王都最高峰の晩餐Ⅰ
「これまた随分とお高いお店に――」
王都のメインストリート。周囲は高級宝飾店や老舗テーラーが並ぶ一角。その中でも一際落ち着いた佇まい。貴族でも予約待ちのお店【レトワール】。
三階建ての白い石造り。深緑のひさしに金文字の店名が映える。真鍮のランタンが暖かな光を落とし、ウォールナットの扉の向こうには煌びやかなシャンデリアが揺れていた。
制服姿のドアマンが出迎えてくれた。豪華というより品格を感じる建物だ。
「入りましょう」
「ああ」
「お待ちしておりましたノクターン様、ジャック様」
と、ウエイターに店内に案内された。ヴァレリアの名前はともかく、僕の名前まで把握しているのか? 高級なお店というのは接客が徹底されているな。やっぱり僕にはこういうお店合わないかも。
店内へ足を踏み入れると、大理石の床と高い天井が迎える。壁には風景画が飾られ、客席はゆったりと配置されている。生演奏のピアノが静かに流れ、この国を代表する貴族たちが思い思いの時間を過ごしていた。
ウェイターも全員落ち着いている。ノクターン家の長女、ヴァレリアが来店しても、毅然とした態度のままだ。
ウエイターに案内されて腰をかけた僕たち。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「白ワインで」
「私も同じで」
「かしこまりました。それでメニューになります。決まったらお呼びください」
そういって渡されたメニュー。本日のコースと書かれたメニュー。意味はもちろん分かる。ノクターン閣下にも連れられたことがあるお店だからね。でも慣れないものは慣れないものだ。
~レストラン【レトワール】 季節のコース~
アミューズ 月光貝と真珠草のジュレ
前菜 赤喉竜魚皮霜造り 藻塩添え
スープ 黄金マンドラ茸のポタージュ
魚料理 クリスタルフィッシュのポワレ
メイン① 銀牙猪のロースト
メイン② 黒翼獅鷲の胸肉の低温ロースト
デザート 月苺のミルフィーユ
食後のお飲み物 コーヒー・紅茶
メインと食後のお飲み物を選んでください。
と、こんな具合のメニューだ。
「どれも高級食材ばかりだね」
「そうでしょ? 代表は自炊しているイメージあるので、たまにはこういうのもいいかなって」
「そ――そうだね」
幼少の時に、銀牙猪や黒翼獅鷲を倒して、山賊焼きにして食べていたって言えないな。だからこそ、ここの料理人がどんな風にこの子たちの素材を引き出すのかは気になる。
「ヴァレリアは何にするの?」
「黒翼獅鷲胸肉の低温ローストですかね。胸肉って固いイメージありますけど、ここのお店の胸肉すごいんですよ」
ヴァレリアはそう目を輝かせながら僕に熱弁してきた。確かに胸肉は固い。タンパク質は100gで35gと旅では重宝される部位だ。しかし、僕はどちらかと言うともも肉や尻尾のほうが好きだ。あと、素材になることが多くて知られていないけど、頭も美味しい。故に気になる――。それを凌ぐ美味しさになるかどうかを。
「僕も気になるしそうしよう」
挙手をしてウエイターを呼ぶと、ヴァレリアがメニューを通してくれた。呼んだと同時に到着した白ワイン。フルーティーな香り。これは水のように飲んでしまうやつだな。
「本日の白ワインはマーズベル・スプランデュールシャルドネ・ソレイユとなります」
僕がヴァレリアを見ると、ヴァレリアは首をブンブンと左右に振った。
「二百年以上続く名門ワイナリーの代表作でございます。最近では流通が少ないので、価値が上がってきております。ノクターン様とジャック様に、ぜひ試してほしいと料理長が」
「うちのパパが根回しとか?」
「しておりませんよ。ノクターン様が久々に来店されたので、料理長が張り切っているのです」
「なるほど。でも料理長も元気そうでなによりです。ありがとうございます」
「いえいえ。それでは素敵な夜をお過ごしください。すぐにご用意致します」
ウエイターはそう言って厨房の方に向かって行った。
「随分と歓迎されているね」
「パパと料理長は長い付き合いなんですよ。私が小さいころから料理長。今では王宮に招待されて料理を披露するくらいの一流シェフ」
「なるほど」
「とりあえず乾杯しましょう。お疲れ様です」
「お疲れ様」
僕とヴァレリアはグラスを重ねて小さい音を鳴らした。風味を感じてスワリング。そして口に運ぶ。フルーティーな香りが鼻に抜ける。そして僅かに感じるスパイシーな風味。これは僕は水のように飲んでしまうな。酔う気もしないし。
「それで? あのあとはどうなりました?」
「まあ隠していても仕方ないからね」
僕がそう返すとヴァレリアは生唾を飲み込んだ。
「上位魔族を数体片づけたあと、将軍魔族が五体出てきたんだ」
「ジェ……将軍魔族が五体!?」
ヴァレリアが大声を出したせいで、視線が僕たちに集まった。
「声が大きいよ」
僕がそう言うとヴァレリアは口を手で塞ぐ。
「どうやって無傷で帰ってきたんですか」
「別に将軍魔族とは戦ってないからね」
「五体も出てきてですか? 将軍魔族ってSランクの魔物ですよ?」
「知ってるよ?」
「知ってるよって――」
「昔は王国指定最高戦力だったと言えば、納得してもらえるかな?」
「……もしかして国剣ですか?」
「いや、違うよ。暗任機動部隊、通称暗機の団長だったのさ」
「暗機の!? 凄いじゃないですか! そうか、暗機だったら納得がいきますね。通りで私が知らないわけだ」
「暗機は全く素性を明かせないからね」
まあ嘘は言っていない。国剣になる前にいた小隊だからね。もう三十年も前のことだけど。
「でもパパから聞いたことないですね。教えてくれればよかったのに」
「だって僕が十七歳のときだもん。産まれてないよ。どちらにせよ」
「十七歳で団長!? て……天才がいる。信じられないくらいの落ち着きはそこからきているんですね」
「まあそんなところだね」
ようし! これで僕が英雄スルトと明かす必要がなくなったぞ。
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