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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
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56話 うわ、メンド!

ラダン平野は宗司たち誘拐の実行犯である魔人軍の故郷であるルーデルハイト魔王国の平野の一つである。

そこの特徴は何より、寒い。

今は夏後半だからこの程度で済んでいるが、冬は雪が積もる積もる。

そんなところだから、家屋はおろか、人っ子一人、生物すらほとんどいない。

動物がいない理由は、直前に降り立った、デカい鉄クジラのせいでもあるが。


「これで最後」


その鉄クジラからコバンが最後の一兵を抱えて今、出てきた。


「いや~。お疲れ~。大変だったでしょ。初陣」


シラウオが真司の肩に手を置き、彼を労った。


「いや、俺何もしてないし、、、」


だからと言って疲れていないわけではないが、絶対他の人よりかは自分が一番気楽だったろうと思う。

自分のやったことと言えば、宗司の方にはヒラマサやツチフキ、コバンさんが行ったので、フェルナリエルの魂?を探すために船内をうろうろしていたら、一番強そうな、ロードルハンと名乗る人物とかち合い、必死で攻撃を避けていたら、スズキが横から割り込んで対峙してくれた。

言葉にすると、やはり何もやっていない。今からでも船の中を探索しているやつらに交じったほうが良いのではないか?


「ダメだ。フェルナリエルの魂が見つからん!」


タカサゴがそう言いながら腕を頭上で振り、疲れからか下を見ながら戻ってくる。手のひらは横を向いている。


「一度拠点に戻った形跡があるから、そのときに置いてきたのか?」

「ああーー!!どうしよう!フェルナリエルが行方不明だ―!!!」


カイワリの冷静な考察にチョウハンが大げさに叫び、慌て、頭を抱える。


「・・・フェルナリエルの魂なら―――」


と、そんな騒ぎに気付いた宗司は、極めて冷静に手を上げる。

それにみんなが注目した。


「あの瓶に入っていた液体だろ?なら俺が飲んだ」

「・・・」

「・・・」

「え」

「「「ええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」」」

「クククッ」


数拍遅れて、全員が驚愕の雄たけびを上げる。―――ヒラマサ以外の全員が。


「あ、ほんとだ。胃の中にあるよ」


先ほどまでみんなと一緒に驚きの余り叫んでいたアサリが、急激に冷静になり、宗司の体を見聞した。

見ただけで分かるとはさすが年の功。


「しかもちゃんと保護の回路が使われているね。これなら吐き出してフェルナリエルさんに突っ込むだけで完了だ」

「まじか」


シロワニがぼそっとつぶやいた言葉は、真司含め数人に聞こえた。


「てか、何でヒラマサ言ってくれなかったんだよ。お前なら分ってたはずだろ?」


タカサゴが恨めしそうな顔でヒラマサのほうを見る。


「ゴメンゴメン。言われて思い出したわ」


ヒラマサは悪びれもせず謝る。


「ったく」


タカサゴはブスっとした面を浮かべ、その場にどっかりと座りこんだ。


「あ、じゃあ、はい」


魂が無事ならばと、サヨリが前に歩み出て、エリュシアの亡骸を召喚する。


「あ、はいこれ」


エリュシアの肉体に近寄ろうとした宗司に、横からアミキリがバケツを差し出した。


「・・・あ、ああ。ありがとう」


宗司は逡巡の後その意図を読み取り、ためらいながらもそれを受け取った。


「ふ、ウッ!――――」


胃の筋肉を操作し、器用にバケツの中へ―――

それ以降のことは皆一様に目を背けていたため、正確な情報を伝えることは出来ない。


「んん゙ッ、、、はい」


宗司が差し出したバケツの中には紫色の液体が入っている。


「うん」


