コボルトVSゴブリンVS人狼 終
拳を上げて高らかに勝利を宣言するヤシロ。
その宣言から少し遅れてノアが最後のゴブリンを斬り倒す。
ザシュ! 「グギャあーー!!!」 ジューー
「一足遅かった・・・・無念」
肉が焼ける音と共に残念そうな顔をしたノアが錫薙刀を振るい刃についた汚れを軽く落とす。 焼きながら切り裂いていたので刃に血はついていないがその代わり焼け焦げた肉片がこびりついておりノアはそれをふるい落とす。
ノアが汚れをふるい落とすのと同時に先程斬り倒されたゴブリンに異変が起こった。ゴブリンから煙が吹き出しており、そして煙が吹き出したかと思うと直ぐに火の手が上がりそしてものの数秒でゴブリンだったものは真っ黒な灰に変わっていった。
よくよく周りを見れば同じ様な黒い炭が山になってそこら中に積もっており、時折吹いてくる風により灰が宙を舞っていた。
おそらくこの黒い灰の全てが先程戦っていたゴブリンのなれの果てなのだろう。 いったいどれほど倒したのか分からなくなるほどの大量の黒い灰
そしてこれをやった本人はというと
「ごめんなさいクレア姉さん・・・・」
クレアの前で正座をして、怒られた子犬のように“シュン・・・” としていた。
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“シュン・・・” とした表情で正座をするノア、どことなくへたった犬耳と尻尾が見える気がするが気のせいだろう。
・・・・・・・・うん、そのはずだ。だってノアは一応山羊だし。
そんな風にかなり落ち込んでいるノアを前にクレアはというと
「もー、 ノアそんなに落ち込まないの。 それに負けちゃったのはなにもノアだけのせいってわけじゃないんだから。」
そう言いながら優しい手つきでノアの頭をなでなでし始めた。
ノアの長い髪がぼさぼさにならないようにゆっくりとかつ、小さい子の頭を撫でるように優しくなでなでするクレア。
そんなクレアのなでなでに最初固く不安そうだったノアの表情もほどけ最終的には嬉しそうな顔でクレアに撫でられていた。
・・・・・・・・あれ? 何でだろう? なんかちょっと甘い空気、というか百合っぽい気配が感じられるんだけど?
「あのー、そこの人狼の方」
「うん?」
近くでよばれる声がし俺は周囲を見渡す・・・・が誰もいない
「違います。こっちですこっち」
再度呼ばれ今度は声がした方、正確には足下を見る。
そこにはいつの間にかハティアちゃんのお姉ちゃんであるアセリアさんが立っていた。
「え? うお?!」
急にそこにいたアセリアさんにちょっと変な声を出してしまったが、当のアセリアさんはそんなことに動じず口を開く
「お取り込み中すまないがちょっとよろしいだろうか」
真面目な顔をし俺に訪ねるアセリアさん。 そんなアセリアさんに対し俺もつられて真面目な顔をしてアセリアさんの方に向き直る。
「まずは危ない所と仲間達を救ってくれたことの礼を言う」
そう言いながら地面に膝をつき両手を前に出し体をゆっくりと前に倒し始めたアセリアさん。
最初土下座かと思いちょっと焦ったが少し違っていた。どう違っていたかというとアセリアさんは額を地面につけるのではなく、顎の裏をつけるようにして頭を下げていた。
そう、まるで犬の芸の伏せのように。
「・・・・あのー、すみませんちょっとその姿勢ってどういう意味なんですか?」
あっ、やば! 素で言ってしまった。
「はい?」
そんなちょっと焦る俺に対し、アセリアさんは伏せの状態のまま目だけをこちらに向けていわゆる上目遣いでそう聞き返す。
・・・・ちょっと可愛いな
「あっ、すみません、何でもないです。 ところで、その前にまずは顔(?)を上げてください」
「え? いや、しかし・・・・」
そう言いながら困った表情でまたこちらを上目遣いで見るアセリアさん。
・・・・・・・・やっぱ可愛いな ・・・・じゃなくて。
