幕間 side??? 隻眼の男《後編》
「てめえ! 何者だ!」
突如現れた謎のフードの人物に怒鳴りつける盗賊の頭。
それにつられ後ろの盗賊達も次々に問い詰めと罵倒を織り交ぜた言葉を投げつけるが、フードの人物はちらりと盗賊達を見た後腕の赤ん坊をなで始めた。
「・・・・・♪」
撫でられるのが気持ちいいのか赤ん坊は目を細めてじっとしていた。
そして、その行動が癪に触ったのか、盗賊達はその額に青筋を浮かべ始めた。
そして
「無視してんじゃねえよ!」 ビュッ!!
一人の盗賊がナイフを投げた。
力一杯投げた盗賊のナイフは目で追うのがやっとの早さでフードの人物に向かってい飛んでいった。
「危ない!!」
レイスティアが地面押し倒されたまま叫ぶ。
しかしフードの人物は
「キャッ♪ キャッ♪」
未だに赤ん坊の頭を撫でていた。
そして赤ん坊ののんきな笑い声が聞こえた中、ナイフはフードの人物の目と鼻の先まで迫っていた。
ナイフを投げた盗賊がニヤリと笑う
そして
ダンッ!!
ナイフは勢いよく後ろにあった木に深々と刺さった。
「「「「「「「?!」」」」」」」
それを見ていた誰もが自らの目を疑った
「き、消えた・・?!」
盗賊達の内の誰かがそう呟いた直後
グシャッッッッッ!!!!
何かが潰れる音が響き、
「ひいっ?!」
後方の盗賊達から悲鳴が上がる
悲鳴が上がった場所に目を向ければそこには腰を抜かしている盗賊の男達
そして
「・・・・・」
いつの間にか先程ナイフを投げた男がいた場所に立っているフードの男がいた
「うぷっ おげーー!!」
フードの男の近くにいる盗賊達が次々と吐き気を催し、その内数人は我慢できずにその場で吐き出した。
何故か?
その答えはフードの男の真下にあった
遅れて辺りに濃い血の匂いが充満する
発生源はフードの男の足下、そこにはフードの男に踏まれている物体と、まるで咲いた花のように地面を彩る紅い液体があった。
フードの男に踏まれている物体は時折ピクピクと痙攣し紅い液体はほんのり暖かいようでうっすらと湯気が出ていた。
察しのいい者達はその物体が先程ナイフを投げた男の残骸だと分かった、いや分かってしまった。
「ダッリュー、嘘だろ?・・・」
フードの男の近くに立っていた一人の盗賊が足下の肉塊に呆然と呟く、そして次には怒りの表情を浮かべ目の前のフードの男を睨みつけた
「おい、てめえ!! そこ足をど(スパンッ!!)け・・ろ・・・」
盗賊の男の首が宙を舞った。
自身が死んだことに気づかずその顔を怒りの表情のままその首が地面に落ちていく。
ボトッ!!
刎ねられた男の首が地面に落ちた
それと同時に周囲の盗賊達が自らの武器に手をかけフードの男に斬りかかった
ガンッ!!
「「「「「?!」」」」」
しかし盗賊達が振るった武器は空を切り地面を叩いた。
それに気付き盗賊達はフードの男を探し周囲を急いで見渡す
ビュン
盗賊達の間に風が吹いた、ほとんどの者は気づかなかったが一部の者は気付きその風の先に視線を向けた
そこには
「うう・・・」
「ぐっ・・・」
「ああ・・・」
「・・・・・」
苦悶の表情を浮かべる兵士と冒険者達、そして彼らの前に立つフードの男の姿があった。
よくよく見ればそこにいる者達の中には盗賊達が拘束していた者達や、先程まで馬車の上にいた侍女、そして
「え?」
呆けた顔をしてフードの男の脇に抱えられているレイスティアがいた。
そんな呆けている彼女を他所に、一人の男があり得ない物を見たように狼狽えだした
「なっ! バカな! そいつはここに い?!」
盗賊の頭が自分が拘束しているはずの彼女がいつの間にか目の前の男の脇にいることに驚き、叫ぶように自身の押さえつけている物を確認し驚き言葉を失う。
「がじら・・・ぢょろじょろはなぢて」
そこにいたのはいつの間にか目の前のレイスティアと替わっていた顔面崩壊した男がいた。
「なっ?! てめえ、だれ・だ? ・・・ディックか?」
