第15話 悪魔についての勉強会⑦ 「傲慢」と「強欲」、そして「怠惰」
すみません、「強欲」と「怠惰」についてのお話を丸々書き直して時間を食いました。各人のレベルに合わせた講義内容選びって難しいですね…。
今回にて座学説明会は終了です。
「『傲慢』の欲望。自分が偉いと、上位の存在だと思い上がり、周りを見下す、そんな魔。
自己顕示欲とか、承認欲求、簡単な言葉で言えば『見栄』を張る大罪。それが『傲慢』。」
エリザベートの話で萎縮した空気を変えるべく、講義を再開した。
悩んだところでどうにもならないことには蓋をして、後回しにするのも処世術なのだ。頑張れ少年少女達。
「まあ、性別的に男が発現することが多くて、他の大罪に比べると自爆と言うか空回りしやすい、ちょっと地味な力だね。」
世に蔓延る大半は、自分の力量から目を背け調子付いているだけの輩だ。実力的に大したことはない。
「逆に、実力が伴った状態で信念を貫き通した『傲慢持ち』はとても強いよ。特に、代名詞にもなっている特殊能力『規則敷設』が使える様になったら凶悪の一言だ。」統強の六堂院閣下みたいにね…
真面目な話なので声に魔力を乗せれば、スザクちゃんと梳宮少年を中心に耳を傾けてくれる様になった。
今この場に傲慢持ちは居ないからこそ、僕が口頭で教える必要が有ると思う。
「『プライドルール』は、周囲の物理法則そのものを改変し支配する力。発動した規則を相手に伝える必要が有ったり、発動者も影響を受けたりと制約は有るけど、嵌まれば相手を一方的に打ち負かせてしまうこともある。
例を挙げるなら、うちのタカネだね。空を飛べる鳥悪魔の彼女は、2つのプライドルール『天高気正』・『天高聴卑』を持っている。
前者の方はスザクちゃんも、この前に見たところだと思う。高い位置に有るもの・速く動いているものをその程度に比例して強化する能力で、上空を高速飛行するタカネが普通の風魔法を放てば、ビルを真っ二つにすることも可能になる。」
「ビルを!?」
「ビルを。数十階建て・鉄筋コンクリート製の塊を、縦にも横にも。」ズバーン!と…
まあ、今の彼女が故意の破壊行為なんてする訳ないから安心してほしい。
そも、鳥足モードの高身長で蹴りを放つだけでも人を害するには充分な威力になるし。
「もう1つの『天高聴卑』は、簡単に言えば集音マイクみたいな能力でね。位の偉い人は下々の民の声を聴いている、って故事から来る言葉で、早い話が地上の声を飛行しながらでもクリアに拾えるんだ。
トラブルや事件が起こった時、彼女はいち早くそれを感知し上空から対処することができる。
皆ももし何かあった時は、空に叫べばタカネが助けに来てくれるよ。まあ、彼女が万間市をパトロールしている時に限るけれど。」
「あいつが、タスケル…??」
「うん、ツンツンしながら最後までサポートしてくれるとも。」
上位者に従うことを誉れとするタカネは、「人間と共に在る」って僕の方針に沿って活動している。
アーチャーちゃんと秘密の特訓をしていたのも、彼女を鍛えてあげようと言う先輩心が影響してたりするしね。
まあ、度々僕が弄ってるキュウドウちゃんに嫉妬してたり、僕に弓引く彼女を潰したいって思ってたり、リタちゃんへの対抗意識とかも関係してて色々と複雑怪奇なんだけどね。
過去の罪滅ぼしって面も…、いや。これは伝える必要無いな。
──────────
「さて、お次は『強欲』、『グリード』の魔について解説しよう。
その魔を持つ梳宮少年。君が思う『強欲』とは何かな?」
僕が話を振れば、流石に自分が関係する事柄だからか彼はしぶしぶながら口を動かしてくれる。
「…、色んな欲望、強くなりたいとか、金持ちになりたいとか、女…を支配したいとか…、そう言うのをいっぱい持ってる奴…。」軽く睨み…
「うわぁ、俗っぽいね君。」そんな欲を抱えて…
「一般論だ! 一っ般っ論っ!! そもそも『お前』のこと言ってんだよっ!」俺じゃねぇ…!
