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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
54/59

54話 未熟

「おはよう」


そうホームステイ先の住人に、丁寧に挨拶をされる。


「・・・おはようございます」


心象をよくしようと、丁寧なあいさつを心がける。しかしいきなり変わってもいけない。

あくまでこれまでを踏襲しつつ、少しずつ、変わろうとしていると、そういうシナリオで。


「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


朝の身支度と朝食を済ませ、エルフは登校する。

それを笑顔で見送る主婦は、少し憂鬱な顔をしたのち、気張り、家事を始める。


「晩御飯にはトマムを使おうかしら」


ホームステイ先の主婦が今晩の献立を考えているとき、エルフはすでに学校に到着していた。


「おはよ、ウッ!」


教室に入ると、異様なにおいに鼻をつまみ、顔をしかめざるをなかった。


「やっぱきついって」

「うーん、そうかな。対策いろいろしてきたんだけど」


みればタカベがサヨリから詰められている。


「見なよ、タカサゴとカワヒラが明らかに拒絶してる」

「うーん」


そんな話をしていると、また誰かが登校してきた。


「おはよ、、、、タカベ、蟲人(ちゅうじん)の彼女でもできたのかな?」


蟲人とは獣人の一種で、身体に虫の特徴が表れている者たちのことを指す。


「はっはっは、、、だったらよかったんだけどね」


登校してきたヒラマサの皮肉に、タカベは残念そうな表情を浮かべる。


「まさか昨日の晩飯のクサウオがここまで残るとは」


クサウオとはその強烈なにおいにより外敵から身を守る進化をしたこの世界に生息する青魚の一種である。

におい抜きを施したこれは美味く、かなり人気であるが、一部の好食家、マニアからは、あえてにおい抜きをせずに干物で食べる方法も一押しされている。慣れてくると癖になるとか。