頭の男がいつの間にか替わっていた男の正体に気付き尋ねるように聞いた
「しょうでしゅかじら! 早くはなぢて」
ディックと呼ばれた男はボロボロな顔で頭の男に拘束を解くように懇願した、滑舌悪く喋るディックに頭の男は拘束を解くか悩んだ。
「ああーー!! 痛い痛い!! ああーー・・あん♡」
「「「「「え?」」」」
ディックの悲鳴の後の嬌声に周りの盗賊達とレイスティア達は一斉にハモった
しかしそんな彼らに気付かずディックは更に顔を赤くしながら
「あん♡ もう、ダメ♡ 目覚めちゃう♡ 新しい扉が開いちゃ「おらあ!! 離したぞごらあ!!(ブンッ!!)」う~~~?!」
ディックの言葉を最後まで聞かず、頭の男は青い顔をしながらディックの拘束を解き放り投げた。
よくよく見れば頭の男の腕にはびっしりと鳥肌が立ち、頭の男は自分を抱くようにしてその両手をさすっていた
その頃放り投げられたディックはというと
「のぎゃーー、 (ゴン!)あべ?! (ガン!) はぎぇ?! (ゴロゴロ) のおーーー!!(ガサガサガサ・・・)」
地面に二度バウンドした後、そのまま転がりながら森の中に消えていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その場に静寂が訪れる
「・・・さてと、 てめえ! いつの間に?!」
まるで先程のディックのことなど無かったようにフードの男を睨みつける頭の男。
(((((こいつ、無かったことにしやがった!)))))
そんな頭に周りの者達の心の声が一致した、しかし誰一人そのことは口に出さず、頭の男と同様に無かったことにしようとしていた。
「変態はいなかった」この世界で生きる者達はこれを教訓に生きているのだから。
殺気を放ちながらフードの男を睨みつける頭の男、しかしフードの男は無言を貫いていた。
「ちっ! すかしやがって、この俺「強欲のザシャ」を前に無言を貫くたあいい度胸だなあ?」
ザシャといった頭の男に護衛の兵士と冒険者達から悲鳴に近い声が出てきた
「強欲のザシャだと?!」
「あのザシャか?!」
「特Aランク犯罪者の中で上位に入るあの?!」
「嘘?! いやだ! まだ死にたくない!!」
「あいつの通った後には何も残らないって噂だぞ!」
「じゃあ、後ろの奴らは「強欲竜の目」か?!」
怯えながら口々に騒ぐ兵士と冒険者達
そんな彼らの怯えように頭の男 ザシャは満足そうな笑みを浮かべた
しかしそんな彼らとは正反対にフードの男は微動だにせず立っていた
そして
スッ
「ほえ?」 ペタンッ
「うーあ?」 スッ
「あっ ありがとうございます?」 ギュッ
フードの男は脇に抱えていたレイスティアを地面に降ろし、反対側で抱っこしていた赤ん坊をレイスティアに差し出した。
レイスティアは差し出された赤ん坊を無意識に抱き上げそのまま腕の中の温もりを確認するかのようにレイスティアは一度ギュッと抱きしめた後赤ん坊の顔を覗き込み微笑んだ。
そんなレイスティアの安心したような表情にイラついたのか盗賊達は不機嫌な顔をし始めた。
そんな中フードの男は盗賊達の方に向き直りおもむろに腰の後ろに手を伸ばし、何かを取り出し構えた。
「ほお、それがてめえの得物か」
ザシャがフードの男が取り出したものを見てそう呟く。
フードの男の手には二本の手斧が逆さまに握られていた。
その手斧は分厚くまた刃の部分はL字型になっているいわゆる薪割り用斧である。
フードの男の予想外の武器に盗賊達の内何名かの口元が歪み、後ろにいる兵士と冒険者達は絶望的な顔をしていた。
それもそのはずだろう、男の持つ手斧は頑丈そうだが所詮薪割り用斧なのだから、戦闘用に作られた斧との差は歴然
しかしそんな彼らの絶望は次の瞬間完璧に砕かれた
スパンッ!!
小気味いい音が周囲に響く、それと同時に飛び散る鮮血と宙を舞う 首
ドサッ ゴロゴロ
首が地面に落ち転がる音が終わる前に
スパンッ!!