「いや、こっちがむず痒いんでやめてくださいお願いします。」
そうお願いする俺におずおずといった様子で頭を上げるアセリアさん。
そんなアセリアさんに俺は
「いや別に正座じゃなくてもいいんで楽にしてくださいよ。」
未だ正座のままのアセリアさんにそう言うが、アセリアさんは静かに首を横に振り
「いえ、このままで結構です。」
そういって正座を続けるようなので俺もその場に正座をする。
俺が正座をしたら今度はアセリアさんが慌て始めた。
「いえ、人狼の方、 別に貴方までも正座をしなくても」
「いえいえ別にお構いなく」
「いえ、お構いなくではなくて」
「いえ本当お構いなく。それに話進まないんでちゃっちゃとしましょう」
「・・・・・・・・」
何か言いたげそうなアセリアさんを無理矢理納得させ、改めて話を聞くことにした。
「とりあえず先程も申し上げた通り危ない所と仲間達を助けていただきありがとうございます。」
「いえいえ、別に気にしないでくださいよアセリアさん」
「いえ、そうはいきません。もしもあのままあなた方が来なかったら私達は・・・・それを考えるとこのような感謝の言葉だけでは全くといっていいほど足りません」
「いや、そういわれても・・・・助けたのってたまたま会ったハティアちゃんの頼みだからだし」
「っつ! ハティアを知っているのですか?! あの子は?! 妹は無事なんですか?!!」
ハティアちゃんの名前を出した瞬間目を見開き掴みかからん勢いでこちらに詰め寄るアセリアさん。 いや怖い怖い
「ちょっ、 まって、 おち、 落ち着い、 って」
「どこで会いました?!! 泣いてませんでしたか?! けがはないですか?! どうなんですか?!! 早く!答えて!!」
「ままままって、 ちょ、 まって、 揺らさないで、おし、教えるから!!」
早口にそう言いながら俺の体を揺らすアセリアさん。 その表情は鬼気迫るという感じで妹を心配するというのを超えているように感じた。
・・・・・・・・というか体重が倍以上の人狼を力任せに揺らすって・・・・どんだけ力強いのよこの人。
その後アセリアさんも落ち着いたのか静かになりゆっくりと元の正座の姿勢に戻るが、その目は早く教えてくれといわんばかりに俺を見つめていた。
「とっ、とりあえずハティアちゃんは達は無事です! 会ったときも元気そうでしたし、これだけは絶対ですから」
「ほっ本当ですか? 良かった」
俺のその言葉にアセリアさんは安堵の溜息を吐きその場で脱力した。 それと同時にアセリアさんの目尻には涙がたまり始めアセリアさんはそれを静かに拭う。
やべー、端から見たら俺が泣かしたみたいな図だなこれ。
・・・・よし、話を少し逸らそう
「そっ そんなことよりも、ハティアちゃんはすごくいい子ですね。 会ったときも自分のことよりもお姉さんであるアセリアさんのことを心配していまし「それは本当か!!」 うおあ?!!」
「心配して」といった途端に食い気味に詰め寄るアセリアさん。
そんな彼女の尻尾はブンブンと左右に素早く揺れ、同時に耳もパタパタと上下に揺れており、どう見ても嬉しいという感情が全面に出るというか飛び出しているのが見て取れた。
「ハティアは私のことを心配していたのか?!」
嬉しそうな表情と共にその目をキラキラと光らせてもう一度そう尋ねるアセリアさん。
・・・・いや貴方誰ですか? っと言いそうになるがそれを押し込める。
「えっ、ええ。 ハティアちゃんから泣きながら『ねえねを助けて!』って言われて・・・・って聞いてます?」
「ハティアが・・・・私を心配・・・・ふへっ・・ふえへへへへへへへへへへー」
「・・・・(怖!)」
『見せられないよ』一歩手前の危ない顔をしながら妙な笑い声を上げるアセリアさん。 というか怖い!怖いよアセリアさん!!
嬉しいとかの前に大体の人がひくようなオーラと表情だよ!!