「地獄だな、その晩飯」


においはくさやを思い浮かべてもらうとわかりやすいだろう。


「ウッ!くさや!?」


実際登校してきた真司は思わずそう言った。


「仕方ねえか。スズキ」

「あ゙?」


鼻をつまんだスズキが不機嫌なだみ声で応答する。


「これとこれの消臭力上げて」


そう言って取り出したのはスプレータイプの消臭剤とガムだった。


「も~」


それを受け取り、固有回路を使用すると、スズキはタカベに返す。


「あんがと!」


しかしそれを使用してもマシになる程度で完全には除去できなかった。


「おっ!クサウオの干物か!腹減ってくるの」


生徒が匂いで四苦八苦しているところに、オルカ先生がうっきうきでホームルームをしに来た。その強烈なにおいに、オルカ先生は中々強気な発言をする。


「しかし臭いの。おいタカベ!お前今日は窓際一番後ろの席じゃ」

「よっしゃあ!」


タカベは喜んで指定された席に着く。周りの生徒が、意図を察して窓を全開にした。


「ああ、ダメじゃ!風が教室の中に入ってくる!」


心地よい南風の息吹のせいで余計に教室が臭くなった。


「仕方ないの。・・・はっ!!!!」


オルカ先生の気合の一発で、においが消えた。


「よし!席戻れ」

「えぇ、何それ…」


せっかくの特等席着席の権利の消失と、未知の術、それからオルカ先生のいきなりの喝破への驚きから、タカベが辛うじて抗議できたのはそれだけだった。


「馬鹿モン!これくらいできるようにならんと卒業できんぞ!さ、席に座れ」


肩を落とすタカベを含め、皆各々の席に座る。


「よし、全員いるな」


生徒全員が座った教室内を見て、そんな雑な出席を取るオルカ先生。

そんなオルカ先生に、ツッコミが殺到する。


「イヤイヤイヤ!」

「来てない!」

「こことここ!」

「二人二人!」

「雑すぎでしょう」


シイラがユウゼンと宗司の空席を指す。

生徒からの多くのツッコミに、オルカ先生は後頭部をかいて謝る。


「あ、すまんすまん。ユウゼンはばあちゃんちに行くそうじゃ。宗司の方は、おいおいじゃ」

「「えぇ、、」」


オルカ先生の言葉に、クラスのみんなが唖然とする中、エルフ、ブリムは表情にこそ出さなかったが、心の内でほくそ笑んだ。


「そういえばエリュシアと宗司が同じ方向に行ったの昨日見たよ」

「え、、、」


ブリムは冷や汗をかく。見られていたことに。まさか、攫われたところも目撃されたのだろうか。


「エリュシア、知らない?」

「さあ。見てないわ」


話を振られたブリムは自信ありげに答える。記憶の中を逡巡しても、攫われる以前に、このエルフが宗司を目撃した記憶がなかったからだ。


「そっか。まあ、宗司が後ろからついていってたって感じだったからな」


そしてそのまま話は流れた。やはり予想通り、入って数ヶ月程度の奴には、この国の人間は情を移さないのだろう。また、攫われたところを目撃されたわけでもなさそうだ。


「失礼します」


ブリムが安堵する中、クラスの中に入ってきた先生を見て、ブリムは血の気が引いた。


「あ~、次ナイル先生の魔法の授業か」

「今日魔獣だっけ?」


ブリムと同じく魔人のナイル先生が教室に入ってきた。しかもナイル先生は、ブリムが所属している国とは別の魔帝国出身。国家間は特別仲が悪いことはないが、良くもない。いや、若干悪いかもしれない。


「ちと早くね?」

「ええ、今日は魔獣の講義なので、ちょっと用意があるんですよ」


ブリムの焦燥とは裏腹に、ナイル先生はオルカ先生と雑談を交わしながら、ブリムを気にすることもなく、次の講義の準備を進める。

ブリムは少し、安堵した。


「魔獣かぁ。いろいろあってめんどくさいんだよな~」

「種類とか生態とかな」

「エリュシア、魔獣分かる?」


教科書と栞を取り出すクラスメイトから雑談を振られ、ブリムは演技を続ける。思えばこのとき、かなり油断していたのだろう。


「さあ、どうだろう。難しいから」


魔人であれば、当然魔獣についての見識も深い。しかし今自分はエルフ。エルフは精霊に関する知識は膨大だが、魔獣はそこそこ。それは、エリュシアの記憶からも読み取れる。


「あのなあ」


しかしやはりと言うべきか、経験の乏しさは、嫌悪による情報の排斥は、戦術において圧倒的悪手なのだ。


「魔獣はエルフの護国聖獣の天敵だろうが」

「分からねえわけねえだろ」


心臓が締め付けられる。汗が吹き出しそうになる。教室内が静まり返る、その異様な雰囲気に、飲みこまれそうになる。


「いや、私程度の知識じゃ―――」


ブリムが分かっていたのは魔人よりエルフのほうが魔獣についての知識が乏しいことだけ。魔人にとっての基準、エルフにとっての基準が、人間、庸人にとっての基準とどの程度解離しているかの情報はなかった。

