青作戦⑫
【1943年4月15日 第三帝国 ツォッセン 陸軍総司令部】
執務室に入るとハルダ―は早速難しい質問を切り出してきた。
「中佐。貴官は勝てると思うか?」
この質問に俺は即答できなかった。勝てるとも負けるとも言い難い。
独ソ両軍共に軍としての戦闘力は頂点に達しつつある。その両軍が重点を形成しあい、全精鋭をあげて激突するのだ。
勝敗は別として壮絶な戦いになるだろう。そして負け方によっては全てを失う。
「勝てると断言できる程甘い状況ではありませんが、負けると断言できる程戦力差があるわけではありません。断言できるのは勝たねばならないということだけです」
ハルダ―は厳しい表情でこちらを見てくる。
「貴官は以前こう言ったな。勝ちたければ全てを投じろと。あれから随分と考えたが私もはらをくくることに決めた」
「といいますと?」
「OKH予備の5個装甲師団を本作戦に投じる」
「!?」
OKH予備の装甲師団は陸軍中央に残された最後の予備兵力だ。それを投じるということは東部以外の戦線を捨てると言ってるに等しい。
陸軍総司令部は覚悟をきめたということか。
「どうだ。これで勝てるか中佐?」
5個装甲師団もあれば戦局を十分動かせる。使い方によっては趨勢を決定ずける一撃になりうる。
「突破の見込みは十分にあると思います」
ハルダ―は満足気に頷く。
「この予備兵力は貴官に預ける」
「どういうことでしょうか?」
「貴官は私の代理人として現地司令部の作戦指導を調整するのだ。OKH予備の運用も貴官に委ねる。なんとしでてでも作戦を成功させろ。失敗は許さん」
緊張で背筋が凍る。切り札である予備兵力を任されるということは戦争の趨勢が俺の判断で決まるということ。たしかに失敗は許されない。
「はっ。必ずや成功させます」
「頼むぞ。総統閣下がなにか言ってきても私の方でおさえる。貴官は貴官の責務を必ずはたせ」
ここまで言われるとやりとげないわけにはいかない。
執務室をでるとその足でハリコフ行きの鉄道にむかう。
作戦開始まで一か月をきっている。直ちに現地参謀部と連絡をとらなければならない。
到着まで時間があるので頭の中で投入戦力の再確認をしてみる。
北のオリョールを発起点とする第二装甲軍は3個装甲軍団、2個軍団を指揮下に置く。
主力を担うのはレメルゼン大将指揮下の第47装甲軍団。
1個装甲師団、2個装甲擲弾兵師団を基幹戦力とし、予備兵力として特別に1個重戦車(ティーガ―)大隊、2個重突撃砲大隊を割り当てられている。
後世の歴史家からは評判の悪いフェルディナントだが、前線からの評判はなかなか良い。
第47装甲軍団の右側面を第46装甲軍団(2個装甲師団、1個装甲擲弾兵師団)と第20軍団(4個師団)が守る。
中でも第20軍団指揮下の4個師団は国防軍屈指の精鋭歩兵師団であり、専門の突撃工兵部隊や装甲大隊を豊富に持っている。
この2個軍団が左はしの赤軍第7親衛軍を集中的に叩き、出来るだけ多くの予備兵力を誘引、主攻である第47装甲軍団を支援する。
左側面は第41装甲軍団と第23軍団が布陣する。
第23軍団は対戦車用に設計された第78突撃師団を与えられ、左側面からの赤軍機甲兵力の反撃を防ぐ役割を持っている。
第41装甲軍団は戦果拡張用の兵力であり、第47装甲軍団の突破が成功した段階で、一挙に投じられる。
予備兵力は中央軍集団の指揮下にある2個装甲師団、1個装甲擲弾兵師団、3個突撃師団(対戦車用機械化師団)の合計6個師団。
これらの諸兵力は突破が成功した時にのみ投入される。
南西のハリコフから攻撃する第四装甲軍は第二装甲軍よりもはるかに強力で、数多くの精鋭装甲師団群を与えられた。
主攻を担うのは重師団編成の第48装甲軍団。
国防軍最精鋭師団のGD師団と282両のパンターを受領した第3装甲師団で構成され、ロケット砲連隊、重戦車大隊、自走砲大隊、戦車駆逐大隊などあらゆる支援戦力を勢揃いさせている。
同軍団の合計装甲戦闘車両数は1100両に達する。
同軍団の右側面にはヒトラーの近衛兵であるSS装甲軍団が展開。
