↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/20

第6話 勇者くん、十年間チュートリアルで詰んでるの?

第6話です。


ハル村の会話、水、畑、出口を復旧したリリィ。


ようやく休めるかと思いきや、今度は「勇者チュートリアル」が十年間止まっているというエラー通知が届きます。


薬草を三個集めるだけの最初のクエスト。

でも、世界には薬草が二個しか生成されていませんでした。


保守担当リリィ、今度は十年詰んでいた勇者くんを見に行きます。

 夜のハル村は、静かだった。

 ほんの少し前まで、この村には言葉がなかった。

 井戸には毒水が湧き、畑は枯れ、道は消え、村人たちは外へ出ることもできなかった。

 それが今は、宿屋の窓から小さな笑い声が聞こえる。

 井戸のそばでは、まだ水を確かめるように桶を覗き込んでいる人がいた。

 畑の方では、巨大カボチャの周りに子どもたちが集まっている。

 北門には、外へ続く道がちゃんと見えていた。

 村が、少しだけ生き返っている。

 いいことだ。

 とてもいいことだ。

 だからこそ私は、今すぐ寝たかった。

「なのに」

 私は宿屋の廊下を歩きながら、目の前の赤い通知を睨んだ。

【未処理クエストを検出しました】

【クエスト名:勇者チュートリアル】

【状態:進行不能】

【経過時間:3652日】

【優先度:高】

「なんで寝る直前に勇者案件が出てくるわけ?」

 通知は無言で点滅している。

 腹立つ。

 前世でもそうだった。

 帰ろうとした瞬間にアラートが鳴る。

 寝ようとした瞬間に障害通知が来る。

 お風呂に入った瞬間に電話が来る。

 異世界に来ても、通知の空気の読めなさは変わらないらしい。

「ほんと、通知って人の心ないよね」

 階段を降りると、宿屋の女将マリナが片付けをしていた。

「あら、リリィさん。こんな時間にどちらへ?」

「ちょっと村外れ」

「村外れ?」

「勇者が十年間チュートリアルで詰んでるっぽいから見に行く」

 マリナの手から皿が落ちかけた。

「勇者様が?」

「たぶん」

「十年間?」

「たぶん」

「チュートリアルで?」

「そこは確定」

 マリナはしばらく固まったあと、困ったように言った。

「それは……大変なのでしょうか?」

「めちゃくちゃ大変。主に勇者の心が」

 私は宿屋の扉を開けた。

 夜風が入り込む。

「リリィさん、危なくありませんか?」

「危ないかもしれない」

「でしたら、村の者を――」

「いい。ぞろぞろ来られると面倒」

 私は振り返らずに手を振った。

「それに、勇者くんが十年間一人で詰んでたなら、最初に会う人数は少ない方がいいでしょ」

 マリナは少し驚いたように目を丸くした。

「リリィさんは、お優しいですね」

「違う。障害対応の基本。関係者を増やしすぎると話がこじれるの」

「そういうことにしておきます」

「そういうことなの」

 私は口を尖らせて外へ出た。

 背中越しに、マリナの声が聞こえた。

「お気をつけて」

「はいはい」

 私は夜の村を歩き出した。

     ◇

 管理画面の案内に従って進むと、村の東外れに小さな訓練場があった。

 木の柵で囲まれた広場。

 古い木剣。

 丸太で作られた人形。

 弓の的。

 そして、草地のあちこちに小さな光が浮かんでいる。

 薬草の採取ポイントらしい。

 その中央に、一人の青年がいた。

 年齢は二十歳前後だろうか。

 栗色の髪に、使い込まれた革鎧。

 腰には剣。

 顔立ちは整っているが、疲れが深く刻まれている。

 彼は膝をつき、地面を探していた。

「どこだ……」

 青年は草をかき分ける。

「あと一つ……あと一つなんだ……」

 その声は、かすれていた。

 私は木陰に立ち、管理画面を開く。

【対象者:アルト】

【役割:勇者】

【状態:チュートリアル進行中】

【クエスト名:薬草を三個集めよう】

【進行状況:2/3】

【経過時間:3652日】

【精神負荷:高】

