ダンジョン受付の仕事Ⅱ
僕は二人を受付横のテーブルへ案内し、二枚の書類を差し出した。
「まずは必要事項を書いてくれるかな」
「はい!」
二人は椅子に腰を下ろし、書類へ目を落とす。
「えっと……名前、生年月日、出生地、現住所……」
レオンは小さく読み上げながら、ペンを走らせていく。
「これ、得意戦術って剣術とかですか?」
「そんな感じだね。得意な戦い方を書いてくれればいいよ」
「じゃあ俺は槍術ですね」
ギークが迷わず書き込み、レオンも続いてペンを動かした。
「まあ、君たちが剣と槍を使う近接型の攻撃なのは、昨日見て知ってるけどね」
そう言うと、二人は少し照れくさそうに笑った。
――やっぱり若いな。
こういう素直な子を見ると、つい応援したくなる。人の笑顔には、その人の育ちや人柄が表れる。
ヴァレリアと同じように、この二人もどこか真っ直ぐな心を持っているのだろう。
「なるほどね」
レオン君は16歳。剣の攻撃で、出身はこの王都エンペルトから百キロほど離れた田舎の村育ちのようだ。ギーク君はレオン君より二つ上の18歳で、同じ田舎の村で育ったようだね。
「二人は田舎から来たばかりだから、Gランク冒険者ね。パーティー名は決めてないないのかな?」
「そうなんですよ。まだ二人だしいいかなって」
「それでパーティーリーダーは?」
「一応こいつです」
ギークがそう言うとレオンは照れ臭そうに「どうも」と頭を掻いていた。
「年上のギーク君じゃないのかい?」
「レオンのほうが強いんですよ。強いだけですけど」
ギークがそう言うと「うるせえ」とレオンは悪態をついていた。しかし、その悪態には二人の友情が垣間見えた。
「ところで、このダンジョンドームがどういう場所か知っているかな?」
二人は同時に首を横へ振った。
「ダンジョンは数千年前、この地で発見された世界初の巨大地下ダンジョンなんだ。当時は魔物が地上へ溢れ出して、多くの村が滅びた」
「えっ……」
「そこで王国は入口を封鎖するため、この城塞を築いた。最初は防ぐための建物だったんだよ」
「それが今のダンジョンドーム……」
「そう。時代が変わって、冒険者たちが魔物を討伐し、資源を持ち帰るようになった。だから今では冒険者を支える施設へと姿を変えたんだ」
僕は周囲へ視線を向ける。
「受付、医療施設、鍛冶屋、商店、転移施設、王国騎士団の支部。冒険者に必要なものは、この中でほとんど揃う」
「都ってやっぱりすげぇ――」
レオン君はそう言って目を輝かせていた。田舎出身特有の反応だね。
「クエストだけは昨日来てくれたギルド酒場で受けることになるけどね」
「でも俺たちは先にダンジョンで経験を積んでからクエストを受けたいです」
「強くならないことには、クエスト受けて失敗とかダサいからな」
レオン君のあとにギーク君がそう続いた。
「ダンジョンでもお金を稼ぐことができるし、二人にはせいぜい頑張ってほしい。他に質問はあるかな?」
「ダンジョンカードってどんなカードなんですか?」
「ダンジョンカードは冒険者カードとは別の身分証みたいなものだね」
「身分証?」
二人は声を揃えてそう聞き返してきた。
「そうだよ。ランクや最終到達階層、討伐した魔物なんかが自動で記録される。カードを失くさない限り、功績が消えることもない」
「カードを無くしたらどうなるんですか?」
「ギーク君、いい質問だね。結論から言うと、お金を払ってカード維持するか、ダンジョンの功績がリセットされるかだね。多くの人はダンジョンの功績を維持したいために、高額報酬のクエストを受けて貯金する人が多いかな。何しろ500,000リベラもするからね。手数料が高いとは僕も思うよ」
「俺たち頑張っても半年かかるぞ。多分」
「まあ、新米冒険者だとそうなるね。だからくれぐれも無くさないようにするんだよ」
