Lv3.愛も拳も受け止めろ! STAGE 3
「粋がってみたが……流石に心が折れそうだ」
初コンティニューからどれくらいの時間が経っただろうか。10戦目の忍者を倒した時には、既に俺の精神はボロボロになっていた。特にモヒカン男が辛かった。あいつだけで多分50回はコンティニューをした。途中からコンティニューする度に窓から100円を投げ捨てる気持ちで臨んではみたが大して効果は無し。プライドを捨てて最初にちょっとダメージを与えて全力で逃げて判定勝ちを狙う作戦を繰り返した結果、ようやく自分の持ちキャラを倒すことができたのだ。しかしその後も比較的高性能なAIを持つ敵が襲いかかる。モヒカンに勝った自分に敵は無しと思っていたが、現実は残酷にも一からパターンを覚え直し。
「まあ、でも、格闘ゲームって本来こういう遊び方だよな……」
何度もコンティニューして、相手の攻撃パターン等を見極めて次につなげる。CPU戦だろうと、対人戦だろうとそれは同じなのだろう。強キャラを使って飛び道具を連打するなんて、今までの俺は格闘ゲームをこれっぽっちも楽しんでいなかったわけだ。
「何だここ、気色悪い」
忍者の里を抜けた先には、そこら中に頭蓋骨が散らばる気持ち悪いステージ。こんなステージに覚えはないなと不審に思いながら敵を探すと、不意に前方に小さなブラックホールのようなものが現れ、そこから見知った顔が姿を表した。
「随分遅かったわねえ、天才ゲーマーさん?」
「ラボちゃん! よかった……」
あーちゃんは戦いに巻き込みたくなかったので置いてきたが、ラボちゃんはパートナーのようなものだし正直今後激しくなるであろう戦いに一人で臨むのは辛いので是非ともチームプレイで乗り越えたい。ホッとした表情でラボちゃんの方に近寄る俺だったが、
「さあ、楽しい死合を始めましょうか」
「……ラボちゃん?」
『ファイト!』
ラボちゃんは手にした大鎌を振りかざし、何のためらいも無く俺を狙ってくる。体が戦いに慣れていたのか自然とバックステップをしてそれをかわすが、まだ頭は混乱しているようで戦闘態勢をとることができない。
「ちょっとラボちゃん、何ふざけてるのさ。黄龍を助けないといけないんだからさ、さっさとここを通してよ。ていうか責任感じてるんだったら、ラボちゃんパワーで俺にテレパシーで連絡するとかしてよ」
「私を倒さないと、この先には進めないし、大切な人も救えないわよ?」
「そういう設定らしいね。でも別に戦う必要なんてないよ、現にタイムアップであーちゃんを怪我させることなく突破したしね。大体ラボちゃん、ある程度はこの世界の設定とかをいじれるんでしょ?」
「ええ、例えば……こんな感じにね!」
ニッコリと微笑むとラボちゃんは怪しげな呪文を唱え、鎌を天に掲げる。何故か嫌な予感がする。
「何をしたの? ああ、ひょっとして協力プレイを可能にしたとか?」
「時間制限を無くしたのよ」
「……は?」
言われて脳内に浮かぶ体力ゲージ等を確認すると、確かに時間の表示が∞になっていた。
「これで私を倒さないといけなくなったわね」
「ねえ、ラボちゃん。いい加減にしてよ」
「まだやる気が出ないの? だったら、ここで負けたら最初からやり直しにしてあげようかしら?」
「……本気なの?」
確認するようにラボちゃんに問いかけると、答えの代わりに狂気染みた笑みを浮かべながら鎌を振りかざして攻撃してくる。幸いにも大振りなのでかわすことができたが、ラボちゃんと戦わなければいけないという現実に心は痛む。
「これは試練よ。元々このゲームをまともに遊んでなかったあなたに格闘ゲームの本質を味わわせるついでに、今後に備えて肉弾戦に慣れさせておこうと思ってね。あの子が混じってしまったのは想定外だったけれど、あなたにとってみればやる気が出るでしょう? お姫様を救う勇者様よ」
「だからってさあ、ラボちゃんとは戦えないよ」
