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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
57/59

57話 エルフ帰還

地獄とはまさにこのことであろう。

我々は全てを失う筈であった。

豪華絢爛な祭壇、歴史ある宮殿、技術の粋を集めて作られた都、宝である子供たち、何よりも得難いパートナー。

それらすべて、炎と雷と氷と大地に屠られ、破壊され、踏みにじられた。

逃げ惑う同胞の声が聞こえる。侵される同胞の泣き声が聞こえる。死が近づく同胞の叫び声が聞こえる。

同胞の骸が見える。

下手人は人間。全ての人間。そう、全て。

エルフ以外、味方はいない。

知らなかった、人がここまで恐ろしいとは。

知らなかった、人にこれほど疎まれているとは。

知らなかった、精霊がこれほど無力だったとは。

知らなかった、味方がいないとは、これほど寂しいものだとは。

知らなかった、自分たちの死を、屈辱を、声を大にして望まれることが、これほど辛いものだとは。

知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった、知らなかった――――


知らなかった、私たちがどれ程、愚かだったかを。そして―――


「おいおい、やりすぎだろ、なあ?」

「ちょっと胸糞悪いね」


知らなかった。我々が本当に尊ぶべきは、同胞でも、精霊でも、大自然でもなく―――




「え?」


真司は目の前の光景に、ただただ困惑するばかりだった。

フェルナリエルのお母さんらしき人を解放して、いざ感動の再開、と感無量となっていたら、いきなり頬をたたいたのだ。


「・・・え?」


フェルナリエルだって困惑している。


「はは―――」

「聞いていましたよ。あなたと彼らのお話」


妙齢?のエルフは静かに話しだした。

フェルナリエルは、口を噤んだ。


「彼らになんて口のきき方を!あなたも命を、魂を救っていただいたんでしょう?!そうでなくとも尊ぶべき至上の御方々だと言うのに!」

「・・・ん?」


母親らしきエルフの説教を黙って聞いていた真司だったが、最後の一文に違和感を抱き、思わず首をかしげる。


「皆様、この度は私めの様な下賤な者の命を助けていただき、誠に、誠にッありがとうございます」

「わあすごい。穴が掘れそうなほどの謙遜だ」


こういう空気が苦手な真司はつい反射でふざけた感想をこぼしてしまった。

それほどまでに母エルフの、いや、母だけでない。エルフの土下座は素晴らしかった。


「うん!そっか!もうちょいで帰り支度できっから!その辺でくつろいでて!」


コバンが適当にあしらうように、あるいは猛獣を刺激しないようにありきたりなことを言って濁した。

丁寧だが、どこか違和感を真司は覚えた。


「私からもお礼を言わせていただきたい」


別のエルフが、一人、また一人とお礼を言い始めた。それがまたむず痒い。なんてったって内容がないようだからだ。


「また我らはあなた様方に返しきれぬ恩ができてしまいました」

「この恩はエルフ生をかけてお返しいたします」

「この命既にあなた様方の物。如何様にもお使いください」

「私めの様なものにも憩いのときを与えてくださるとはなんと慈悲深き御方」

「現人神でいらっしゃいますか」

「私めら等、拘束したままでもよろしかったですのに」

「海の国の皆々様方に救っていただけるなど恐悦至極!」

「ふーん」


これらの他にもめちゃくちゃ重い感謝を言っていたが、宗司の一言でまたそれがピタッと止まるのも真司は怖かった。


「残念だったな。俺とそこの真司は異世界から来た、純粋な海の国の人間じゃねえ」

「存じております。しかし、海の国という高貴なる地で修業されたのは事実。それが最早精霊よりも偉大なお方であることの証左」

「あっそ」


エルフの言葉をその一言で一蹴する宗司は、今だけは、真司の目に大物のように映る。


「ちょ、ちょっと!」


エリュシアは、ここで漸く声を上げることが出来た。


「何してるの?!おかしいわよ!確かに命を助けては貰ったけど、そこまで―――」

「無礼者!!!」


エリュシアが抗議していると怒号が聞こえた。一人の男エルフがエリュシアにつかみかかろうとする。


「「「!!」」」


それを、宗司が止めた。

エリュシア、真司、そして男エルフが表額の表情を浮かべている。


「申し訳ありません」


男エルフはすぐに離れた。

そして勢いよく地面に頭をつける。


「何か私めに至らぬ点などありましたでしょうかッ?」

「ワン!」

「一つですか」

「違う」


後ろで遊戯やっているやつが絶妙なタイミングで佳境に入ったらしい。


「いいから顔を上げろ。いつまでそうしているつもりだ」


宗司はこういったことになれているのか、淡々と動揺した様子も見せずに話す。真司はただ唖然とするばかり。


「いえ」


しかし宗司の指示をエルフは拒否する。


「そこのエルフ娘のお詫びができていません」

「え?」


真司は話に上がったエリュシアを見る。当人も困惑顔だ。


「我々のわがままで貴国に留学をさせていただいた恩に背き、あのような態度、そもそも至高なる海の国の国民の皆々様にあのような言葉遣い!到底許される行為ではございません」

