ウェイタン
ウェイタンの店内は、相変わらず何の店なのか一言では言いにくかった。
入口近くには実用品が並んでいる。
古い工具。
布袋。
缶入りの乾物。
安っぽい食器。
用途の分からない金属の小箱。
その奥には、さらに分からないものが積まれていた。
色の綺麗なガラス玉。
古い人形の頭だけ。
何かの企業ロゴが掠れた金属板。
布を貼り直した小さな椅子。
配線を繋ぎ直しただけのランプ。
誰が買うのか分からない、妙に愛嬌のある置物。
ユイは、その雑多な棚の前で足を止めていた。
「ユウ、これはどうですか?」
ユウは少し遅れて、ユイが指差したものを見る。
小さな折り畳み台だった。
金属の脚に、木目のような模様が貼られた天板。
大きさは、膝の上に置く盆より少し広いくらい。
「小さい」
「カップは置けます」
「一つだろ」
「二つ置けます。たぶん」
「たぶんで買うな」
ユイは少しだけ唇を尖らせた。
「ちゃんと置いてみれば分かります」
「店で飲み物広げる気か」
「しません」
即答してから、ユイはもう一度台を見る。
確かに少し小さい。
マグカップ二つなら置けるかもしれない。
でも小皿まで置くと、たぶん端が危ない。
ユイは真剣な顔で、頭の中にユウの部屋を思い浮かべた。
ベッド。
低い台。
棚。
青いいるか。
その横に、この小さな台を置く。
少し違う気がした。
「……これは、少し小さいですね」
「さっき俺が言った」
「ちゃんと考えてから判断したんです」
「同じだろ」
「違います」
ユウはそれ以上言わなかった。
面倒そうな顔はしているが、付き合う気はあるらしい。
少なくとも、店を出ようとはしない。
ユイは次の棚へ移った。
そこには木箱を再利用したような低い台が置かれていた。
見た目は悪くない。
天板は少し傷があるが、磨けば使えそうだった。
「これは?」
「重い」
「安定してるってことです」
「邪魔だ」
「でも、カップ二つと小皿は置けます」
「部屋が狭くなる」
「ユウの部屋、狭くなるほど物がないじゃないですか」
言ってから、ユイは少しだけしまったと思った。
けれどユウは特に傷ついた様子もなく、棚に寄りかかるようにして台を見る。
「でかい」
「……少しだけです」
「少しじゃない」
ユイは小さく息をついた。
ユウの判断基準は分かりやすい。
邪魔かどうか。
使えるかどうか。
壊れにくいかどうか。
それだけだ。
見た目や、部屋に置いた時の収まりや、そこにカップが二つ並んだ時の感じは、たぶんあまり考えていない。
ユイはそれが少しだけもどかしかった。
「じゃあ、ユウはどれがいいんですか」
「足があって、上に物が乗ればいい」
「そういう話じゃないです」
「そういう話だろ」
「違います」
「何が違う」
「……ちゃんと、部屋に置くんですから」
言ってから、ユイは言葉を止めた。
ちゃんと、部屋に置く。
それはただの家具の話のはずだった。
なのに、口にした途端、どこか別の意味まで混ざったような気がした。
ユウはそこに気づいたのかどうか分からない。
ただ、視線を棚の方へ戻している。
「なら、邪魔じゃないやつだ」
「それはそうですけど」
「頑丈なやつ」
「それもそうですけど」
「安いやつ」
「……ユウ」
「何だ」
「もう少しだけ、選ぶ楽しさを持ちましょう」
ユウは本気で分からない顔をした。
「選んでるだろ」
「条件で切ってるだけです」
「それが選ぶってことだろ」
ユイは小さく肩を落とした。
その様子を、店の奥から店主らしき女が見ていた。
年齢はよく分からない。
首元に古いチョーカー型端末を付け、髪を布で雑にまとめている。
目つきは鋭いが、こちらに敵意はない。
「小机かい」
声をかけられ、ユイが顔を上げる。
「はい。小さめのテーブルを探していて」
「なら、ここに出てるのは半端もんだね。飾り台ならあるけど、毎日使うなら修理処の爺さんとこ見た方がいい」
「修理処ですか」
「表通りの少し先。金物屋の隣。知ってるだろ」
ユウが短く頷く。
「知ってる」
「昨日だか一昨日だか、折り畳みの小机を直してたよ。まだ売れてなきゃ残ってる」
ユイの顔が少し明るくなる。
「折り畳みですか」
「脚は金属。天板は古いけど、あの爺さんが直してるなら使えるだろうさ。見た目は知らないけどね」
「ありがとうございます」
ユイは丁寧に頭を下げた。
ユウは棚に置かれていた小さなガラス玉へ一瞬だけ視線を向けたユイに気づく。
「買わないぞ」
「まだ何も言ってません」
「見てた」
「見てただけです」
「サエに雑貨屋にするなって言われただろ」
「……分かってます」
少しだけ名残惜しそうにしながらも、ユイは棚から離れた。




