Lv3.愛も拳も受け止めろ! STAGE 1
「もうすぐ体育祭ね。アンタ自分は出場しないことが最大の貢献だとかいってサボるつもりでしょうけど、そうは問屋が卸さないわよ。保健体育委員の権力を使って、二人三脚と100m走、借り物競争、リレーに参加させてあげたからね」
何か嫌な予感がする。厄介な事が起きそうな気がする。隣を歩いている幼馴染の発言も厄介といえば厄介なのだが、もっと別の嫌な予感がするのだ。なんで走る競技ばかりなんだ。
「あ、ちなみに二人三脚はアタシとペアだからね。やるからには勿論優勝よ。ううん、それだけじゃないわ。他の競技でもそれなりの結果は残してもらうからね。どうせ学校が終わってもずっとゲームばかりして暇なんでしょう? たまにはウチにきて体を動かしなさい、鍛錬を鍛えるのよ」
体育祭とは関係ないが、黄龍とは関係があるような気がする。鍛錬を鍛えるってなんだ、物語物語か。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ。朝シャンしたんだろう? 汗じゃなくてシャンプーの匂いがするよ」
「……!?」
ちょっと集中して考えたかったので、それっぽい事を言って黄龍を赤面させ、ダッシュで学校に行かせてやる。大分適切な選択肢がわかるようになってきた。日に日に彼女は積極的になっているような気がする。このままだと……
「ああ、嫌な予感の正体はこれか」
そうだ、黄龍が俺の冒険に巻き込まれてしまう。家の鍵を持ってて堂々と朝から俺の部屋に乱入してくるような女だ、ラボちゃんやあーちゃんの存在がばれてしまう可能性も十分にある。あいつの事だから、事情を知れば俺に協力してくれるだろう。格闘少女の参戦は戦力的には有り難いはずだ。けれどあいつを危険に巻き込みたくないし、ラボちゃん以上にトラブルメーカーになりそうな気がするのだ。
「なんだかんだいって、大切な幼馴染だからなぁ」
俺はずっと黄龍に想いを寄せられており、悪い気はしないからそれを受け入れているのだと思っていたが、それは願望なのかもしれない。ひょっとすれば俺の方が黄龍に想いを寄せているのかもしれない。ともあれ、彼女を俺の戦いに巻き込みたくはない。戦いが終わるまでは、少し距離をおいた方がいいだろう。戦いが終わった時にそれによって関係がどう変わるのかはわからないけど、その時はその時だ。
「呉人、早速二人三脚の練習するわよ」
「悪い黄龍、俺は忙しいんだ。また今度にしてくれ」
「ちょっと、忙しいってどうせゲームでしょ?」
「トリプトファン、プログラムについて会議があるから保健体育委員は来てってさ」
「……ああもう! しょうがないわね……」
そんなわけでこの日から俺は朴念仁となることを決意する。今まで鈍感な主人公は腐る程見てきたんだ、それを真似すればいいだけの話だ。そうして距離をおき続ければ、黄龍との関係も少しずつ疎遠になることだろう。それでいいんだ、それで。ちなみにトリプトファンはアミノ酸の一種で、親しい人からの彼女のあだ名である。
『ちょっと呉人!? アンタ今どこにいるのよ、まさか本当にゲーム買うために徹夜でどっかに並んでるんじゃないでしょうね!?』
『そんなわけないだろ、もう学校行ってるよ、ちゃんと鍵を閉めろよ?』
『なっ!?』
翌日、いつもは朝の8時くらいに黄龍が迎えにきて、それで学校に向かうのだが、今日はそれより30分も早く家を出て彼女との登校を回避する。我が物顔で家にあがりこみ、部屋に俺がいない事に気づき焦って電話をする黄龍の顔が目に浮かぶ。その部屋で、慌てる彼女を見てくすくすと笑うラボちゃんとあーちゃんの姿も。いつもより早く教室に向かい男子達とくだらない話をしていると、全速力で走ってきたのかたったの5分で黄龍が教室に姿を現す。
「アンタねえ……一体どういう了見よ、連絡もせずに一人で学校行くなんて。無駄骨じゃないの」
「いいランニングになっただろう? 大体なぁ、お前は俺の母さんかよ。両親に世話頼まれてるからってそう家に押しかけたりとか勝手なことされるとウザいんだよね。後汗臭いんだよ」
「……何よ、何よ」
