第13話 悪魔についての勉強会⑤ 「嫉妬」と憧れ
「さて、『嫉妬』の魔を宿すキュウドウちゃん。」
「!」
彼女を抑える洗脳魔眼を外しながら、静かに問い掛ける。
「他人を羨み、妬み、足を引っ張る欲望、『嫉妬』とはどんなものか。改めて、教えてくれるかな?」
「…、」毒液消去…
「君はいったい、誰に嫉妬し、その欲望とどう向きあってきたのか。その全てを、後輩達に、ね?」
「…ふぅう~………。」
長く深呼吸をし始めたアーチャーちゃんを、スザクちゃんが心配そうに見上げている。その視線が僕と彼女とを行ったり来たりしていた。
ゲンゴちゃんと梳宮少年は以前に聞いているはずだが、緊張した面持ちで沈黙してくれている。知らんぷりモードの姫気取りちゃんには強制的に聴覚を前へと固定させておく。
僕は当然、彼女の欲望の全てを知っているが口にはしない。
さあ、魔法少女の心の輝きを見せてごらん。
「私が、この世で最も妬ましいと思う相手は──、
相田理多先輩、よ。」
「…え!?!?」ガタッ…!
「チュウ…。」とっても意外ですわ~…
スザクちゃんが驚愕のあまり立ち上がった。ポケットの妖魔ちゃんも動きを止めて凝視している。
「落ち着いて火野さん。大丈夫だから。」
「あ、おう…。」着席…
「意外だったかしら、私が相田先輩を羨んでるなんて。」
「いや、意外っつーか…、有り得なくね…??」
「あら、どうして?」
「だって…、『シット』って、邪魔してやろーとか嫌がらせしたい気持ちのことだろ…? ユミ先輩がそんなことする訳ないじゃん。」リタ先輩とあんなに通じ合って…
「ふふ、ありがとう。」
さっぱりと微笑む求道ちゃんが優しい声色で話を続ける。
「もちろん、私は相田先輩を心から尊敬してる。あの人の足を引っ張ろうなんて微塵も考えてないわ。
でもね。未熟な私は、あの強靭い先輩魔法少女に嫉妬の感情を抱いてしまうの。『あんなの反則よ!』ってね。」
「ユミ先輩も、思うんだ…。」
「ええ。私も、普通に俗物なのよ。醜い嫉妬を抱えるくらいには。」
いっそ朗らかに笑うアーチャーちゃんに、スザクちゃんのみならず姫気取りちゃんまでもが驚きで目を見張っている。
そして彼女は、自身とリタちゃんの出会いを静かに語り始めた。
「私が中学生の頃、悪魔が人を襲う場面に出会してね。その頃の私は自分が強くて賢い子だって自惚れてて、人じゃない化け物にも対抗できる!って手を出したの。
もちろん、その時はただの一般人だったから勝てる訳もなくて…。酷い目に遭いそうになった時に、『マジカル・リタ』が──相田先輩が助けてくれたの。」
昔を懐かしむ様に己の黒歴史を語る求道ちゃん。その場に居る後輩達全員が、食い入る様に話に聞き入っていた。
「当時の私は彼女のことをうんと年下の子どもだと思い込んでてね。こんな小さな子に助けられた、とか、自分が情けない、とかって気持ちも有ったんだけど…。一番強く感じたことが、『こんな力をこんな子が持っていてズルい。』ってことだったの。」
自分の瑕疵をさらけ出し、アーチャーちゃんは弱々しく笑う。
けれど、その言葉を聞いて誰が彼女のこと見下せるだろうか。
「それでまあ、先輩のサポートにやって来たそこの悪魔の催眠能力で、事件の記憶は消されちゃったんだけど…。」
(そこで仲間になったんじゃないんだ…。)
(またまた意外ですわ~…。)
「顔も思い出せない『誰か』をズルい、ズルいって想う気持ちだけがずっと胸に渦巻いていてね…。そこから色んなことを調べて相田先輩に辿り着いたの。」どうかしてたわね、あの頃の私…
「いやぁ、びっくりだったよ。僕に記憶を操作されたただの女の子が、街中でリタちゃんに『見つけたわよ、ズルい奴!』って泣き叫びながら突撃してきたんだから。」変質者かと…
「余計なことは言わないでくれるかしら…?(怒)」
はっはっはっ、必要な補足情報だとも。あの時のリタちゃん、何でもない様な顔をしてたけど内心では割と怯えてたからね~?
はぁ…
「まあ、そこから悪魔の話を聞いて、それと戦う魔法少女に私もなるって決めたの。幸いその頃には、嫉妬の感情を核にして魔力を扱う素質に目覚めてもいたし…。
それからは相田先輩に手取り足取りノウハウを教えてもらって、自分の中の悪感情と向き合う日々だったわ。自身の醜さに涙が止まらなくなったこともたくさん有ったけれど…、どうにかうまくやれているの…。」
求道ちゃんが慈愛の笑みを浮かべて、皆に顔を向ける。
「偉大な先達と、こんな私を慕ってくれる後輩達。皆のおかげで、私は魔法少女として立つことができている。
本当にありがとう。
これからも嫉妬の魔を持つ戦士として、先輩魔法少女の足を引っ張るんじゃなくて、彼女が頼るくらい強い存在に、成れる様に努力をしていくわ。」
「」ぱち!ぱち!ぱち!
「「」」ぱちぱちぱちぱち!
厳護ちゃんが無言ながら静かな微笑みと共に力強い拍手をする。遅れてスザクちゃんと梳宮少年も全力で手を叩き始めた。彼女らの顔には混じり気無しの称賛が浮かんでいた。
うんうん、善きかな善きかな。
ハエを追い払うみたいに片手をヒラヒラさせているだけの卑しきちゃんはあとでお仕置きだな。素直に驚嘆を形にすれば良いものを…。
それはともかく。
僕も高校生弓使いちゃんに近づき、彼女に笑みを向ける。
「相手を羨む気持ちを抱えたまま、自分を高める道を自らの意志で選び取った稀有な人間。嫉妬の魔法少女・清廉こと、求道由美ちゃん。本当に、凄いよね~。」ぱちぱちぱち…!!
「名前を呼ぶな下衆悪魔ッ…!」お前には認められたくないっ…!
一瞬で表情がいつものに変わってしまった。
まだまだ精進が足りないね~。
「まあ今では、憧れのリタちゃんの隣に立つ僕に嫉妬して、悪魔殺しの猛毒を日々開発生成する、ちょっぴりヤバい子だけどね!」便利な嫉妬心だよね~…!
「シィッッ!!」バシュッ…!!
「だから室内で毒矢はダメだってば。」パシッ…ジュウ…!
うお、手が溶ける速度が半端ない…。結構ピリピリする。
掴んだ魔力矢を紫雷で崩壊させながら、唖然としている後輩ちゃん達に視線を向ける。
「こんなに凄いアーチャーちゃんも、ちょっと揺さぶるだけでここまで暴走します。欲望と折り合いをつけるのが如何に難しいか、これで伝わったと思う。
皆も己の欲望との付き合い方を、色々頑張って工夫してみてね!」良い感じ風締め…
「きぃいいぃぃぃッ…!!」髪掻き乱し…!
「…、」無言無表情で顔逸らし…
「悪魔だ、こいつ…。」ドン引き…
「オレには、ハードル高ぇわ…。」難しい…
「」ツ~ン…




