引っ越し先(は)、〇〇 2
「メエ・・、メエメ?(なあ・・、ほんとにここなのか?)」
隣で、ボスがそう聞いてきた
「ああ、まあ実際はこの向こう側だけどな」
「メエ・・(そうか・・)」
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しばらく、場に無言の静寂が訪れた
「『メエ・・』メッ メエア! メエア、メエメ!(『そうか・・』じゃ ねえよ! 何考えてんだ、お前!)」
しかし、その静寂は、ボスの叫びに似た突っ込みによって破られる。
「どうした、急に?」
急に叫び出したボスに不思議そうな目を向ける
「『メエメ?』メエ メエア! メア! メエア! メエオ?! メア! メエア!(『どうした?』じゃ ねえよ! どう見てもこれ壁! KABE! だろう?! 先なんてねえじゃねえか! どうやって向こう側に行くんだよ!)」
そう言って荒ぶるボス
現在、ヤシロ達の目の前には壁があった。
壁 というよりは、崖のようなものなのだが、その角度は九十度近く、まさしく壁と表現するにふさわしかった。
そんな荒ぶるボスに、ヤシロは静かにこう言った
「ふっ、ボスよ何を言っている。壁といえばどうするか分かるだろう?」
「? メエオ?(? どうすんだよ?)」
ヤシロの問いにボスは聞き返す。
それにヤシロは、胸を張りこう答えた
「古今東西! 壁は突き破り、乗り越えるものだ!
さあボスよその立派な角でこの岩壁に風穴を開けてやれ!」
「メエメ! メオメーーー!・・・ メッ、メエオ!!!(よっしゃア! この角で立派な風穴開けたらーーー!・・・ てっ、出来るか!!!)」
そんなコントをしたあと、ボスはヤシロに「メエアー!「くたばれー!)」と、突っ込み代わりのドロップキックをし、ヤシロはそれをなんなく避けていた。
男子二匹のコントのような何かを横目に、比較的まともな女子
クレア ノア 姐さんの三人は岩壁を見ていた
「んー、でも引っ越し先って、この向こう側なんでしょう?
どうやって行くの?」
「上っ、て、でしょ、うか、?」
「メエメエ、メエア メエオ(でもかなりの高さよ、しかもほぼ直角 上るのは至難だと思うわ)」
クレアとノアが岩壁に手を当てながら上を見上げる。
しかし、岩壁の頂上は見えず、どれだけあるか、分からなかった。
ヤシロやクレア、ノアといった実力者ならば頂上まで行けるかもしれないが、今回は五十近い山羊達がいる。全頭を向こう側に持っていくとすれば、いったい何日かかるのか。
そんな風に考えていたクレア達。
しかしそのような問題は特に意味がなかった。
「ああ、頂上まで行く必要ないぞ」
そうヤシロはクレア達に告げた、傍らではボスにチョークスリーパーをかけており、ボスは降参という感じでその蹄をヤシロの腕にタップしていた。
「えっ? でも、この向こう側なんでしょ?」
クレアが「何で?」という感じで聞いてくる
ヤシロはそんなクレアに やれやれ という表情で答える。
「いや、こんな岩壁上るわけないじゃん。
ついてきな、この先に向こう側に行ける道があるから。」
そう言って歩いていくヤシロ、ちなみに傍らではボスがピクピクと痙攣しながらひこずられているが、しばらく誰も何も言わなかった。
スタ スタ スタ スタ スタ スタ
ゾロゾロゾロゾロゾロゾロゾロゾロゾロ
スタスタと歩いていくヤシロの後ろを、ゾロゾロとついて行く山羊達。
彼らは岩壁に沿って歩いている。
ちなみに、ボスはヤシロのロックが外れているが、しばらく息が出来なかったためか、少し顔色が悪い。
今もグロッキーな顔でヤシロの後ろを歩いている。
約十分くらいだろうか、岩壁に沿って歩いていたヤシロが不意に立ち止まった。
そこには不自然にポッカリと岩壁に穴が空いていた。
「ほら、このトンネルを抜けたら向こう側だ」
そう言ってトンネルを指差しした後、ヤシロはその中を進んでいった。
クレアやノア、ボスや姐さんは物怖じせず入っていくが、他の山羊たちは恐る恐るという感じでトンネルの中に入っていった。
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ピチャン!!ーーー
ピチャン!!ーーー
ピチャン!!ーーー
水の落ちる音が聞こえる
トンネルの中は薄暗く、天井から落ちてくる雫以外音も一切ない。
「おーい、ついてきてるかー?」
俺は後続の組に確認するため大きな声を上げた。
「ついてきてるよー」
「あうああー」
「きゃうああ」
「いやお前達は俺の上にのっかてるから、分かってるから」
トンネルの中は暗く、正しく一寸先は闇状態なのだが、クレア達はいつも通り、俺の背中に乗り移動していた。
「しっ、かり、ひ、っつい、て、る」
ノアも1拍遅れて返事をする、
いやノアさん
「あんたも何、自然に俺の背中に乗ってるの」
ノアの返事は俺の背中から聞こえた。
なにげにクレア達と同じように俺の背中に乗っているノア。
つか、何でみんな俺の背中に乗るの?
