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4/20

第4話 畑の収穫判定、マイナスになってるんだけど

第4話です。


会話を取り戻し、井戸の毒水も止めたリリィ。


ようやく休めるかと思いきや、今度は畑の収穫判定がマイナス固定になっていました。


豊穣魔法で飢饉を起こすという、だいぶ終わっている設計です。


保守担当リリィ、今度は農地復旧に入ります。

 木苺のパイは美味しかった。

 甘酸っぱくて、温かくて、生地はさくさく。

 口に入れた瞬間、ほんの少しだけ前世の疲れが薄れる気がした。

 異世界、悪くない。

 そう思いかけたところで、目の前の赤い警告が台無しにしてくる。

【警告】

【農地成長値が異常です】

【成長値:-999999】

【収穫判定:永続不可】

【影響範囲:ハル村全農地】

【優先度:高】

「……」

 私はパイをもう一口食べた。

【農地成長値異常】

【農地成長値異常】

【農地成長値異常】

「うるさいってば」

 私は警告ウィンドウを指で端に寄せた。

 すると警告は、すぐに中央へ戻ってきた。

【農地成長値異常】

「自己主張強いな、このエラー」

 隣に座っていた村長が、不安そうに私を見た。

「リリィさん……畑も、やはり何か問題が?」

「問題しかないね」

「やはり……」

「でも、今はパイ食べてる」

「は、はい」

「畑は逃げない。パイは冷める。優先順位、わかる?」

「わかるような、わからないような……」

 私は最後の一切れを口に入れた。

 木苺の甘さが広がる。

 よし。

 これで少しだけ働く気になった。

「採用」

「何がですか?」

「このパイ。村の重要資産として保護していいレベル」

 宿屋の女将マリナが嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。木苺は村の外れで採れるんですよ」

「外れ?」

「はい。ただ、最近は畑が痩せてしまって、木苺も年々少なくなっていて……」

「なるほど」

 私は空になった皿を見た。

 このパイが今後食べられなくなる。

 それは困る。

 かなり困る。

「村長」

「はい」

「畑、案内して」

 私は立ち上がった。

「この村のパイ供給ライン、止めさせないから」

「理由はそこなのですか?」

「食は大事。世界保守の基本」

 たぶん。

     ◇

 ハル村の畑は、村の南側に広がっていた。

 木の柵で囲まれた土地。

 細い畦道。

 ところどころに立つ古いかかし。

 でも、そこにあるはずの豊かな緑はほとんどなかった。

 畑の土は乾ききり、ひび割れている。

 芽は出てもすぐに萎れたのか、短く茶色く縮れていた。

 いくつか残っている作物も、葉が黄色く、実は小さい。

「うわぁ……」

 私はしゃがみ込み、土を指でつまんだ。

 さらさらと崩れる。

「土がやる気なくしてる」

 村長が肩を落とす。

「十年前までは、豊かな畑だったのです。この村は小さいながらも、麦と野菜には困りませんでした」

 農夫の男性が続けた。

「けれど、ある年を境に作物が育たなくなりまして。水をやっても、肥料を入れても、まるで土が作物を拒むように……」

「作物を拒む土って何。反抗期?」

 私は管理画面を開いた。

【対象:ハル村農地】

【状態:成長判定異常】

【成長値:-999999】

【収穫判定:不可】

【豊穣魔法:稼働中】

【魔法式状態:破損】

【影響範囲:全農地】

「豊穣魔法は稼働中……なのに成長値がマイナス固定」

 私は眉をひそめた。

「豊穣魔法で飢饉起こしてるじゃん。逆にすごい」

 農夫が首を傾げる。

「豊穣魔法、ですか?」

「この畑、昔から何か加護とか儀式とかあった?」

 村長が頷いた。

「はい。村の中央にある石碑に、豊穣の加護が宿っていると伝わっております。毎年、収穫祭の前に祈りを捧げておりました」

「石碑ね」

 私は畑の奥を見る。

 そこには、苔むした小さな石碑が立っていた。

 表面には古い魔法文字らしきものが刻まれている。

 管理画面が自動で解析を始めた。

【豊穣石碑】

【役割:農地成長補助】

【本来効果:作物成長値+20%】

【現在効果:作物成長値反転】

【原因:計算式符号反転】

【最終正常稼働:3652日前】

「また三千六百五十二日」

 私は半目になった。

 会話バグ。

 毒水バグ。

 畑バグ。

 全部、十年前から。

「十年前に何が起きたの、この村」

 村長は困ったように首を振る。

「私たちにも、よくわからないのです。あの頃から、言葉も、水も、畑も、少しずつ壊れていきました。ただ、話せなかったため、誰も詳しく記録を残せませんでした」

「記録が残ってない障害、最悪」

 前世でもよくあった。

 誰が何をしたかわかりません。

 いつから壊れているかわかりません。

 でも直してください。

 そういう案件は、だいたい深夜に来る。

「ノア」

 私は通信画面を開いた。

 白髭の神様が、やや怯えた顔で表示される。

『な、なんじゃ? 今度は優しく呼んでくれた気がするのう』

「気のせい」

『そうか……』

「畑の豊穣魔法、成長値がマイナスに反転してるんだけど」

『ふむ。豊穣石碑か。あれは本来、村の作物を安定させる補助装置でな』

「補助装置が全力で邪魔してるよ」

『おかしいのう。設計では、作物の成長を二割ほど助けるはずなのじゃが』

「見て、この式」

 私は魔法式を通信画面に送る。

【成長補正式】

本来:成長値 = 基礎成長値 × 1.2

現在:成長値 = 基礎成長値 × -9999.99

『……』

「ねえ」

『……うむ』

「何これ」

『……激しく育たなくなる式じゃな』

「説明そのまんまだよ。神様なら原因言って」

 ノアは冷や汗を流した。

『おそらく、豊穣石碑が毒沼イベントの汚染処理と干渉したのじゃろう。毒化された水を畑に使ったことで、石碑が作物を危険物と誤判定し、成長を抑制しようとしたのではないかと……』

