Lv3.愛も拳も受け止めろ! STAGE 2
「格ゲーの世界に到着……ってあれ、あーちゃん? ラボちゃん?」
2D格闘ゲームの世界に到着した俺。場所は森の中のようだが、辺りにあーちゃんやラボちゃんの姿はいない。ただでさえ黄龍を救出しなければいけないという状況なのに、二人とはぐれてしまうなんて。
「仕方ない、とりあえずは一人で探索しよう。……服装から察するに、主人公のカラテマンかな」
胴着姿になっていた自分からゲーム内での立ち位置を確認する。このゲームの主人公であるカラテマン。弱いわけではないが、飛び道具は使えないし、無口で陰が薄い。空手つながりで黄龍は俺とこのゲームで遊ぶ時にいつもこのキャラを使っていたっけか。
「オレサマ、オマエ、タオス」
「……ああ、格闘ゲームですもんね」
『ファイト!』
そうこうしているうちに、前方から誰かがやってきて、いきなり宣戦布告。どこからか戦いを告げる声も聞こえてきやがった。紫色の肌を持ち、上半身裸の怪しい男だ。確か野生児キャラのブランコだったか。格闘ゲームだし、こいつを倒して先に進まないとヒロイン達には逢えないのだろう。
「体は軽いけど、このキャラ全然使ってなかったし、格闘ゲームは得意じゃないんだよなあ……例え得意でも、リアルファイトはノーサンキューだけど」
技の確認のために軽くパンチやキックをして感覚を確かめながらため息をつく。ゲーマーな俺ではあるが、実は対戦格闘ゲームはこれしかプレイしたことがない。アクションゲームとかは好きだが、どうにも格闘ゲームには興味が湧かないのだ。このゲームも、昔よく家に来ていた黄龍と遊ぶために家の倉庫から引っ張り出したに過ぎず、プレイの腕も、ひたすらにボタンを連打するだけの黄龍には勝てる、強キャラを使って飛び道具ハメで一人用モードをノーコンでクリアできるというレベル。とてもじゃないが、ネット対戦やゲームセンターでの対人戦なんてしてしまえばボコボコにされてしまうだろう。
「クラエ!」
「うおっ! って避けれねえ!」
ジリジリと詰め寄り、体当たりをしてくるブランコ。とっさに横にジャンプして避けようとするが、見えない壁でもあるのか俺の跳躍は阻まれ、そのまま体当たりを受けて後ろに吹き飛び、地面に叩きつけられてしまう。
「ああ、2Dだからか……」
脳内に浮かび上がる2割程減ってしまった体力を確認しながら、ここが2D格闘ゲームの世界だと気づく。ゲームをプレイしている目線からすれば奥行きがないが、ゲームの中の目線からすれば幅がないため、ほとんど横に移動ができないのだ。
「クラエ!」
「馬鹿め、起き上がりは無敵なんだよ!」
「グワ!」
初戦だからか、敵の動きも頭もあまりよくないようだ。当たり判定がないのに執拗に攻撃をしてくるブランコの隙をつき、華麗なローキックをお見舞いしてやる。相手がひるんだところで渾身の右ストレート。相手が吹っ飛んでダウンしたところで距離を保ち、体力回復効果のある瞑想を始める。
「クラエ!」
「ワンパターンなんだよ雑魚が! 必殺、あびせ蹴り!」
この時代のAIに学習機能なんて存在しないらしく、またも体当たりをしてくる奴さん。大ジャンプしてそれをかわすと、急降下キックをぶちかます。なかなか楽しいじゃないか、格闘ってのも。
「グアアアアア!」
「少しは頭も鍛えるんだな」
その後は一方的な戦いが続き、見事に敵を地面に伏させることに成功する。自分の体? で敵を倒すことの快感に目覚めた俺は、次なる戦いと行方不明のヒロイン達のために先を急ぐ。周囲が森から砂漠になり、遊牧民キャラが勝負を挑んできた。戦士に休息は無い!
