったのか? 抱きしめて欲しかったのか? よしよし、帰ったらたっぷりしてやるから」
「変態!」
5人の美少女を攻略した今の俺なら、やきもち状態の黄龍を手なずけることなんて朝飯前だ。イケメンボイスで愛をささやきながら黄龍の肩に手を置こうとするが、パシっとそれを左手で払われ、更に右手で鳩尾を思いきり殴られてしまう。大型カッターナイフで刺されるよりは痛くないだろうけど、腹を突き破るんじゃないかってくらいの衝撃だ。精神世界だから心の強さがうんぬんかんぬんというやつかもしれない。
「アタシはこいつらとは違う! 自分を大事にしてるんだから、安易にキスとかするわけないでしょ!」
自分から関節技してきたりスキンシップ過多な癖に、自分がされるのは駄目という謎思考だから困る。自分を大事にするのもいいけど、彼氏も大事にして欲しいですね。暴力に耐性ができたのか何とか失神寸前で堪えていると、幼児退行でもしたのか黄龍が屋上の床に寝転んでじたばたしだす。
「やだやだやだ! アタシだってゲームみたいな恋愛したい! 攻略されたい!」
「格闘ゲームの世界で戦いながら告白とか、ゲームみたいな恋愛だと思うけどなあ……」
「成り行きで付き合った感が物凄いあって不満だったの!」
「さいですか」
ウザい帝ちゃんとは違って黄龍のそれはウザ可愛いと俺は思っているが、どうしたもんだかとじたばたしたりぴょんぴょん跳ねたり、龍から進化前の鯉になってしまった恋人を眺めていると、
「名案を思い付きましたぞ、兄者が恋人さんをヒロインとして攻略すればよいのです」
帝ちゃんがドヤ顔でそんな事を言い出す。
「はぁ?」
「幸いここはゲームの世界ですし、銀髪のお姉さんと私の力を使えば、ある程度設定を弄ることは可能です。恋人さんをメインヒロインとして、私達モブキャラに盛り上げられながら攻略していくのです。勿論、恋人さんの望むシナリオに合わせることも可能ですぞ、ふふん」
「つまりもう1周してこいつを攻略しろと」
「もう3周よ」
結構疲れたし、程よい充実感もあるから帰りたかったのにまたやるのかとげんなりしているが、ラボちゃんが会話に割り込んで意味深な発言をしだす。
「は? 3周?」
「わたしも、おにいちゃんにこーりゃくされたい!」
「あなたのために男の役を頑張って演じてあげたというのに、見返りがないもの。私達にも、攻略される悦びを知る資格はあるはずよねえ?」
確かにラボちゃんは親友ポジションとして頑張っていたし、あーちゃんも知らない単語でも頑張って発音してくれた。そんな二人が望むなら俺は構わないが、
「……というわけらしいけど。黄龍、それでいいか?」
レヴィアタンがそれを許すかどうか。仰向けでわるあがきっぽいことをしている黄龍にため息をつきながら手を伸ばすと、
「うう、わかったわよ、それで妥協するわよ」
不満そうに頬を膨らまし、その手をがっしりと掴んで起き上がる。
「ふふ、それでは兄者、追加ヒロイン4人の攻略頑張ってくだされ」
「ああ、3人の攻略頑張るよ」
「流石にそろそろ泣きますぞ?」
こうして俺のジゴロ伝説は、新たなるステージへ突入するのだった。
大型カッターナイフで刺される……ガンパレードマーチ。ハ、ハラサン……




