表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/7

もしもリリィと結婚したら

 ――その夜。


 雄一は、久しぶりに悪夢を見た。


 いや。


 ある意味では“幸せな夢”だったのかもしれない。


 だが少なくとも、雄一にとっては恐怖でしかなかった。


 ◆


「国王陛下、お目覚めの時間です」


「……ん……?」


 柔らかな声。


 だが、妙に聞き覚えがある。


 雄一は重い瞼を開いた。


「……は?」


 天井が違った。


 豪華絢爛。


 シャンデリア。

 赤い天蓋。

 広すぎる寝室。


 まるで映画の王宮。


「な、なんだここ……」


「何を寝ぼけていますの?」


 隣から声。


 振り向く。


 そして雄一は固まった。


「……リリィ?」


 そこにいたのは。


 長い金髪をゆるく結い上げ、

 豪奢なネグリジェ姿でこちらを見下ろすリリィだった。


 しかも。


 左手薬指には、指輪。


「は?」


 さらに雄一は自分の左手を見る。


 ――指輪。


「はぁ!?」


 飛び起きる。


「なんで!? え!? 何これ!?」


「朝からうるさいですわね」


 リリィは呆れた顔をした。


「結婚して八年も経つのに、今さら何を驚いてますの?」


「八年!?」


 雄一の叫びが王宮に響いた。


 ◆


「落ち着きなさいな」


 リリィは紅茶を飲みながら優雅に言った。


「あなた、最近働きすぎですわ」


「いや待て待て待て!」


 雄一は混乱していた。


 どう見ても異世界。


 どう見ても王宮。


 そして。


 どう見ても――。


「なんで俺がお前と結婚してんだよ!!」


「何を今さら」


 リリィは当然のように頷く。


「あなた、わたくしに拉致されましたでしょう?」


「やっぱりかぁぁぁ!!」


 雄一は頭を抱えた。


 嫌な予感はしていた。


 最終回のあのハグ。


 あれ絶対危なかったのだ。


「しかも国王って何!?」


「わたくしの夫ですもの。当然ですわ」


「人権!!」


「この国では王族が人権ですわ」


「終わってる!!」


 雄一は泣きそうだった。


 ◆


 さらに最悪なのは――。


「父上ー!!」


「おとーさまー!!」


 ドタドタドタ!!


 扉が勢いよく開いた。


「うっ」


 雄一は顔を引きつらせる。


 子供が二人。


 男の子と女の子。


 そして――。


「……うわぁ」


 顔が完全にリリィだった。


 いや、正確には。


 リリィ成分が濃すぎた。


「父上、今日も訓練をサボるのですか?」


 銀髪の少年が呆れたように言う。


 六歳くらい。


 だが目つきが完全に王族。


「弱い王は民の恥です」


「六歳で言うセリフじゃねぇ!」


「お父様」


 今度は娘。


 こちらは四歳くらい。


 だが。


「また眼鏡が曲がっていますわ」


「遺伝子で人を煽るな!!」


 するとリリィが当然のように言った。


「あなたが異世界での思い出作りなどと言いながら、わたくしに迫ってきた結果生まれた子たちですわ」


「子供の前で露骨な話するな!!」


「きゃー、お父様えっちですわー」


「娘まで煽るな!!」


「父上、最低です」


「なんで俺が悪い流れなんだよ!?」


 完全に地獄だった。


 ◆


 朝食。


 長いテーブル。


 豪華な料理。


 だが会話がひどい。


「父上、この肉、焼きが甘いです」


「料理人を処刑いたします?」


「やめろ!!」


「お父様、この紅茶ぬるいですわ」


「毒見役を減給いたします?」


「ブラック企業!!」


 さらに。


「そういえば父上」


 息子が言う。


「本日は隣国との会談があります」


「……へ?」


「外交ですわ」


 リリィが当然のように頷く。


「あなたも国王なのですから働きなさい」


「いや俺広告代理店勤務だっただけなんだけど!?」


「似たようなものですわ」


「全然違う!!」


 雄一は絶望した。


 ◆


 そして。


 最悪の事件が起きる。


「父上!」


 息子が走ってくる。


「大変です!」


「なんだ!?」


「妹がまた魔法で城壁を吹き飛ばしました!」


「何やってんだぁぁぁ!!」


 娘が胸を張る。


「わたくし、ガンダムを再現しようと思いましたの」


「教育失敗してる!!」


「あと“ぶらっくぷりんせす”もやりたいですわ」


「やめろ!! その黒歴史は封印しろ!!」


 リリィが優雅に笑う。


「血は争えませんわね」


「全部お前のせいだろ!!」


 ◆


 夜。


 雄一は疲れ果てていた。


「……帰りたい」


 ソファに沈み込み呟く。


 日本に。


 静かなマンションに。


 コンビニ飯でいい。


 残業でもいい。


 普通の生活に戻りたい。


 すると。


「雄一」


 リリィが隣に座った。


「……なんだよ」


「そんな顔をしないでくださいな」


 珍しく優しい声。


「あなたはよくやっていますわ」


「……」


「子供たちも、あなたが大好きですもの」


「……あいつら怖いんだけど」


「ふふっ」


 リリィは少し笑った。


「ですが」


 そして。


 そっと雄一の肩にもたれかかる。


「退屈はしないでしょう?」


「……」


 雄一は少しだけ黙り。


「……まあ、それはそうかもな」


 そう呟いた。


 すると。


「父上ー!」


「お父様ー!」


 再び子供たちが突撃してくる。


「ガンダム作りましょう!」


「城壁をもっと爆破しますわ!」


「やめろぉぉぉぉ!!」


 ◆


「――っ!!」


 雄一は飛び起きた。


「はぁっ……はぁっ……!」


 見慣れた天井。


 マンション。


 静かな夜。


「……夢?」


 全身汗だくだった。


「なんだよあれ……」


 だが。


 その瞬間。


 ――パァァ……


 クローゼットの隙間が、一瞬だけ光った。


「っ!?」


 雄一は凍りつく。


 だが光はすぐ消える。


 静寂。


「……おい」


 恐る恐る近づく。


 開ける。


 何もない。


 当然、誰もいない。


 だが。


 床には、一枚の紙。


「……は?」


 震える手で拾う。


 そこには。


『未来予想図ですわ♡』


 と、リリィの字で書かれていた。


「……」


 雄一は数秒固まり。


 そして。


「やっぱりあいつ、帰ってくる気だぁぁぁぁ!!」


 深夜のマンションに、絶叫が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