「抑制の桁がおかしい」

『そこは、まあ……』

「まあ?」

『……桁あふれかのう』

「桁あふれで村を飢えさせるな」

 私は深く息を吐いた。

 毒水を畑に使う。

 豊穣石碑が異常を検知する。

 作物の成長を止めようとする。

 計算式が壊れて、成長値がマイナス固定。

 結果、全農地が死ぬ。

「連鎖障害じゃん」

『れんさしょうがい?』

「一個のバグが別のバグを呼んで、村全体を巻き込むやつ」

『なるほど』

「なるほどじゃなくて反省して」

『反省しておる』

「足りない」

『すごく反省しておる』

「よし」

 私は通信を切った。

 農夫が恐る恐る聞いてくる。

「あの、リリィ様……畑は、戻るのでしょうか」

「様いらない」

「リリィさん……畑は、戻るのでしょうか」

 その声は震えていた。

 私は周囲を見る。

 農夫たちの顔には、期待と不安が混ざっている。

 水が戻った。

 言葉も戻った。

 だからこそ、畑も戻るのではないかと期待してしまう。

 でも、期待するのは怖い。

 十年も裏切られ続けたなら、なおさら。

「戻せるよ」

 私は言った。

 農夫たちが息を呑む。

「ただし、すぐに全部元通りってわけじゃない。土の状態も見ないといけないし、成長補正の再計算も必要。あと、豊穣石碑の式を書き換える」

「それは……大変なのですか?」

「まあまあ」

 本当は、そこそこ大変そうだった。

 だが、ここで不安を煽る必要はない。

 私はニヤッと笑う。

「でも、こんなの直せない方がざぁこだから」

 農夫たちは顔を見合わせた。

 村長が感極まったように呟く。

「なんと頼もしい……」

「褒めるところそこ?」

     ◇

 私は石碑の前に立った。

 表面に刻まれた魔法文字が、薄く赤く光っている。

 警告表示に似ていて、ちょっと腹立つ。

 管理画面を展開する。

【豊穣石碑:管理権限要求】

【現在権限:村落補助装置】

【外部干渉:許可制】

【世界保守担当権限で上書きしますか?】

「上書き」

【権限確認中……】

【世界保守担当:リリィ・デバッグハート】

【承認】

【石碑内部魔法式を展開します】

 目の前に、複雑な魔法式が浮かび上がった。

 円形の術式。

 植物を表す記号。

 水脈を表す線。

 成長値を計算する数式。

 そして、そのあちこちに赤いエラー表示。

「うわ」

 私は思わず声を漏らした。

「汚い」

 村長が驚く。

「石碑が、ですか?」

「式が」

「式?」

「魔法式。コードみたいなもの」

 私は空中の式を指でなぞる。

 古い。

 とにかく古い。

 コメントもない。

 命名も雑。

 似たような処理が何度も書かれている。

 不要な条件分岐も多い。

「これ書いた神様、出てきなさい」

 通信画面を開く。

『な、なんじゃ?』

「ノア、この豊穣魔法書いたの誰?」

『わしじゃが』

「でしょうね」

『なぜわかった?』

「雑だから」

『ぐっ』

「コメントない。条件分岐多い。変数名が全部“豊かさ一号”“豊かさ二号”“すごい豊かさ”になってる。神様、命名センスざぁこ♡」

『命名まで刺してくるのか……』

 私は通信を閉じる。

 今は神様いじりより修正が先だ。

 魔法式の中心部に、問題の計算式があった。

【現在式】

成長値 = 基礎成長値 × 汚染補正 × 豊穣補正

【汚染補正】

通常:1.0

軽度汚染:0.8

重度汚染:0.5

異常汚染:-9999.99

「異常汚染でマイナスにする意味ある?」

 私は呆れた。

