かおりの観察日記 ~私の彼氏の家がたぶん異世界に侵略されている件~
四月某日。
私は最近、本気で悩んでいる。
彼氏の雄一がおかしい。
いや、正確には――雄一の家がおかしい。
◇
最初は小さな違和感だった。
「最近、家に呼んでくれないよね?」
そう聞いた時、雄一は明らかに目を逸らした。
「あー……ちょっと今、事情があって」
「事情?」
「……留学生預かってるんだ」
その瞬間、私は理解した。
――あ、これ浮気だ。
だって“留学生”って便利ワードすぎる。
男が使う「仕事忙しい」と同じくらい怪しい。
◇
後日。
私は雄一の家へ突撃した。
合鍵を使ったのは悪いと思う。
でも彼女には確認する権利がある。
そして部屋に入った瞬間。
「うわ、誰この美少女!?」
金髪碧眼。
肌が白い。
顔が異常に整っている。
しかも。
「雄一ならまだ仕事ですわよ」
喋り方が濃い。
めちゃくちゃ濃い。
なんなのこの子。
本当にいるんだ、こういう喋り方。
◇
さらに問題だったのは。
「その格好どうしたの?」
彼女――リリィさんが、雄一のワイシャツ一枚姿だったことだ。
しかも脚が長い。
モデルみたい。
私は女だけど、ちょっとドキッとした。
「これは要望に応えているのですわ!」
「要望?」
「はい!」
満面の笑み。
終わった。
あ、これ完全に終わった。
私の彼氏、終わってる。
◇
さらに追撃が来る。
風呂場から、ものすごくガタイのいい外国人男性が出てきた。
しかも上半身裸。
筋肉がヤバい。
ボディビルダーみたい。
「えっ!?」
私が固まっていると、リリィさんが平然と言った。
「あの男は雄一のボーイフレンドですわ」
「……は?」
一瞬、脳が理解を拒否した。
え、待って。
つまり。
金髪美少女。
筋肉外国人。
インテリメガネ彼氏。
何そのカオス。
◇
さらに寝室を見た。
BL本が山ほどあった。
私は悟った。
――あ、この家、もうダメだ。
◇
その日の夜。
帰宅した雄一を、私は五回くらいビンタした。
「違うんだって!」
「何が違うのよ!」
「異世界から来た王女様なんだって!」
「もっとマシな言い訳考えなさいよ!」
「本当なんだよ!」
「じゃあ、なんであのオッサンと同居してるのよ!」
「大司教だから!」
「意味わかんないわよ!」
今思い返しても、あの日の私は正しかったと思う。
◇
……しかし。
私は少しずつ気づき始める。
あれ?
この人たち。
本当に異世界人では?
◇
まず、リリィさん。
火を出した。
本当に出した。
しかもキングダム・ファンタジアのパレード中に。
周囲は「演出すごーい!」とか言ってたけど。
違う。
あれ本物。
本物の火。
普通に危険なやつ。
◇
さらに。
心霊スポットに行った時。
私は見た。
女の幽霊を。
そして。
筋肉大司教クリスさんが。
力づくで壺に押し込んでいた。
「いやいやいやいや!?」
あれ除霊じゃない。
プロレス。
悪霊退治じゃなくて、悪霊捕獲。
しかもリリィさん。
「壺の栄養素にしますわ!」
とか言ってた。
怖い。
発想が怖い。
◇
でも。
不思議と嫌じゃなかった。
騒がしくて。
意味不明で。
毎日疲れるけど。
なんだかんだ楽しかった。
◇
一番笑ったのは、花見の日。
リリィさんが酔っ払いサラリーマンを見て真顔で聞いた。
「こちらの世界では頭にネクタイを巻くのが礼儀なのですか?」
私は吹き出した。
でも確かに、異世界人から見たらそう見えるかもしれない。
◇
そして。
リリィさんが帰る日。
私は少しだけ泣きそうだった。
最初は浮気相手だと思っていた。
でも違った。
あの子は。
ただの、寂しがり屋の女の子だった。
◇
「かおり、それは叶わないのですわ」
花見の時のあの顔。
たぶん。
本当は帰りたくなかったんだと思う。
◇
別れ際。
リリィさんは雄一に抱きついた。
そして。
「このメガネを連れて帰るのです!」
普通に誘拐しようとしていた。
感動返して。
◇
結局最後まで騒がしかった。
でも。
クローゼットから本当に消えた時。
私は少しだけ寂しかった。
◇
それから数日後。
ようやく静かな生活が戻った。
私は安心していた。
本当に安心していた。
――あの日までは。
◇
深夜二時。
雄一の家から絶叫が聞こえた。
慌てて駆けつける。
すると。
「お久しぶりですわ!」
黒い特攻服姿のリリィさんがいた。
しかも増えてた。
後ろに知らないメイド二人いる。
「え?」
「わたくし専属メイドですわ!」
「増やすなぁぁぁぁぁ!!」
雄一が叫ぶ。
私は天井を見上げた。
ああ。
私の平穏な人生。
終わったな。
そう確信した。




