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ラスボス・クエスト  作者: 中高下零郎
Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ!
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Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ! 二股

「……? 場所変わってないじゃない」

「あれ、おかしいわね」


 恋愛シミュレーション、ナマガキの世界にやってきたはずの俺達ではあるが、どう見てもここは俺の部屋。見慣れた布団もあるし、机もある。とうとうナビゲーターとしての仕事も果たせなくなったのかと困惑しているラボちゃんを憐れんだ目で見ていると、部屋をきょろきょろしていた黄龍が驚きの声をあげる。


「こ、これ!」

「カレンダー? ……2031年だって!?」


 黄龍が指差す先には、何の変哲もないカレンダー。しかしその年月は、2031年。さっきまで2014年だったはずなのに、17年後!? 俺達はタイムスリップしてしまったというのか、それとも実は俺達は最初から2031年の世界にいたのか……


「兄者、そろそろ学校に行きますぞ」


 混乱している俺達に追い打ちをかけるように、扉が開いて髪の黒い、竹刀を持った黄龍によく似た少女がやってくる。


「だ、誰よこの女、アタシに似てるけど、ひょっとして17年後のアタシの子供!? 同い年に見えるけど、17年後に高校生の子供がいるって、アタシの将来やばくない!?」

「いや、違う。ようやく理解できた。ここは紛れもなくゲームの世界だ。この子は主人公の妹で隠しヒロインのみかどちゃんだ」


 帝ちゃんを見てようやくここがゲームの世界だと気づく。ナマガキの世界は確かに2031年が舞台だったし、よく見ればこの部屋にはゲームが置いていない。舞台が一緒ということで、ゲームの主人公の部屋と俺の部屋を少しリンクさせたに過ぎないのだろう。俺も黄龍も制服を着ているが、よく見ればいつもの制服とデザインが違う。ゲーム中に登場する高校の制服だ。


「よく見たら私達も制服になっているわね。私達も学園生活を送れということかしら」

「それについては、私に説明させてくだされ」


 いつもの黒いワンピースではなく制服姿のラボちゃんと、これまたいつもの昔のゲーム特有の適当な子供服ではなく、SSサイズの制服に身を包んだあーちゃん。帝ちゃんは持っている竹刀を俺に突きつけると、この世界の説明を始めだす。


「兄者には、このゲームの正ヒロイン5人と、きちんと恋愛していただきたいのですじゃ」

「きちんと恋愛って、君も含めてこのゲームのヒロイン6人、全員攻略したはずだけど」

「ふうん、6人も。ふうん……」


 俺でも感知できるくらいの殺気を後ろで黄龍が放ち始める。前にいる帝ちゃんもあまり俺に良い感情を持っていないのか今にも竹刀で俺を叩いてきそうだし、まるで双子と二股かけていたのがばれたシチュエーションだ。


「否! 兄者のそれは、恋愛とは言えませぬ! そもそも兄者は、私を攻略するためにこのゲームを買った、間違いありませんな?」

「……うん」

「え、何、アンタこの子のためにこのゲーム買ったの? アタシに似たこの子を攻略したくて? あっ、ふーん。ふーん、そういうこと、うふふふふ」


 知られたくない事実を暴露されて顔を赤らめる俺と、一転してニヤニヤしだす黄龍。そう、俺がこのゲームを買ったのは帝ちゃんを攻略したいがため。思えばあの時からすでに黄龍を意識していたのだろう、青春だ。


「現実の女性に似ているという理由とはいえ、兄者の愛は確かに頂きましたぞ。しかし! 他のヒロインは、兄者に満足行く愛を頂いたとは言えませぬ! 私を攻略するためには正ヒロイン5人を全員攻略する必要があるということで、惰性でプレイしたに過ぎない!」

「あー、確かにそんな感じにプレイしてたかもなあ。メッセージ早送りして、最短ルートで攻略して、イベントもほとんど無視して……いつもは使わない攻略サイトも使ったんだよ、どうでもよかったから」

