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ヴォロネジ会戦⑨

【1943年5月21日 クルスク OKH予備集団司令部】


「軍団規模の敵機甲部隊が接近中!まもなく第24装甲軍団と接敵します!」


プランCへ移行して以降、作戦の中心は右翼に移っていた。

大規模な突破を行うためOKH予備の第57装甲軍団、第1装甲師団、第25装甲師団を右翼へ移動させているが、配置には時間がかかる。

最も近い第1装甲師団の到着にあと1時間30分。

予備が到着するまでの間、第24装甲軍団、第3装甲軍団がある程度啓開を進めなければならない。




「上級砲兵部隊司令部より入電!間もなく攻撃破砕射撃を開始するとのことですっ!」


ドイツ軍には師団砲兵と師団に与えられた軍団直轄砲兵を統一指揮する砲兵部隊司令部が各師団ごとに存在する。上級砲兵部隊司令部は軍団砲兵と全ての軍団直轄砲兵、軍直轄砲兵を指揮する、砲兵部隊司令部の拡大版である。

上級砲兵部隊司令部の号令により第24装甲軍団麾下300門の150ミリ重榴弾砲、150ミリ歩兵砲が一斉に火を噴く。

重砲による一斉射の威力は艦砲射撃にも匹敵し、接近中の敵機甲部隊は瞬く間に減っていく。

30分ほどの戦闘で敵戦車軍団は半数を失ったと判定され、司令部に安堵の空気が漂う。


「軍団規模の敵機甲部隊出現っ!北東方向からむかってきます」


安堵したのもつかの間、新たな戦車軍団が現れた。

赤軍は湯水のように予備を使ってくる。

南部戦域だけですでに10個戦車軍団を確認しているが、今だに予備が減る様子はない。

予備が接近してくるたびに正面戦力は割かれ、攻撃衝力は落ちていく。


「第3装甲軍団司令部より入電っ!第9装甲師団が北東方面に展開しました!」


第24装甲軍団が敵左翼(第60軍)の突破に集中するため、第3装甲軍団は介入してくる敵予備兵力の抑えにまわっているが、対処がまにあわない。


「旅団規模の敵機甲部隊接近中!」


「敵対戦車連隊を複数確認っ!第11装甲師団戦区に接近中です!」


「敵戦車連隊が新たに現れましたっ!」


ひっきりなしに現れる赤軍の増援は第3装甲軍団の対処能力の限界をはるかに超えている。

全方向から増援が押し寄せてくるため、軍団の戦力は分散せざるをえない。


「どうするアリス?きりがないぞ」


「・・・あと1時間もすれば西から第1装甲師団がきます。到着次第、第3装甲軍団の援護にまわしましょう」


「予備師団を突破にまわす余裕はないか…。1個装甲軍団で突っ込むとはなかなかの無茶だな」


「第24装甲軍団戦区で確認された敵は約3個狙撃師団です。上級砲兵部隊司令部の支援も、空軍の支援も継続されますし、軍団には独立重戦車大隊がいます」


十分な支援がある以上、第24装甲軍団による突破は可能だ。アリスはそう言っている。

本来のプランなら右翼にOKH予備を合わせた装甲編合戦力で一気に突破するはずだった。が、現実問題としてOKH予備は到着次第、側面援護にまわさざるをえない。

突破に集中できるのは現状、第24装甲軍団だけだ。


「せめて、第23装甲軍団が右翼で使えればな」


「ないものねだりはやめましょう中佐。第23装甲軍団は第四装甲軍の予備なんです。私達に口を出す権利はありませんよ」


第23装甲軍団を右翼に移そうとした所、左翼のスタールイオスコル突破に使うからとホト上級大将に断られた。

右翼近郊にいた第23装甲軍団が参加していれば、今頃、第2親衛戦車軍の背後を突けていたかもしれない。


SS装甲軍団は北と東から赤軍の精鋭戦車軍相手に締め上げられている。彼らが潰される前に右翼が背後を突かなければならない。

突破をはやめるためにOKH予備を右翼に移したが、赤軍予備兵力の展開速度はこちらをはるかに上回った。

恐らく増援用戦力を大量に秘匿していたのだろう。


「軍団規模敵戦車群、第3装甲軍団戦区に接近中!」


「第24装甲軍団より入電っ!軍団規模の敵機械化歩兵部隊を新たに確認」


また増援。第24装甲軍団だけで突破するのは難しくなってきた。

最低でもあと1個装甲軍団は突破に集中させたいが、この様子だと第57装甲軍団が到着しても突破にはまわせない。

第25装甲師団を第24装甲軍団に合わせて突破できるか?敵左翼を突破して第2親衛戦車軍の背後を突くことはできるかもしれない。

だが、その後さらに北上して第二装甲軍と連結できるかどうか。


いや無理だ。左翼を突破した後が続かない。第2親衛戦車軍の背後を突くのが限度。作戦を完遂するには最低でもあと1個軍団はいる。

中央のSS装甲軍団も、左翼の第48装甲軍団もすでに限界に近い。右翼が無理なら大突破はもう…。


「アリス。念には念をいれようと思う。右翼部隊全師団の損害率、稼働率を算出してくれ。結果によっては…」


「撤退…ですか?」


「結果によってはだ。参謀総長閣下には俺から上申する」


「…わかりました。1時間で終わらせます」


赤軍はヴォロネジだけでなく、モスクワやミウス河にも相当数の戦力を展開している。

ドイツ軍の攻撃を阻止したければ、今すぐ攻撃を開始すればいい。

それをしないのは彼らが待っているからだ。ドイツの精鋭装甲師団群がヴォロネジで消耗し、機動防御にでれなくなる時を。

そうなってからは遅い。突破の見込みがないのなら、戦力が残っているうちに撤退しなければ。




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