「くっ……とどめを刺せ!」
「つまんねえ……」
しかし5戦目、女騎士を倒したところで飽きてしまう。基本的にパンチとキックしかできないので爽快感がないし、どいつもこいつも俺を見た瞬間戦いを挑んでくるのでストーリー性も糞も無い。まあこのゲームの設定が最強を目指す者達の戦いだったはずなので、ストーリーが存在しなくても仕方がないのだが。どちらにせよ、別に最強を目指してるわけでもなんでもない俺からすれば退屈極まりない。そして横に動くことができないので道を真っ直ぐ歩いて敵と戦うだけ、これではまるで雪の道だ。やたらと元気にとどめを刺せと懇願してくる女騎士を無視して先に進むと、ようやく見知った顔に出会うことができた。
「あ、おにいちゃん!」
「あーちゃん! よかった、無事だったんだね」
『ファイト!』
「……は?」
花畑を背景に歩いていると、不思議の国の格好をしているあーちゃんに遭遇。戦力にはならないだろうけど、正直心細かったので感動の再会に涙して駆け寄ろうとするが、聞こえてくる天の声に我が耳を疑う。
「? おにいちゃん、どうしたの?」
「待ってあーちゃん、ちょっとタンマ」
気がつけば脳内に今まで通り体力ゲージが浮かび上がる。どうやら俺と同じくあーちゃんもこの世界においては戦士の一人のようだ。
「あーちゃんを……倒すことはできないよねえ。でも、先に進めない、か」
あーちゃんに手を出す程俺は鬼畜ではない。あーちゃんを無視して先に進もうとするが、やはり見えない壁がそれを邪魔する。
「わたしどうすればいいの? たおされればいいの?」
「やめてくれよ、自己犠牲ヒロインは嫌いなんだ。えーと、えーと……あ、そうだ。ちょっと我慢してね」
「いたっ!」
あーちゃんに傷をつけず、この場所を通り抜ける方法は無いだろうかと無い知恵を絞る。やがてここがゲームの世界であることに気づくと、俺はしゃがみこんであーちゃんに目線を合わせ、軽くデコピンをしてやる。
「ごめんごめん、それよりお話しようか。どう? 現実世界には慣れた?」
「うん! たまにらぼちゃんと、ゆーたいりだつ? しておにいちゃんががっこうにいってるあいだ、そとのせかいをたんけんしてるよ!」
「あ、知らない間にそんな事してたのね……まあ退屈してないならいいか」
「このまえはおにいちゃんのがっこうにいったよ! らぼちゃんが、おにいちゃんにともだちがいたことにびっくりしてた!」
「酷くないかな……?」
その後あーちゃんとお喋りをする。やがて『タイムアップ!』という天の声。立ち上がって前に進もうとすると、思ったとおり見えない壁は無くなっていた。軽くあーちゃんを小突いてちょっとだけ体力を削り、時間切れで判定勝ち。頭脳の勝利だね。
「ごめん、ラボちゃんと幼馴染を探しに俺はもう行かないと。危険だから、あーちゃんはここで待っててね。すぐに迎えに来るから」
「うん!」
あーちゃんに別れを告げて花畑を後にする。やがて背景は荒廃した街へと変わり、モヒカン頭のイカれた男、デッドブラスターが勝負を挑んできた。
「がががーっ!」
「こ、こいつは……」
俺を見るなり狂人はモヒカンをブーメランとして飛ばして来る。咄嗟の事だったので対処が遅れ、攻撃をモロに喰らってしまいのけぞりながら、今までの相手のようにはいかないと悟る。単純な性能だけなら作中最強、ハメ技すら持っている俺の愛用キャラなのだ。
「死ね死ね死ね死ねええええ!」
「いででででででっ!」
しかもステージも中盤にさしかかり敵のAIも大分強化されてきたようで、今までのように単純な戦法をとってこない。間合いをとって飛び道具を連射したり、ダッシュで近づいて反応する間も与えずに連続攻撃をしたりとやりたい放題だ。攻撃を受ける度に激痛が走る。体力が残りわずかとなり、たまらずガードの構えをとるが、ガード不能の大外刈りをこいつが持っていることに気づいた時には、肋骨が折れるような音がして俺の意識は途絶えた。
『コンティニュー? 10、9、8、7、6……』
「……」
気づけば辺りは真っ暗闇。聞こえているのは、ゲームオーバーへのカウントダウンのようだ。立ち上がろうとするが、先程ボコボコにされたトラウマが瞬時に甦って動けない。
『5、4、3、2……』
「ま……」
けれど、俺には使命があるのだ。巻き込んでしまった幼馴染を助けるという、主人公感溢れる使命が!
『1……』
「負けるかあ!」
だから立ち上がる。大体ゲームオーバーになったら最初からだ、そんなの絶対御免だね。暗闇が消え、再び荒れた街に立つ俺。目の前には憎きモヒカン野郎。コンティニューに制限なんてないんだ、1000機費やしたってこの世界、攻略してやる!
ブランコ……横浜一年目でキャリアハイを叩き出す。ナゴヤドームとハマスタの違いを考えさせる。
雪の道……フリーゲーム『雪道』。名作。
デッドブラスター……メタルマックス2よりテッドブロイラー。デッドではない




