第14話 悪魔についての勉強会⑥ 「暴食」と「憤怒」
さて、学びの為にもここらで休息といこう。
予め買い込んでおいたお菓子とジュースを取り出し、参加者達の前に山と積む。
僕の煽りに荒ぶっていたアーチャーちゃんも、皆の糖分補給を邪魔する気は無いみたいで、部屋の隅に座ってお茶をひたすらにがぶ飲みしていた。自棄である。
「ところでスザクちゃん。」
「? 何?」もぐもぐ…
「つまみながらでいいから、質問に答えてほしい。
──君は、何故、食べ物を他人に渡しているの?」
「…へ???」きょとん…
ちょうど彼女は隣の梳宮少年にポ○トチップスの大袋を手渡している最中だ。先ほどは、後ろに座る厳護ちゃんにミルクティーの2Lペットボトルをパスしていた。居屋敷ちゃんと2人分の紙コップを付けて。
彼女自身はチョコパイやソフト煎餅を一口で次々に頬ばりながら、周りの人に飲食物を配っているのだ。
「安心して。まったく責めてないから。
むしろ、尊敬して僕は尋ねてるんだよ?」
「そんけい…??」
「チュチュ。」『暴食』に囚われてない、って言いたいのですわ~…
「どう言うこと…?」意味分からん…
うんうん、相棒妖魔ちゃんは理解しているみたいだね。
「皆も飲み食いしながらで聞いてね。
知っての通り、ここに居る火野朱雀ちゃんは、『暴食』の魔を持つ魔法少女です。では、暴食とは何でしょう? 梳宮少年。」
「…、食って食って、強くなる、悪魔の力。」
「その通り。『暴れて』『食べる』、文字通り『食欲』に関係する大罪だ。
食べた物の性質を取り込んだり、ひたすらに魔力を溜め込んで強化したり、結構色んなタイプが存在する。スザクちゃんの場合は、摂取カロリーを火炎に変換する異能持ちだね。もちろん共通するのは『食べる』ことだ。」
当の魔法少女ちゃんは、首を傾げながらマシュマロをパクついている。
ふふ、無自覚顔可愛い。
「この飽食社会…、いつでもどこでも美味しく温かい食事が可能な日本においては、強力な戦力に成り得る欲望。
けれど、簡単に満たされるからこそ、際限無く暴走し得る危険性を秘めている。
僕が今スザクちゃんを褒めたのは、自分の目の前に有る美味しい食べ物を何の気無しに他人に譲ったから。これはとっても尊くて凄いこと、なんだよ?」
「ぃや、オレ、そんな…。」
僕の眼差しから顔を僅かに逸らし、頬を赤くするスザクちゃん。
「もちろん、君の場合は相棒のナッツちゃんから力を与えられたって経緯も大きい。魔力と欲望の制御を2人掛かりでできるからね。
けれど、魔鼠とは言え獣の直情的な本能は割と危険なんだよ本来。人間の理性なんか簡単に食い千切られるから。」
「ナッツは別に、そんなこと…。」そう言う話じゃ、ねぇのか…
「チュウ。」カシュウちゃんが頑張れば、もっと美味しいものが頂けるのですわ~…!
悪魔退治をすれば報酬、美味しいご飯が手に入る。
たとえ打算有りきでの行動だろうと、欲望を支配下に置いているのは凄まじいことなのだ。
僕で言えば、裸の女の子が目の前で誘ってきているのに、それを隣のおっさんに宛がってあげる様なもの。とても真似できないね。
食べ物を他存在に分け与えることができる「暴食持ち」が、世界にどれだけ存在することか…。
「十数年しか生きていない中学生で、『暴食』に目覚めたばかりの人間として、君が真っ当な社会性を身に付けているのは素晴らしいことなんだよ。」
「」ぷいっ…! がつがつがつ…!!
──────────
「さて、暴走するって話の流れで『憤怒』についても話そうか。
『憤り』、『怒る』。激しい敵意・害意の発露。怒りの感情に関係する欲望だね。」
甘い物で集中力が回復したら、早速授業再開である。
今この場には憤怒の魔に目覚めた魔法少女が居るけれど、彼女は特別枠だ。そちらに話を振る気は一切無い。
「スザクちゃんやアーチャーちゃんにとってイメージしやすいのは、うちのエリザベートかな。愉快犯的な銀髪美少女悪魔。
彼女が操る黒い炎、ありとあらゆる物を焼き滅ぼすことができる魔の火炎。あれがエリザベートの憤怒の力なんだ。」
2人だけでなくこの空間に居る全員が一様に表情を固くする。
まあ、可愛い子どもの見た目に反して色々と凶悪だから身構えるのも仕方がない。
「元々の彼女は、『暴食』と『憤怒』、2つの魔を持った人間だった。魔法少女ですらなく、色々なことが重なって魔に呑まれた一般人。その暴走の果てに『彼女』は生まれた。」
まあ、もちろん今では僕の『色欲』も持つ訳だがここでは割愛しよう。
「エリザベートの場合、憤怒とはストレートに『憎悪』のことを指す。
ものすごくかいつまんで言えば、彼女は実の両親に虐待されていてね。
自由に食事を摂ることもできず暴食の魔を自力発現させ、憎悪の感情に寄ってきた憤怒の悪魔を食い潰して同化。憎しみの炎を使って両親を殺害。そのまま暴走して悪魔を超えた怪物となり、ここ万間の町で相当に暴れた。町の5分の1近くを破壊しつくした被害を出した災害、それが『万間の大災害』と呼ばれる20年近く前に起こった事件の真実だ。」
知っている子も初めて聞く子も、皆複雑な顔をしている。あまりの規模で隠蔽工作ができず、表の世界でも有名な自然災害だからね、思うことは多いだろう。
「暴走した彼女は、魔法少女の使命感とか正義の心も持たないから、欲望フルスロットルで魔に染まりきっててねぇ。見た目すらも人間辞めて化け物になってたんだ。」
ちょうど有名なアニメ映画に出てくる「タ○リ神」みたいな感じでね、本当にもの凄くヤバくて~、と言えば姿を想像できたのか皆から恐怖や嫌悪の感情が発せられる。
「まあ、そんな彼女を知り合いの魔法騎士と協力して封印したのが当時の僕でね?
彼女の欲望発散に僕の血肉を提供して、疑似家族として生活する契約を結んで、ようやく暴走が止まったんだ~。」噛り苦しめる肉親サンドバッグ的な~…
「…っ!!」
驚愕に目を見開くスザクちゃんが愛らしい。素直に感情を表現する子ってやっぱり良いよね。
「ふふ、そう怖がらなくても大丈夫。僕は僕で可愛い妹が出来てハッピーだったし、僕の『色欲』で洗脳できない初めての相手だったから色々と戒めにもなったし。結果的にはWin-Winな関係になれたからさ。」
「正気、かよ…。」
「正気だよ~。僕、非人間だからね。」
まあ、とは言ってもエリザベートが悪魔も人も食い殺せる危険な存在であることには変わりない。
日本の中でも指折りの破壊力を持つ彼女は、いつかその欲望で身を滅ぼす可能性は大いに有る。
「スザクちゃん。君は、相棒や周りの人間としっかり絆を結んで、皆と一緒に温かくてお腹いっぱいになれる未来を掴むといい。
君の欲望なら、それができる。僕はそう信じているよ──。」
さて、次回は残りの大罪を一挙に解説・解説ぅ~。




