Lv3.愛も拳も受け止めろ! STAGE 4
「話は聞かせてもらったわ、アタシも協力してあげようじゃないの」
「ぐぎゃあ! ……つつ、言動があまりにも不一致すぎるぞ!? ラボちゃん、これはどういうことだ、洗脳でもされてるのか?」
出会うなり協力的な姿勢を見せながら攻撃してくる黄龍。一方俺は頭が混乱しているようで、攻撃を避けきれずに胴回し蹴りを受けて後ろに吹っ飛んで倒れる。やられ慣れているのかすぐに立ち上がってラボちゃんに状況の説明を求める自分が悲しい。
「……本当はね、さっきの黒いのがこのゲームの依頼人で、あなたにちゃんと格闘ゲームを楽しんで欲しいというものだったの。でも、この子が黒いのを倒しちゃって、代わりに依頼人になっちゃったみたい。私もここは夢の世界だからって説得して帰そうとしたんだけどね、結果は見ての通り、あなたの事情まで喋らされたわ。私達にとってはこっちの世界が現実世界に近いけど、あなた達にとっては精神世界。心一つで強くも弱くもなるってことかしら」
「だったら何で攻撃してくるんだよ! おい黄龍、俺はお前を助けにきてやったんだぞ!?」
とりあえず話し合おうぜと歩み寄るが、アタシの半径30cmに近寄るなと言わんばかりの蹴りが飛んでくる。
「アンタこそわかってるの? アタシの望みを叶えなければ、アタシを満足させなければ、この世界はクリアできないのよ?」
「お前の望みってなんだよ……」
確かに黒いのではなくこいつが依頼人となってしまったなら、彼女の願いをかなえるのが今回のミッションということになる。自分に協力してくれるというなら望みなんて持たずに満足して欲しいものだが、わがままな女だ。
「アタシね、格闘では絶対アンタに負けないと思ってたのに、ゲームだって反射神経とかアタシの方が上だし余裕で勝てると思ってたのに、アンタに一度も勝てなかった」
「ボタン連打してるだけだったからな」
「悔しくて負けた後にアンタとリアルファイトして八つ当たりしても、アタシの心は晴れなかったわ」
「なんて酷い女だ」
「しかも! アタシがリベンジを挑む度に! アンタ手加減するようになったでしょ!」
「勝つ度にボコボコにされてたら誰でもそうなるわ」
当時のトラウマが蘇る。幼い自分は接待ができず、ビービー泣き喚く黄龍にサブミッションをかけられてはビービーと泣いていたものだ。俺の両親はそんな惨状を見て、仲良しねえと日和ったことをぬかしていたが。
「なのに! アタシは! 一度も勝てなかった!」
「格闘ゲームは連打ゲーじゃねえからな……」
人の家のコントローラーを壊す勢いでボタンを連打、しかもモーションの長い大パンチばかりで連打もほとんど無駄になっている女に負ける方が難しいというものだ。
「そしてとうとうアンタはリベンジ目的で遊びにきたアタシに、あろうことか一人用のゲームを見物させるという屈辱を与えたわ! 羞恥心が芽生えてきてリベンジしたいと言い出せないアタシに!」
「だって格闘ゲーム飽きたし……そして後半言ってる意味がわからないんだけど」
「とにかく!」
一瞬にして目の前から黄龍の姿が消え、それを俺が認識する頃には背後からがっしりと腰を掴まれる。ちょっと柔らかな感触を味わう暇もなく俺の身体は上空に舞い上がり、
「アタシは! このゲームの世界で! 本気のアンタを! 倒したい! それがアタシの望みよ!」
見事なジャーマンスープレックスで割と硬い道場の床に頭を叩きつけられる。空手使えよとツッコミを入れる間もなく俺の意識は途絶えてしまった。
『コンティニュー?』
ああ、今まではすぐにコンティニューできたけど、今回ばかりはやる気が出ない。そりゃそうだ、お姫様のために戦ってきたというのに、お姫様は自分と全力で戦ってその上で負けろというのだ。とんだ悪女だ、宇宙葬でもしてやりたいくらいだ。
「立ち上がりなさい!」
『ファイト!」
ところが黄龍ときたら、無理矢理俺をコンティニューさせやがったらしく気づいた時には傷一つない体で黄龍の前に立っている俺。
「どこの世界に強制的にリトライさせるラスボスがいるんだよ」
「いいから、本気を出しなさい。でないと帰れないわよ、アンタもアタシも」
「……ああそうかよ、上等だクソアマ。俺も現実でお前にボコボコにされた恨み、この場で返してやる」