 作物を止めるなら0でいい。

 せめて0.1でいい。

 マイナスにしたら、育たないどころか土から生命力を吸い上げる。

「これ、豊穣じゃなくて不毛魔法じゃん」

 農夫たちが不安そうにざわめく。

「不毛……」

「やはり呪いなのか……」

「いや、呪いじゃない。設計ミス」

 私はすぐ訂正した。

「呪いよりタチ悪いかもしれないけど」

「リリィさん!?」

「冗談。半分」

 私は式を書き換える。

【修正内容】

・異常汚染時の補正値を0.3へ変更

・水質正常化後の再判定処理を追加

・成長値の下限を0に設定

・豊穣補正の上限を1.5に制限

・土壌回復処理を追加

・成長促進処理を段階実行へ変更

「よし。これで暴走はしないはず」

 管理画面が確認を求める。

【豊穣魔法式を更新しますか?】

【はい/いいえ】

 私は一瞬だけ止まった。

 本番更新。

 嫌な言葉だ。

 前世では何度もこの瞬間を経験した。

 押せば何かが変わる。

 直るかもしれない。

 でも、別のものが壊れるかもしれない。

 背後には村人たちがいる。

 水が戻って、言葉が戻って。

 次は食べ物を待っている人たちがいる。

「……まあ」

 私は小さく笑った。

「やるしかないよね」

 指先で、はいを押す。

【更新中……】

【魔法式再構築】

【汚染補正を修正】

【成長値下限を設定】

【水質正常化を反映】

【土壌回復処理を開始】

【豊穣補正を再起動】

 石碑が淡い緑色に光った。

 畑全体に、柔らかな風が吹く。

 乾いていた土が、少しずつ色を取り戻す。

 ひび割れた地面が閉じていく。

 枯れかけていた芽が、ゆっくりと背を伸ばす。

 村人たちが息を呑む。

「芽が……」

「畑が……!」

「緑が戻ってる!」

 私は管理画面を見る。

【農地成長値:正常化】

【成長値:12 → 18 → 27】

【土壌状態:回復中】

【収穫判定:準備中】

「うん。いい感じ」

 そう言った直後。

【警告】

【一部作物の成長速度が想定値を超過しています】

「……ん?」

 畑の端から、みしみしという音がした。

 振り向く。

 そこには、一本のカボチャの蔓があった。

 最初は細かった。

 だが、次の瞬間、蔓がぐんぐん伸び始めた。

 土を這い、畦道を越え、柵に絡みつき、さらに太くなる。

「ちょっと待って」

【カボチャ成長値:急上昇】

【原因:豊穣補正再起動時の初回ボーナス】

【サイズ:通常比300%】

「初回ボーナスいらない!」

 カボチャの実が膨らみ始める。

 拳大。

 人の頭大。

 樽大。

 馬車の車輪大。

 村人たちが叫ぶ。

「カボチャが!」

「でかい!」

「でかすぎる!」

「リリィさん!?」

「わかってる!」

 私は慌てて管理画面を操作する。

【成長促進停止】

【対象:カボチャ】

【停止処理中……】

 しかし、カボチャは止まらない。

【初回ボーナス処理が優先されています】

「優先するな! 止まれ!」

 巨大カボチャはさらに膨らみ、柵を押し倒した。

 ごろりと転がった先には、畑の横に建っていた小さな物置がある。

 農夫が叫ぶ。

「俺の農具小屋が!」

「小屋、逃げて!」

「小屋は逃げないよ!」

 次の瞬間。

 どん、と鈍い音がした。

 巨大カボチャが農具小屋の屋根にめり込み、屋根を半分潰した。

 村人たちが静まり返る。

 私はゆっくり顔を覆った。

「……やった」

 村長が震える声で言う。

「リリィさん……?」

「成長促進かけすぎた」