「覚悟を見せなさい。裏切った仲間を倒せない主人公なんていらないわ」
これ以上話をしても無駄のようだ。大鎌を振りかざして俺を薙ごうとするラボちゃん。それをひょいとかわす俺。けれどそれでもラボちゃんを殴ったりすることはできそうにない。何とか平和的解決ができないだろうかと、攻撃を避けながら考える。それにしても案外簡単に避けられるな、鎌の攻撃って。
「ふん、避けてばっかりじゃ、勝てないわよ!」
「いやあラボちゃんに隙がないから、攻撃するタイミングがないんだよ」
「そっちから、こないんだったら、ガンガンいくわよ!」
ぶんぶんと鎌を振りまわして俺を狙うラボちゃん。それを避けながら作戦を練る俺。後ろに下がりすぎてこれ以上後ろに進めなくなったら、ラボちゃんの攻撃をかわしつつジャンプで追い越して方向を変える。そんな単調な戦いをどれだけ続けていただろうか、段々とラボちゃんの動きが鈍り、息切れをするように。
「……はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
「隙あり!」
明らかに疲弊してきたラボちゃんが心配になって逃げてばかりだった俺が駆け寄るが、あろうことかラボちゃんはそんな優しい俺にも容赦なく攻撃を仕掛けてきた。
「ほいっと」
「くっ……」
余裕でかわせるけどね。攻撃手段が鎌を振りまわすしかない上に、大振りで簡単にかわせる。そしてゲームのキャラと違って疲れが蓄積するのか、戦えば戦う程疲弊していく。正直言って、最初の敵より数段弱い。手加減しているのかは知らないけれど、大切なのは武力よりも仲間と戦う覚悟ということだろうか。
ラボちゃんが可哀想なので、そろそろ一転攻勢といこう。けれど平和主義な俺は、ラボちゃんの体に傷をつけるつもりはない。
「ていうかさあ、ラボちゃん」
「何よ」
「鎌ってゴミ武器だよね、特にラボちゃんの持ってる大鎌とか」
「……!」
傷をつけるのは、心だ。戦っているうちに感じた事を直接ラボちゃんに伝えると、気にしていたのか露骨に動揺してガシャンと得物を落としてしまう。
「そもそも農具だもんね。武器を持てない農家が一揆する時に仕方なく使うような代物だもんね。無駄に重いし、攻撃のバリエーションがあまりないし。ゲームでも、鎌使いって死神くらいなもんだよ、それも大抵物理攻撃してこないし。魂を刈り取るからって理由でゴミ武器持たされて、あーかわいそかわいそ」
「ちが、鎌は、最強よ! 即死効果とか持ってるし! それにゲームに鎌を使うキャラはたくさんいるわ! 一揆だって、鎌投げるじゃない! 鎖鎌だって、忍者とかが使うじゃない!」
「即死効果ってアテにならないよねえ。まあ確かに投げる鎌とか、鎖鎌は強いらしいけど、ラボちゃんのそれは大鎌だしねえ」
「うう……いるもん……インチキ預言者とか、大鎌使って強いのもいるもん……」
思った以上に効果があったらしく、ラボちゃんは半泣き状態になりながら鎌を拾い上げ、精一杯こちらに突きだしてアピールしてくる。あと忍者とかが使うのは、鎖鎌じゃなくて鉤縄だと思う。
「ていうかラボちゃんの鎌、曲がりすぎじゃない? 音符の上らへん(♪)みたいじゃん、武器としては最悪だよそれ」
「私だって、私だって……」
本当は薙刀が使いたいのにと死神のアイデンティティを崩壊させるような事を言いながらその場に崩れるラボちゃん。そもそもラボちゃんは死神っぽい格好をしているけど、死神ではなくてラスボスの精霊なはずなのだけど、ともあれ完全に戦意喪失、試合放棄で俺の勝ちなようだ。初対面の時からメンタル絶対に弱いだろうなと思っていたけど、武器を馬鹿にするだけでこうもうまくいくとは、ラボちゃんが酷すぎるのか、俺の話術が素晴らしいのか。
「どうだいラボちゃん、これが俺のやり方だよ。裏切った仲間だって、話し合いでまた仲間にすることができるのさ」