普段あれだけ騒がしい一組の面々も、微妙な顔をしてアミキリに中身の入ったバケツがいきわたるのを見物している。

涼しい顔をして受け取るアミキリは流石と言ったところだ。

そのままアミキリはエリュシアの亡骸に近づく。


「そい」


アミキリは、またもや魔法陣から取り出した漏斗をエリュシアの口に突っ込む。


「ヒラマサ、悪いけどサポートを頼む」

「はいよ~。任せな~」


アミキリに呼ばれたヒラマサはエリュシアに手を翳した。アミキリが漏斗に、エリュシアにバケツの中身を注いている間ずっと。


「・・・」


しばらく沈黙が続いた。

アミキリは右手にバケツ、左手に漏斗を持ち、ヒラマサはなおもエリュシアに手を翳し続けている。


「・・―――」


そこからまた少し経って、ヒラマサがエリュシアに手を翳すのをやめると、彼女の指がかすかに動く。

そこから目蓋がピクリと動き、ゆっくりと開き、また、半目に差し掛かったところで、その目蓋と同じくらいゆったりと、上半身が上がる。


「―――!!」


そして現状を理解したのか、カッと目が見開かれ、その場から大きく飛び退いた。


「―――?!―――?!―――?!」


二度三度、辺りを確認し、警戒し、構えているエリュシア。そんなエリュシアの首は、やがて速度を落とし、止まる。


「おはようさん」

「気分は、最悪だろうね」


ヒラマサが笑顔で手を振り、アミキリが彼女の心情を気遣い、やや困り顔で代弁する。


「な、なんっ、どうっ、っていうか!」


処理が追い付かないのか、とぎれとぎれの、問にすらなっていない言葉が発せられてかと思えば、いきなりグリンと首が回り、エリュシアは宗司を指さす。


「あなた―――」

「―――どうやら失敗したようだね」


何か、エリュシアが宗司に対して申し立てようとした正にそのとき、機械じみた声があたりに響く。


「?」

「あ」


みんなが一斉に声のしたほうに振り返れば、そこには宝石だのマントだの煌びやかな格好をした王と、重鎮らしき人物たちが映っていた。器用に人物だけが映り、彼らがどこにいるかは分からない。


「アトキ国の、王、、、」


真司が神妙な面持ちでつぶやく。


「おぬしらには期待していたのじゃが」


王の視線は声に封印術がかかり、四肢を拘束され地面に寝かされているルーデルハイト魔王国の軍人たちに向けられていた。


「真司君、宗司君。いい加減、駄々を捏ねるのは止めてもらえないか?」


口を開いたのは、王から遠くに立つ、つまり一番手前に立つ重鎮だった。


「駄々?」


その言葉に疑問を懐いた宗司が眉をひそめ、口を開いた。


「君たちは私たちが召喚した、いわば我が国の国民。密出国に我が国の一級魔術師の殺害、および帰国の拒否。これ以上罪を重ねる前に帰りなさい」


宗司の問いに答えたアトキ国の重鎮の言葉に、真司は不快感を覚える。言い様の無い不快感が、全身をめぐるのが分かった。


「誘拐犯がいっちょ前に親権を主張するか。愚劣ここに極まれりだな」


真司のその気持ちを、他ならない宗司が代弁した。


「身勝手な屁理屈とも言えない道理で俺たちを異世界から誘拐した挙句、狂言にもなりえない妄言を語る。ダメ押しに意思を剥奪する呪具。何をとっても、おれたちがそっちに赴く理由は無いな」


宗司のはっきりとした絶縁宣言。その言葉に、しかしアトキ国の面々は無表情を貫いていた。


「そうか、なら仕方ない」


抑揚の無い、とても残念そうとは思えない声で遺憾の意を口にした重鎮が指を鳴らす。

すると、映像の場面が切り替わった。


「?」

「なっ!」

「・・・」


そこに映し出されたのは、拘束されている多くのエルフたちだった。皆、目隠しをされ口を塞がれている。

エリュシアが驚愕の声を上げると同時に、その場の空気が研ぎ澄まされたものになった気がした。


「誤解しないでいただきたい。彼らは我が国民に危害を加えようとしたために拘束しているだけです。然し、あなた方がこちらに戻ってきて話し合いをするというのなら、解放するのもやぶさかではありません」