「別に自分を好いてもない男に攻略される女の気持ち、兄者にわかりますか!?」

「別に好きでもない女を攻略しないといけない男の気持ちもわかってよ」

「言い訳とは見苦しいですぞ!」


 弁解虚しく、竹刀で俺の頭を思いきり叩いてくる帝ちゃん。暴力的なところまで黄龍に似なくてもいいのに。


「この世界ならメッセージの早送りなんてできませぬし、攻略チャートだって見ることもできませぬ! 存分に一人の男として、ヒロイン達を落としましょうぞ!」

「さいですか」


 今回はラボちゃんではなく帝ちゃんがナビゲーターの役割を果たすらしい。どんどんラボちゃんの地位が危うくなるなと同情していると、一瞬で場面が学校に切り替わる。


「さあ、ゲーム開始、一日目の朝ですぞ。ヒロイン達と衝撃的な出会いをして、青春してくだされ」

「ところでアタシ達は何をすればいいの? 見てるだけ? 恋人が他の女を口説くのを見てろっての?」

「お姉さん方は、モブキャラとして彼の青春を盛り上げてくだされ! 台本とかは頭の中に浮かんでくるはずですので、心配はいりませぬ!」

「これが本当のロールプレイングゲームね」


 そんなわけで俺のジゴロ伝説がスタート。まずはメインヒロインである、クラスメイトで図書委員の綾乃さんを攻略しようと脳内場所選択画面で自分のクラスを選ぶ。するとすぐに場面が切り替わり、窓の外を眺めながら俺がラボちゃんと会話しているというシチュエーションになった。


「私達もそろそろ、恋人作りたいわね」

「そうだな、可愛い彼女作りたいな……ていうかラボちゃん、親友ポジションなの?」


 本来ならここは主人公の男友達との会話だったはずだが、ラボちゃんがその役を請け負っているらしい。


「綾乃さんとかいいわよね、あんな可愛い女の子と付き合いたいわ」

「ラボちゃんそういう趣味があったんだね」


 そのまま綾乃さんの長所を述べ始めるちょっと気持ち悪いラボちゃん。ふーんと聞き流していると、


「あの、私の事呼びましたか?」


 後ろから綾乃さん本人に声をかけられる。茶髪ロングストレートで人形のように整った顔立ちをしていると説明書には書いてあった気がする。メインヒロインでスタイルはいいのだが、どうにも地味で口数も少なく、あまりこの手のタイプは好きではない。


「あ、綾乃さん!? ち、違うのよ、言葉の『あや』の話をしてたのよ」

「そうだったんだ。ごめんね、自意識過剰だったわよね」

「いえいえ、とんでもない。ね、呉人もそう思うわよね?」

「ああ、そうだな」

「あ、そうだ。雨宮君、二学期の図書委員よろしくね」


 俺に微笑むと、クラスの煌びやかな女子グループの中に入っていく綾乃さん。そんな綾乃さんを見ながらラボちゃんがうっとりとした顔つきになる。


「はぁ~、綾乃さんに話しかけられるなんて、今日はついてるわ」

「ねえ、何でそんなにノリノリなの。気持ち悪いんだけど」

「それにしてもいいわよねえ、呉人は。図書委員で綾乃さんと一緒になるなんて」


 演技派なラボちゃんに若干引いていると、教室の扉が開いてあーちゃんが入ってくる。あーちゃんもクラスメイトか、随分と小さい高校生だなあと思っていたが、よく見ればあーちゃんは制服ですらなくスーツを着ていた。あの大きさのスーツがあることにびっくりだ。


