第七章
宴は、夜が更けるまで続いた。
共和国の生徒たちは相変わらず大声で笑い、歌い、杯を掲げている。
神聖国の騎士や生徒たちも、次第にその賑わいへ馴染んでいった。最初は食事をしていた者たちも、共和国の生徒に誘われて杯を交わし、いつしか一緒に歌い始めている。
もちろん、誰もが騒いでいたわけではない。
亡くなった仲間を思い、一人で座っている者もいた。
それでも、誰もその姿を咎めなかった。
笑いたい者は笑い、泣きたい者は泣く。
誰かが杯を掲げれば、また皆で歌う。
そうして夜は更けていった。
広場の中央では、トーマが毛布に包まれて休んでいた。
マシューは、その顔を覗き込む。
「トーマ」
「……ん……」
「……このまま寝てもいいんだよ、みんなで運ぶから」
「……おう……」
ぼんやりとした返事が返ってきた。
マシューは小さく息を吐き、広場の入口へ目を向けた。先ほど、あそこで起きたことを思い出す。帝国と王国の五人。共和国の生徒たちの怒り。そして、セレスティアの仲裁。
誰も、間違ったことを言っているわけではなかった。少なくとも、マシューにはそう思えた。ただ、それぞれに守らなければならないものがあった。譲れないものがあった。
その違いが、あの場ではどうしても埋まらなかったのだろう。
「ねえ、トーマ」
「……ん?」
「キミさ」
そこで、言葉が止まった。
聞きたいことは山ほどあった。どうして一人で戦ったのか。どうして逃げなかったのか。どうして、あんなになるまで無茶をしたのか。そして、どうして自分を置いていったのか。
けれど、今は何も聞きたくなかった。
こうして生きて隣にいてくれる。
マシューにとってはそれだけでもう十分だった。
「……何でもない」
マシューは小さく笑った。
「おう……」
トーマは、ゆっくりと目を閉じた。
その傍らでは、カイルとシャルロッテが何やら言い争っている。
「だから、そっちの皿は俺っちのっす!」
「知らんわ!名前書いとらんやろ!」
「さっき取っといたんすよ!」
「ほんならちゃんと見張っとき!」
「理不尽っす!」
マシューは、笑ってしまった。
「ましゅー……」
小さな声がした。
「……ん?何、トーマ?」
顔を近づける。
「……にぎやかで……たのしいな……」
マシューは優しく笑った。
「うん、楽しいね」
トーマの髪をそっと撫でる。
広場では、再び歌が始まっていた。
帰らなかった仲間たちの名を歌に乗せ、生き残った者たちは杯を掲げる。
その歌声を聞きながら、トーマは目を閉じた。
共和国の生徒たちが自分を守ってくれたこと。神聖国の魔法が、あの森へ降り注いだこと。そして、今こうしてマシューが隣にいること。
まだぼんやりとした頭では、昨夜からの出来事をうまく思い出せなかった。
それでも、安心して眠れるということが、ひどくありがたかった。
マシューは、眠りに落ちたトーマの顔をしばらく見つめていた。
やがて、その肩まで毛布を引き上げる。
「おやすみ、トーマ」
返事はなかった。
広場の焚き火が、ぱちりと小さな音を立てた。
歌声はまだ続いている。
笑い声も、杯の触れ合う音も、夜の森にはよく響いた。
マシューは寝台の傍らに腰を下ろし、眠るトーマの手をそっと握った。
その手は、もう震えていなかった。
第七章 我等の流儀、侵すべからず 了