「かけすぎると、ああなるのですか?」

「なるみたい」

「なるみたい……」

 巨大カボチャは、屋根に刺さったまま堂々と鎮座していた。

 その姿には、なぜか妙な威厳があった。

 子どもたちが目を輝かせる。

「すごい!」

「でっかいカボチャ!」

「食べられる!?」

 私は管理画面で確認する。

【巨大カボチャ】

【状態:食用可能】

【味:甘い】

【保存性:高】

【危険性:小屋を潰す程度】

「危険性の書き方」

 農夫は潰れた小屋を見て、それから巨大カボチャを見た。

「まあ……小屋は直せばいいか」

「いいの?」

「食べ物がある方が大事です」

 その言葉に、周囲の農夫たちが頷いた。

「そうだな」

「十年ぶりに、まともな実りだ」

「小屋よりカボチャだ」

 村人たちは笑い始めた。

 最初は遠慮がちに。

 やがて、大きな笑い声になる。

「屋根からカボチャが生えたぞ!」

「今年の収穫祭はこれで決まりだ!」

「リリィさんのカボチャだ!」

「私のじゃない。バグの副産物」

 私は口を尖らせた。

 でも、村人たちが笑っているならまあいい。

 小屋は犠牲になったけど。

 たぶん必要な犠牲だった。

 いや、違う。

 保守担当としてそれを言ったら終わりだ。

「ごめん、小屋はあとで直す」

 私が言うと、農夫は驚いた顔をした。

「リリィさんが謝った……」

「何その反応」

「いえ、少し意外で」

「私だって小屋潰したら謝るよ」

 すると村長が、穏やかに笑った。

「ありがとうございます。しかし、これはきっと良い兆しです」

「小屋潰れたのに?」

「畑が、また笑いを生んだのです」

 村長は畑を見渡す。

 そこには、さっきまでなかった緑が広がっていた。

 小さな芽。

 伸びる蔓。

 色を取り戻した土。

 風に揺れる若葉。

 まだ完全ではない。

 すぐに豊作になるわけでもない。

 それでも、確かに畑は生き返り始めていた。

「……まあ」

 私はそっぽを向いた。

「今度から成長促進は段階実行にする」

 マリナが微笑む。

「では、カボチャのパイも作れますね」

 私は即座に振り向いた。

「採用」

「ふふ。木苺とカボチャ、どちらがお好きですか?」

「両方」

「では両方作ります」

「この村、なかなか見どころあるね」

 村人たちがまた笑った。

     ◇

 日が傾くころ。

 村の畑には、久しぶりに水が撒かれていた。

 井戸から汲んだばかりの透明な水。

 それを農夫たちが畑へ運び、丁寧に土へ染み込ませていく。

 会話もある。

 笑いもある。

 水もある。

 畑も戻りつつある。

 十年止まっていた村が、少しずつ動き出している。

 私は石碑の前に座り込み、最終チェックをしていた。

【農地状態:回復中】

【成長値:正常】

【収穫判定:一部可能】

【豊穣魔法:安定稼働】

【異常作物:巨大カボチャ1件】

【対応状況:食用転用予定】

「異常作物の扱い雑」

 私はため息をついた。

 でも、ログは緑色になっている。

 赤い警告は消えた。

 それだけで、少し気分がいい。

 そこへ、さっきの男の子が走ってきた。

「リリィおねえちゃん!」

「おねえちゃんじゃない。保守担当」

「これ!」

 男の子は、小さな野菜を差し出した。

 まだ未熟な、小指ほどの小さなニンジンだった。

「畑で見つけた!」

「抜くの早くない?」

「お母さんが、これはリリィおねえちゃんにって」

「だからおねえちゃんじゃ……」

 私は小さなニンジンを見る。