「俺が許す。今赦した。さあ立て」

「は!」


宗司の指示に、それまで土下座を継続していたエルフが一斉に立ち上がる。

真司は宗司のカリスマ性に只々脱帽するばかりだ。


「では我々も作業を―――」

「船作り終わったよ」


意気込んだエルフの出鼻をくじくように、マーリンが終了の合図を出した。


「終わったか。おい、お前らも遊んでないで―――」

「うおおおおおおお!!!!」


すごい歓声が上がったので、真司がそちらを見れば、赤、黄色、緑、と、様々な色が渦巻いて、一つの天まで昇る炎となっていた。


「おお、、、」


真司も思わず感嘆の声を漏らした。


「何やってんの!」


エンゼルがそう言って炎を囲んでいる男子たちを殴る。

確かに、その綺麗さにスルーしそうになってしまったが、あれは間違いなく大火事である。遊んでていいものではない。


「帰るよ!消しな!」


女子たちから説教を食らった男子たちはしぶしぶ鎮火に勤しんだ。


「では私共めも手伝わせていただきます」

「ああ、ありがと。なら手伝ってもらおうかね」


エルフに手伝ってもらった大火事の鎮火はものの5秒で完了した。


「うし、帰るか。じゃあエルフさん達先に乗って」


しかしエルフは動かない。エリュシア以外、誰も船に乗ろうとはしない。


「あ、あの?」


真司が困惑しておそるおそる尋ねると、エルフたちは急に涙を流し始めた。


「ええ?!」

「我々には、その浮城に搭乗する資格がありませぬ」


エルフの男は涙ながらに語りだした。


「我ら愚民をお救い頂いたにとどまらず、皆さまと同席し、帰国の世話まで。既に返しきれぬ恩を頂いていると言うのに、これ以上、、、ッ」

「お、大げさだな、言って帰づだけでしょ?ね?」


ぽつりぽつりと涙をこぼしながら話すエルフに、真司はいたたまれなくなり、そんなことを言って、クラスメイトにも確認を取る。


「うん、別に。そんな遠くない」


案の定である。

そもそも浮城というのもおかしいのだ。そんな大層なものではない。丸い筒一本に平べったい羽根が3本ついているだけの、簡易飛行機。真司がそれを見た感想はそんなもんだ。


「しかし―――」

「誰がただで乗せるって言った」


エルフの言葉を遮ったのは、宗司だった。彼はまたもや粗雑にエルフと対話する。指示を出す。


「お前らは荷物持ちだ。さっさとそこの連中を連れて飛行機に乗れ」


そう言って宗司は静かに横たわり、拘束されている魔人たちを指す。


「は!」


軍人張りに綺麗で一体感のある号令とお辞儀をして、エルフたちは魔人を持って飛行機に乗り込んでいく


「ちょっと」


エリュシアが小声で宗司に抗議する。


「あまりこき使わないでくれる?!っていうか皆どうしたのよ。昔助けてもらったのは歴史で習ったけど、言うほど?!」

「知らねえよ。だいたいこうでも言わねえと自力で帰ろうとするエルフが問題だろ。地図もねえのに。それとも帰り道知ってんのか?!」

「・・・近くの森以外知らないわよ」


二人の会話は超小声で行われた。小声過ぎ、ところどころ声になっていなかった。


「いあ~すごいね」


そんな二人、というか、宗司に向かってアサリが心から感心したような声でやってきた。


「あのエルフたちをあんなに、、、。前世では王子か宰相だったのかな?」

「死んでないです。昔ああいう手合いに何度か付きまとわれたことがあるので」


宗司が心底嫌そうに語る。


「あはは、、、。大変そうだね」

「運び終わりました」


予想より早かった。

まあ、魔人を運ぶ彼らの様子は、自分たちの時とは打って変わって、かなり粗雑な手つきだったから、それを加味すれば妥当な時間ではある。


「ん。じゃあ帰るぞ」


