↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀月のロスト  作者: taka
第15章 壁の上

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/132

射線へ誘う

 オーガが鉄骨を振った。


 通路脇の遮蔽が砕ける。


 木箱の破片が飛び、金属板が壁に叩きつけられた。


 用心棒の一人が身を伏せる。


 二階の窓から銃声が返る。


 弾はオーガの肩に入った。


 肉が裂ける。


 血が飛ぶ。


 だが、止まらない。


 オーガは顔を上げ、撃った窓へ目を向ける。


「下がれ!」


 タチバナの声が飛ぶ。


 その直後、オーガの背後からゴブリンの銃声が走った。


 窓枠が欠ける。


 二階の用心棒が身を引く。


 撃ち切る前に、射線を切らされた。


 ゴブリンはまだ残っている。


 補助扉の外。


 壊れた扉板の陰。


 搬出用コンテナの裏。


 オーガの後ろから、頭を押さえるように撃ってくる。


 ユウは壁際へ滑るように移動した。


 ARを構える。


 狙う。


 オーガの脇腹。


 一発。


 弾が肉へ入る。


 オーガは少しだけ身体を揺らした。


 それだけだった。


 二発目。


 今度は肩。


 血が跳ねる。


 だが、鉄骨を握る腕は緩まない。


「胴は薄い」


 ユウが言う。


「分かってる」


 タチバナが正面から撃った。


 三発。


 頭を狙っている。


 オーガは鉄骨を持ち上げた。


 銃弾の一つが鉄骨に当たり、火花を散らす。


 もう一つは頬を削った。


 三つ目は首の横へ入った。


 それでも、止まらない。


 首の傷から血が流れる。


 流れたそばから、肉が寄っていく。


「頭か心臓」


 タチバナが低く言う。


「それ以外は時間稼ぎだ」


 ユウは答えなかった。


 時間稼ぎでいい。


 今は、それが必要だった。


 オーガが一歩踏み出す。


 床が鳴る。


 二歩目。


 鉄骨が横に振られる。


 用心棒たちが左右へ割れる。


 一人が遅れた。


 鉄骨の先が遮蔽を砕き、その破片が用心棒の胸元へ当たる。


 男は壁に叩きつけられ、膝をついた。


 別の用心棒がすぐに襟を掴み、後ろへ引く。


「下げろ!」


「分かってる!」


 用心棒たちは逃げていない。


 持ち場を捨てているわけでもない。


 動けない者を射線から外し、別の者がその穴へ入る。


 だが、余裕は削られていた。


 オーガ一体で、通路の形が変わっていく。


 ユウは横へ回った。


 オーガの膝を見る。


 太い。


 だが、関節はある。


 動く以上、折れる場所がある。


 ユウは足を止める。


 撃つ。


 一発。


 膝の外側へ。


 オーガの足が、ほんの少し流れた。


 すぐに戻る。


 だが、歩幅は乱れた。


「膝」


 ユウが言う。


 タチバナがすぐに合わせる。


 正面から、頭を狙う。


 オーガの頭が一瞬下がった。


 歩幅の乱れで、身体の軸が沈む。


 そこへ、タチバナの弾が飛ぶ。


 額の横を削った。


 もう少しで、入っていた。


 その瞬間、ゴブリンの銃声が横から来た。


 タチバナの足元の壁が欠ける。


 破片が跳ねる。


 タチバナは半歩だけ射線を外した。


 頭への二発目がずれる。


 オーガの耳を裂いただけで終わった。


「邪魔だな」


 タチバナが吐き捨てる。


 ユウは補助扉の奥を見る。


 銃持ちのゴブリンが、遮蔽の陰から撃っている。


 狙いは甘い。


 だが、十分だった。


 タチバナの射線を乱す。


 用心棒の頭を下げさせる。


 二階の窓を黙らせる。


 オーガを撃たせないための射撃。


 ユウはARを少し下げた。


 ゴブリンを撃ちたい。


 だが、今それを追えば、オーガが通る。


 優先は、オーガ。


 ただし、倒すためではない。


 動かすため。


 ユウはさらに横へ動いた。


 オーガの肘を見る。


 鉄骨を握る右腕。


 そこを撃つ。


 一発。


 肘の外側に弾が入った。


 オーガの腕がわずかに落ちる。


 鉄骨の振りが、少し遅れた。


 その一瞬で、用心棒が左右へ逃げる。


 二階の窓から銃声。


 頭ではない。


 オーガの肩と首へ弾が集まる。


 傷は増える。


 だが、止まらない。


 オーガは、ようやくユウを見た。


 真正面のタチバナではない。


 二階の用心棒でもない。


