コボルトVSゴブリンVS人狼
(sideコボルトの集落)
ハクロウ族の集落は森の中にポッカリと空いた場所にあり、近くにある大きな岩山に空いた洞窟を中心に木製の小屋を建てて生活している。一族はかなりの人数がおり、数えてはいないが百を優に超える人数がこの集落に住んでいた。
しかしそんな集落は今やその影も形もない。唯一その痕跡が残るのは燃えて黒い炭となった何かの残骸と血の跡、そして洞窟に追い込まれるように密集し、洞窟の入り口を大きな板で覆い簡易的なバリケードを張っているコボルト達の姿のみであった。
バリケードの端から見えるコボルト達は全員が目に見える程疲弊しており特に武器を持っているコボルト達はその全身に大小様々な傷をおい、一部に関しては目や耳、ところによっては腕や足が無い者も見える。
そんな中、一体のコボルトがバリケードからその顔を覗かせる。
炭と泥で顔が汚れながらもその頭を覗かせるコボルトの目の先には洞窟とバリケードを囲むように立ち並ぶゴブリンの群れ。その数は見える範囲でもハクロウ族の全員よりも多いであろう。
そんなゴブリンの群れの真ん中、ちょうどバリケードの真向かいに一際大きなゴブリンがいた。そのゴブリンは座っている状態でも他のゴブリンの倍以上の体格を持ちその体には様々な生き物の骨をつなぎ合わせた鎧を着ているためものすごく目立っていた。
そんな骨鎧のゴブリンは現在手に持った皮の水筒から何かを飲んだ後盛大なゲップをしていた。
「ガルルル! あの野郎余裕ぶっこきやがって!」
「ガう、落ち着け兄さん」
「ガルルルルル! しかしスウロよお!・・・」
「ガウあ、ここで落ち着かないとあいつらの思うつぼだぞ兄さん!」
先程まで顔を覗かせていた灰色と黒が混じったぼさぼさの毛並みのコボルトが手元に置いてあった自身の得物である木の棍棒を持ち立ち上がろうとする。それを近くにいたスウロと呼ばれたこれまた灰色と黒が混じったさらさらの毛並みのコボルトが引っ張り下げる。
そしてスウロと呼ばれたコボルトがほんのちょっとだけ顔を上げゴブリン達を見、改めて喋る。
「がウ、分かってるだろう兄さん? 連中、待ってるんだよ 俺達が巣穴から出てくるその時を。 あのデカ物は俺達をおびき出すためにあんなふうに余裕ぶって挑発してるんだ。今ここで出て行ったら一瞬で周りのゴブリン共に囲まれて死ぬぞ!」
「グルア!! だが! このままでは!」
「グウウウう!! 分かってる、分かってるよ兄貴! このままじゃ俺達は・・・・・」
「グルア、おぬしら、少し落ち着け。」
「「ガうっ?! ワンロ兄じゃ(さん)!!」」
言い争いをする二人のコボルトを止めたのは灰色の毛並みを持つコボルト、ワンロと呼ばれた彼は二人のコボルトの近くによる。
「グルルルル、もう一度言おう 落ち着けおぬしら、ここで言い争っても何の解決にもならぬであろう。」
「ガルるる、分かってる、分かってるよ兄じゃ! しかし・・・・・」
「グルア!!だから落ち着けと言っておるじゃろうが!」
ワンロの強い言葉に二人は叱られた子供のコボルトのようにその耳をへにょへにょと垂れさせる。
そんな二人を見てワンロはすぐさま喋り出した。
「グルッ! グルッ! グルッウウ!!、なにを落ちこんどるのじゃ我が弟達よ。 そんな暇があるなら今すぐ準備せよ」
「「準備?」」
「グルア!! そうじゃ、戦う準備じゃ。 このままではわしらは一方的に奴らに攻められてお終いじゃ! その前に今すぐしかけあの外道共を一匹でも多く道連れに ギャン?!!」
力強く叫びながら傍らに置いた石斧を持って立とうとしたワンロの頭を後ろから現れた人物がおもいっきり叩く。
「ワウ、なにバカなこと言ってんのよワンロ」
「キュウウウウン・・いっ痛えー って、その声は姉上?!」
頭を抑えながら涙目になるワンロが自身の頭を殴ったその人物に驚いた声を上げる。
そしてワンロの言葉に反応して、ツウロ、スウロが反射的に振り返った。
そこには純白の毛並みを持つ雌のコボルトがいた。
彼女の名は「アセリア」 ワンロ達の姉でありハクロウ族最強のコボルトである。
そんなアセリアは現在その顔に呆れの表情を浮かべ目の前の三人を見つめる。
見つめられている三人は視線が合った瞬間少しだけ ビクリ! と震えていた。
「ガルア・・・・ね、姉さん もう治療はいいの?」
スウロがそう聞く。
「おおかたは片づいたワン。 でも直ぐ動けそうなのはあまりいない状態だワン。」
「ガルっつ! それじゃあ・・・・・」
「ああ、 悔しいが先程話し合った方にするつもりだワン」
