Lv5.惰性で恋愛なんてするんじゃねえ! 一途
「それにしても、雨宮君と網野さんは本当にお似合いのカップルだね。羨ましいよ」
「よせやいよせやい」
ある日の昼休憩、ゲーマー2人と一緒に昼食をとっていると、園田君がそんな事を言う。園田君は学年主席の秀才で、RPGやSLG等頭を使うゲームは勿論のこと、将棋やチェスのようなボードゲームが得意だそうだ。
「何でこいつに彼女ができて俺にできねーのかなー」
「ところでお前、名前何だっけ?」
「え、何、俺いじめ受けてんの?」
もう一人のクラスメイトが忌々しげな目で俺を見てくる。彼はチャラ男で、異性の友人は多いが恋愛対象としては見られないタイプの人間らしい。同じクラスになってすぐに意気投合、毎日のように彼と話しているが、名前がどうしても思い出せない。まあいいか。
「まあいいさ。俺にはマルティがいるからな」
「マルティって、too badだっけ?」
「おうとも、あれは俺のバイブルよ。今度出るリメイク版も当然限定版を予約特典つきで買う」
興奮した様子でカバンからゲーム雑誌を取り出し、今度発売される不朽の名作恋愛シミュレーション『too bad』のリメイク版の記事を見せてくる友人。
「ギャルゲーかあ、僕ギャルゲーやったことないんだよね」
「リメイク版って内容一緒だろ? よく買うつもりになるな」
「勿体ない! ギャルゲーをやったことがないなんて実に勿体ないぞ園田少年! 俺がオススメのソフトを何本か貸してやるから是非プレイして感想文を提出するんだ! そして雨宮! リメイク版と侮ってはいけない、too badは最初はPCゲーム、つまりはエロゲーとして発売された! そしてコンシューマ版に移植されるにあたり、アダルトな要素を全て撤廃し、純情青春劇として生まれ変わった! 更に! 更に更に! 今回のリメイク版ではPC版とコンシューマ版のいいとこ取りをしたシナリオ構成になっているとのこと! これは、これは買うしかない!」
教室には女子もいるというのに熱くギャルゲーについて語る友人。こりゃモテないわ。
◆ ◆ ◆
「ギャルゲーねえ、あんなのやって虚しくならないのかしら?」
放課後、ギャルゲーを数本貸してやるからと園田君を無理矢理連行していく友人を見送りながら、恋人と一緒に帰る俺。昼休憩の話を聞いていたのか、呆れたような顔でギャルゲーマーを否定し始める。
「いや、あれはあれでいいものなんだよ、実際に女の子と付き合う予行演習にもなるし……二次元の女の子って魅力的だし」
「ふーん、じゃあアタシもそういうゲームやって、アンタよりも魅力的な男の人と恋愛しようかしら。友達がそういうのに詳しいのよね、おじ様Lv99とかが面白いって聞いたわ」
「そのゲームはやめなさい」
嫉妬しているのか、挑発するような事を言い出す黄龍だが、それは乙女ゲーではなくBLゲー。俺は腐った女とは流石に付き合える自信がないから今のうちに釘を刺しておくことにする。
「アタシという強くて可愛い格闘乙女がいるんだからね、ギャルゲーなんてやるんじゃないわよ」
「わかってますって……」
昔から嫉妬深く、独占欲も強い女だったので恋人がそういうゲームをやるのは耐えられないのだろう。別れ際に自分を強くて可愛いと断言してまで釘を刺されてしまった。これもまた青春か、としみじみしながら我が家へ帰る。ラボちゃんとあーちゃんは両親の部屋ですやすやとお昼寝をしているようだ。実際には睡眠欲があるわけではなく、キャラを作った人間が、睡眠欲のある普通の人間をイメージしたから寝るとのことで。彼女達はロボットに近いのか、人間に近いのか、永遠の謎である。
「……アイツもよく家に来るようになったし、処分しないとまずいかなあ」
