異世界王女、SNSを始める
一月某日。
雄一は人生最大級の後悔をしていた。
「……なんで教えたんだ俺」
ソファに座りながら、頭を抱える。
原因は目の前にいた。
「ほう……これが“えっくす”ですのね」
リリィである。
スマホ片手に、異常な集中力を見せていた。
事の発端は数日前。
リリィが偶然、動画サイトで“配信者”という存在を知ったことだった。
『この者たちは、世界中の民へ己の姿を見せているのですの!?』
『まあそういう感じ』
『つまり演説会場ですわね!』
『違うと思う』
そこから興味を持ったリリィは、SNSを覚えてしまった。
そして今――。
「雄一」
「なんだ」
「フォロワーとは、民の数ですの?」
「ざっくり言えばそう」
「なるほど」
リリィは満足げに頷く。
「では、わたくしに相応しい数字にしなければなりませんわね」
「嫌な予感しかしねぇ……」
◆
数分後。
「できましたわ!」
「何が?」
「初投稿ですの!」
嫌々ながら、雄一はスマホ画面を覗く。
そこに表示されていたのは――。
『愚民ども、見なさい。
本日もわたくしは美しいですわ。』
添付画像。
超至近距離の自撮り。
完全に見下ろし角度。
しかも背景に雄一の部屋が映っている。
「お前ぇぇぇぇ!!」
「なんですの!?」
「家映ってる! あと文章が強すぎる!!」
「事実ですわ!」
「もっとこう……普通にだな……!」
だが時すでに遅し。
投稿されてしまった。
雄一は頭を抱える。
「絶対炎上する……」
しかし。
数時間後。
「……あれ?」
通知欄がとんでもないことになっていた。
『何この子かわいい』
『コスプレの完成度高すぎ』
『海外モデル?』
『キャラ作りクセ強で好き』
『金髪姫騎士系女子!?』
『顔が良すぎる』
さらに。
『この特攻服ヤバい』
『ブラック・プリンセスってマジ?』
『渋谷の黒姫ってこの人!?』
『歌舞伎町の都市伝説じゃん』
変な方向へ広がり始める。
「……なんだこれ」
雄一の顔が引きつる。
一方。
「ふふん♪」
リリィはご満悦だった。
「当然ですわね」
「いや待て、なんか変な噂混ざってるぞ」
「有名税ですわ」
「お前ほんと順応早いな!?」
◆
翌日。
リリィは完全にSNSにハマっていた。
「雄一」
「なんだ」
「“ばずる”とは何ですの?」
「急にいっぱい広まること」
「ほう」
リリィは少し考え――。
「ならば、さらに民衆を魅了して差し上げましょう」
「やめろその言い方」
数分後。
新しい投稿。
『本日はブラック・プリンセスの戦闘服ですわ』
添付。
黒特攻服姿。
腕組み。
完全にレディース総長。
しかも背景が夜の渋谷。
結果。
『え!? 本物!?』
『渋谷のブラック・プリンセスだ!!』
『会ったことある!』
『マジで喧嘩強いらしい』
『火を出すって聞いた』
『半グレ潰した人?』
『怖すぎる』
コメント欄がカオスになる。
「なんでそんな噂広まってんだよ……」
雄一は真顔になった。
だがリリィ本人は。
「人気者はつらいですわねぇ」
「お前絶対理解してないだろ」
◆
さらに数日後。
リリィのアカウントは、なぜか急激にフォロワーを増やしていた。
理由は単純。
顔が良すぎた。
そしてキャラが濃すぎた。
投稿内容も意味不明だった。
『本日はコンビニの肉まんを食べましたわ。
現代文明、恐るべしですわね』
『この世界の“げーむせんたー”は素晴らしいですわ!
メダルを奪い合う闘技場ですの?』
『愚民ども、本日はプリンを献上しなさい』
コメント欄。
『キャラ作り天才』
『絶対芸能人だろ』
『中身お嬢様なのガチっぽい』
『この人の世界観好き』
『ブラック・プリンセス今日も美しい』
もはや一種の人気インフルエンサーだった。
◆
そんなある日。
「雄一!」
「なんだよ」
「“こらぼ”の依頼が来ましたわ!」
「は?」
画面を見る。
『ぜひコスプレイベントに出演しませんか?』
『モデル活動に興味ありませんか?』
『配信しませんか?』
大量のDM。
「……お前、何してんの?」
「人気者になりましたわ!」
「なんでだよ!!」
するとリリィは、なぜか誇らしげに胸を張った。
「王族たるもの、民衆を惹きつける魅力が必要ですもの」
「いや方向性がおかしいんだよ」
だが。
そんなやり取りをしながらも、雄一は少し笑っていた。
毎日騒がしくて。
問題ばかり起こして。
でも。
楽しそうにスマホをいじるリリィを見ていると、不思議と悪い気はしなかった。
そのときだった。
「……ん?」
雄一が、あるコメントを見つける。
『ブラック・プリンセスって、新宿の半グレ潰した人だろ?』
『池袋でも見たぞ』
『火ぃ出してた』
『逆らうと終わるらしい』
「……おい」
「なんですの?」
「お前、本当に何した?」
「治安維持ですわ」
「絶対それだけじゃねぇ!!」
そして今日もまた。
雄一の知らないところで、“ブラック・プリンセス伝説”は拡散されていくのだった。