女の子に手は出せないと思っていた俺ではあったが、不思議と眼前の幼馴染に対する遠慮の心が湧いてこない。サブミッションの恨みはサブミッションで返してやる、ついでにちょっとエロいことしてやると男子高校生特有の邪な考えを持ちながら、大外刈りをかましてやろうと黄龍に詰め寄るが、
「何それ。やる気あるの?」
「うおっ?」
簡単に袖を掴まれ、技の名前はわからないけどすぐに投げられて地面に叩きつけられる。これだけで自分の体力が半分以下になってしまった。俺も彼女も同じ性能のキャラのようだが、基礎的な運動神経等が段違い。起き上がって距離をとると、彼女は不満げに地団駄を踏む。
「昔のアンタはそんなに弱くなかったわ。アタシがどれだけ頑張っても、追いつけなかった。その時のアンタを見せなさい」
「思い出を美化しすぎだ、あの頃のお前が弱すぎただけで俺は別に強くないよ。大体ゲームの世界だからって結局はリアルファイトじゃないか、お前に勝てるわけないだろ」
「なんかブーメランとか飛ばしてたじゃない、あれやってよ。あれどうしてもかわせなかったけど、今ならかわして見せるわ」
「今の俺はお前と同じくただの空手使いだから、飛び道具なんて使えないっつうの」
どうやら彼女は昔俺がよく使っていたあのモヒカン野郎のことを言っているようだ。飛び道具をパンチで相殺しようとするが、優先順位の関係上相殺できずに毎回ダメージを負い、タイミングが悪いんだと勘違いして学習しない当時の彼女を思い出すと少し微笑ましくもなる。どうしてこんな面倒くさい女に成長してしまったのだろうか。
「アタシは使えるわよ? ほら」
「なっ!?」
言うや否や彼女は右手を広げ、こちらに突きだす。すると白い球体ができあがって、こちらに飛んでくるではありませんか。しゃがんでそれを避けるという情けない姿を晒しながら、ラボちゃんの言っていた事を思い出す。心一つで強くも弱くもなる、本来不可能な技だって可能にする、クマバチのような女だ。
「ああ、楽しいわ」
「こっちはあんまり楽しくねえんだがなあ……」
飛び道具を出せるのが余程嬉しいのか、恍惚の表情を浮かべる黄龍。最近の女の子の感性はよくわからないが、この感じで彼女を満足させていけばいいようだ。ごっこ遊びにもう少し付き合ってやるかと、彼女に殴りかかっては見事なストレートを貰うのだった。
「なあ、そろそろ満足しただろ? 言っておくが、俺かなり本気出してるつもりだぞ?」
あれから何度コンティニューをしただろうか、最初は俺の応援をしてくれていた二人も、飽きたのかラボちゃんはぼーっとしているし、あーちゃんに至っては寝てしまった。俺が本気を出しているというのも事実で、強くなってもやはりワンパターンな彼女の攻撃を見極めながら、何発か彼女に攻撃すら当てている。顔は殴れない、お腹や胸の辺りを狙うのも流石にまずいと肩の辺りを殴ったり、ふとももの辺りを蹴ったりとしている俺の紳士さに彼女も大満足のはずなのだが、どういうわけか当の彼女が困惑している。
「うーん、いいストレス解消になったり、もう十分アタシ的には満足してるつもりなんだけど、なんか心が凄くもやもやするのよね……」
「……」
実をいうと、こいつの願いは本当に全力の俺を倒すことなのか? と疑問を持っていた。確かに昔の彼女が俺に勝てずに悔しい思いをしたのは事実だろうけど、その後疎遠になるまでは俺の部屋で俺のプレイングをニコニコしてながら見ていたし、高校生にもなって昔の恨みをネチネチとひきずるような女とも思えなかったからだ。彼女の本当の願いは何なのかと戦いながら考えているうちに、ある結論に至る。しかし、外れていたら物凄く恥ずかしい結論なので黙っていたが、ラチがあかない、勇気を出して言ってみよう。
「お前、俺の事好きだろ」
「!? にゃ、にゃにゃ?」
一生に一度くらいは言ってみたいと思っていた言葉を、自信無さ気に顔を逸らしながら伝えると、瞬時に彼女の顔が紅潮して露骨に動揺しだす。よかった、勘違い男にはならないようだ。
宇宙葬……ファイナルファンタジー8。リノアにうんざりしていた作者はこのイベントを見て満足してしまったのでそれ以降のストーリーを知らない