彼女達について考えるより先に、棚の中に隠してある大量のギャルゲーについて考えなければいけない。ギャルゲーについて熱く語る友人を冷ややかな目で見ていたが、多分プレイした本数でいえば俺の方が遥かに上だろう。アダルトではない健全なゲームばかりとはいえ、これを黄龍に見られるとまずい。大切なゲームを手放すのは心が痛むが、友人に貸すか、売るかした方がいいのだろうか。
「あら、帰ってたのね」
「おはようラボちゃん。ラボちゃんは夢って見るの?」
「愚問ね。ゲームの世界の住人が現実世界にいるなんて奇跡が起こってるもの、夢を見ても何らおかしくはないでしょ? ゲームに出てくるような単語を用いるならば、私達は虚数空間の存在に近い。無理が通れば道理が引っ込む、何でもアリよ」
「哲学的だね。でもちゃんとお風呂には入りなよ、人間の姿をした存在が風呂も入らず、洗濯もせずに居候しているのはどうにも我慢ならないよ」
「セクハラね、幽霊みたいなものと割り切りなさい」
大量のギャルゲーを前に悩んでいると、部屋のドアが開いてラボちゃんが入ってくる。恋人が出来てから心境の変化があったのか、服のレパートリーが1つしかないラボちゃんとあーちゃんも気になるようになってきた。ゲームのキャラならアバター変更くらいして欲しいものだ。
「それよりラボちゃん、恋人も出来たことだしこのギャルゲー達を売るか譲るかしようと思うんだけど、ラスボスの精霊的にはどう思う?」
「売るのは論外よ、発売から数年後に中古ゲームショップに10円くらいで売られて、100円くらいでワゴンに入れられるゲームの気持ちを考えなさい」
「仲間が灰の姿で戦うゲームとか悲惨だったなあ……でもゲームとしては、なるべく色んな人間にプレイして欲しいものじゃないの? でもそもそも中古ゲームショップに流通しても、ゲーム制作会社は潤わないんだよなあ。難しい問題だ」
ゲームにとっての幸せは一体何なのか。例え違法ダウンロードでも、たくさんの人間にプレイされることが幸せなのか。それともゲーム製作者の幸せが、ゲームにとっての幸せなのか。そんな事に頭を悩ませていると、ラボちゃんが1つのゲームを手に取る。
「次はこのゲームの世界に行きましょう」
「ナマガキかあ……」
『ナマガキ』。牡蠣で有名な広島のとある町にある高校を舞台に、1ヶ月で彼女を作る磯の香り漂う恋愛シミュレーションゲームだ。というか、舞台のモデルが自分の住んでいる町であり、自分の通っている高校だったりする。
「題材が題材だし、恋人さんには内緒にした方がいいかしらね」
「そうだな、やきもち状態のあいつに刺されてバッドエンド間違いなしだ」
「失礼ね」
「……何で平然といるの?」
今回は黄龍には内緒に行こうと考える俺達ではあったが、当然のように黄龍が俺の部屋にいて会話に混ざってくる。
「アタシを見くびって貰っては困るわ。アンタの行動なんてお見通しなのよ、アタシに釘を刺されたからギャルゲーとかエロ本とかそういうのを処分しようとして、それを部屋に出す。それをアタシが見る、そして変態の烙印を押してアタシに優位性が生れるのよ。だから帰るフリをしてついてきたってわけ」
「お前が馬鹿なのはわかった。そしてお前の方が変態っぽいぞ」
「嘘!?」
ストーカーへの第一歩を踏み出そうとしている恋人に頭を抱えつつ、仕方がないのだが最近出番があまりないあーちゃんを起こして、アイデンティティ不定のナビゲーターに誘われ、ナマガキの世界へレッツゴー。
too bad……To Heart。マルチ以外空気
おじ様Lv99……王子さまLv1。ランスシリーズの世界観を用いたBL系のRPG
仲間が灰の姿で戦うゲーム……アルカイック・シールドヒート。個人的には名作だと思っている
ナマガキ……アマガミ。キャラの魅力やシナリオはさておき、パネルを開いていくようなシステムは面白いと思った