【外部イベント到達:不可】

「いた」

 私は思わず呟いた。

「勇者くん、ほんとに十年薬草探してるじゃん」

 青年――アルトは、私に気づいていない。

 彼は小さな袋を開け、中身を確認した。

 薬草が二本。

 それを何度も数える。

「一つ、二つ……」

 数えて、黙る。

 また数える。

「一つ、二つ……」

 そして、拳を握りしめた。

「どうして……どうして三つ目が見つからないんだ……」

 その声に、胸の奥が少しだけ重くなる。

 私はゆっくり歩み寄った。

「ねえ」

 アルトが弾かれたように顔を上げる。

 目が合った。

 彼は驚き、慌てて立ち上がる。

「だ、誰だ?」

「通りすがりの保守担当」

「保守……?」

「気にしなくていい。どうせ説明しても長いから」

 私はアルトの足元を見た。

 周囲の草は踏み荒らされていた。

 何度も何度も探した跡だ。

 土には膝をついた跡。

 指で掘り返した跡。

 同じ場所を巡回した足跡。

 本当に、ずっと探していたのだ。

「薬草、探してるんでしょ?」

 アルトの顔が強張った。

「なぜ、それを」

「見ればわかる。というか、エラー通知がうるさい」

「えらー……?」

「こっちの話」

 私はアルトに近づき、彼の袋を指差した。

「今、二本?」

「……ああ」

「必要なのは三本?」

「そうだ」

「いつから?」

 アルトは視線を落とした。

「十年前から」

 その言葉は、静かだった。

 でも、静かすぎて痛かった。

「僕は十年前、勇者として選ばれた」

 アルトはゆっくり話し始めた。

「神託が下ったんだ。村を出て、世界を救う旅に出る。その前に、最初の試練として薬草を三つ集めろと」

「最初の試練が薬草三つ」

「笑うだろう」

「まあ、ちょっと」

 私は正直に言った。

 アルトは苦く笑う。

「村の子どもでもできるような試練だ。そう言われた。僕も、すぐに終わると思った」

「でも、終わらなかった」

「一つ目はすぐ見つかった。二つ目も、その日のうちに見つかった。でも、三つ目がどこにもない」

 アルトは訓練場を見渡す。

「最初は見落としたのだと思った。次の日も探した。次の週も。次の月も。季節が変わっても、探した」

「……」

「村の外へ行こうとしても、道に迷って戻された。神託には、薬草を三つ集めるまでは旅立てないとあった。だから、僕はここで探し続けた」

「十年」

「十年だ」

 アルトは自嘲するように笑った。

「勇者なのに、薬草すら集められない。そう思われても仕方ない」

 私は眉を寄せた。

「誰かに言われたの?」

「いや」

「じゃあ、誰がそう思ってるの?」

「僕自身だ」

 アルトは袋を握りしめた。

「僕が未熟だから。僕に勇者の資格がないから。だから三つ目を見つけられないのだと、ずっと思っていた」

 私は無言で管理画面を見た。

【クエスト進行状況:2/3】

【薬草生成地点:2件】

【必要薬草数:3】

【追加生成処理:失敗】

【対象者責任:なし】

 最後の一文が、やけに冷たく見えた。

 対象者責任、なし。

 つまり、アルトは悪くない。

 悪いのは、世界の方だ。

 私は深く息を吐いた。

「アルト」

「なぜ、僕の名を」

「表示されてるから」

「表示?」

「細かいことはいい」

 私はアルトの目をまっすぐ見た。

「結論から言うね」

「ああ」

「あんた、悪くない」

 アルトは一瞬、意味がわからないという顔をした。

「……何を言っている?」

「薬草が見つからないのは、あんたの努力不足じゃない。才能不足でもない。勇者の資格がないからでもない」

「では、なぜ」

「世界に二本しか生えてないから」

 沈黙。

 夜風が吹いた。

 虫の声がした。

 アルトはゆっくり瞬きした。

「……今、何と?」

「このクエスト、薬草三本必要なのに、世界側が二本しか生成してない」

「そんなことが、あるのか?」

「ある。今、目の前で起きてる」

 アルトは袋の中の薬草を見た。

 それから地面を見る。

 また私を見る。