「?」『スクル』のこと…?
この中では唯一知らない新米魔法少女ちゃんが、1人首を傾げている。
「スザクちゃん、実は僕も『強欲』の魔を持った悪魔なんだよ?」
「え。『シキヨク』だけじゃねぇの…?」
「この悪魔が使う『紫色の雷』、あれが強欲の力なのよ。」
「え? あ、そっか…?」
「そう、『雷を操る力』が僕の『強欲能力』。
まあ、とは言っても天然自然の雷雲を神様みたいに操ったりはできないし、体内で自家発電した分だけだから威力は小さいけどね~。」パリリ…!!
指先に紫雷を軽く纏って見せれば、スザクちゃんが感心して頷き、居屋敷ちゃんがビクリと体を震わせる。
色欲の洗脳能力に耐性を持っていても強欲の雷には何の関係もない。頭に直接、痛覚をお届けって寸法なのである。リタちゃんに止められてるから、余程のことが無いともうしないけど。
「まあ、できるのは精々、女の子の体を痺れて動けなくしたり、精神にダメージを与える闇の雷として武器にしたり、肩とか腰を解す電気マッサージくらいなもんだけどね。」
(セクハラやめろ下衆が…。)無言の舌打ち…
「充分だろ…。」強欲野郎…
「魔法で、マッサージ…。」そんなことに…?
「僕の『雷解し』、割と人気なんだよ~? お金払ってでも受けたいって人も居るくらいには。
体内神経を視れる色欲の魔眼と組み合わせれば、重い疲れだってじんわり溶けるし。」リタもヘビーユーザーだしね…
強欲とは、欲が強いと書く。色んな欲と影響し合い多種多様な能力が発現する為、方向性の見極めが非常に難しい。
極まると、他の大罪能力に直接干渉できたりもするからかなり厄介でもあったりする。
「まあ、基本的には『お金』、大抵の欲望を叶えられる便利ツールな訳だけど、それを手に入れようと詐欺とか強盗を行うパターンが多いかな。その目的の為に、色んな手段に訴えてくるのが『強欲持ち』だ。
中には動物とか昆虫の肉体構造・特殊能力を持つに至った、対処の難しい輩も現れるから皆も気をつけてね。
特に梳宮少年。」
「はあ?」
犯罪なんかするかよ、って白けた顔の強欲騎士君が不満げに僕を見上げる。
「君は『悪魔と戦いたくない。』『楽して生きてたい。』『でも、周りからチヤホヤされたい。』そんな欲望を抱えているでしょ? 放置してたら『怠け者』とか動物園の『愛玩動物』に進化してそうでさぁ? 心配なんだよ。」
「うるッッッせぇッ!!!!」ボッ…!!
顔を真っ赤にした梳宮少年が、周囲に炎の剣を4本出現させ机を蹴り飛ばしながら襲ってきた。
ので。
「」パシッ…バジジジッ!!
「んげげげッ!!?!?」
「うんうん、その負けん気はナイスだよ。でも実力差とか状況はよく選ぼうね。」バジジジジジ…!!