そんなちょっとしたカオス状態の中不意に森の中から小さな音が聞こえた。その音はどんどんとこちら側に近づいてくるのだが俺は動かない、というかなにもしない。 だって
「ぷはっ! やっとついた!」
そういって森の中から顔を出したのは周りのコボルト達より少し小柄なコボルト。そしてその後ろからは
「やっとついた、じゃないよフォウロにい。どう見ても迷ってたよね? 逃げるときに絶対に見なかった川を渡ろうとしたり途中知らない洞窟に入ろうとしたり変な所行こうとしたでしょ?何で方向音痴なのに前に出るのフォウロにい? バカなの? アホなの?」
「ばうあにゃの!」
「あふあにゃの」
顔を出したそのコボルト、フォウロを責めるハティアちゃん。
そしてそんなハティアちゃんの言葉にハティアちゃんの後ろにいる別の二体のコボルトにそれぞれ抱っこされているモミジとサクラが舌足らずな言葉で肯定する。
「うん、やっぱうちの子可愛い!!(やっと来たか、 ハティアちゃん)」
「ヤシロ逆になってるわよ」
「心の声が先に出ていますね」
いつの間にか傍に来ていたクレアとノアから指摘された。 えっ、逆になってた?マジで?
そんな俺の心情を他所に俺達の声が聞こえたのかハティアちゃんとサクラ、モミジは俺達のほうを向き、ハティアちゃんは隣にいるアセリアさんを見た後
「ねえね!」
「「ぱあぱ!」」
満面の笑みを浮かべサクラとモミジは抱っこしているコボルトの腕の中で暴れ降ろしてもらうように促し、よちよちとつたない足取りで少しづつ近づいていく。 そして同じように満面の笑みを浮かべるハティアちゃんはそんな2人から少し遅れて駆け寄ってきた。
よちよちとつたない足取りで歩くサクラとモミジの二人。
そしてつたないながらも必死にこっちに向かって歩いてくる二人に俺は無意識に涙が出てきた。 直ぐに二人の元に駆けつけ抱きしめたい、そんな欲求がじわじわとこみ上げてくるがそこをじっと我慢して二人を見守る・・・・・・・・・・・・・・・・が。
あっ、 やばい無意識に足が出てる! 抑えろ! 抑えるんだ俺の足!! 出たらだめだぞ俺の足!!
そんな自分の意思とは関係なく動こうとする体を必死に抑えている中、俺はふとアセリアさんの方を見た。いや見てしまった。
視線を向けた先、そこには嬉しげな顔のハティアちゃんを見たアセリアさんが口元に笑みを浮かべ優しげな表情を見せていた。
・・・・いや誰だよ! さっきと全然雰囲気違うじゃん!!
そんな俺を他所にどんどんと近づいてくるサクラ、モミジそしてハティアちゃん。 そんなハティアちゃんを受け止めようと手を前に出し始めるアセリアさん。 俺も同じように二人を受け止めようと腰を落として準備をする。そして俺達の距離が後数メートルとなったその時
ザッ!!
「へっ?(ガバッ!!)ねえ(ゴスッ!)ぐふ?!(ダッ!!」!
何かがサクラ、モミジそしてハティアちゃんを気絶させ横から攫っていった。
「「「「はっ?」」」」
いきなりのことで変な声が出る四人。
「ギャギャギャギャギャギャ!! 油断 し たな バカ 共 め」
そして四人の耳に聞こえる神経を逆なでするような金切り声。
そして声の先に視線を向けるとそこには先程ヤシロに倒された骨鎧のゴブリンが勝利を確信したような下卑た笑みを浮かべながらサクラ、モミジ、ハティアちゃんを片手で捕まえその首に折れた大剣の刃をを突きつけていた。
・・・・・・・・何をしている?
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(sideアセリア)
いったい何が起こったのだ?
私は確かこちらに向かって駆けてくる世界で一番可愛くて大切で私の天使である最愛の妹ハティアを抱きしめその匂いと感触を存分に堪能する・・・・はずだった。 しかしそのマイエンジェルシスターハティアは何故か私の腕ではなくあのくそったれの生ゴミよりも使い道も生産性もない生きる価値すらあるのか分からないカスの腕の中にいるのだ? そして何故首に刃を突きつけられているのだ?
「ギャギャギャ! てめ え ら一 歩も 動 くん じゃ ねえぞ ・・・・ 動 いた らそ の 瞬間 こ の餓 鬼共 の頭 と 体を 別 々に して や る」
そう言いながらハティアの首に刃を薄らと当てる産業廃棄物以下の塵芥カス・・・・・・・・よし決めたあいつはバラバラにしてミンチにして燃やして砕いて砂にしよう、うんそうしよう。 私のマイラブリーエンジェルハティアに傷をつけようとは万死に値する。
・・・・ん? そう言えばハティアの横にいるあの狼人の子供は何だ?