またもや小気味いい音が聞こえ誰かの首、いや正確には盗賊達の内の誰かの首が飛んでいく
スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッ! スパンッスパンッスパンッスパンッスパンッスパパパパパパパパパパパパパパパパパーーーーーーーー
とうとう切る音が繋がるほど速くなったときには盗賊達はその半分も残っていなかった
その場にいた全員がその光景に呆然とする中盗賊達の悲鳴だけが木霊する
「なっ、何だ!いったい、どこかギャー!」
「見えねえ?! どうしオガア?!」
「あの野郎の異能ガッ?!」
「た、助け ギャー?!」
「すげえ・・・」
兵士達から驚きの声が上がる、そんな中
ガキンッ!!
一際甲高い金属音が聞こえた。
そこには手斧を持った拳を突き出しているフードの男と異能の盾を出してフードの男の攻撃を受け止めているザシャの姿があった。
「ギャハ! てめえすげえな!」
ザシャが心底楽しそうな声を出しながら、フードの男に話しかける。
フードの男はそんなザシャにかまうことなくもう片方の拳を放ち
ガンッ! バッ!!
その反動で後ろに飛び距離をとった。
「まさか、俺の部下をここまで消費させるとはな」
そういってザシャは自身の周りにいた部下の盗賊達の現状に目をやる。
盗賊達のほとんどは首を落とされ絶命しているが、その内何名かは首を守ったため、腕や足を斬られて動けなくなっているだけであった。
そんな状態の盗賊達にザシャは深いため息を吐いた後
「情けねえよな、俺の部下ならもうちょっと粘れよな。
そうだ、おいそこのお前、俺の部下にならねえか?今なら幹部にしてやる。どうだいい条件じゃねえか?」
突然ザシャは勧誘をしてきた。その場にいた者達はそのザシャの行動に驚きの表情を浮かべたが、勧誘を受けた当の本人は
「・・・・・・」 スチャ
無言で手斧を構えた。
そんな男にザシャは失望の顔をした後
「拒否するってことか、それじゃあ死ね!」
自身の持つ長剣を抜き放ち男に襲い掛かった
しかし
ブンッ「?!(ガキン!)」
ザシャの長剣が振るわれる前に男の手斧がザシャに降りかかった。その攻撃にザシャは自身の異能の【盾】を出し防御する。
しかし男の攻撃はこれだけでは終わらなかった。
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!ガンッガンッガンッガンッガンッガンガンガンガンガンーー
連続して打ち付けられる手斧、その猛攻にザシャは反撃の機会を見いだせずにいた。
「くそったれ!! だが、俺の【盾】は砕けねえ!てめえの体力は何処までもつかな?」
余裕を見せるザシャに構わずフードの男は攻撃を続ける。
そして次の瞬間
ガンッ(バキッ)
「「「「「「?!」」」」」」
異能の盾にひびが入った
それに驚く者達の耳にフードの男の声が響く
「・・・お前の異能は【盾】であって【完全防御】じゃないだろ、形あるものはいつか絶対壊れるんだよ」
男が初めて喋ったがザシャにはそれに気づく余裕は無かった。
ただ自身の異能にひびが入ったことに気をとられてしまったから
そして
バキンッ!!
一際大きな音が鳴り響きザシャの【盾】が完璧に壊れた。
そしてザシャはそのことに呆然とし、大きな隙を見せてしまった。その隙を見逃すほど男は甘くない。男はその隙を見てザシャが異能を出すときに前に出していた腕を一瞬で切り落とした。
ザシュウ!!
鈍い音が響きザシャの片腕が二の腕から先が鮮血を吹き出しながら宙を舞った
「え? あ? ぎゃあああああああ!!!」
一拍遅れてザシャの悲鳴が辺りに響いた。だが男はそんなザシャに構うことなくもう一本の腕も切り落とした。
ザシュウ!
「ぎゃあああああああ!!! 俺の!! 俺の腕がアアあああ!!」
更にザシャの悲鳴と涙声が辺りに響く
そんな泣き喚くザシャにフードの男はゆっくりと近づく
「ひい?!」
ザシャは情けない声を出しながら必死にフードの男から離れようとするが足がもつれ転んでしまう。
そんなザシャに構うことなく男はゆっくりとザシャに近づいていく、その手には先程まで逆さまに持っていた斧を普通に持っていた。
自身の最悪な未来を思い浮かべたのかザシャはみっともない声を出しながら必死に命乞いをした。
「まて! やめろ! 近寄るな! そ、そうだ俺が集めた財宝をやろう! なあ?! だから助けてくれ!!
だ、だめか?! なら俺のお気に入りの女をやろう! 元A級冒険者でいい具合の女だ! だから助けて!! いやだ いやだ! 来るなーーー!!!」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら懇願するザシャにフードの男はその手に持った手斧を振り上げそして。
ブンッ!