情をかけて付き纏われても困るので、ここはきつく言って突き放しておいた方がいいだろう。一時的に嫌われてしまうかもしれないが、ギャルゲを極めた俺なら好感度がマイナスに振り切っていても十分挽回なはずだ。黄龍は涙目になりながらもキッと俺を睨むと、教室を出て、扉を破壊しそうな勢いで閉めてどこかに行ってしまう。
「おい雨宮、お前今のは酷すぎだろ」
「うっせえな、俺にも色々事情があんだよ」
クラスの女子どころかさっきまで仲良く話していた男子のヘイトも稼いでしまう。ゲームの世界でヘイトを稼ぐことには慣れているが、リアルの世界でヘイトを稼ぐのはやはりいい気持ちがしない。けれどこれも大切な幼馴染を守るためなのだ、俺の選択は絶対に間違っていないと開き直り、いつも通り授業を受ける。保健室にでも行っていたのか、二時限目に授業に復帰する黄龍と極力目を合わせずに、学校が終わると用事があるからと二人三脚の練習を断って家に帰る。
「ゴミ。論外。死ね」
部屋で格闘ゲームを遊んでいたラボちゃんとあーちゃん。幼馴染を守るためなら嫌われ役をも演じてみせるという俺の覚悟を肯定して貰いたくてラボちゃんに事情を話すが、返ってきたのは辛辣な言葉であった。
「……なんだよ、ラボちゃんはわかってないよ。俺の戦いに他人を巻き込みたくはない、例え嫌われてもね。」
「わからないわよ、そんな自己満足。好きな男に放っておかれる女の気持ち、考えたことある?」
「ラボちゃんこそ、戦いの中でヒロインを失った主人公と、感情移入していたプレイヤーの気持ちを考えたことがあるのかい? 花売りも、ヴィジランツも、女王騎士見習いも、みんな死んだんだよ!」
本当はあーちゃんだって戦いには参加させたくないのだ。ゲームの世界で死んでも生き返れるし現実世界には影響がないみたいだけど、痛みは感じるし、心に傷だって負う。精神が崩壊してしまった不死身のキャラなんて、ごまんといるのだ。
「だからってそんな邪険にしなくても……」
「トラブルメーカーはラボちゃん一人で間に合ってるんだよ」
「それどういう意味よ」
不穏な空気が漂い、あーちゃんが困ったような表情をしている。一触即発の空気の中、急に部屋の扉が開くと渦中の人物が姿を現した。
「……やっぱり用事なんてなかったじゃない、ゲームしてるだけじゃない」
「こ、黄龍……」
あれだけ突き放したような態度をとっても平然と家にやってくるとは、彼女の言うとおり心も強いようだ。俺の失態を待ち望んでいるかのような目でこちらを見てくるラボちゃん。どうしたものかと無言で黄龍の顔を見ていると、予想外の物に彼女は興味を持ち始める。
「あ、このゲーム……」
「あ、ああ、懐かしいだろ? よく遊んだよな」
「懐かしいわねえ、結局一度もアンタに勝てなかったんだっけ。ねえ、久々にやりましょうよ」
「ああ、いいぜ」
そうだ、さっきまでラボちゃんとあーちゃんが遊んでいたこのゲームは、昔よく黄龍と遊んだゲームでもある。当時を思い出したのか、先程までの俺を蔑むような顔から、急に活き活きとした顔になる黄龍。気分屋な彼女に感謝しつつ、とりあえずこの場は彼女とゲームでもして接待でもして、気持ちよく帰って貰おうとコントローラーを握る。
「……え?」
「!?」
彼女が2P用のコントローラーを握った瞬間、彼女の体が眩しい光に包まれる。極光に目をくらませ、ようやく前が見える頃には、彼女の姿は跡形もなく消えていた。
「ラ、ラボちゃん! これは一体」
「……本当に巻き込まれてしまったわね。しかも原因は私だわ、私のゲームの世界に人を誘う能力と、彼女のこのゲームに対する並々ならぬ思い入れが共鳴して、私の力を借りずにゲームの世界に行ってしまった」
「はやくたすけにいかないと!」
自分を責めだすラボちゃん。今はそんなことをしている場合ではない、一刻も早く黄龍を助けに行かないと。ラボちゃんが呪文を唱えると、俺達もまた光に包まれ、格闘ゲーム、ストレートファイアー3の世界へ旅立った。
物語物語……フリーゲーム『魔王物語物語』
花売り……ファイナルファンタジー7よりエアリス。
ヴィジランツ……サガフロンティア2よりコーデリア。死ぬのは正史
女王騎士見習い……幻想水滸伝Ⅴよりリオン。トゥルーEDなら生きるらしい
ストレートファイアー3……スト3。格ゲーには詳しくないので説明できない