「いや、だが……僕は十年……」

「うん」

「十年、探したんだ」

「うん」

「毎日、ここで」

「うん」

「雨の日も、雪の日も」

「うん」

「三つ目が、世界に存在しなかった?」

「そう」

 アルトの顔から、血の気が引いた。

 彼の唇が震える。

「では、僕の十年は……」

 言葉が途切れる。

 私は、いつものように軽口を叩こうとした。

 勇者くん、薬草二本世界で十年粘るとか根性すごすぎ。

 チュートリアルで詰む世界、ざぁこすぎ。

 神様、今すぐ土下座して。

 いくらでも言えた。

 でも、目の前の青年は笑えない顔をしていた。

 十年。

 その時間を、自分のせいだと思っていた。

 自分が未熟だから。

 自分に資格がないから。

 自分が勇者にふさわしくないから。

 そうやって、十年間ずっと自分を責めていた。

「……アルト」

 私はいつもより少しだけ低い声で言った。

「今から、ちゃんと聞いて」

「……」

「これは、あんたのミスじゃない」

 アルトの目が揺れる。

「クエスト条件が間違ってた。生成数が足りなかった。進行フラグも壊れてた。つまり、システム側の不具合」

「しすてむ……」

「世界の不具合」

「世界の……」

「そう。あんたが止まってたんじゃない。世界があんたを止めてた」

 アルトは袋を握ったまま、動かなかった。

 私は少しだけ顔を背ける。

「だから、自分を責める必要なんてない」

 言ったあとで、ちょっと照れくさくなった。

 慣れない。

 こういう真面目なことを言うのは、慣れない。

 だから、私はすぐに付け足した。

「まあ、十年も同じ場所を探し続ける根性はちょっと怖いけど」

 アルトが小さく息を漏らした。

 笑ったのか、泣きそうなのか、よくわからない声だった。

「君は……不思議な人だな」

「保守担当だからね」

「それは、どういう意味なんだ?」

「壊れてるところを見つけて、文句言いながら直す人」

「文句は必要なのか?」

「必要。精神衛生にいい」

 アルトは、本当に少しだけ笑った。

 それを見て、私は管理画面に向き直る。

「さて」

 私は指を鳴らした。

「じゃあ、神様を呼び出します」

「神様を?」

「うん。説教する」

 通信画面を開く。

 数秒後、ノアの顔が出た。

『な、なんじゃ? もう夜ではないか。わしもそろそろ休もうかと――』

「薬草三個クエスト」

『……』

「必要数三、生成数二」

『……』

「勇者、十年停止」

『……』

「何か言うことある?」

 ノアは目を逸らした。

『大変、申し訳なく……』

「謝る相手が違う」

『え?』

「私じゃない」

 私は通信画面をアルトの方へ向けた。

 アルトは目を見開く。

「こ、この方は……?」

『創造神ノアである』

 ノアは少しだけ威厳を出そうとした。

 私は即座に言う。

「薬草二本しか生成できないざぁこ神」

『紹介がひどくないかのう!?』

 アルトは混乱していた。

「神様……本当に……?」

 ノアは画面の向こうで、深く頭を下げた。

『勇者アルトよ』

「は、はい」

『そなたを十年も待たせたのは、そなたの責任ではない。世界の設定に誤りがあった。わしの不手際じゃ』

 アルトは言葉を失った。

 ノアは続ける。

『本来なら、そなたは十年前に旅立つはずだった。毒沼の魔物を鎮め、村を救い、やがて王都へ向かうはずだった』

「毒沼……?」

 アルトが顔を上げる。

 私は眉を寄せた。

「やっぱり、指定討伐者ってアルトだったんだ」

『うむ』

「うむじゃない」

 私はノアを睨む。

「勇者のチュートリアルが詰んでたせいで、毒沼イベントも終わらず、井戸も毒水になり、畑も壊れ、村の出口も閉じた」

『……』

「ひとつの薬草不足で、村全体が十年止まった」

『……』

「神様、影響範囲って知ってる?」

『今、学んでおる……』

「遅い」

 アルトは呆然としていた。

「僕が……村を救うはずだった……?」

「本来はね」

 私は言う。

「でも、そこも勘違いしないで。救えなかったのは、あんたのせいじゃない」