「さあみんな、あさのほーむるーむをはじめますよ」

「あーちゃん先生役なの? キャスティングミスにも程があるよ!?」


 背が小さすぎて教卓で完全に隠れてるじゃないかと突っ込みを脳内で入れていると、同時に脳内場所選択画面が現れる。1日目の朝のイベントはこれで終わったので、次は昼休憩のイベントだ。綾乃さんの行動パターンは朝は教室でお喋り、昼休憩は屋上で読書、放課後は図書室。メインヒロインで攻略難易度が低いということもあり、ほとんど毎日これなのだ。そんなわけで屋上を選択。すぐに場面が屋上に切り替わり、ちょこんと隅に体育座りをして本を読んでいる綾乃さんを発見した。声をかけて話をし、好感度をあげようと彼女の元へ向かおうとするが、ぐいっと腕を何者かに引っ張られる。


「黄龍!?」

「ちょっとアンタ、これから格闘技同好会の定例会議が始まるんだから、さっさと行くわよ」

「やめろ、俺は今から綾乃さんと話をするんだ」

「しょうがないでしょ、アタシは妨害キャラなんだから。本当はこんなことしたくないの、でもアンタを甘やかしても駄目だから、心を鬼にして妨害するのよ」

「嘘つけ、原作に格闘技同好会のキャラは確かにいるが、そいつは妨害どころかお助けキャラだ! お前絶対自分の仕事無視してるだろ、ただの嫉妬だろ!」


 俺と女の子の仲を取り持ってくれる格闘技が趣味のイケメン男友達が、俺が女の子と仲良くするのを妨害する女になってしまった。黄龍の有り難いボクシングに関する話を聞きながら、放課後こそは綾乃さんと話をしようと脳内で図書室を選ぶが、突然笛の音が鳴る。


「ファール」

「は?」

「ファール」


 みるとそれは唐突に出現した帝ちゃんだった。ナビゲーターだけではなくアンパイアの仕事もしているらしく、笛を吹きながら俺に警告をし始める。


「駄目です、1日に3回とも同じヒロインとのイベントを起こすのは禁止ですぞ」

「何でだよ」

「ストーカーみたいで気持ち悪いじゃないですか、別にタイムアタックをしているわけではないのですから、1ヶ月丁度で攻略ができるくらいのペースで、まったりと恋愛を楽しむのです」

「2回目のイベントは黄龍に邪魔されたのに……わかったよ、諦めて帰るよ」


 すぐに場面が自室になり、帝ちゃん含めた5人がそろい踏み。ゲームでもイベント以外では帰宅する描写は無かったけれど、こうして体験すると忙しいことで。自宅の夜パートでは、ヒロインと会話するときの話題をデッキとして組んだり、ヒロインの好感度を確認することができる。結局朝の初期イベントしか見ることができなかったが一応好感度は確認しておこうと、好感度を教えてくれる帝ちゃんに聞いてはみたが、


「駄目です、好感度なんて数値化されたものはあてにせず、自分の勘で恋愛はするべきですぞ」


 首を振る妹。確かに全ヒロインの好感度を教えてくれるキャラは便利すぎると常々思っていたけれど、だからって仕事をしなくていいというわけではないのに。


「何でこの妹はこんなにスパルタなんだよ……わかったよ、もう寝ればいいんだろ」


 寝るといっても、ゲームの世界ではコマンドを選択すれば即翌日の朝。正直精神的に疲れたから休みたかったのに、1日がたったの数分で終わってしまった。


「休むなら1周してからにしてくだされ、恋愛とはノンストップで駆け抜けなければなりませぬ故」

「……」


 妹うぜえなと、昔本気で攻略したキャラを貶す代わりに、綾乃さんを本気で攻略しようと話題選びなど俺なりに努力する。そして1か月後……



「結局彼女できなかったわね」

「情けないわね」

「どんまい!」

「黄龍が邪魔しまくったせいだろ、イベントは妨害するし、悪評は振り撒くし」

「言い訳とは見苦しいですぞ、兄者の愛が足りなかったのです」

「そっかぁ……2周目、頑張るかぁ……」


 彼女ができず、屋上で皆と反省会をするのだった。

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