「そうですね。特にこいつは――」
ギーク君はそう言ってレオン君のほうに視線を向けた。物を無くしやすいらしい。
「これがダンジョンカードだ」
ダンジョンカードを受け取った二人は、まるで玩具を与えられた子供のように目を輝かせていた。
「俺たちさっそく行ってきます!」
「ああ。くれぐれも無茶はしないように。何かあれば冒険者カードの裏面にある魔方陣に手を翳し、救助要請と大まかな内容を念じてくれればいい。すると魔力を消費して僕たちに報せが届く。王国兵が救助に向かってくれる」
「それだと安心だな」
「俺は頼りたくないから、できるだけ二人でなんとかしようぜレオン」
「そうだな」
二人はそう言って熱い握手をしていた。僕が「行ってらっしゃい」と声をかけて見送った。
その業務から昼過ぎになった頃。
「暇ですね」
「暇でいいじゃないか。トラブルがないってことだよ」
そんなやりとりをしていると、ダンジョンドームにピー、ピーという警報ブザーが響き渡った。その瞬間、ダンジョンドームの職員のほとんどが、僕の方を向いた。
「ほら、言わんこっちゃない」
思わずため息をつきながら頭を抱えてしまった。
「私の出番ですね」
指を組み、肩を回すやる気に満ちているヴァレリア。トラブルが好物って普通に変な受付嬢だよね。
「それで、どんな内容なのかな?」
「そうですね~」
救難信号には信号が発せられた階層と、おおまかな内容が記されている。
「下層の8層でBランクの魔物が大量発生――」
「それはおかしいね。何かの間違いじゃないのかい?」
「いえ、本当みたいですね。思ったより深刻かもしれないですね」
「なかなか厄介ごとだね。僕も知りたいから一緒に行くことにするよ」
「Bランクが大量発生って結構危ないですよ?」
「え、ヴァレリアが守ってくれたらいいじゃない。ダンジョンの知識は僕のほうが圧倒的に上だ。事件の究明に繋がる」
僕がそう言うとヴァレリアは「分かりました」と諦めてくれた。
「決まりだね。皆、Bランクの魔物が下層の8層で大量発生しているらしい。医療班は万が一に備えていてほしい。受付の皆は王国兵に従い適切な対処を」
「手が空いている人だけでいいわ。王国兵も私達について来てください」
すると、王国兵の数名が不服な表情を浮かべていた。
「なんで、受付嬢に指示されないといけないんだ」
突っかかられたヴァレリアはむすっとした表情を浮かべ、小さく口を開いたときだった。
「貴様、今なんと言った?」
「いや、だから受付嬢に指示される――」
並々ならぬ、兵長の迫力にそれ以上口を開けない王国兵。すると、兵長は大きく息を吸い込み、次には怒声にも似た大声を発していた。
「立場をわきまえろ! ヴァレリア様はあのノクターン家の長女様であられる! 不服ならば死刑にも値するが、その覚悟をもって発言しているのであろうな!?」
うわあ。正体言ってしまったね。でもまあ、聞き分けが悪い王国兵には、これくらいの灸据えないといけないか。すごい緊張感が走ってるけど。
すると、騒然とする王国兵たち。動揺している王国兵は、全員先輩王国兵からゲンコツを食らっていた。
「ありがとうございます兵長」
「いえいえ。将軍様の妹様の存在を知らないとは――こちらの教育不足です。あのバカ者の処罰はいかように?」
そう言って兵長は、ヴァレリアに無礼な態度をとった王国兵の頭を抑えつけた。
「処罰などいりません。その代わりしっかり働てもらいますから」
ヴァレリアがそう言うと、無礼な態度をとった王国兵が、敬礼をして「申し訳ございませんでした!」と力強く謝罪をした。
「さて行こうかヴァレリア、兵長たちも」
「もちろんです」
ヴァレリアはそう言って先陣を切った。
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