「いやだーーー!!!」
そしてこの日、ある貴族のお嬢様を襲った有名盗賊団「強欲竜の目」は奪う物から奪われるものへとなり消えていった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「これで良し、お嬢様!馬車の準備が出来ました」
そういって声を上げる兵士、その体は傷もなくピンピンしていた
あの盗賊達を壊滅させた後、男は自身の回復魔法を使い兵士と冒険者達の傷を治していき、兵士と冒険者達は傷跡もなく元気に動き回っていた。
そして冒険者達は今この場にいない、現在は「強欲竜の目」のアジトに行き捕まっている人や盗賊達が貯め込んでいる財宝を回収しに行っている。
ちなみにアジトの場所は盗賊達のボスであるザシャから聞いた。
ザシャはあの後殺されなかったが死の恐怖からか髪の毛が白くなり先程までと違ってどこか痩せ細った印象になったり、そのままおとなしく兵士達に他の盗賊達と一緒に捕まっている。
そしてフードの男はというと
「助けていただき、ありがとうございます。」
レイスティアにお礼されていた。
「あう! あ~う♪」
「こら、ハティアやめなさい」
ハティアと呼ばれたレイスティアに抱っこされている赤ん坊が、男に向かって抱っこして欲しいのか手を伸ばしている。
それをレイスティアはたしなめているが、ハティアはなおも手を伸ばし続ける
「あう!あーう!」
「ふふ、いいぞ、おいで」
フードの男が笑いレイスティアが抱っこするハティアを受け取る。
その時男のフードがズレはずれた。
そこには、白の近い銀髪をまるで狼のたてがみのように肩まで伸ばし片目を布で巻いたワイルドな男がいた
「ん?」
「ぽーーー」
ハティアを受け取った男が、こちらをみながらボーとし、顔を赤くしているレイスティアを不思議そうな目で見た。
「どうした? 俺の顔に何かついているか?」
男がレイスティアの顔を覗き込むようにして尋ねる。
レイスティアはそんな男の行動に一瞬パニックになるがすぐに貴族お得意の平常心を取り戻した。(若干顔が赤いけど)
「ひゃい?! い、いえ、何でもありません。それよりも自己紹介がまだでしたね。
私はヘイルム王国フェリル公爵家の次女レイスティアと申します、この子は私の娘でハティアと申します」
そういって優雅にお辞儀をするレイスティア
それに続いて男も名乗る
「俺は旅の者だ、名前はそうだな、シルバーとでも呼んでくれ」
「シルバー、様ですか?」
「シルバーでいい、レイスティア様」
「なら私もレイスティアでいいです」
「いやいや、そんな恐れ多い」
「なら他に人がいないときはレイスティアと呼んでください」
「・・・何故だ?」
「だめ、ですか?」
「ぐっ、分かりました、分かりましたよレイスティ、ア」
「はい、シルバー」
フードの男、シルバーに名前を呼ばれたレイスティアはうれしそうにその口元を緩ませた。
「お嬢様」
「ひゃい?!」
突如レイスティアの後ろにいつの間にか侍女が立っていた。
レイスティアはおかしな声を上げて思いっきり振り向いた。
「ヨルム! 急に後ろに立たないでよ」
「申し訳ありませんお嬢様、しかしお嬢様も悪いんですよ、私だってシルバー様にお礼を言わないといけないのにお嬢様が甘い空気を出すから」
「あ、甘い空気なんて出していません!」
「本当にー?」
「本当です!!」
「まあ、いいでしょう。それよりも、シルバー様、今回はお嬢様と我々を助けていただき真にありがとうございます。つきましてはお礼の方は」
「いや、いいぞ」
「え?」
「お前達は町に向かっているのだろう?」
「ええ、正確にはフェリル公爵領にですが」
「ならそこまででいい、俺はただ何処でもいいから人のいるところにいきたいだけだからな」
「そんな! それではフェリル公爵家の威信に関わります!」
「そうか、なら住む場所を提供してもらえないか?」
「住む場所ですか?」
「ああ、俺は見ての通り一文無しだからな住む場所どころか泊まる場所すら危ういからな」
「分かりました、ではそうさせていただきます」
そういってヨルムはその場を離れた
そしてしばらくして馬車が直り一行はその場を後にする。
レイスティアとシルバー、この二人は後の世、ヘイルム王国の歴史にその名を残すのだが、今はまだ誰も知らない。