ブリムは謙遜し、取り繕うとした。だが、


「エルフが自分の知識を卑下するかよ。フェルナリエル」

「!!」


名前を聞いて、初めて記憶が呼び起こされる。そうだ、このエルフは、自分のファーストネームを呼ばないように言っていた。


「淫魔ですよね、先生」

「正解だ」


ナイル先生の採点と同時に、ブリムは動く。

―――動こうとした。

動けなかった。


「―――キ、サマ!」


人を殺せそうなエルフの視線を、コトヒキは冷ややかな視線でもって返す。


「いらなかったか」


クラス内からいくつかそう言った胸のつぶやきが聞こえる。

自分が出るまでもなかった、あるいは、出遅れた、と。


「じゃあ、先生、お願いします」

「・・・いや」


コトヒキはプリッキングで動けなくした偽エリュシアを先生に対処してもらおうと、ナイル先生に視線を送ったが、ナイル先生はそれを拒否。


「せっかくです。魂の分離の予習として、ヒラマサ君、皆の前で実演をお願いします」

「いきなりですね~。緊張します」


指名されたヒラマサは、しかし緊張などみじんも見せない怪しげな笑みを浮かべながら、偽エリュシアに近づく。


「な―――」


ヒラマサがしゃがみ、彼の顔が眼前に迫った偽エリュシアが何かを言いかける直前、ヒラマサは彼女の心臓付近に手を翳した。


「ウッ!」


偽エリュシアは途端に苦しみだし、ヒラマサがエリュシアの胸元から手を上げるに連れ、喉、口の順に動き、遂に光の玉を吐き出した。


「スゴ。後でやり方教えて」

「これね、修得するのに半年かかったんだよね」


ヒラマサの掌の上で、光の玉はふよふよと浮いている。


「流石です」

「先生。あとよろしくお願いしますね」

「任せな!」

「いえ、オルカ先生はこのまま宗司君、エリュシアさん救出に向かってください。こっちに残られても邪魔なので」


意気揚々とヒラマサに返事をしたオルカ先生だったが、ナイル先生に冷たくあしらわれる。


「それもそうじゃな。よし!お主ら!30分後にここに集合じゃ。それまで準備しておけ!」


しかしオルカ先生はナイル先生の冷徹な拒絶を気にも留めず、生徒に元気よく指示を出す。

その指示の内容を聞いて、フェルナリエルの体を回収しようとしていたナイル先生は顔をしかめてオルカ先生を見る。


「事前に準備させなかったんですか?連絡したでしょう?」


きょう学校に来る前、何なら昨日二人が攫われた時点で、学校、引いては国は、誘拐のことについて関知していた。それゆえ生徒たちに連絡をし、二人を取り戻すための準備を、教材の一環として行わせていた。


