第12話 悪魔についての勉強会④ 「色欲」と夢魔
「『七大罪』。世界的な宗教が定めた、7つの悪しき罪。人がなかなか捨てられない、大きな欲望。精神生命体である悪魔達が拠り所にする、心の力。
悪魔と戦う時だけでなく、自身が抱える感情に処理する為にもこれらの知識は重要になってきます。」
土魔法使いの厳護ちゃんにそっと視線を送れば、無言無表情のままで魔法を発動してくれた。僕の周りに魔力で出来た白黒の砂が生じて、7つの文字を空中に出現させる。
「七大罪と呼ばれるのは、
『強欲』、『傲慢』、『嫉妬』、『色欲』、『暴食』、『憤怒』、そして『怠惰』。
この7つです。」
皆に見える様に浮かぶ文字塊を1つ1つ指差しながら口にすれば、小さな感嘆の声が漏れた。
やっぱり視覚情報的に漢字って便利だよね。
「さて。それで『色欲』、英語で言えば『ラスト』の魔についてだけど…。
スザクちゃん、色欲って何か分かる?」
「え…。」
「セクハラは止めろ、下衆悪魔──。」ユラリ…!
スザクちゃんの疑問に答える為に問い掛けをしたら、アーチャーちゃんがキレた。彼女の背後に魔力毒で出来た大弓が形成されていく。それを軽く手を挙げて制する。
「セクハラって言われたらその通りだけどさ。これから魔法少女やっていくならちゃんと知っておかないと不味いでしょ?」
「私やリタ先輩が教えるし…! 火野さんなら理解できる…!
わざわざ口に出させるな、って言ってるのよ…!!」
まあ、確かにここには他の男も居るしね。梳宮少年は未だに轟沈したままだけど。いや、無意識に聴覚を強化してるな。男の子だねぇ。
「恥ずかしさを乗り越えてこそ、欲望を制御する心の強さが得ら──ああ、もう、分かった、分かったからそれを仕舞ってくれない?」
まったく。アーチャーちゃんてば、タカネと内緒で特訓してた罰で僕の助手やってること忘れてるね。
「色欲とは異性と触れ合いたいと思う欲望。簡単に言えば、えっちな気持ちのこと。快楽を求めて突き進む獣の欲のことを言います。」
「オマエも口にスルナ──!!」ズゴゴゴ…!!
ほい、指パッチン。
「ぐッ…!」腕クロス防御姿勢…!
「信用が無いのは仕方ないけど、ちゃんと真面目な話だから静かにしててね?」魔眼解放…
抵抗できる程度の洗脳を掛けてアーチャーちゃんの動きを抑えておき、講義を続ける。
「色欲って言うのは男と女、性別の異なる肉体間で生じる欲望ってことになる。まあ、厳密には同性間でも成り立つけどそれは一旦脇に置いておいて…。
ともかく、『肉体』に起因する、根源が肉の体に結びついてる欲なんだ。
で、今魔界に居る色欲の悪魔達は、『肉体』を持って生まれてきてる。最初から受肉してる状態で、精神生命体よりも一段進んでるって訳。もちろん有機生命と同じく成長もする。僕もその1体なんだよ。」
「…、(なんかすごいこと言ってる…。)」
スザクちゃんはなんだかんだマセているからか、大まかに理解はしているみたい。なのでさっくりと話を進めよう。
「なんでそんなことになっているかと言うと、1000年ほど前に自力で受肉した『女悪魔』が居てね。
その悪魔が母となって何体もの悪魔をその胎から産み出し、その娘・息子達もどんどん子どもを産んで増えていってを繰り返して…。魔界に『夢魔』、『色欲の悪魔』達の楽園を作り上げたんだ~。」
「…、悪魔の、国…。」母親、ねぇ…
「だから、人型の、特に女性の姿をした悪魔が居たらほぼほぼ『色欲』カテゴリーだと思っていい。まあ、魔界の彼女達が人間界に来ることは無いと思うから遭遇はしないはずだけど。」
「そうなの?」
「うん。人間界に渡って来る悪魔って、それこそ『欲望』を満たす為に来る訳だけど。夢魔達は国の中で諸々事足りるからね。
一般的な人間は基本的に魔力が少なくて彼女達の相手をするには不足だし…。」魅力がね…
国内の男女比率は4…いや、3:7くらいだけど、一夫多妻も当然可能だ。他の大罪持ちの悪魔を狙って国の外に行くって言うのもよく有ったはずだし。
「まあ、天然発生した精神生命な夢魔が人間界の女性に取り憑いてサキュバスになることも、それなりに発生し得る。
そして、これまた稀だけど、人間の魔法騎士を苛めるのが好みで次元門を通る悪魔も時たま居る。気をつけるに越したことはないかな。
──まあ、本当に気をつけるべきは『色欲』の魔に目覚めた人間の方だけど。」げに恐ろしきは人間の欲…
「色々あんだな…。」
「──…ッ。」ズズズズズ…!
おっと、これ以上はアーチャーちゃんがマジギレしかねないか。彼女の周囲に毒液が漂っていってるや。
「まあ、人間の変質者については人間に対策を聞いておくといいよ。悪魔の僕ですら、ドン引きするくらい色んな性癖が存在するからね…。
『色欲』の力は主に精神汚染、心や思考を歪ませるものだから搦め手が多彩で、少しでもしくじると酷いことになりやすい。その分直接戦闘力は弱くて対処さえできれば問題は無いから。」
学びが尊厳を守ることに繋がるのだ…。




