ヴァレリアの父Ⅳ
「そういえば僕、剣持ってないですよ」
「心配するな、最近覚えた魔法があってな」
「はあ」
この人は何をするんだ? と思い。ノクターン閣下の様子をじっくり見ていた。ノクターン閣下は、魔力を宿した右手で、何もない宙に手を差し伸べる。すると空間がぱかっと、開いた穴が出現した。
「この剣がちょうどいいか」
空間の中をゴソゴソといじって何かを引っ張り出す。短剣やら、弓などの色々な武器が出てくるのはいい。だけど、折れた剣や錆びた剣まで出てくるって――。
そして僕の前にほれっと言って大剣を投げてきた。僕は慌ててその大剣を受け取った。
「閣下、僕状況が掴めないのですが、もしかしてそれはアイテムボックスでは? あと、アイテムボックスをゴミ箱代わりにしてませんか?」
「正解だだ失礼な奴だな。別にゴミ箱代わりにしておらん」
じゃあ、なんで折れた剣や錆びた剣が出てくるんだ。僕は思わず苦笑を浮かべていた。
「週に三回は冒険者として活動しているんだ。旅をしていたら、アイテムボックスが使えるようになった」
「す……凄いですね。そのご年齢で新しい魔法を覚えるなんて」
「まあ私は剣術と魔術の天才と呼ばれていたからな。結構色々な魔法を使えるぞ」
「ちなみにヴァレリアと比べたらどっちのほうが上ですか?」
「私だろう。私の場合は魔法もSランクだからな。ただ剣術と魔術を組み合わせて戦う魔剣術は特殊でな、剣術がよくても駄目。魔術がよくても駄目。剣に魔法を乗せるという過程そのものが、複雑で難解なんだ」
「つまり、魔法単体では上だけど、魔剣術になると話は別で負ける」
「そういうことだ。ようし準備はいいか?」
「もちろんです」
「なら行くぞ」
その言葉と同時にノクターン閣下は完全に姿を消した。魔力の気配もない。
「魔剣術《夜隠》――ですか」
普通であれば、この技を披露された側にとっては大きな不利だ。姿を消されて魔力の気配もないとなると、太刀打ちできない――そう思うはず。
「ここですね」
僕は大剣を頭上に構えると、キインという刃と刃が重なり合う音が響いた。姿を現したノクターン閣下はニッと笑みを浮かべて、左掌を向けてきた。
妖しく光り輝く掌には、魔力が集中していた。
ゼロ距離のエネルギー波。僕は空いている左手でそのエネルギー波を弾いた。
弾かれた紫色のエネルギー波は、空に天高く舞い上がっていく。
僕が押し返すとノクターン閣下は空中でくるくると回転して再び夜破を構えた。
「さすがだな」
「やめてくださいよ。僕が森の方へアレを弾き返していたらどうするんですか。辺り一帯吹き飛びますよ?」
「判断力鈍ってると言って喝を入れるところだな」
「そんなむちゃくちゃな。でも放ったのは閣下ですよ。王宮の文官連中が黙ってないでしょう」
「それは困るな――」
まあ、感覚を取り戻す運動としては問題ないけど。これくらい言っておかないと、ボルテージが上がってくると、もっと威力の高い魔法を至近距離で打ってくるからね。そうなると僕もどんな行動するか分からないし。
「考え事をしている暇はないぞ?」
そう言い残して消えた――と思った次の瞬間には、ノクターン閣下は僕の懐にいた。気付いた時には切っ先が目の前に――。
「甘いですよ閣下」
ノクターン閣下はぐりんと態勢を崩し、目に前にあった切っ先が離れいく。ノクターン閣下が前のめりになると、僕はノクターン閣下の顔に容赦なく左肘を入れた。
木々をなぎ倒しながら、森の奥の方へと飛んでいくノクターン閣下。
「あ、これ怒られるの僕だな」
冷静さを欠いていたのは僕の方だったみたいだ。ノクターン閣下は今の僕の攻撃で五百メートルほど吹き飛んだ。
僕が森の方へ背を向けた瞬間だった。殺気のようなただならぬ気配。森にいた小鳥たちが一気に羽ばたく。
僕が森の方へ向いた瞬間だった。背中に熱い衝撃が走った。
「判断力鈍ってるんじゃないのか?」
後ろを向くと、得意気な笑みを浮かべているノクターン閣下がいた。
「森の方に視線を向けた瞬間、背中斬られるとは」
「私は魔剣術《夜閃》を足払いで無効化されるとは思わなかったぞ」
「消えたと思ったら切っ先が目の前にあるので、衰えてないなとは思いました」
「やっぱり化け物だな。君は」
「お互い様だと思いますが」
そうして僕とノクターン閣下の打ち合いは数時間ほどに及んだ。A級の魔物と戦うより、かなりいい運動になった。まさか背中に傷を負うことになるとは思わなかったけど、負傷というレベルでもない。
ノクターン閣下も僕の肘打ちを受けているし、A級以下ならお互いに死んでいてもおかしくない攻撃力だ。
「腕は落ちていないようで安心した。ただやはり私が背中を斬ったという事実は変わりない。オルフィンとの戦いだと致命傷になる。戦いが長引けば判断力が落ちる可能性があるということだ」
「肝に銘じておきます」
「よい。もうこんな時間か。そろそろ帰ろうか」
「そうですね」
ノクターン閣下は再び魔剣術《夜道》を発動してくれた。ノクターン閣下の後に続いて入ると、元の場所に帰ってきた。
「それではまた報せる」
「ええ。色々とありがとうございました」
僕がそう挨拶をすると、ノクターン閣下は迎えの馬車に乗って町中を駆けて行った。
「さて――」
僕は結晶でできた通信具を使ってヴァレリアに連絡をした。約束をすっぽかしたらおっかいないからね。
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