「母上、、、エル、、、!」


エリュシアのエメラルドグリーンの瞳が揺れた。


「ああそれと」


先ほどから説明している重鎮、口調と声から、場面が切り替わる前の重鎮とはまた別の人が話しているのだろうその人が、さらに口を開く。


「そのラダン平野は気候が荒く、猛獣たちの巣窟なために人がほとんど寄り付かないのですよ」


そう言い終わるタイミングで、空から魔獣、呪霊、霊獣、獣、多くの群れが降ってきた。

明らかに、作為的だ。


「ルーデルハイト魔王国ごとか」


ツチフキがつぶやいた。


「もしよろしければ、迎えを遣わせましょうか?」


抑揚のない、しかしどこか優位性を含んだ声で宗司と真司に問いかけられる。


「・・・ッ!」


奥歯が砕けるほど嫌悪感をあらわにする真司。しかしそれに対し、宗司は無表情で、何の感情の機微も出していない。


「・・・フッ」


それどころか、鼻で笑う始末。それは当然であった。

なぜなら―――


「召!喚!」


パンッと手をたたく子気味良い音に振り返れば、マブナが手を祈るように握っていた。掌印だ。召喚の。


「え」


その小さなつぶやきは誰のものだったか。

映像からエルフが消える。電球が消えるように、パッと。


「罠、でもなさそうだな」


シロワニが眉をひそめつぶやく。


「うそ、、、」


一組の中心にエルフの集団が現れる。シロワニがぼやいていたのは、こんなに簡単に人質が逃がされたことについてだった。

エリュシアは目の前の光景に信じられないといった様子だった。彼女の常識では、召喚は一人につき一匹、最大でも十。それもすべて、契約なり信頼なりしていることが前提。

初対面の、さらにこれほど大勢の人間を一瞬で召喚など、どれ程の魔力量と精度が要求されるか。

が、すぐに今の状況を思い出す。


「ニグリス!彼女たちを守―――」

「トロ過ぎて眠気がするぜ」

「それはそれは。さすがハッカク。頼もしい限りだね~」


エリュシアが神獣を召喚し、指令を出したときには、すでにハッカクが魔獣と霊獣と獣を、ヒラマサが呪霊を、たった二人で辺りを覆いつくすほどの群れを、屍の山に変えていた。


「頭を使わねえ奴なんざ肉壁にもならねえ。次やるんならテメエが来いや」


肩に担いでいた日本刀、それを映像先のお偉いさん方にビシッと向けて言い放つ。

それに対し、アトキ国の王と重鎮は何も言わない。相変わらず無表情を貫いている。


「まあいい。いずれ後悔することになるだろう」


それだけ言い残して、映像は切れた。


「・・・スゥ~、とりあえず、さっさと帰ろう。そんで、飯でも食いに行くか!」


タカベのその一言と、それに同意する勝鬨の歓声をもって、『宗司・エリュシア誘拐事件』はひとまず一件落着となった。


「じゃ、さっさと片すぞ」


しかし、現実は物語のようにすんなり終わらないのだ。


「この死骸は燃やせばいい?」


そう言って死体の山を指さすカジカ。

つられて死体を見る真司は違和感を覚える。


「・・・少ない」


明らかに死体の数が合わない。


「魔獣や呪霊、霊獣は体がエネルギーでできているからねぇ。体をとどめておく意志、命が消えれば、エネルギー体に帰っていくんだよ」


真司の困惑を解消するように、ツチフキが教える。そういえば教科書のコラムにそんなことが書いてあった気がする。

そんなことを思い出していれば、ガチャガチャと金属音が聞こえてくる。

そちらを見れば、プリステラとマーリンが主導して、船の残骸で何やら作っている。


「それもうちょっとこっち」

「そんな精密にしなくていいよ。結界でなんとかするし」


右を見れば死骸を燃やしている。


「おいタカベ。拾い食いするな」

「いや、いけるかな~って」


一部変なのもいるが。

そして左を見れば船を改造している。


「暇だし、ワンでもする?」

「さんせー」


ワンとはUNOの亜種の事だ。

後ろを振り返れば、そんな感じで数名が遊んでいる。

自分はどこのグループに所属すべきかと逡巡していれば、不意に声が聞こえる。


「ちょっと、フェルナリエルさん!」


呼びかけたのは船の改造に参加していたチヌ。

呼びかけられたフェルナリエルは、その声が聞こえていないかのように、脇目も振らずエルフの下に、自分の家族のもとに駆け付けた。


「母上!エル!」


エリュシアはその拘束を解こうと魔法を使うが、それが拘束具に触れた瞬間霧散する。あるいは、まるで何事も無い様に拘束具は健在だ。


「ちょっと!遊んでいるならエルフたちを解放しなさいよ!」


あと一歩のところで、家族と同胞が手の届かない、二度と届かないところへ行ってしまう、その恐怖と焦燥、そして自分では仲間を救えない苛立ちから、エリュシアは怒気を強めて抗議する。