「べベベベベ…!?!!」
額を掴んで、ギリ耐えられる程度の痛みの紫雷を流してやれば、抵抗できずに少年は麻痺地獄に沈んだ。火炎も全て消え去ってしまう。
「よしよし。完全人型の見た目とは言え、悪魔相手に魔法剣を召喚できたね。今の感覚を忘れずに励むと良いよ。
そうすれば君は、良い魔法騎士になれるさ。」
「う、ぐぐ…ッ…!」
「我流くぅん…。」格好悪いかも…
「梳宮君、よく頑張ったわ。次に殺る時は私と連携して、確実に行きましょう。」
居屋敷ちゃんの回復魔法とアーチャーちゃんの励まし(?)を受けて、敗北少年は席へと戻されていく。
厳護ちゃん、浮遊岩手で、飛んだ机のキャッチ&保護・再設置をありがとう。
「悪魔への恐怖、弱い自分への劣等感、仲間への嫉妬に、現状打破の負けん気。怯えて竦むだけが君じゃない。様々な感情を重ねて自分だけの強欲の形を見つけること。それが重要だ。
他の大罪も参考にしてね?」
ちなみに今の僕も、『目の前に居る可愛い魔法少女達を襲って支配したい』って色欲を、『少年少女を育て導く真っ当な大人でありたい』って強欲で抑えているから、こうして講義ができている訳なんだけど…。
流石にこれを口にするのはデリカシー無さ過ぎだから、言わないでおくべきだな。うん。
──────────
「そして、最後を飾るのは我らが相田理多が持つ『怠惰』の力! 『スロウス』の魔についてだ! よく聞いてね!」
僕が最愛の彼女の話をし始めたことで、皆の空気が途端に真面目なものに切り替わった。(1人はまだ軽く麻痺ってるとこだけど。)
色欲悪魔自身のことはいくらでも軽蔑してオッケーだが、リタちゃんのことを舐めたら本気で潰しに掛かる。僕の本質をよく知っている皆だからこそ、慎重になるのだ。
「ところでスザクちゃん。怠惰って、『怠ける』『惰性』って書くよね? 我らがリタちゃんにそんなイメージ、有る?」
「…、無い。全っ然、無い…。」いっつも真面目に動きまくってる…
「彼女は、規格外中の規格外。とても強大な『怠惰の悪魔』に『憑依』されながらも自我を保ち耐えきった、人類最高峰の精神力の持ち主なんだ。」だから勤勉で節制が効いた大人になれる…
まあ、いくら褒めたところでその凄さは伝わらないだろう。機会と根性が有ればリタの始まりを催眠学習させてあげるが、今日は真っ当な講義が目的なのでまた今度としよう。
「怠惰の魔は、自分では動かず周りのものを操って楽をするって理屈の欲望を持っている。
リタちゃんは太陽光とか空間とかを操作して戦う訳だけど…。彼女が真の意味で『自分』の代わりに使役しているのは、ちょっと理解し難い概念になるんだ。
アーチャーちゃん、答えてあげてくれる?」
「…、」
何を当たり前のことを、とでも言いたげな見下した目をしても後輩魔法少女ちゃんは真面目に口を動かしてくれる。
「相田先輩が操作しているのは。『マジカル・リタ』ってキャラクター、になるわ。」
「大正解!」流石…!
「馬鹿にしないでほしいわね。」冷めた目…
「?? 全っ然、分かんねぇんだけど…?」オレの頭が悪い…?
「チュチュ~。」私にもサッパリですわ~…
「そうだな~、簡単に例えるなら『ゲームのアバター』だよ。人間・相田理多は、マンガに出てくる架空のキャラを着ぐるみみたいに装備して戦っている感じ、かな。」
「ん~…??」
「もっと言い換えると~…。
僕が、悪魔と戦闘する時、自分では動きたくないと考えたとしよう。そこで近くに居た弓使いちゃんに催眠術を掛けてその肉体を支配下に。代わりに戦わせて、僕はのんびり昼寝する。ここまでは想像できる?」
「うん。」めっちゃできる…
(例え話でもおぞましい状況にするな下衆が…!)弱催眠で硬直強制無言…!
「リタちゃんは、それと同じことを『マジカル・リタ』で実行しているんだよ。」
「いや、それが分かんねぇ…。だって、マジカルリタってリタ先輩のことだろ…??」自分で自分を操作…???
「そうだね。正確に言うなら、彼女が変身した時の活動名であり、彼女をモデルに描いた架空の魔法少女、でもある。
…うん、より具体的な表現を使ってみよう。
スザクちゃん、『全国の読者・視聴者から注がれる数多の欲望を支配して魔力に変換している』って言えば想像できるかな…?」
「…、ちょっと…ムズい…。」
「チュ~チュ…。」納得しましたわ~…とんでもないですわ~…!
「ナッツ、分かったのかよ…。」驚きとちょっぴり疑心…
相棒ハムスターちゃんがポケットから出てきて、その小さな身体を目一杯動かし一生懸命に解説を始める。
「ジチュチュ、チュ~チュチュ。チュチュッ!