そう考えた直後
「そこのゴブリン!!早くそこにいる人質!! 特にサクラとモミジ・・・・そこの狼耳の二人の子供をさっさと解放しなさい!! 手遅れになる前に!!」
「即刻! 即刻人質を解放することを推奨!! これを無視する場合地獄を見ます!!これは決定事項です!!」
私の隣に立つ二人、クレアさんと確かノアと言った山羊人の少女が必死にあの害虫よりもしたの害悪以下のカスにそう訴え始めた。
心なしか二人とも何か焦っているような気がするが何故だ?
しかし目の前の絶滅希望のカスはそんな二人を鼻で笑い、あまつさえ人質として価値があると思い更に三人を捕まえている手に力を込め始めたその時
「「ふ・・え・・・」」
「あっ? な んだ ?」
サクラとモミジと呼ばれた狼人の子が目尻に涙を溜め始めたかと想うと
「「ふ・ふえっ・・ふえええええええええええええ!!!」」
辺りに木霊するほど大きな声で泣き始めた。
辺りに響く二人の泣き声。しかしあのカス生物はそれにいらつき始めたのか奥歯をかみしめ
「う るせ えな 、 黙 って ろ この 糞餓 鬼が!!」
怒りの声を上げながら持っていた折れた大剣を狼人の子の頭に向かって振り下ろし始めた。
「何してんだてめえ?」
その声が聞こえた瞬間この場にいる全ての生き物の動きが止まった。
いや、止まったと言うよりも止められたと言えるだろう。
ただ静かなだけの声、しかし私には・・いや私達には今この瞬間動いてはならないと、いや動けば全てが終わると本能が警鐘を鳴らしていた。
その場に異様な緊張が流れる中次の瞬間、いつの間にかカスゴミの持っていた折れた大剣が突如腕ごと消えていた。
そして何時の間にかカスゴミの直ぐ目の前に、カスゴミよりも巨大な影が立っていた。
何者だあいつは・・・・・・・・
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(sideヤシロ)
「何してんだてめえ?」
自分でも驚くほど程静かな・・いや、冷徹ともとれる声が出てきたが、俺は自分の口から出た言葉に不思議なくらい驚くことはなかった。
そして俺は骨鎧に近づき骨鎧の持つ折れた大剣を《重力魔法》で潰した。 ついでに骨鎧のゴブリンの腕ごと千切るように潰したが些細なことだろう。
「へ? ・ ・・ ・あ ?・ ・・ ・ え?」
片腕が潰れたのに悲鳴を上げない骨鎧。何故か俺の顔を見て怯えたような表情を見せていたが今の俺にはそんなことはどうでもいい。
「返せ」
未だにサクラ、モミジそしてハティアちゃんを捕まえている骨鎧のもう一つの腕、それを先程の片腕と同じように消し潰す。
重心を崩し尻もちをつく骨鎧と同時に、支えが失くなったことにより三人は重力に従って落ちようとするが俺はそれを優しい手つきですくい上げ胸の前まで持ってくる。そして三人の顔を覗き込むように見る。
「ふえっふえええええええ!!」
「ふえあああああああああ!!」
「ッ!!」
未だに泣き続けるサクラとモミジ、そして二人の真ん中にいたハティアちゃんはそんな二人を抱きしめ少し涙目でギュッと目をつぶっていた。
なので
「サクラ、モミジ」
とりあえず泣き続ける二人を泣き止ます溜に二人の名前を優しく呼ぶ。
名前を呼ばれたサクラとモミジはこちらに気づいたかと思うと、そのまままた泣きじゃくりながら今度は俺の胸に精一杯、もう離さないと言わんばかりに抱きつき
「ぱあぱ! ぱあぱーーー!」
「ぱあぱーーーー!!!」
「はいはい、パパはここにいるよ。 ほら二人とも泣き止んで」
「「ふええええええええええええん!!!」」
「ハハハ、だめだこりゃ。」
苦笑しながら未だに泣き続ける二人、そんな中先程までギュッと目をつぶっていたハティアちゃんが恐る恐る目を開け始めた。
「こ、ここは・・・・」
「やっほー、ハティアちゃん久し「ふえええ!!!」はいはい、サクラ泣かないの大丈夫だ「ぱあぱーー!」はいはいモミジ、パパはここにいるよ。」
なるべくハティアちゃんを怖がらせないように陽気に声をかけようとするがその度に腕の中で泣き続ける二人に邪魔される。
そうこうしているうちにハティアちゃんは自分がどのような状態であるのか察したのか、助かったことに安堵しそして気が抜けたのか堰を切ったごとく涙を流し始め
「ひぐっ! う・・うわああああああああん!!!」
「ふええええええええええええん!!!」
「びえええええええええええええ!!!」
「ありゃ? 増えた」
三人仲良く鳴き始めてしまったので、とりあえず俺は腕の中で泣き続ける三人を泣き止ませることにする・・・・・・・・が、 その前に
「どこ行こうとしてんだ? おい?」 ヒュッ! ドスッ!