そう言いながら本当に悔しそうな表情をし歯を食いしばるアセリア。それにつられワンロ ツウロ スウロ他、周りにいたコボルト達も悔しそうな表情を浮かべた。
何故か
それは彼らがこの洞窟に逃げ込んでから話し合いその結果決めたことにあった。
現在この洞窟の奥には多数の傷ついたコボルトが横になっている。そしてその多くは満足に動けない怪我人や老人がほとんどである。
彼らハクロウ族はそんな怪我人達を置いてこの場から逃げることを提案者達とそれに否定する者達で言い争いになっていた。
そしてそれに対し今この場にいない族長ゼウロの代わりにアセリアがそんな言い争いに一喝をしたその結果この中で唯一《回復魔法》を使えるアセリアが傷ついた仲間を癒し、その内動けるものを連れて行きここから逃げるというものに決まった。
そして先程のアセリアの言葉はここから生きて出るために家族といっても過言ではない一族の一部を見捨てるということが決定したということであった。
静まりかえる洞窟の中唯一外のゴブリン達を見張っていたコボルトから声が上がった。
「ワウア?!! オイ! やばいぞ!!」
焦るようなその声に先程まで静まりかえっていたコボルト達が一斉に外を見た。
そこで彼らが目にしたのは集落を囲む森から続々と増えていくゴブリン達がいた。
しかしコボルト達はそんなゴブリン達よりもその後に出てきたものに息を呑む。
ゴブリン達の後方から出てきたのは木と骨を組み合わせたいびつな十字架もどき、 そんな十字架もどきに貼り付けられているのは両足のない血まみれのコボルト
「あ、あれはハイロウ族の族長だワン」
誰かがそう呟いた後、次々に同じような十字架もどきがもの中から出てくる。そしてその度にコボルト達から悲鳴に近い声が聞こえてきた。
「ウウア、嘘だろうあいつはセキロウの族の」
「ワウ、あ、あっちはシロウ族の奴らじゃ・・・」
「ワウ、セイロウ族の奴らも」
「ワウウ! おい 今出てきたあれって!」
「ワウア?!まさかヨウロウ族まで!!」
次々に出てくる十字架もどき、その全てにはハクロウ族とは別のコボルトの族長達が傷だらけの姿で貼り付けられていた。
そしてその後ろには各部族のコボルト達が衣服を剥ぎ取られ両手と首を縛られゴブリン達に引きずられながらその姿を現した。
だがそれだけでは終わらなかった。
一拍おいた後森の中から先程の十字架よりも大きなものがその姿を現した。
しかしそれを持ってきたのはゴブリンではなく
「ワウ・・・・オ、 オークだと・・・」
ゴブリン達よりも大きな豚の顔とでっぷりと肥えた体のオークであった。 しかも一体だけではない。優に三十を超える集団がゴブリン達と共に現れる。
そしてそのオークが持ってきた十字架もどきには先程のコボルト達よりも大きな巨大コボルトがボロボロの姿で鎖で雁字搦めに貼り付けられていた。
そしてハクロウ族のコボルト達はそのコボルトを見た瞬間一人残らずその眼を見開き声を失い驚く。
「ワオ・・・・嘘だろう」
「ワウウア、マジかよ」
「あのコウロウ族までもワン」
「ワウア、たしかあいつらこの森で一番強いはず」
「ワウウ。でも、あのコボルトは」
「あり得ねえワン」
ハクロウ族のコボルト達からどよめきが溢れる。
そんな中最初からいたゴブリンの群れがにわかに騒がしくなり、それと同時に群れの中から何かが建てられていく。
それも一つや二つなどではなく複数
「ワウア?!! 何事? っつ!!」
その建てられたものを見てアセリアは息を呑む。
建てられたものは先程他のコボルトの族長達を貼り付けにしていたものと同じ骨と木で作られたいびつな十字架。
そしてその十字架には
「ワウ・・・・何て・・・惨いことを」
コボルトがその服を剥ぎ取られ、その内数名には体に矢や彼らが使っていたと思われる槍が刺さっていたりと見るに堪えない光景があった。
しかし特に悲惨であるのは女性のコボルト達であった。女性のコボルトは皆一様に服を剥ぎ取られその体には生々しい傷跡が残っている。そして男のコボルトとは違い女性のコボルトはX型の十字架に貼り付けにされその秘所はゴブリン達に暴行を受けてボロボロであった。
そんな女性のコボルトの状態に何名かのコボルトが声をかける。 彼らは彼女達の夫かその家族であろう。 声をかけると微かに動くところを見るにまだ息はあるようだ。
そんな中ゴブリン達は今度は少し大きめの十字架を建て始めた。
そしてそれに貼り付けられていたのは
「ワウ・・・・ワ・・・・父・・・さん、 母・・・さん!!!」
アセリア、ワンロ、ツウロ、スウロ そしてここにはいないフォウロ、ハティア達の母親と、父でありハクロウ族の族長であるゼウロが無残な姿でそこにいた。