エルフに返事をした後、宗司は皆に号令をかける。


「お、お~」


どこか戸惑ったようなクラスメイトは、それでも宗司の指示に従い、飛行機へと乗り込む。


「おお、、、」


中はかなり武骨。本当に鉄くずを繋ぎ合わせたような感じで、慰めに船の中にあった椅子や、その他の物が、座席に流用されている。


「・・・」


そして、魔人たちが後方の床に適当に捨て置かれ、エルフたちは誰一人座席に座らず立ち竦んでいる。


「じゃあ、俺とプリステラが運転するから、適当に座っててよ」


そう言ってアミキリと呼ばれたプリステラは前方へ向かう。

エルフたちがモーセの川のように分かれて道を作った。


「おい!何をしている!」

「父上!?」


真っ先に席に座ろうとしたエリュシアを、エルフの男が怒鳴りつける。エリュシアは困惑だ。

エリュシアの父を思われるその男はそのままエリュシアの腕を引いて自分の近くに手繰り寄せようとした。


「それはこちらのセルフだ」


それを止めたのは、又しても宗司であった。


「俺の友人に何をしている」

「し、失礼いたしました!」


宗司の言葉に、エリュシアの父親は顔を青くしてすぐに姿勢を伸ばし、腕を後ろに組む。


「―――。・・・ちょっと来い」


ため息一つついた宗司は、エリュシアの腕を掴んで引っ張る。


「え、ちょっ、何よ!」

「いいから、、、」


エリュシアは驚き、身じろぐ。

その抵抗にもなっていない抵抗をするエリュシアを、宗司は心底面倒くさそうに飛行機の後方に、ツチフキの下へと連れて行く。


「あれ?どうしたの?」

「それはこっちが聞きたい」


気楽に席に座っているツチフキが、あっけらかんと二人が近づいた理由を聞く。

対して二人は大層不機嫌だ。

宗司はエリュシアから手を離し、ツチフキの隣に座る。

エリュシアも逡巡したのち、席に着いた。


「あのエルフ共の態度は何だ?!」


宗司は努めて小声で問い詰めた。


「ああ、それね。だからできれば解放したくなかったんだよねぇ」

「何?エルフの話?」


ツチフキが微妙な顔でつぶやくと、耳ざとくそれを聞いていたコバンが会話に参加する。


「・・・ああ、エルフが何であそこまで自分たちを下に見て、こちらを上に見ているのかって話」


先ほどツチフキに詰め寄ったときとは打って変わって、宗司は冷静に自分の疑問を簡潔に問う。


「・・・フフッ」

「何笑ってんだ」


その題名を唱えるかのような軽口を言われたことがうれしくて、コバンは思わず笑ってしまうが、わざわざそれを伝えてしまえば、せっかくの変化が楽しめない。


「別に~?」

「?」


適当にあしらったにも拘らず、嬉しそうな、しかしそれは狂信的なものではなく、何か、コメディを見たときのような笑顔を浮かべるコバンに、宗司は眉をひそめた。


「昔エルフが戦争していたときにうちの国が助けたんだよ。それであんな態度なの」


コバンは笑みを浮かべて、エルフを眺め、語りだす。エルフは軍隊が如く、屹立し、整列している。

座っているクラスメイトは気まずそうな、しかし彼ら彼女らを気にしないように努めているようにも見える。


「別に誇りがないわけじゃないんだよ?エリュシアちゃん見ててもそれは分かるでしょ?」

「当然ね。後、その呼び方止めなさい」


エリュシアが胸を張り、そしてコバンのその珍妙な敬称を改めるよう要求する。


「いいよ。私があなたに勝ったらね?」


肯定。それに続く無理難題。・・・・・・・・・いや、おかしい。


「逆でしょう」

「・・・あなたが私に勝ったらね?」


ツチフキに少々笑われながら指摘されたコバンは、何事も無かったかのように仕切りなおした。


「・・・分かりました。帰ったら私の実力を―――」

「やめとけ」