(カシュウちゃんが『あにめ』になったとしますわ~。悪魔をバシバシ倒すカシュウちゃんに皆がメロメロになって、全国の特産品をいっぱい郵送してくれるのですわ~。それをカシュウちゃんが食べて、もっと強くなって、更なる大躍進ですわ~!)」
「え! それすげぇ良いじゃんっ!」やりたいっ…!
う~ん、お供妖魔ちゃんの長文念話…。的確だけど、そんなに喋れてたんだね…。びっくり。
あと、感情が読める僕だから理解できてるけど、他の皆にはさっぱりハテナだからね…? いやまあ、スザクちゃん以外は僕の話で理解できてるから良いんだけど。
「まあ、根本的な理屈は妖魔ハムスターちゃんがしてくれた説明で分かったと思う。」
「うん! めっちゃ分かった! リタ先輩すげぇ!」あと羨ましい…!
「それは何よりだよ。リタちゃんの場合は、食べ物じゃなくて概念的な感情を扱うから異次元の魔力制御が必要だし、郵送するみたいな既存の手段が無いから手段の確立を1から作ったりと大変だけどね。」
「そっかぁ。でも、だからあんなふざけた魔力を持てるんだな~…。」
「まあ、リタちゃんが本当に凄いのはその技術力じゃなくて、実行に移した胆力と、実行し続けている精神力の方だけどね~。」
「?」
「妖魔ちゃんの例え話を応用させてもらうと~…、
スザクちゃん。君は『土』を食べたことは有る?」
「…? は? ごめん、どんな質問…??」
「そのままの意味だよ? 畑の土でも、公園の砂場の砂粒でも、水溜まりの泥水でも。それらを口に含んで、咀嚼したことはない?」
「…有る訳ないじゃん…。」
「うん。現代日本の普通の人なら無いよね。でもね? そんなものを送られて来るんだよ? リタちゃんのマジカル・リタ・システムには。それも全国から、続々と、ね。」
「は…?」
昨今では珍しくもない「魔法少女」と言うアニメジャンルだが、そこには色んな感情が注がれている。
小さな女の子達の憧れや応援、悪を倒してすっきりする感謝の気持ち、なんかももちろん存在するけど。
汚れた大人達の「負けちまえ。」「敗北した姿に興奮する…。」「怪人になって魔法少女を屈服させたい…!」なんて歪んだ獣欲もまた、一緒に向けられている。
それは「魔法少女・マジカルリタ」においても当然同様であり、リタちゃんはそんな汚泥の如き感情さえも自身の魔力に変換しているのだ。
「いや、そんな、の…。そんなの、って…。」
「うん。スザクちゃん的に言えば、泥とか岩とか鉄屑とかが郵送されてきて、それを頑張って咀嚼しなきゃいけない、みたいな状況だね。」まあ、強い欲望だから得られる魔力は大きいけど、ね…
「──っ。」ぶるりっ…
ふふ。リタちゃんの恐ろしさが真に伝わったみたいで何よりだよ。
「リタちゃんは『自分は楽して、他人の魔力で戦ってるだけ。怠惰の能力の応用よ。』って解説するけど、明らかに異常で壮大なことをしている訳だ。
怠惰の特性を利用しながら、全く怠けず、自ら動き続ける…。それこそが、彼女の真骨頂。怠惰の欲望を支配せし者。真なる魔王。それが、我らが相田理多なんだよ。」
まあ、リタちゃんが今の話を聞けば「他人の悪感情を魔力変換できるのは、スクルの『色欲悪魔力』のせいでしょうが…。」と呆れることだろうけど。
僕から言わせれば、人間程度の存在なら簡単に塗り潰せる「最悪魔力」を呑み干された上に、普通に魔法少女されてる時点で色欲悪魔としての立つ瀬が無いのだが。
「ま、全く参考にはならないだろうけど、これが真に極まった『怠惰の魔』だ。理解すればするほど、勝てる気がしないよね~…。
だから、皆も。偉大な先輩に色々と想いを馳せながら、自分の欲望とうまく付き合っていってね!」
と言う訳で、座学は終了! ご清聴、ありがとう~!




