6 見つけた!
わたくしのための林檎園計画は、王命として国内に布告され、近隣諸国にも使者を通じて知らされることになった。その効果は思った以上だった。
王宮には連日のように、多くの応募者が訪れるようになった。
わたくしはお父様やお母様と一緒に、彼らの面接に立ち会った。
「林檎園にルビーを埋めて育てる、というのはどうでしょうか? きっと宝石のように輝く、真っ赤な林檎がたくさん実るでしょう。つきましては、まず木箱いっぱいのルビーを三箱ほどご用意いただきたく……」
最初の男性は、ニコニコと笑みを浮かべるけれど、時折馬鹿にしたような眼差しをわたくしに向けた。研究者らしくない派手な服装が、いかにも詐欺師に見える。
お父様は一瞬だけ目を細め、それから愉快そうに口元を緩めた。
「ほう。なかなか面白い研究だな。林檎園を作るのに、宝石が必要だとは……聞いたこともないがな。グローリアや、どう思う?」
「……全く現実的ではありませんわ。宝石など埋めたって、林檎には何の変わりもないでしょう。それに、研究を始める前からルビーを三箱も欲しがるなんて、宝石が欲しいだけに聞こえてしまいます」
わたくしは思わず鼻の頭にしわを寄せ、辛辣な口調で呟いた。五歳の幼児だと思って侮り過ぎている男性に、少し腹が立ったのだ。
お父様は少しだけ驚いたようにわたくしを見つめ、クスリと笑った。
「ふむ……まだまだ幼いと思っていたが、さすがは余の娘だ。あっという間に大人びたようで、お父様は嬉しいぞ」
彼は近衛騎士に引きずられて、王宮から放り出された。
次に現れた男性は竪琴を持っていた。
「林檎の木に僕の詩を聞かせるのです。甘い恋の歌などが良いでしょう。少し悲しいけれど、とても美しい恋の歌も最適です。甘酸っぱく芳しい香りの林檎が、豊かに実るでしょう」
彼は麗しい容姿の吟遊詩人だった。まだ面接の途中だというのに竪琴を爪弾き始める。控えていた侍女達は楽しげに耳を傾けていたけれど、わたくしが求めているのは芸術ではない。
「まあ、とてもロマンチックですわね。グローリア、この案はどう思うかしら?」
「お母様。確かに林檎の木にも人間と同じような感情があるのかもしれませんわ。ですけれど、美しい恋の歌を聴かせただけでは、どんな悪天候でも美味しい林檎を実らせることはできないと思います」
「グローリアはとてもしっかりしていて、現実的なのね。お母様も安心しましたよ。けれど、これではなかなか適当な人材が見つかりませんわね」
そうおっしゃったお母様は、少し困ったように笑みをこぼしたけれど、とても誇らしげだった。
次に来た方は女性だった。大きな水晶を手に持っていた。
「私は占星術で林檎の木を大きくします。星の配置で収穫量を占い……」
「ああ、もういいですわ。占いも時には役立つとは思いますが、それだけでわたくしの欲しい林檎園は完成しませんわ。占いで気が紛れるのは恋占いだけですわ」
わたくしの両親は、わたくしの言葉に思わず吹き出していた。きっと侍女達の会話を聞きかじったのね、などと言っている。
(また、やってしまったわ。六歳児だってことをつい忘れてしまうのよ……)
こうした面接が何日も続いた。
珍妙な提案書は山のように積み上がっていくのに、わたくしが望むような学者は一向に姿を現さない。日が経つごとに、胸の奥が少しずつ冷えていった。
(王女の気まぐれな思いつきに便乗しようとする者なんて、こんな程度の人たちしか集まらないのかしら? もっと真剣に考えてくれる学者たちが来ると思ったのに。これでは期待外れですわ)
「お父様。もっと真面目に探してくださらないといけません。夢のような話ではなく、きちんとした計画があって、学者のような方を募集してくださらないと……」
ぷくっと頬を膨らませ、文句を言い始めたわたくしに、侍従が「おかしな男がやってきました」と告げた。
「どんな方なの?」
「浮浪者のような格好をして、奇跡を起こしてみせるとぶつぶつ呟いているような……まともではない男に見受けられます。追い払いましょうか」
「ふむ。危険人物かもしれん。そんな者を大事なグローリアに近づけるわけにはいかん。即刻追い出せ」
「お父様、いけませんわ! 侍従、その者の名前は?」
「エルドラン・サイムズと言っています。以前は貴族だったらしいですが、今は放浪しているとか。きっとおかしな研究ばかりして没落してしまったのでしょう」
その名を聞いた瞬間、わたくしの胸が大きく跳ねた。
エルドラン・サイムズ。
ようやく見つけた。
「お父様! この方にお会いしたいですわ!」
「ほう?」
「きっとわたくしの林檎園を作ってくださる方です!」
お父様は呆れたように笑った。
「まだ会ってもおらぬのに、なぜわかるのだね?」
「……わたくしの勘ですわ。お父様、お願い」
「まあよい。まずは話を聞いてみるとしよう」
面接会場に現れた男性は、確かに浮浪者のようにしか見えなかった。服は擦り切れ、靴まで破れている。
それでも、自らの研究を語る瞳だけは誰よりも輝いていた。
彼の難しい科学的理論は、わたくしには到底理解できなかった。
お父様もお母様も首を傾げていた。
けれど、今までの応募者たちとは明らかに違う。
少なくとも彼が本気で研究に打ち込んでいることだけは伝わってきたのだ。
わたくしは改めて、お父様へ申し上げた。
「お父様。エルドランを、わたくしの林檎園の研究者にしてくださいませ」
お父様は腕を組み、エルドランを見つめる。
「ふむ……まあ、良かろう」
お父様は困ったように眉を下げた。
(普通に考えれば浮浪者のように見える男を、王家が雇うなどあり得ないですものね。お父様、ごめんなさい。本当のことを言えないから説明できないのが、もどかしいですわ……)
未来を変えるためとはいえ、お父様を困らせてばかりだ。
それでも今は、こうするしかない。
「エルドラン。あなたにはとても期待していますわ。さあ、早速研究に取りかかってちょうだい。必要なものがあれば、何でもおっしゃって!」
「はっ。王女殿下、光栄でございます!」
エルドランはわたくしの言葉に、張り切った声を出したのだった。
これによってわたくしは、気の触れた浮浪者を雇った愚かな幼児として、近隣諸国で話題になったそうだ。
(確かに未来を知らない人達にとったら、荒唐無稽なお話ですものね……)
もっとも国内では、少し変わった夢を追いかける無邪気な王女として受け止められていたらしい。幸いにも、これでエスティナ王国の民達の反感を買うことはなかった。
(さぁ、まずはあの大発明を完成させないと! アンドレアスは今頃、どうしているかしら? 待っていてくださいませ、必ず助け出しますわ!)
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ついに、物語の鍵となるエルドランを見つけました!
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次回はグランツェ帝国側のお話です。アンドレアス視点になりますので、ぜひ続きもお読みいただけると嬉しいです!
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