「だが、実際に村は十年苦しんだ」

「うん」

「僕は、その間ずっとここで薬草を……」

「だから、それは世界が止めてたんだってば」

 アルトは拳を握りしめた。

「それでも……」

 私は少し苛立った。

 自分を責めるなと言っているのに、責める。

 真面目すぎる。

 勇者くん、めんどくさい。

 でも、十年もそうしてきたなら、すぐには変われないのだろう。

「じゃあさ」

 私はアルトの前に立った。

「これから取り返せば?」

 アルトが顔を上げる。

「十年前には戻れない。止まった時間はなかったことにできない。村の人たちが苦しんだ事実も消えない」

「……」

「でも、これから進むことはできるでしょ」

「これから……」

「薬草クエストは私が直す。チュートリアルも終わらせる。あとは、あんたが決めなよ」

 私は腕を組んだ。

「勇者として旅立つのか、ここで薬草を数え続けるのか」

 アルトは、袋の中の二本の薬草を見た。

 それから、夜のハル村を見た。

 村には明かりが灯っている。

 人々の声が聞こえる。

 十年ぶりに取り戻した生活の音がする。

 アルトは小さく息を吸った。

「僕は……」

 その声は震えていた。

「僕は、旅立ちたい」

 私は口元を上げた。

「よし」

 管理画面を開く。

【勇者チュートリアル】

【薬草を三個集めよう】

【現在薬草数:2/3】

【薬草生成数:2】

【追加生成処理:破損】

【修正候補】

1. 必要数を2に変更する

2. 薬草を1本追加生成する

3. クエストを強制完了する

4. クエストを削除する

「どれがいいと思う?」

 私はアルトに聞いた。

 アルトは驚く。

「僕が選ぶのか?」

「うん。あんたのチュートリアルでしょ」

「でも、君が直すのでは?」

「直すけど、選ぶのはあんた」

 私は画面を見せる。

「必要数を二に変えれば、今のまま完了できる。薬草を一本追加すれば、条件通り三本集めて完了。強制完了もできるし、クエスト自体を消すこともできる」

 アルトはしばらく考えた。

 そして言った。

「薬草を一本、追加してほしい」

「理由は?」

「僕は、三つ集めると決めて始めた。世界に三つ目がなかったとしても……最後は、自分の手で拾って終わりたい」

「面倒なこだわり」

「すまない」

「謝らなくていい」

 私は笑った。

「嫌いじゃないよ、そういうの」

 管理画面で二番を選択する。

【薬草を1本追加生成しますか?】

【はい/いいえ】

 私はアルトを見る。

「準備いい?」

 アルトは深く頷いた。

「ああ」

「じゃあ、十年遅れの三本目」

 私は指先で、はいを押した。

【実行中……】

【薬草生成処理を修復】

【不足分:1】

【生成地点:対象者前方2メートル】

【品質:通常】

【クエスト対象として登録】

 淡い光が、草地の上に集まる。

 小さな芽が出た。

 それは見る間に伸び、柔らかな緑の葉を広げる。

 ごく普通の薬草。

 特別な光もない。

 神々しい形でもない。

 伝説の霊薬でもない。

 ただの、三本目。

 アルトはそれを見つめたまま、動けなかった。

「ほら」

 私は言った。

「拾いなよ」

 アルトはゆっくり歩き出す。

 一歩。

 二歩。

 薬草の前に膝をつく。

 震える指で、それを摘む。

 袋の中へ入れる。

 一つ。

 二つ。

 三つ。

 その瞬間、空気が鳴った。

【クエスト達成】

【勇者チュートリアル:完了】

【アルトの行動制限を解除】

【外部イベント到達:可能】

【勇者スキル解放準備中】

 アルトの体を、淡い金色の光が包む。

 彼は袋を抱きしめたまま、空を見上げた。

「終わった……」

 声が震えている。

「終わったんだ……」

 私は腕を組んだ。

「おめでとう。薬草三本クエスト、十年越しに完了」

「僕は……」

 アルトはゆっくり立ち上がる。

「僕は、外へ行っていいのか?」

 その問いは、あまりにも静かだった。

 勇者が世界を救いに行くとか。