ノリノリでコバンの挑発に乗るエリュシアを宗司は止めた。


「なにか?」

「コバンは俺が千回挑んでも一度も勝てなかった化物だ。今のお前じゃ勝てない」

「ちょっと~、彼女に対して化物はひどくな~い?」

「・・・」


真偽不明の情報を二つもたたきつけられて、エリュシアは二の句を告げづに居た。


「無謀にも挑んだから、宗司とコバンさんのプリクラが、ほら」


そう言ってツチフキにステータス画面を見せつけられたエリュシア。そこには仏頂面の宗司と、満面の笑みのコバンが映っている。二人とも可愛らしいポーズをとっている。ハートだ。


「何でもってんだテメェ!」


ステータス画面を握る潰すかのような動作をする宗司だったが、所詮は虚空に映る虚飾。他の影響を受けないように様々な工夫が施された回路は、宗司の手を素通りし、そこに尚も健在である。

宗司は自身の写真を消そうと、手腕を何度も往復させている。


「いろいろ、まわりまわって、ね」


そう言ってツチフキは画面を閉じた。宗司もようやく手を止め、ゆっくりと腕を降ろす。


「そう、ですか」


二つの真偽は確かめられたが、衝撃的な情報に、エリュシアはそう呟くしか出来なかった。


「で、戦争の話に戻るけど」


ツチフキの言葉に、エリュシアは居を正す。


非道(ひど)かったらしいよ。兵士だけじゃなくて一般人も虐殺されたみたいだし、人売りもあったらしいしね」

「らしい?」

「百、百五十年くらい前の話だからね。エルフでも知らない世代はいるでしょ。・・・庸人と魔人の連合軍対エルフ。いかに術に優れて強力な精霊と協力しているエルフであっても、ある程度のレベルを大量にそろえればじり貧だったみたいよ。根回しもしてたみたいだし」


滔々と語るツチフキだったが、それが逆に戦争の悲惨さの演出になっていた。


「よく勝てたな」


思わず口を衝いて出た宗司の言葉に、ツチフキは不敵な笑みを浮かべる。いつもの昼行灯な彼には似つかない、キレた笑みを。


「うちの上級が何人も出払ったらしい。それに加えて高級も一人ね」

「なるほど」


宗司は得心する。

上級は、一人いれば国家転覆が可能な戦力を有する者に与えられる称号。

といっても、それを量るために国を滅ぼしていたのでは、すでにこの国は国際的に危険国扱い。他の一切の国との交流を絶っているだろう。なんてったってこの国の上級の数は二桁もいる。

故に試験法は少し変わっている。

その一例として、友好国の軍を巻き込んだ、億対一の模擬戦がある。

例外もあるが、それを突破した猛者が上級。エルフの国を救うなどわけない。


「高級も、わざわざ」


宗司は以前本で見知っていた。


「あれは上級とはまた別ベクトルの強さ。まあ、そのたった一つの条件を満たすなら、自ずと戦力としても一線を画すのは明かだけど」

「上級?高級?何の話?」


宗司たちの話に途中から置いてけぼりを食らったエリュシアが、率直に宗司に尋ねる。


「俺らの国では個の実力によって階級が存在するんだよ。適正なものに、適正な仕事を割り振るためにな。いくつかある階級のうち、国が全国民に割り振っているものがそれ。上級は上から2番目、高級は1番上」


彼が一番説明がうまいことを、無意識に知っているためだ。


「しかし、厄介だな」


宗司は嘆息する。原因を知れば、対策は見えてくるものと思っていたが。

一人のエルフと目があう。彼女はエリュシアを一瞬睨んだ後、こちらに深々とお辞儀をする。

なるほど。海の国にお辞儀の文化がないのに、それに違和感を持たないのはこのためか。


「まあ、船が着くまでの辛抱か」


宗司のその言葉は、クラスメイトと先輩二人の代弁であった。

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