 横から膝と肘を撃ってくる、小さい邪魔者。


 ユウを見る。


 目が合った。


 オーガの口元が歪む。


 怒りか。


 苛立ちか。


 どちらでもよかった。


 向いた。


 ユウは一歩下がる。


 オーガが向きを変えた。


「ユウ!」


 用心棒の声。


 ユウは返事をしない。


 もう一歩下がる。


 オーガが踏み出す。


 鉄骨を引きずる。


 床を削る音が通路に響いた。


 ぎぎ、と低く。


 ユウは撃つ。


 膝。


 オーガの足が少し乱れる。


 だが、止まらない。


 肘。


 鉄骨の角度がわずかに落ちる。


 だが、止まらない。


 オーガはユウだけを見ている。


 それでいい。


 ユウは後退した。


 逃げているように見える。


 だが、足は無闇に下がっていない。


 右へ半歩。


 後ろへ一歩。


 また右へ半歩。


 通路の線を頭の中でなぞる。


 南西補助扉。


 内側通路。


 壁上の銃座。


 重機関銃の射線。


 壁上から見た景色が戻る。


 レンジのいる位置。


 サーチライト。


 壊された建物。


 銃座の角度。


 ここまで。


 あと少し。


 オーガが鉄骨を振る。


 ユウは横へ跳ぶ。


 鉄骨が壁を叩いた。


 白い管理灯が割れる。


 暗くなる。


 その暗がりの中で、ゴブリンの銃声がまた走る。


 ユウの足元が欠けた。


 狙いは雑だ。


 だが、足を止めさせるには十分。


 ユウは止まらない。


 一歩下がり、撃つ。


 今度はオーガの手首。


 弾が入れば、鉄骨を握る指がわずかに開く。


 すぐ握り直す。


 再生が早い。


 いや、痛みを無視しているだけかもしれない。


 どちらにしても、時間は短い。


 タチバナが気づいた。


 正面から撃つのをやめ、少し横へ流れる。


 自分の射線を変えるためではない。


 壁上からの線を空けるため。


 タチバナの目が一瞬だけ上を見た。


 レンジの位置。


 ユウはそれを見て、短く息を吐いた。


 伝わった。


 壁上。


 レンジは重機関銃の横にいた。


 銃座担当の男と位置を変わり、銃の角度を少しずつ下げている。


 眼下に見えるのは、南西補助扉の内側。


 動く影。


 大きな影。


 そして、その前で下がるユウ。


「そこへ持ってくるつもりですか」


 レンジは小さく呟いた。


 銃座担当が聞く。


「撃てますか」


「まだですね」


 レンジは照準を合わせたまま答える。


「まだユウが近いです。タチバナさんも線に入ります」


 サーチライトが動く。


 オーガの肩が白く浮かぶ。


 だが、撃てない。


 まだ、角度が浅い。


「あと三歩」


 レンジは歯の奥で言った。


「いや、二歩」


 下。


 ユウは後退を続ける。


 オーガは追ってくる。


 鉄骨を持った腕が振り上がる。


 ユウは膝を撃った。


 一発。


 オーガの足が流れる。


 そのせいで、鉄骨の振りが少し外れる。


挿絵(By みてみん)


 ユウの横を、鉄の塊が通った。


 風が頬を叩く。


 壁が砕け、石片が飛ぶ。


 ユウはそのまま後ろへ跳ぶ。


 あと一歩。


 ゴブリンの銃声に対し、タチバナが撃ち返す。


 オーガの背後、遮蔽の陰にいた銃持ちが一体、沈む。


 だが、別の銃声が来る。


 用心棒が身を伏せ、二階の窓が一瞬黙る。


 ゴブリンは、まだオーガを守っている。


 タチバナが怒鳴った。


「二階、後ろを黙らせろ!」


「了解!」


 窓から銃声が返る。


 補助扉の外で、低い悲鳴が上がった。


 ユウはそれを聞きながら、最後の位置へ下がる。


 壁上からの射線。


 ユウの背中側を、サーチライトの光が薄くかすめた。


 オーガがそれに気づく前に、鉄骨を振り上げた。


 ユウを潰すために。


 オーガの胸が開く。


 頭が上がる。


 心臓の位置が、正面に近くなる。


 だが、ユウは撃たなかった。


 撃てば足が止まる。


 オーガを止めるより、射線へ入れたい。


「レンジ」


 ユウは通信を開いた。


「今」


 壁上で、レンジの指が動いた。


 その直前、タチバナが叫ぶ。


「伏せろ!」


 ユウは横へ跳び、用心棒たちも伏せる。


 二階の銃口が止まる。


 オーガは鉄骨を振り下ろそうとしていた。


 その身体が、完全に線へ入る。


 重機関銃が火を噴いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。