第1SS装甲師団、第2SS装甲師団、第3SS装甲師団はいずれも武装親衛隊の最精鋭師団であり、装備の配分リストではGD師団と同等の地位を占める。
パンター200両、ティーガ―45両を含む500両の戦車・自走砲を統制。
ロケット砲連隊、自走砲連隊など後方支援戦力も十分すぎるほどあてがわれている。
そのさらに右には第3装甲軍団、第24装甲軍団が配置につく。
両軍団あわせて6個装甲師団、600両の戦闘車両を保有し、その中にはティーガー45両も含まれる。
第四装甲軍右翼の主力を担う強力な打撃戦力であり、敵の予備兵力をひきつける役割を持つ。
以上基幹となる4個装甲軍団に加えて戦果拡張用の予備兵力である第23装甲軍団(第9装甲、第11装甲)、第5SS装甲師団「ヴァイキング」が第四装甲軍の指揮下に入る。
俺が運用を任されたOKH予備の第57装甲軍団(第22装甲、第23装甲、第20装甲擲弾兵)、第25装甲師団、第1装甲師団は作戦用予備兵力として鉄道交接点のクルスクに配置される。
第57装甲軍団はドイツ本国に残る数少ない即応軍団。第1装甲師団はフランスから、第25装甲師団はノルウェーからはるばる呼び寄せられている。
米英に対する備えは0に等しくなったが、おかげで強力な作戦予備を揃えることができた。
この予備兵力は戦局を決める切り札になるはずだ。
装甲戦力は過去類をみない規模で投じられる。史実でもこの規模を超える戦力集中はなかった。
攻撃砲兵力の数的劣勢は否めないが、火砲、航空機、電子機器を組み合わせた支援システムの効率性は赤軍に大きく優越しているといっていい。
砲兵師団、突撃師団などの支援用師団はいずれも機械化され、専用の列車や自動車を豊富に持ち、24時間で100キロ以上の機動が可能だ。
各装甲・装甲擲弾兵師団も多くの支援火砲部隊を持っているので、機械化火力発揮部隊の数は赤軍を上回っている。
攻撃正面幅における瞬間火力では赤軍を圧倒できる。
火砲の全体量が少ない分、大きな役割を期待されているのが空軍だ。
第六航空艦隊(第二装甲軍直掩)と第四航空艦隊(第四装甲軍)はあわせて2300機の戦闘機、中距離爆撃機、地上攻撃機、急降下爆撃機を揃えた。
その中には対戦車用攻撃機Hs129の飛行中隊や数多くの撃墜王を擁す精鋭戦闘機隊が含まれる。
火砲と同様に投入される航空機の数では赤軍に劣るし戦車と違ってハード面の優勢もこれといってない。
一方でドイツ空軍は空地一体の柔軟な連絡システム、最高度の保守能力、迅速な意思決定能力など赤軍が持ち合わせない多くの財産を保持している。
出撃回数と滞空能力ではそうそう負けはしないだろう。
攻撃は陣地突破戦のセオリーに基ずいて実施される。
中距離爆撃機と火砲による準備砲撃が第一撃。
地上攻撃機による敵地上部隊への対地攻撃が第二撃。
支援航空機と装甲部隊による直接打撃を第三撃とする。
最高度に攻撃兵力を結集し、あらゆる攻撃手段をもって突破口を形成。
予備兵力や側面援護兵力を間断なく投入することで、攻撃衝力を維持して迅速な突破と包囲を実現。可及的速やかに敵作戦兵力を包囲網に追い込み、これを撃滅する。
攻撃兵力の密度とドイツ軍人の技量的優勢を考えれば出来ないことはない。OKH予備も加わったことで突破力はさらに増している。
史実のクルスク会戦に比べると投入戦力は各段に充実している上、オリョール湾曲部※のような地理的弱点もない。
この戦いは今次大戦の主導権を握る最後にして最良の機会だ。
恐らく赤軍にとっても。どちらが勝っても歴史が動く。
※オリョール湾曲部
史実のクルスク突出部は逆S状になってました
上の突出部がドイツ側のオリョール湾曲部、下の突出部がソ連側のクルスク突出部です
ドイツ軍は城塞作戦時にオリョール湾曲部からクルスク突出部を攻撃したのですが、その分湾曲部は手薄になり
そこを赤軍に突かれてしまいました
こちらの世界はモスクワを攻略して戦線が東によってるのでオリョール湾曲部は存在しません