「いや~。すまん。わし弁当を忘れてしまって。30分で戻るから」


オルカ先生が要求した30分は、かなりいい加減な内容だった。

ナイル先生は何か言いたげだったが、それより先にオルカ先生は窓から飛んで行ってしまった。


「30分後か。結構暇だね」


ナイル先生が止める間もなく飛んで行ってしまったオルカ先生の影を見て、ため息をつくと、不意に教室内からそんな声がでる。

それを皮切りに、教室内は雑談で埋め尽くされた。皆、緊張感のない表情をしている。ただ一人を除いて、、、


「えっ、え?・・・・・え?!」

「どしたー。真司」


唖然、放心、驚愕、いずれにしても理解しきれておらず、ただただ戸惑うばかりの真司に、マブナが声をかける。


「え、え、だ、だって、フェルナリエルさんが、え?・・・ヒラマサ、え?魂?・・・いや、死?・・・え、宗司は?・・・え?!何が?」

「おお、まずは落ち着け」


マブナはそう言って、ポケットからガムを取り出して真司に差し出す。

それがもう色々シュールすぎて、真司は静かになった。


「とりあえず場所とかわっかんねえけど宗司とフェルが誘拐されたみてーだから先生が帰ってきたら助けに行くんだ。昨日連絡着たろ?」

「ゆ、誘拐!?宗司とフェルナリエルが?!、って、フェルナリエルはそこに・・・」

「てい」

「ひあ!」


再び混乱し、騒がしくなった真司の首元に冷たい感触が走る。

真司はその場から飛び退き、感触の書体をその眼に収める。


「ハハハ。面白い反応するねぇ」


そう言って、冷たいもの、冷気で冷やした自分の指をあてた当人、ツチフキは気の抜ける声で笑う。

そんなツチフキのことを、得体のしれない何かを見るような眼差しで真司は見つめる。


「まぁ、順を追って話そう。昨日、宗司とフェルナリエルさんが攫われたんだ」

「ええ!?」


ツチフキは静かになった真司に、順を追って説明を始める。

ここで漸く、真司はまっとうな反応をすることが出来た。


「だがどういうわけかフェルナリエルさんだけ、昨日の夜に姿を現したんだよ。だけどそれは偽物だったんだ。ナイル先生が持っていったのがそれだよ」


ナイル先生は教室内が雑談で埋まる前に、フェルナリエルの体を持って、どこかに行ってしまった。それを真司は、ただ黙って、目で追う事しか出来なかった。


「え?偽物?・・・どういうこと?」

「うーん、真司はさ、魂力見えるようになったよね?」


どこから説明しようか思案し、ツチフキは基本的な言を尋ねる。


「う、うん、なんとなくだけど」

「なんか、いつもと違うなーってこと、無かった?」


そう言われて思い返してみるが、特にこれと言って思い当たる節はない。そもそも、、、


「集中しないと、まだよく見えないし」

「そっか。じゃあ、淫魔、分かる?」

「ああ、それは、歴史と理科で」

「その淫魔と、フェルナリエルの体が入れ替わってたんだよ」

「ええ!?」


今日一番の声が出た。

周りのクラスメイトは、事前に耳を塞いでいた。


「ご、ごめん」

「それで、昨日、結界を監視してた人から、フェルナリエルと宗司が同時にほぼ同じ場所で姿を消したから、警戒してねって連絡が来たから、どこか、十中八九、どこかの魔人の国だと思うけど、その辺に誘拐されたんじゃないかってね」


この国にはいたるところに結界が、そしてこの国全体を覆うように結界が張られている。

結界の監視、管理は公務の一つ。優秀な術師が行っている。


「な、なる、ほど、、、それで、おれはどうすればいい?」


誘拐という、今までの人生と縁遠い事件が目の前で起きていることに、若干の戸惑いを見せつつも、喫緊の有事であることを飲み込めた真司は、ツチフキに続きを促す。


「実はこの学校の授業の一環で囚われた仲間を助け出すものがあるんだよ。本来は後期、犯人役は先生なんだけどね。たぶんこれを代用するんじゃないかなぁ」

「そ、そんな教材扱いしていいのか?!誘拐だぞ!?」


慌てる真司に、ツチフキはいたって冷静に、そして真面目な視線を向ける。


「ボクたちはいずれあらゆる天災、人災と相対すことになる。訓練はできるけど本番はできませんなんてふざけたことは言ってられない」


そのえも云えぬ妙な威圧感に、真司はたじろぐ。年上なのに。


「で、でも、俺、初めてだし」

「私も初めてだけど問題はない」


弱気な真司に声をかけるのは、副体育委員長のイサザだ。


「誰にでも初めてはある。今回は先生や先輩がサポートについてくれるから、そこまで緊張することはない」

「俺、邪魔にならないかな」

「誘拐が起きた時のことは知っているでしょ?」


実は歴史や倫理、体育で、一通りの災害が起きた時の動きは勉強済みなのだ。

体力や魔力の扱いが下手で、よく周りの足を引っ張っていたのを真司は思い出す。


「初期のことをいつまでも引きずらないで。あなたはできるわよ」

「そうそう。おらたちがホショーずっぞ!」


マブナはそう言って、元気づけるように真司の背中をバシバシたたく。端から見ていて、痛そうである。


「すまんすまん!待たせた!」


そんなこんなしていれば、オルカ先生が帰ってきて、みんなに詫びる。


「よし!それじゃ救出作戦と行くが、その前に、今回連れだってくれる先輩たちはこいつらじゃ!」


じゃじゃん!という効果音が聞こえてきそうな動きでオルカ先生が扉の方を指すと、そこから二人の上級生が入ってくる。


「やっほ。コバンです」

「アサリです。よろしく」


ひとりはおなじみコバン先輩。もう一人は優男風の先輩だ。短髪黒髪で、人畜無害そうな顔。


「!」


アミキリは彼を知っている。体育祭で戦ったから。強かったと、記憶している。


「と、引率はわし。じゃ、まずは奴らの根城を探ることからじゃな」


そうしてなあなあと救出作戦が始まった。


「グダグダだな」

「やっぱり異常なんだ。・・・そういえば誘拐の連絡って?おれのとこには来てないよ?」


真司がオルカ先生に感じた異常さを、他のみんなも抱いていることに安堵すると、不意に、さっきの言葉が思い出された。


「ああ、、、これだよ、、、」


ツチフキが見せてくれた画面には、確かに誘拐について書かれていた。ふざけた文言と、ふざけた模様が描かれている。


「ええ、、、」


何かの悪戯かおふざけ、レクリエーションにしか見えないその手紙は、確かに真司の下にも届いていたのだった。

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