ガチ泣きしてしまったラボちゃんが泣きやむ頃に、カッコよく正拳突きをしながら勝利宣言してやる。不満げな顔をしながらも、ラボちゃんはやれやれと肩をすくめてお手上げのポーズ。
「……わかったわよ、認めてあげるわよ、あなたの陰湿なやり方をね。でもこの先に待ち構える依頼人は、話し合いじゃ無理だと思うわよ。実を言うとね、話をつけておこうと私も向かったんだけど、コテンパンにされてね。鎌を振りまわしているだけなのも、手加減したわけじゃなくて、魔力がないの」
「依頼人? ああ、ゲームのボスかな。よく覚えてないけど、純粋な破壊の化身とかそんな設定だったっけ? ラボちゃんが勝てない相手に俺が勝てるとは思えないけど、俺も強くなった気がするし、腹をくくって戦ってくるよ」
攻撃をかわしているだけだったが、丁度いいウォーミングアップになった。薙刀でも何でも好きなの使えばいいじゃんとラボちゃんにアドバイスをして先に進もうとするが、
「待って、ギャラリーがいた方が燃えるでしょう? 強くなったあなたを見物させて貰うわ」
「おにいちゃんがんばって!」
「できれば見物しないで欲しいんだけどなあ……何度もコンティニューする情けない姿を晒すだろうし」
いつのまにかやってきたあーちゃんとラボちゃんが俺の後ろをついてくる。横にほとんど移動できないとはいえ、一昔前のRPGみたいだ。出会って時間は全然経ってないけれど、良い仲間を持ったなあとしみじみしながら、恐れることなく進んでいくと、やがていかにも魔界ですといった感じの、先程よりも不気味な風景になる。
「……来たか」
そして待ち構えるは、全身が真っ黒の男。名前は忘れたけど、このゲームのボスだ。絶対強い、オーラでわかる。でも何度やられたって勝たないとカッコつかないし、黄龍を助けられない。
「それじゃ、私達はちょっと邪魔にならないところに移動するから、頑張ることね」
「了解。うおおおおおおお!」
ラボちゃんパワーで軸移動でもしたのか、背景のキャラっぽくこちらを応援する二人。絶対に一戦目は負けるだろうし、とりあえず特攻してみようと気合を入れながらボスに殴りかかろうとする。
「……」
しかしまだ攻撃していないのに俺の目の前で粉々になり掻き消えるボス。瞬間移動かと慌てて後ろを振り返り、どこから攻撃が来てもいいように構えるが、数十秒経ってもボスは出てこない。これはひょっとすると、
「ああ、そういうことかラボちゃん。あれだね、勇気を試したってことだね。戦闘スキルも成長した気がするし、仲間を傷つけない思いやりの力も、不屈の闘志で立ち向かう勇気も手に入れた。うんうん、めでたしめでたし」
どうやらラスボス戦は俺の勇気を試すための試練だったようで、実際に戦う必要は無かったようだ。その証拠に背景が崩れて、ほーら辺り一面が道場に。……あれ?
「馬鹿ね。誰もあの黒いのが依頼人とも、ラスボスとも言ってないわよ」
「いやいや、このゲームのラスボスはあいつだよ? 隠しボスだっていなかったはずだし。あいつがラスボスじゃなかったら、誰がラスボスなのさ」
「そんなの、あの黒いのを粉々にして、私をコテンパンにした依頼人に決まってるでしょ」
「だから誰……ひっ」
背景にいるラボちゃんと問答をしていると、突然物凄い殺気を感じてワンパターンではあるがバックステップをする。判断は正解だったようで、俺のいた場所に上空から隕石のようなものが降ってきて轟音を響かせる。いや、隕石ではない。
「へーえ、まさか避けるなんて思ってなかったわ。やっぱりゲームの世界だから?」
「……そっちこそ、幼馴染に攻撃を仕掛けるような女だとは思わなかったよ。……いや、考えてみたら昔から結構攻撃されてたか」
ヒロインがラスボスなんて珍しくもない話。俺とお揃いの胴着に身を包んだ、カラテガール、もとい網野黄龍がそこにはいた。
一揆……いっき。クソゲーの言葉の由来らしい
インチキ預言者……フリーゲーム『elona』のメインクエストラスボス




