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2/7

かおりの観察日記 ~私の彼氏の家がたぶん異世界に侵略されている件~

 四月某日。


 私は最近、本気で悩んでいる。


 彼氏の雄一がおかしい。


 いや、正確には――雄一の家がおかしい。


     ◇


 最初は小さな違和感だった。


「最近、家に呼んでくれないよね?」


 そう聞いた時、雄一は明らかに目を逸らした。


「あー……ちょっと今、事情があって」


「事情?」


「……留学生預かってるんだ」


 その瞬間、私は理解した。


 ――あ、これ浮気だ。


 だって“留学生”って便利ワードすぎる。


 男が使う「仕事忙しい」と同じくらい怪しい。


     ◇


 後日。


 私は雄一の家へ突撃した。


 合鍵を使ったのは悪いと思う。

 でも彼女には確認する権利がある。


 そして部屋に入った瞬間。


「うわ、誰この美少女!?」


 金髪碧眼。

 肌が白い。

 顔が異常に整っている。


 しかも。


「雄一ならまだ仕事ですわよ」


 喋り方が濃い。


 めちゃくちゃ濃い。


 なんなのこの子。

 本当にいるんだ、こういう喋り方。


     ◇


 さらに問題だったのは。


「その格好どうしたの?」


 彼女――リリィさんが、雄一のワイシャツ一枚姿だったことだ。


 しかも脚が長い。


 モデルみたい。


 私は女だけど、ちょっとドキッとした。


「これは要望に応えているのですわ!」


「要望?」


「はい!」


 満面の笑み。


 終わった。


 あ、これ完全に終わった。


 私の彼氏、終わってる。


     ◇


 さらに追撃が来る。


 風呂場から、ものすごくガタイのいい外国人男性が出てきた。


 しかも上半身裸。


 筋肉がヤバい。


 ボディビルダーみたい。


「えっ!?」


 私が固まっていると、リリィさんが平然と言った。


「あの男は雄一のボーイフレンドですわ」


「……は?」


 一瞬、脳が理解を拒否した。


 え、待って。


 つまり。


 金髪美少女。

 筋肉外国人。

 インテリメガネ彼氏。


 何そのカオス。


     ◇


 さらに寝室を見た。


 BL本が山ほどあった。


 私は悟った。


 ――あ、この家、もうダメだ。


     ◇


 その日の夜。


 帰宅した雄一を、私は五回くらいビンタした。


「違うんだって!」


「何が違うのよ!」


「異世界から来た王女様なんだって!」


「もっとマシな言い訳考えなさいよ!」


「本当なんだよ!」


「じゃあ、なんであのオッサンと同居してるのよ!」


「大司教だから!」


「意味わかんないわよ!」


 今思い返しても、あの日の私は正しかったと思う。


     ◇


 ……しかし。


 私は少しずつ気づき始める。


 あれ?


 この人たち。


 本当に異世界人では?


     ◇


 まず、リリィさん。


 火を出した。


 本当に出した。


 しかもキングダム・ファンタジアのパレード中に。


 周囲は「演出すごーい!」とか言ってたけど。


 違う。


 あれ本物。


 本物の火。


 普通に危険なやつ。


     ◇


 さらに。


 心霊スポットに行った時。


 私は見た。


 女の幽霊を。


 そして。


 筋肉大司教クリスさんが。


 力づくで壺に押し込んでいた。


「いやいやいやいや!?」


 あれ除霊じゃない。


 プロレス。


 悪霊退治じゃなくて、悪霊捕獲。


 しかもリリィさん。


「壺の栄養素にしますわ!」


 とか言ってた。


 怖い。


 発想が怖い。


     ◇


 でも。


 不思議と嫌じゃなかった。


 騒がしくて。


 意味不明で。


 毎日疲れるけど。


 なんだかんだ楽しかった。


     ◇


 一番笑ったのは、花見の日。


 リリィさんが酔っ払いサラリーマンを見て真顔で聞いた。


「こちらの世界では頭にネクタイを巻くのが礼儀なのですか?」


 私は吹き出した。


 でも確かに、異世界人から見たらそう見えるかもしれない。


     ◇


 そして。


 リリィさんが帰る日。


 私は少しだけ泣きそうだった。


 最初は浮気相手だと思っていた。


 でも違った。


 あの子は。


 ただの、寂しがり屋の女の子だった。


     ◇


「かおり、それは叶わないのですわ」


 花見の時のあの顔。


 たぶん。


 本当は帰りたくなかったんだと思う。


     ◇


 別れ際。


 リリィさんは雄一に抱きついた。


 そして。


「このメガネを連れて帰るのです!」


 普通に誘拐しようとしていた。


 感動返して。


     ◇


 結局最後まで騒がしかった。


 でも。


 クローゼットから本当に消えた時。


 私は少しだけ寂しかった。


     ◇


 それから数日後。


 ようやく静かな生活が戻った。


 私は安心していた。


 本当に安心していた。


 ――あの日までは。


     ◇


 深夜二時。


 雄一の家から絶叫が聞こえた。


 慌てて駆けつける。


 すると。


「お久しぶりですわ!」


 黒い特攻服姿のリリィさんがいた。


 しかも増えてた。


 後ろに知らないメイド二人いる。


「え?」


「わたくし専属メイドですわ!」


「増やすなぁぁぁぁぁ!!」


 雄一が叫ぶ。


 私は天井を見上げた。


 ああ。


 私の平穏な人生。


 終わったな。


 そう確信した。

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