 魔王を倒すとか。

 王都へ向かうとか。

 そういう大きな話ではなかった。

 ただ、外へ行っていいのか。

 止められていた人間の、最初の問いだった。

 私は少しだけ息を吐いた。

「いいに決まってるじゃん」

 アルトの目が揺れる。

「本当に?」

「ほんと。道も直したし、クエストも終わった。あんたを縛るフラグはもうない」

「僕は……もう、ここにいなくてもいい?」

「うん」

 私はニヤッと笑う。

「勇者くん、ようやくチュートリアル卒業だよ」

 アルトは薬草の入った袋を握りしめた。

 そして、泣いた。

 声を上げるわけではない。

 静かに。

 ずっと我慢していたものが、少しずつ溢れるように。

 私は目を逸らした。

「泣くなよ。ログが見えにくいじゃん」

「すまない……」

「謝るなってば」

「ありがとう」

「それも言いすぎると重い」

「ありがとう、リリィ」

「……一回でいい」

 夜風が訓練場を通り抜けた。

 十年止まっていた勇者のチュートリアルが、ようやく終わった。

 管理画面の赤い警告が、緑色に変わる。

【勇者チュートリアル:完了】

【対象者:アルト】

【状態:行動可能】

【次回イベント:未定】

「未定」

 私はその表示を見て、少しだけ笑った。

 決められた次のイベントではない。

 勇者が、自分で選ぶ次の一歩。

 悪くない。

 そう思った直後、管理画面に新しい通知が出た。

【勇者スキル解放処理を開始します】

【十年分の未適用成長データを反映します】

【警告:処理量が多すぎます】

「……ん?」

 アルトの体を包む金色の光が、急に強くなった。

 地面が震える。

 訓練場の木剣ががたがた揺れる。

 アルトが驚いて私を見る。

「リリィ、これは?」

 私は管理画面を二度見した。

【未適用成長データ:10年分】

【剣技解放】

【身体能力補正】

【勇者固有スキル】

【魔力回路再起動】

【処理負荷:高】

「やば」

「やば?」

「十年分の勇者スキルが、一気に解放されるっぽい」

「それは、大丈夫なのか?」

 金色の光がさらに強くなる。

 私は顔を引きつらせた。

「たぶん」

「たぶん!?」

「保守作業に絶対はないから!」

 次の瞬間、訓練場の木人形が光に吹き飛ばされた。

 どん、と音を立てて地面に転がる。

 私は額を押さえた。

「……第六話の最後に新しい障害出すの、やめてくれる?」

 管理画面には、また赤い警告が点滅していた。

【勇者スキル一括解放中】

【暴発注意】

 アルトは光に包まれながら、真面目な顔で言った。

「リリィ」

「何?」

「僕は、どうすればいい?」

 私はため息をついた。

「とりあえず、じっとしてて」

「わかった」

「剣を抜かない」

「わかった」

「魔法っぽいものを感じても撃たない」

「わかった」

「あと、深呼吸」

「わかった」

 アルトは素直に深呼吸した。

 勇者、素直すぎる。

 私は管理画面に向かって指を鳴らした。

「はいはい。勇者くんの人生が動き出したと思ったら、次はスキル暴発ね」

 赤い警告を睨む。

「ほんとこの世界、まともに起動できないの?」

 夜の訓練場に、金色の光が広がる。

 私は口元を吊り上げた。

「いいよ。最後まで面倒見てあげる」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


勇者アルト、ようやくチュートリアル完了です。


薬草を三個集めるだけ。

本来ならすぐ終わるはずの試練でした。


でも、世界の不具合で三本目が存在しなかったせいで、アルトは十年間ずっと自分を責めながら探し続けていました。


リリィは口こそ悪いですが、こういう理不尽にはちゃんと怒る子です。


そして、勇者くんの人生が動き出したと思ったら、今度は十年分の勇者スキルが一括解放されそうです。


次回、第7話。

薬草一個で人生変わる勇者、心配なんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。