「へ? あ ? グぎぇああ?!!」
這うようにここから逃げ出そうとした骨鎧のゴブリンの胴体に俺は《獣化》により肥大化させ《魔装》を施した尻尾をまるで槍のように突き刺し捕まえ、そのまま俺の足下にくるように投げ捨てた。
「うっ ぐっ ご・・・・」
「なに逃げようとしてんだ? おいこら。 てめえに逃げる権利なんてねえんだよ。」
まるでヤクザのごとく足下に転がる骨鎧のゴブリンにそう吐き捨てるヤシロ。 しかし言われている当の本人、というか当のゴブリンは足下に転がったままぶつぶつと何かを呟いていた。
「何 故だ ? 何 故 ・・ ・・腕 が治 ら ない ・・・・い や 、再 生が 発 動し て いな い ?!」
骨鎧のゴブリンが言うとおり先程尻尾で刺された腹は少しづつ治っていっているが、その前に潰されたゴブリンの両腕は二の腕から先が消えたまま元に戻っていなかった。
そんな中ぶつぶつと再生が発動しない両腕に疑問を呟き続ける骨鎧ゴブリンに俺は近づく。
腕の中にいるサクラとモミジは泣き疲れたのかうとうととしているが二人の両手は俺の着ているシャツをふわふわの胸毛も巻き込んでガッチリと掴んでいた。 そしてハティアちゃんもボロボロと涙を流してはいないが少し落ち着いたのか今は肩でしゃくり上げる程度になっているが、二人と同じように俺の胸にぴったりと引っ付いていた。
三人を抱っこしたまま俺は無造作にゴブリンに歩み寄る。 そして近づいてくる俺に気付いた骨鎧のゴブリンはぶつぶつと呟くのをやめ怯えた表情を浮かべながら残った足を使いもう一度逃げようとするがそうはいかない。
俺は無意識にいつの間にか持っていた折れた鉈に《重力魔術》をかける。 何故魔法ではなく魔術をかけたのか俺も分からない。 しかし、今の俺が望むものにはこれが正解に見えた。
しばらくすると《重力魔術》をかけた鉈が黒く変色したかと思うとそのまま折れた部分からまるで生えるかのように刀身が形成されていき最終的に折れた鉈にそっくりな一メートルほどの真っ黒な剣がその手に握られていた。
折れた鉈から生えるかのように形成された黒い剣。 ヤシロはその黒い剣の感触を確かめるように二、三度握りしめたあと
「ふん!」
無造作に骨鎧のゴブリンに向かいその黒い剣を振るう。
「グギャ?!!」
悲鳴を上げその場に倒れるゴブリン。・・・・だがまだ死んでいない。 ヤシロが振るった黒い剣は立ち上がり逃げようとしたゴブリンの両の足を切り落とし所謂ダルマと呼ばれる状態にされていた。
「逃げるなっていったよな? おい」
ゆらりと揺れるように両手両足の無くなったゴブリンを見ながらそう言うヤシロ。 しかしその口調とは裏腹にその身から強大な殺気が漏れ出していた。
そのせいか目の前にいるゴブリンは目の前のヤシロの強大な殺気に気絶しかけるが直ぐに殺気で覚醒をするということを繰り返し、様子をうかがっていたコボルト達は降参のポーズをしたまま気絶をしていた。
「ギッ ギ ギギ ギ ・・・・・・・・」(ガタガタガタガタ)
目の前で強大な殺気を放つ人狼を見ながら歯をガタガタと鳴らし怯えるゴブリン。 そんなゴブリンの両足は腕と同様斬られた所から一向に再生が始まろうとしていなかった。
それどころか斬られた箇所からは血が一切出ておらず、そして何故か斬られてそこに転がっている足はどこからどう見ても長さが足りていなかった。
そんな長さの足りない足の片方にヤシロはおもむろに黒い剣を突き立てる。 すると突き立てられた足は剣に吸い込まれるようにして消えていった。
その光景はまるで剣に足が喰われていっているかのように見えた。
「ありがとな」
もう一つ残っているゴブリンの足に黒い剣を突き立てながらそう言うヤシロ。 場違いにも程があるその言葉。 殺気を喰らい正常な判断ができていないゴブリン以外のその場にいる全員が頭の上に疑問符を浮かべるがヤシロはそんなことに構わず優しい声音で言い続ける