「えぇ、、、いや、送り返したら解くよ、、、」

「うん、、、今は、ちょっと、、、」


それに対し、一組の面々、いや、それだけではない。アサリやコバンまでも、微妙な表情をしている。


「はぁ?・・・なんなの、、、何なの!あなたたち!」


その反応に、エリュシアはさらに激高した。


「目の前で拘束されているのが分かっておきながら!・・・所詮あなたたちも・・・!この!下衆共!」

「口を慎め」


奥歯をかみしめ、涙を溜めて罵詈雑言を言い放つエリュシアを、宗司がたしなめる。

それはけして大きな声ではなかったが、エリュシアが黙り込むだけの圧があった。


「命を助けてもらった奴に言っていい事じゃない。頼み方というものがあるはずだ。自分は周りとは違うという態度をしておきながら、そんなことすら分からないのか?」

「・・・」


エリュシアは黙ったまま、宗司を睨む。

宗司は気にせず、今度は辺りを見る。様子のおかしい一組の友人たちを。


「何の理由があってこのままにするんだ?お前たちなら、この程度のエルフ共が一気にけしかけてもあしらえるだろう?」

「いや~」

「う~ん」


宗司の純粋な疑問。エルフが皆、エリュシアの様だとしても、このまま拘束しておく意味が分からない。それを口にしても、皆あいまいに濁すばかり。

この国では前々からエルフ、その他一部の種族についての情報が少ないが、それが単にかかわりの薄さによる理由だけではないことは、宗司は察していた。・・・それにしても、この反応はどう見るべきか。


「ちょっと、ジッとしてね」


皆があいまいに濁す中、真司が真っ先に拘束の解除を試みていた。


「・・・エル」


どうやらエリュシアの血縁らしい。背格好から見て、妹だろうか。


「あ、これ、難、、、」


どうやら真司は拘束の解除に苦戦しているようだった。


「あ」

「ん~」


それを見た他の面子は、大半が、やはり難しそうな、微妙な表情を浮かべている。


「・・・」


宗司は真司に倣い、エルフの解放を試みた。


「あ、ソウジ、あんま大きい声で言えないけど、、、ヤメタホウガイインジャナイカナ?」


コバンの本当に囁くような忠告を無視し、エリュシアが母と呼んだエルフの拘束具に触れる。


「これは魔封じだな。魔法じゃ解けないし、だからって適当な道具でも解けない」

「じゃあ、どうすれば?」

「普通に体力や魂力使えばいいだろう。一応、物体だし」

「あ、そっか」


宗司と真司が拘束具の解除にあれこれしている間も、カオナシのような反応で事の成り行きを見守っている面々。心なしか、船の改造のスピードが上がっている気がする。


「あ、切れた」


懐に持っていた武器を使って、エルフの体を傷つけないよう慎重に、しかし確実に拘束具の目隠しを焼き切っていた真司はその作業が終了したことを、誰に向けるでもなく報告した。

解除したエルフが振り向き、そのエメラルドのような翠の瞳と目が合う。


「こっちもだ」

「はや、、、え?」


その解除の速さに驚き、そちらを見れば、宗司は刀を持ち、立っている。地面には、拘束具が散乱していた。


「え、あんた、剣使えたの?」

「・・・コバンに仕込まれた」


どこか遠い目をして宗司が答える。刀は船の中からパクってきたらしい。


「・・・エア、エル、あなた」


大人の魅惑とでもいおうか、しかしその中に確かにエリュシアの面影もある妖艶なエルフは自分の家族たちの姿を見つけると、つぶやくように呼ぶ。


「あ、ごめん!すぐ解放するからね!」


翡翠の瞳にジッと射抜かれていたことに気付いた真司は、慌てて残りの手枷、足枷、口枷の解除に当たった。

それに対し宗司は、さっさとエルフたちの拘束具を斬っている。


「母上!」パァン!!

「・・・え?」


エルフの拘束の全解除と、エリュシアの頬が叩かれたのは、同時に起きた出来事であった。

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