10 いよいよ乗り込む!
エルドランの発明により、エスティナ王国は大きな力を手に入れた。
大陸規模の異常気象によって各国が食料難に陥る中、我が国には連日、交易を求めるたくさんの使者がやって来た。これらの使者に、わたくしやお父様が直接会うことはない。有能な外交担当の文官に結果を伝えさせるだけだ。
わたくしの執務室では、お父様やお母様、そしてエルドラン農業大臣を交えて対応を協議していた。使者はその間、長い旅路の休憩も兼ねて別室で休ませている。
「グローリアや。どうしたら良いと思う?」
お父様は試すように、わたくしへ質問を投げかけた。
「そうですわねぇ。今まで仲良しだった国には、親切な価格で売ってあげましょう。ですけれど、そうでなかった国に対しては通常の価格で。敵対していた国に対しては、意地悪な価格で売ればいいと思いますわ」
わたくしは無邪気な微笑みを浮かべて、子供らしい言葉でそう言った。
お父様はクスリと笑った。
同席していた他の大臣達は口々に褒め称えた。
「いやはや、あのお歳で、素晴らしい政治的ご意見をお持ちだ」
「次期女王陛下に相応しい王女殿下ですな」
「この国は安泰ですぞ!」
今やわたくしへの臣下達の信頼は絶大だった。そして、わたくしが今待っているのは、ただひとつ。グランツェ帝国から、助けを請う使者だ。
(絶対に来ますわよね。どのように言ってくるのかしら? 楽しみですわ)
その数日後、やっとグランツェ帝国からの使者が来た。こればかりは、文官に任せたりしない。
「その使者を謁見の間にすぐにお通しして。わたくしが直接お話を聞きましょう」
もっとも高貴な色とされる紫のドレスに着替え、その使者が待つ部屋へと向かった。
「グローリア自身が会うことはないのだぞ。使者に来る者はそれほど身分が高くない。王族が会わないのは慣例として普通のことだ」
わたくしの後を追うお父様が、そう言ったけれど、わたくしは首を横に振った。
「お父様、たまには使者に会うのも王女の務めですわ。わたくしは慣例に縛られない女王を目指しますの」
そこでもお父様は笑う、満足そうに。お母様もエルドラン農業大臣も、お父様の後ろにいて、わたくしたちはぞろぞろと謁見の間へ移動した。
謁見の間にいたのは騎士と思われる若い使者だ。わたくしとお父様が姿を現すと、頭を下げた。
「わたくしがグローリア王女ですわ。この件はわたくしの管轄なのです。では、グランツェ皇帝のお言葉を伺いましょう」
使者はわたくしではなく、お父様を見つめながら話し出した。さすがあの皇帝の部下なだけはあり、失礼な男だ。
「グランツェ皇帝からのお言葉をお伝えします。『グランツェ帝国は貴国との食料取引を求める。必要量については別紙の通りである。対価は多めに支払うゆえ、速やかに手配されたし。ここで我が国を助ければ、有事の際にはこちらもエスティナ王国を救うであろう』とのことでございます」
おもしろい! 助けを求めている立場だというのに、断られることも想定していない命令口調だった。
「こんな高飛車な国に王女殿下と私の涙と汗の結晶を、売りたくないですな。 どんな大金を積まれてもごめんですよ」
エルドラン農業大臣が顔を顰めながら呟いた。
「グローリアはどう思う?」
お父様の問いに、わたくしはにっこりと微笑んだ。
「そうですわね。こんな尊大なことをおっしゃる国に、こちらの大切な作物を譲ってよいものか、わたくしも少し不安になってしまいましたわ」
「でしたら、お断りしましょう。わざわざ無礼な国と交易をしなくとも良いでしょう」
お母様が肩をすくめてそうおっしゃったけれど、わたくしはアンドレアス様に会いに行きたい。
「ですが、皇帝は嫌な方かもしれませんが、飢えている帝国民が可哀想ですわ。だから、わたくしが直接帝国へ出向き、取引相手として信頼できる国がどうかを見極めようと思います」
「わざわざ、グローリア自身が行くのかね? そこは視察団などに任せた方が良いのではないか」
「いいえ、以前からわたくしの婚約者は国外の皇族や王族の方にしたいと考えておりました。このような傲慢な皇帝の皇子は、案外素晴らしい方かもしれませんわ」
「なぜだね? 尊大な皇帝の息子なら性格が似るゆえ、歪んだ性格の嫌な皇子だと思うぞ」
「お父様。最悪なお手本がいたら、それの逆の生き方をする皇子がひとりぐらいはいるかもしれませんわよ」
「あら、まあ。グローリアは最近、おもしろいことばかり言うわね。侍女達の私語が多いのかしら。少し、静かにさせたほうが良いかも……」
お母様は見当違いの心配をしていたけれど、私はそれについては黙っていた。わたくしの中身は大人ですとも言えないし。
ここまで、使者に聞こえぬようなヒソヒソ話ですませたわたくしは、使者に向き直り声を張り上げた。
「わたくしがグランツェ帝国に自ら赴き、取引をして良い相手か見極めましょう。わたくしはいずれこの国の女王となる身。王配には他国の皇族や王族を、と考えています。そちらには確か皇子が何人かおりましたわね? 丁重にわたくしをもてなすように」
「えっ! は、はい? 王女殿下がいらっしゃるのですか?」
「ええ、そうですわ。この件はわたくしの裁量にまかされております。ですから、わたくしが判断しましょう。その旨をグランツェ皇帝に伝えなさい。以上ですわ」
わたくしは余裕の笑みで言い放った。
(皇帝めっ! たっぷりと嫌がらせしてあげますわ。……アンドレアス様、待っていてくださいませ! あなたの妻が迎えに行きますわよ)
朝6時の予約投稿がちゃんとされていなかったようです。
すみません。