「許可、なら、取った、クレ、ア姉さ、んか、ら」
「うん、そこは俺に取ろうね、まあいいけど」
何で俺の背中に乗る許可をクレアに取ってんだ?
そんな事がありながら、しばらくして、後ろから返事がやっと返ってきた。
「メエオアー、メエメエオ(ゴンッ!!) メエ?! メエメエエ(ズルッ)メッ! (ビタン!!)(ズドン!) メエエエエエ?!!!
(真っ暗で見えねえなー、ここ今どこだ(ゴンッ!!) あ痛?! なんかぶつかっ(ズルッ)滑ッ! (ビタン!!)(ズドン!) ぎゃあああああ?!!!)」
「メエ? メエア?(あら? 何か踏んだ?)」
ぶつかる音と、滑る音と何かを踏む音、そしてボスの悲鳴がトンネル内に響く。
「メエア! メエア!(踏んでる! 踏んでる!)」
「メ? メエアメエオ(グリグリ)(ん? ああごめんなさい(グリグリ!))」
「メエアオ?! メエオ! メエ! メエエ! メエエア! メエエアオメエ!(何でグリグリするの?! 足どけて! 足! 背骨がやばい! 変な音鳴ってる! 潰れるようなきしみが鳴ってる!)」
しばらくボスの非難めいた悲鳴がトンネルの中に木霊した。
てか、前々から思ってたけど、姐さんドSなの?
え?ボス限定?そうなのノアさん
それからしばらく、ボスの悲鳴をBGMにトンネルの中を歩いていたが、やはりこの暗さのせいか、後続の山羊達の数匹が壁にぶつかる音がした。
まあ、暗いからな。
なので、俺はあるものをつけた。
実はこのトンネルの壁に凹みを作り、そこに獣の油で作った簡易的なロウソクを立てているので、それに雷魔術を使って火をともしていった。
ほんのりとだが明るくなるトンネル内、そして段々と周囲の状況が見えてきた。
何で、ボスはボロボロで姐さんちょっと毛並みが良くなってるの?
その後、背中のクレア達から「こんなのあるならさっさとつけなさい」と軽いお叱りを受けたが、そのまま出口まで歩いていった。
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果てしないトンネルの先から光が見えた。
どうやら出口についたようだ。
俺は手で影を作りながら出口に向かって歩く、つか、まぶしいな。
そして長い長いトンネルを抜けた先には。
「きれい」
クレアがその光景に無意識に感想を口に出す。
そこには緑生い茂る、美しい世界があった。
「メエオ・・・(すげえ・・・)」
ボスか、はたまた別の山羊が呟いたのか、その言葉に周囲の山羊達が同意した。
「何ボーっとしてんだ? 行くぞ」
俺は、この景色に見とれていた山羊たちに、一声かけてから歩き出した。
遅れてだが、一頭一頭徐々に歩き出した山羊達は後をついてくる。
「ねえ、ヤシロ、聞いてもいい?」
「ん? 何を」
「さっきのトンネルだけどさ、
作ったのヤシロだよね」
クレアは先程のトンネルに違和感を覚えていた。
何故かというと、あのトンネル一寸の狂いもなく、真っ直ぐだったのだから。しかも道もまるで半円のように中心がへこんでいた、自然に出来たにしては違和感がありすぎる。
「何でそう思うんだ」
「だって、きれいすぎる。普通はあんな風にしっかりとした穴は空かない。まるで何かで貫いたような感じだった」
クレアはそう言って俺をじっと見つめた。
俺はそんなクレアを見て、観念したかのように首を振った
「やれやれ、見破られたか。そうだよ、あのトンネルは俺が空けた」
「やっぱり、でもどうやって?」
「魔銃だよ、今俺が背負ってる大型のな」
そう言って俺は背中の魔銃を指差した。
「まあ、あのトンネルは事故の産物みたいなもんだからな。
試し撃ちであの岩壁にフルパワーで撃ったらあんな穴が出来ちまってな、その穴通っていったらこの場所見つけたんだよ」
俺は正直にあのトンネルが出来たのかを話した。
そしたらクレアに呆れられた顔をされ
「試し撃ちで岩壁に穴空けるって、バカなの」
ひどいこと言われた。
でもこんないい場所見つけたんだからいいじゃない。
そんなたわいもない話をしながら、俺は目的の場所まで歩いていった




