表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/149

ヴォロネジ会戦⑪

【1943年5月25日 中央軍集団司令部 モスクワ】


シュツーカの間髪いれない集中打撃によって、ようやく第11親衛軍の進撃は停滞した。

攻勢に直面していた第43軍団は態勢を立て直し、前線に対戦車資源を集中することで、かろうじて主抵抗線を維持している。

第8航空軍団は第二装甲軍の支援に向けていた作戦機を次々とモスクワ戦区に転用したが、搭乗員の消耗は激しく、これ以上の出撃は望めなかった。


中央軍集団司令部の見解は一致していた。

快速機動兵力の即時増援がなければ、モスクワはもたないと。

そして、その手の兵力はヴォロネジ突出部を攻撃中の第二装甲軍が握っている。


「空軍の対地攻撃により、敵の第一波はなんとか食い止めました。しかし、明日以降に第二派が押し寄せてきた場合、増援なしでは持ちこたえることができません」


「…第二装甲軍から第20装甲師団、第12装甲師団、第18装甲師団を引き抜く。直ちに北方モスクワ戦区に緊急展開し、防衛線を立て直すのだ。OKH(陸軍総司令部)には私から説明しておく」


中央軍集団司令官クルーゲ元帥は苦渋の決断を余儀なくされた。

第二装甲軍が指揮下におく半分近い装甲師団を抽出、モスクワ方面に再配置した。

これで第二装甲軍はヴォロネジ突出部への突破攻撃を継続出来なくなる。第二装甲軍からの兵力転用は事実上の作戦中止を意味した。

しかし、クルーゲにはこれ以外にモスクワを危機から救う方法は思いつかなかった。



【1943年5月25日 OKH予備集団司令部 クルスク】


「敵はモスクワだけでなく南方のミウス戦区でも攻勢を開始しました。この危機を乗り切るにはヴォロネジにむけている装甲師団群を引き抜くしかありません。参謀総長閣下ご決断を」


敵の反撃は想定よりもはやかった。

ヴォロネジ攻撃は中止に追い込まれつつあるが、装甲師団群はかろうじて原型をとどめている。

南のミウス戦区、北のモスクワ戦区に転用して敵の攻撃を食い止めるだけの余力はまだあるはずだ。

もし装甲師団群が消耗し尽すまで赤軍が待っていたら危なかっただろう。

あとはハルダ―参謀総長を説得して作戦を一刻でもはやく中止しなければならない。


「突破は無理なのかね」


「残念ながらあと一歩及びませんでした」


第24装甲軍団は第60軍の最終防衛線にまで達していた。

あと一押しすれば、第2親衛戦車軍の背後を突き、敵南部戦線の半身を崩壊へと導けたかもしれない。

だが、今となっては突破することに意味はない。

むしろ、一刻もはやくヴォロネジを離れて兵力を再配置しなければ、東部戦線自体が危なくなる。

すでに第二装甲軍はヴォロネジの戦列から離れていた。ぼやぼやしていてはヴォロネジ戦区の全ての敵が第四装甲軍に殺到してくる。

安全に部隊を再配置するには今しかない。


「そうか・・・。ならば、いたしかたあるまい。『青作戦』の中止を発令する」


よしっ。これで防衛線を立て直せる。

史実のようにズタボロになってから、敵の連続攻勢を食らい、連鎖的に戦線が崩壊するような事態はなんとしても避けたい。


「それで具体的にはどうする?貴官の意見をきこう」


「ミウス河からドニエプルに至る道路を殺到してくる敵は、ヴォロネジから退かせた第四装甲軍麾下(第48、第24、SS)にその側背を撃たせます。上手くいけば、敵をアゾフ海に圧迫して皆殺しにできるでしょう。他の3個軍団(第3、第23、第57)はモスクワ方面に転用します」


「了解した。今より貴官を南方軍集団作戦主任参謀とする。ハーネ少佐と共に直ちに司令部に入り作戦を指揮せよ」


「はっ」


ハルダ―の命令が下ると、各装甲軍団は潮がひくように撤退していった。

戦車軍の挟撃を受けていたSS装甲軍団も第48装甲軍団に助けられ、ゆるゆると後退している。

北方でも第二装甲軍麾下の装甲軍団がモスクワ戦区に展開し、大規模な機動防御戦を実施中だ。


情勢は厳しい。

温存した新鋭兵力で攻勢を開始した敵に対して、こちらは消耗した装甲師団群をぶつけなければならない。

手遅れになる前に退けたとはいえ、この差は大きい。

装甲師団群がまだ動けるうちに敵を誘い込み殲滅しなければ厄介なことになる。

上手くいくかどうか。


【1943年5月27日 ポーランド ワルシャワ 陸軍総司令部】


「なにっ!?また敵の攻勢だと?」


「はっ。ヴォロネジに展開していた敵兵力がハリコフ戦区への攻勢を開始しました。現在、第六軍が応戦中です」


「戦況は?」


「芳しくありません。火砲、戦車、歩兵、航空機と全ての戦力で圧倒されています」


「まずいな。近場に即応兵力はないのか?」


「第四装甲軍はミウス河転用が決まったばかりですし、第二装甲軍もすでにモスクワ戦区へ移動中です。近場で動かせるのはハリコフ西方で待機している第5装甲擲弾兵連隊だけです」


「なんでもいいっ!動かせる兵力は全てハリコフに集めろ!」


ハルダ―の指示で参謀本部は慌ただしく動き始めた。

『クトゥーゾフ』『ブルシ―ロフ』に続いて、赤軍が発動した『ルミャンツェフ』はドイツ軍の間隙を的確に突いた。

ドイツ軍統帥部はヴォロネジの敵は十分に叩いたと判断していたので、装甲師団群を南北の戦区に動かし、モスクワとミウスの中間に位置するハリコフ戦区は手薄になっている。

第六軍は固定歩兵師団を十数個持つのみで、反撃戦力に乏しい。


ヴォロネジ戦線軍、ドン戦線軍の猛攻を受けた第六軍は各所で突破を許してしまい、第一防衛線は瞬く間に崩壊。

第六軍司令部は麾下全部隊に第二防衛線への撤退命令を出すほかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