「お前のおかげで《再生》がどれほど驚異かよく分かったよ。
半端な攻撃じゃさっきみたいに死んだふりををしてやり過ごそうとするし隙があれば人質を取ろうとするし。 確実に倒すまで油断するなと言うことがよく分かったよ。 だから
お前は骨も残さず殺してやるよ」
最後のその瞬間、その言葉だけ絶対零度と感じられる声音と共にそう宣言するヤシロ。 そしてその声音は恐怖や絶望と言うよりもただ"死"だけを感じさせるものであった。
その時ヤシロの体からは自身の黒い毛皮よりも更に黒い"何か"が殺気と同時にヤシロの体からあふれ出してきた。 ヤシロの体からあふれ出してきたその"黒い何か"は次の瞬間ヤシロの体から離れだし約二十ほどの球体となってヤシロの後方に浮かび始めたかと思うと、今度はその"黒い何か"の内一つの球体がその形を変え始め何かを形作ろうとし始めた。 そして最初の一つに呼応するかのように周りの"黒い何か"も変形しだしたかと思うと次の瞬間、最初の"黒い何か"が変形し終わった。
変形した"黒い何か"、 その姿はヤシロにそっくりな真っ黒な狼であった。
ヤシロそっくりの黒狼は次の瞬間天に向かって咆哮を上げる。
「ぐるるるる!!! ワオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」」
大気を震わせるような巨大な咆哮。 そしてその咆哮に呼応するかのように周りの"黒い何か"は次々と黒狼となり、最初の一頭に続くようにに天に向かって次々と咆哮を上げ始めた
「ワオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」
『ワオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』
総勢二十頭の"黒い何か"の黒狼達。 その黒狼達による咆哮の大合唱が周囲に轟き木霊する。 そんな黒狼達の咆哮にヤシロはおもむろに黒い剣を持つ片手を上げる。 すると
スッ・・・・
ピタッ!!
黒狼達は咆哮をやめた。そしてまるで軍隊のように黒狼達はその場に立ちつくし一歩も動かない。 そんな黒狼達にヤシロは命令を・・・・いや、ゴブリンに"死"を与える引き金を引いた。
「喰らい尽くせ!『群狼』!!」
その声と共に一斉に駆け出す黒狼達。 狙いは四肢を失い転がっているゴブリン。 そして狙われいる当のゴブリンは迫り来る黒狼達に悲鳴を上げる。
「いっ 嫌 だ! ! や めろ ! ! やめ てく れ ! ! 助 け 「グルア!!(ガブッ!! ブシュウウウ!!)ギャ ああ あああ あ あああ ああ あ ああ あああ あ ああ あ !!!!」
ガブッ!!! ブチッ!! グシャッ!!
周囲に生々しい粗食音が響きそれと同時に肉片と血が飛び散るなか、ヤシロはその粗食音とそれにより起こっているグロイ映像を横目に、とりあえず自身のふわふわな胸でうたた寝をしている三人にその映像が届かないよう三人の頭を更に胸の中に入れてシャットアウトする。
そうこうしているうちにゴブリンは、いや元ゴブリンといった方がいいだろう。
最早原形をとどめていない肉塊となったそれがそこに転がっていた。
しかしその肉塊も数分も経たずに血の一滴も残さず黒狼達に食い尽くされゴブリンがいたという痕跡は欠片もなくなっていた。
『ワオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』
今度こそ確実に勝ったことを宣言するように響く黒狼達の咆哮
これにてコボルト達を襲っていたゴブリン軍団は一匹残らず殲滅された。
余談だが襲われていたコボルト達、というかアセリアさんはというと
「きゅーーーー・・・・」
ヤシロの殺気に当てられ気絶していた。




