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銀月のロスト  作者: taka
第7章 線を守る
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集合場所

 集合場所は、都市外縁へ向かう手前の空き地だった。


 崩れた壁の名残と錆びた鉄柵が半端に残る空き地だった。


 街の内側と外縁のあいだに、空気が一枚挟まっているようだった。


 すでに何組か来ている。


 ユウが思っていたより、人数は多かった。


 十人、二十人ではきかない。


 それぞれが固まりになって立っている。


 武器も服もばらばらだ。


 銃を主にしているのもいれば、刃物を腰へ下げているのもいる。


 年かさの男。


 まだ若い顔。


 痩せた女。


 どれも下層の人間だが、ただの流れ者とは空気が違う。


 仕事前の顔をしていた。


 タチバナたちが入ると、何人かの視線がすぐそちらへ寄った。


 露骨に見回されるわけではない。


 ただ、知っている顔が来た、と確認する目だ。


 その中に、タチバナへ軽く顎を上げる男が一人いた。


「よう」


 短い声だった。


 タチバナも短く返す。


「ああ」


 それだけで済む。


 長話はない。


 それでも、その一往復だけで互いに位置が分かる感じがあった。


 別の組の中年が、タチバナの後ろを一度だけ見て言う。


「新顔か」


 言い方は軽い。


 だが視線はちゃんと仕事の目だった。


 タチバナが答える。


「昨日入れた」


 中年はそれでだいたい察したらしく、ユウを一度見てから小さく頷いた。


「死なせるなよ」


「死ぬならそれまでだ」


 タチバナの返しは平らだった。


 冷たいようでいて、逆に変な気負いがない。


 下層ではそのくらいの言い方の方が、かえって現実に近いのだろう。


 そのやり取りの横で、レンジが口元だけで笑った。


「朝から景気いいですねえ」


「黙ってろ」


 タチバナがすぐに切る。


 レンジは肩を竦めて引っ込む。


 いつもの調子だった。


 ユウはその間、余計なことは言わずに周囲を見ていた。


 集まっているロストたちは、銀月やガレージストリートで見る時とは少し違う。


 仕事前だからだろう。


 緩い顔のままでも、どこか張っている。


 固まる位置も、武器の置き方も、自然と“ここで戦う人間”の形になっている。


 ユイはその空気の中で、ほんの少しだけ視線を泳がせた。


 帽子は深い。


 声も出していない。


 昨日までと比べればかなりましだ。


 ただ、その代わりに今度はきょろりと横を見た。


 一度。


 二度。


 同じくらいの歳の同性を探すみたいな視線だった。


 ユウはすぐに低く言う。


「見るな」


 ユイが小さく肩を跳ねさせる。


「……見てません」


「きょろつくな」


 もっと短く切る。


 ユイは口を閉じた。


 けれど、帽子のつばの下の目がまだ少しだけ落ち着かない。


 諦めきれていない顔だ。


 ユウは前を見たまま、さらに低く言う。


「目立つ」


 それでようやく、ユイも小さく息を呑んだ。


 少し間を置いてから、抑えた声で言う。


「同じくらいの女の子、いるかなって……」


 その言い方があまりにも素直で、ユウは一瞬だけ返す言葉を選ぶ羽目になる。


 けれど、選んだところで答えは変わらない。


「そんなの滅多にいねえ」


 ユイが黙る。


 多分、本気でそうなんだろう。


 ここに集まっている顔ぶれを見れば分かる。


 若いのはいる。


 だが、ユイみたいな歳の女で、しかもこうしてファミリーの中へ置かれているようなのは、ほとんど珍種みたいなものだ。


 ユウは余計な説明を足さない。


 足したところで、今は仕事前だ。


 ユイの方も、前回の外歩きが効いているのだろう。


 それ以上はきょろつかず、小さく「はい」とだけ返した。


 サエはその一往復を横目で見ていたが、何も言わなかった。


 言うまでもなく正しいやり取りだと分かっている顔だった。


 その時、少し離れたところで声が上がる。


「今回もこっち寄りか?」


「中央だろ」


「新人混ぜすぎんなよ」


「知るか、上に言え」


 どうやら別のファミリー同士で配置の話が始まっているらしい。


 タチバナはその方へ目を向け、すぐに動いた。


「行ってくる」


 誰へというほどでもなく言う。


 現場の打ち合わせへ呼ばれるのだろう。


 それだけで、タチバナがこの場である程度の位置にいるのが分かる。


 レンジが手をひらひらさせる。


「はいはい、お願いします」


 サエは短く頷くだけだった。


 タチバナが離れると、ユウたちは少し後ろへ寄る。


 固まりの外側。


 けれど、完全に離れない位置だ。


 その間も、周囲の目は時々こちらへ触れる。


 視線がまた一つ、こちらを撫でた。


 新顔の男。


 見慣れない配置。


 そして、その中にいるユイ。


 見られないわけがない。


 それでも前回の道中よりはましだった。


 ここでは少なくとも、皆が仕事前の顔をしている。


 面白半分で手を出す空気ではない。


 その代わり、値踏みはされる。


 レンジがその辺りの空気を読んだのか、小声でぼやく。


「相変わらず多いですねえ」


「これでも少ない方よ」


 サエが返す。


「定期狩りは断る理由を立てやすいもの。もっと大きい防衛戦になると、こうはいかない」


 ユウはそれを聞きながら、周囲の並びを見る。


 確かに、揃っているようで揃っていない。


 人数も質もばらつきがある。


 だからこそ、配置で埋めるのだろう。


 ユイが今度はきょろつかず、少しだけ声を落として言った。


「思ったより多いですね」


 今度はユウもすぐには止めなかった。


「多い方がいい」


 短く返す。


「少ないと抜かれる」


 ユイはその言葉に、今度はすぐ「はい」とだけ返した。


 空き地の端から、外縁へ向かう道が見える。


 そこから先は、街の内側ではない。


 ロストたちは、その境目へ向かうために集められていた。

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