 細くて、曲がっていて、食べる部分は少なそうだ。

 でも、十年まともに育たなかった畑で生まれた、最初の収穫だった。

「……もらっとく」

「うん!」

「次からは、ちゃんと大きくなってから抜きなさい」

「はーい!」

 男の子は笑って走っていった。

 私は手の中の小さなニンジンを見つめる。

 会話を直した。

 水を直した。

 畑を直した。

 最初は、ただ面倒なバグを潰しているだけだった。

 でも、そのたびに誰かが笑う。

 誰かが泣く。

 誰かの明日が、少しだけマシになる。

「……ほんと」

 私は小さく呟いた。

「やりづらい世界」

 感謝されると、雑に逃げられなくなる。

 助けてしまうと、次も見捨てられなくなる。

 こういうのは、本当に厄介だ。

 その時、管理画面の端に小さな通知が出た。

【ハル村主要インフラ】

【会話機能:復旧】

【水源:復旧】

【農地:復旧中】

【結界:異常】

【外部経路:異常】

「……」

 私は通知を見た。

「結界」

 そういえば、村長が言っていた。

 若者たちは何度も村を出ようとした。

 しかし、出口の森は迷いやすく、他の町へ助けを求められなかった。

 管理画面を開く。

【警告】

【村境界処理に異常があります】

【夜間防衛結界:解除失敗】

【住民通行判定:拒否】

【外敵通行判定:不安定】

【影響:村外移動困難】

「防衛結界が、住民を閉じ込めてる……?」

 私は眉を寄せた。

 その時、村の北門の方から声が上がった。

「門が!」

「道が消えた!」

「また森になってるぞ!」

 村人たちがざわめき始める。

 私は立ち上がった。

 夕暮れの向こう。

 本来なら村の外へ続く道があるはずの場所に、深い森が広がっていた。

 道が消えている。

 まるで、最初からそこに出口など存在しなかったかのように。

「……はぁ」

 私は額に手を当てた。

「会話、水、畑、次は出口」

 通信画面を開く。

「ノア」

『今度は何もしておらんぞ!?』

「何もしてないからこうなってるんでしょ」

『ぐっ』

「この村、出口まで壊れてるんだけど」

『……』

「住民を守る結界が、住民を閉じ込めてる」

『……』

「神様?」

『すまぬ、先に謝っておく』

「謝るだけで直るなら保守担当いらないんだよ、ざぁこ神」

『ぐはっ』

 私は通信を切り、消えた道を睨んだ。

 村人たちが不安そうにこちらを見る。

 言葉は戻った。

 水も戻った。

 畑も戻り始めた。

 でも、この村はまだ外へ出られない。

 まだ、閉じ込められている。

「ほんと」

 私はニヤリと笑った。

「脱出ゲームじゃないんだからさ」

 赤い警告を指で弾く。

【村境界処理異常】

【優先度:高】

「はいはい。次は出口ね」

 私は消えた道へ向かって歩き出した。

「防犯システムで住民閉じ込めるとか、ポンコツすぎ。まとめて直してあげる」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


畑のバグも無事に修正完了です。


ただし、成長促進が少し暴走して、巨大カボチャが農具小屋を潰しました。


小屋は犠牲になりましたが、十年ぶりに畑が実り始めたので、たぶんセーフです。

たぶん。


会話、水、畑と復旧してきたハル村ですが、まだ問題は残っています。


次回、第5話。

村の出口が消えるとか、脱出ゲームじゃないんだから。

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