幕間
「イヤイヤ」
「あーあーあー、私も嫌になっちゃいますー」
「もう!お二人ともいい加減にしてくださいまし!リディアやミレイユの前で!私は帝国貴族として恥ずかしいですわ!」
帝国貴族の頂点に位置するクラウンベルク家、その兄妹のやり取りはクラウディアが止めれば止めるほど止まらない。
ついにはクラウディアは顔を覆ってしまった。
「……あの!」
そのとき、ミレイユが勢いよく立ち上がった。
四人が一斉に顔を向ける。
「ど、どうしました?」
リディアが驚いて尋ねた。
「私、決めました!」
「……何を?」
「今度、あの人に会いに行きます!」
クラウディアが手を顔から離し目を瞬いた。
「今度?」
「はい!」
ミレイユは力強く頷いた。
「今日みたいに、五人で押しかけるんじゃなくて、私一人で!」
「……ミレイユ、まだお身体も回復されてないのですよ?」
リディアが困ったように眉を寄せた。
「まだ、お身体も回復されていないのですよ?」
「もちろん、すぐには行きません!ちゃんと休んでもらって、元気になった頃に」
ミレイユは胸を張った。
レオンハルトが真面目な顔をしたと思えば、静かに笑った。
「どうして、そこまで?」
「だって、すごいじゃないですか!私たちと同じ生徒なんですよ?しかも平民課程の!それなのに、あれだけの魔物を相手に戦ったなんて!」
ミレイユは興奮気味に答えた。
「……ええ」
「私、話してみたいんです。どういう訓練をしたら、そんなに強くなれるのか。どんな剣術を使うのか。それに、どうしてあんなに頑張れたのか!」
その勢いに、クラウディアが呆れたように息を吐いた。
「……貴方、結局は剣術の話がしたいだけではありませんの?」
「そ、それもありますけど!ちゃんとお礼も言いたいんです!」
ミレイユは慌てて首を振った。そして、少しだけ声を落とした。
「……今日、皆さんあの方のお顔を見たと思います。包帯だらけで、ほとんど動けなくて。それなのに、私たちが揉めているのを見て、起き上がろうとしていたんです」
「……ええ」
リディアが頷いた。
「私何だか申し訳なくなってしまって。だから、今度はちゃんと元気なときに会いたいんです。それで、ありがとうございましたって、普通に伝えたい」
ミレイユは、少し照れくさそうに笑った。
その言葉を聞いて、リディアが微笑んだ。
「……そうですね、私もそう思います」
リディアは、静かに頷いた。
「今日のようなことがあった以上、今すぐお会いしようとするのは得策ではないでしょう。ですが、感謝の気持ちまで諦める必要はありません」
「……はい!」
「そのときは、私もご一緒してよろしいですか?」
ミレイユの表情が明るくなった。
「もちろんです!」
エリシアは、そんな二人を見ながら微笑んでいた。
「……ふふっ。楽しそうですわね」
クラウディアは肩をすくめた。
「まったく。貴方たちは随分と気が早いのですね」
「……クラウディアさんは、会いたくないんですか?」
ミレイユが尋ねる。
「そういうわけではありませんけれど」
クラウディアは、少しだけ顔を背けた。
「私も、あの方がどのような人物なのか、興味はありますわ」
「だったら!」
「ですが、まずは休養が先でしょう」
ぴしゃりと言い切る。
「それに、我々も明日には学園へ帰還するのです。今は自分たちの身体を休めることを考えなさい」
「……はい!」
ミレイユは、元気よく返事をした。
「……兄上」
「何でしょう」
「ひとつ、伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ」
「兄上は、あの勇士様に何を期待しておられるのですか?」
その問いに、レオンハルトは少しだけ目を細めた。
「……期待、ですか」
「はい、なんだかそう見えましたわ。そしてそんな時の私の勘は大体当たります」
エリシアは微笑み、兄に問う。
リディアとミレイユが顔を上げた。
クラウディアも、黙って二人を見つめている。
レオンハルトは、しばらく考えてから答えた。
「……興味はあります」
「……興味?ですか?」
「ええ」
彼は、卓上の地図へ視線を落とした。
「平民課程の生徒が、あれほどの魔物を相手に戦い、《戦士の咆哮》まで使用した。しかも、共和国の生徒たちは彼を勇士として迎え入れている」
その指先が、森の中央を指した。
「普通ではありません」
「……そうですわね」
「ですから、どのような人物なのかを知りたいのです。ただし、彼の力を利用したいと考えているわけではありません」
エリシアは、静かに兄を見つめた。
「……本当に?」
「少なくとも、今は」
レオンハルトは微笑んだ。
「一度も言葉を交わしたことのない方について、あれこれ判断するのは早計でしょう」
エリシアも微笑んだ。
「では、私も楽しみにしておきます」
「何をです?」
「いつか、あの方とお話しできる日を」
彼女は、窓の外へ目を向けた。
「……少し、不思議な気がするのです」
「不思議?」
「はい、昨夜まで、お名前すら知らなかった方なのに、今ではこうして皆がその方のお話をしている」
エリシアは両手で持つティーカップに目を落としながら静かに話す。
窓の向こうでは、まだ共和国の宴の明かりが見えていた。
「きっと、それだけのことをなさったのでしょうね……」




