表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/149

ヴォロネジ会戦⑤

【1943年5月18日 OKH予備集団司令部 クルスク】


OKH予備の戦闘司令部はクルスクの指揮用列車に置かれていた。

戦闘が始まると第二装甲軍司令部も第四装甲軍司令部も前線指揮に忙殺され、断片的情報を整理・統合して全体計画をたてる仕事はこの司令部が担っている。


「なんて、規模なの…」


アリスは純粋な畏怖と共に呟いた。

赤軍がこの地に集めた兵力の強大さは想定よりはるかに上回っていた。

司令所の戦況地図にはリアルタイムの情報が次々と書き込まれていく。

オペレーターからは味方装甲師団が敵砲火の迎撃で次々と消耗していくことを示す報告が続いている。

赤軍の対戦車縦深陣地群は巧妙に配置され、一つの対戦車陣地を叩き潰しても、またすぐに新たな陣地が現れた。

敵兵力の強大さと陣地群の深さは、作戦を根本から揺るがしつつある。

アリスにはそれがありありと感じられた。


「最初からわかっていたことだアリス」


「中佐!?」


アリスは慌てて振り向く。


「敵の規模を口にした所で減るわけでもあるまい。そんなことより今はプランの最終確認が先だ」


「は、はい」


アリスは装甲主任参謀としてここにきていた。

全ての装甲師団は装甲兵総監部の管理下にあり、装甲兵総監には自身の代理人たる装甲主任参謀を各司令部に送り込むことが許されている。

装甲兵力の適切な運用をアドバイスし、作戦計画に携わるのが装甲主任参謀の役目だ。


アリスは第四装甲軍司令部、第二装甲軍司令部と何度も図上演習を繰り返し、様々な戦況を想定して複数のプランを立案してきた。

ハルダ―参謀総長からOKH予備の運用を任されたハインツがその中から最適なプランを選ぶ。

ハインツに促されたアリスは地図上の部隊を示す駒を動かしプランBの説明を始める。


「プランBは南部作戦地域が対象です。投入タイミングは第48装甲軍団がゴルシェチノエを制圧した段階とします」


プランBは最も積極的な攻勢案だ。

主攻である第48装甲軍団がゴルシェチノエを奪い、クルスク=ヴォロネジ街道を抑えて敵前線軍(第5親衛軍、第1親衛軍、第60軍)の後方にまわりこむ。

そこへクルスクからOKH予備の装甲師団群を投入。

助攻であるSS装甲軍団、第3装甲軍団、第24装甲軍団と共に、敵前線兵力を不利な地形に追い込み、一気に殲滅。

突破に必要な自由な作戦空間を確保し、北の第二装甲軍との合流をめざす。


「この様にOKH予備を加えた第48装甲軍団が北西方向から敵を追い込み、南東方面の3個装甲軍団と共同で挟みこみます。殲滅戦を仕掛けることで敵ステップ戦線軍の前線兵力を徹底的に叩き潰し、北部の第二装甲軍との合流に必要な戦域空間を確保するのです」


南で第四装甲軍が小規模な包囲網を形成して殲滅戦を展開、空いた空間から一気に北上する。そして、第二装甲軍と合流し、敵主力(南北2個戦線軍)を大包囲する。

OKH予備の役目は南での包囲網形成を成功させることだ。より具体的には消耗した第48装甲軍団にテコ入れして、攻撃衝力を維持させる。


「ですが、この作戦は第48装甲軍団がスタールイオスコルを抜きゴルシェチノエを奪取することを前提としています。同軍団がゴルシェチノエを奪取してからの投入が理想的な展開ですが、戦況によってはゴルシェチノエ奪取の段階で投じなければなりません。少なくとも第48装甲軍団が独力でスタールイオスコルを抜かなければ私達の出番はありません」


OKH予備は第48装甲軍団と共に北西方向から敵背後に回り込む。

その際に生じる敵ステップ戦線軍の抵抗をはねのけるには、戦力の温存が大前提である。

ゴルシェチノエ奪取の段階でOKH予備を参加させれば、背後にまわりこめるだけの戦力が残らないかもしれないのだ。

参加させるのはどうしてもゴルシェチノエを抜けない時のみ。

スタールイオスコル奪取の段階で投じるのは問題外。

第48装甲軍団がスタールイオスコルを抜けなければプランBは成立しない。


「抜けなければどうなる?」


「装甲師団群を再編成して、別の作戦プランを実施します」


実際にはそれは不可能に近かった。

攻撃に参加した師団群は間違いなく消耗も疲労もピークに達しているはず。

その状態で再攻撃を実施しても結果がおぼつかないのはめにみえていた。


つまりプランBが失敗した時点で勝率は限りなく低くなる。

アリスは作戦の成功を祈らざるをえなかった。

これだけ多くの味方の亡骸を積み上げておいて、敗北ではあまりに報われない。

すでに南北あわせて3万人以上が死傷している。


「第48装甲軍団は国防軍最精鋭師団のグロスドイッチュラント師団がいます。彼らならやってくれると信じましょう」


「そうだな。今は信じて待つしかない」


ハインツも内心不安なのかもしれない。もともと彼は攻勢自体に懐疑的だった。

タイミングを同じくしてオペレーターから接敵の報告が入る。


「グロスドイッチュラント師団から連絡!スタールイオスコル前線陣地群と交戦を開始したとのことです!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